16.突き抜ける衝撃的なおしらせ
武闘大会の説明に抜けがあったので補填しました。(4/23)
私は勇者様に言いました。
「それじゃあ勇者様、罰ゲームとして武闘大会の試合には私がご用意する衣装で臨んで下さい❤」
言った瞬間に勇者様が頭を抱えて五体倒置。
そんな、よくある日常の一コマ。
うん、今日も良いお天気ですね!
項垂れた勇者様が言いました。
「……リアンカ、その前に一つ言わせてくれ?」
「はい、なんですか?」
「確かに俺は、武闘大会に出場するつもりではいたが……まだエントリーもしていないんだぞ?」
「あ、そこはご安心を!」
「え……はっ まさか!?」
「これも修行を望む勇者様の為、並み居る猛者との戦闘は勇者様の望むところでしょうと思ったので!」
「ちょっと待て、ちょっと待って……っ」
「大丈夫、こちらで既に登録済みです!」
「やっぱりか、やっぱりなっ!! そういうことだろうと思ったさ!」
「ふふ、勇者様に読まれてたなんて、私ったら単純な思考回路がばれたみたいで恥ずかしい」
「そこは照れるところなのか、なあ……あと君は、決して単純なんかじゃないと思う。むしろ予想斜め上に突っ切ってるだろ、なあ」
「まっすぐ斜め上?」
「いや、まっすぐというより蛇行気味じゃ……あ、待て。登録って、どの分野に!?」
「え、全部ですけど」
「ちょっと待てぇぇえええええっ!!」
勇者様の叫びが轟き渡った、午後三時。
そんなよくあるハテノ村の一日。
魔族さん達による血沸き肉踊る魔境の祭典、【武闘大会】。
その参加枠は、各種分野に分かれて行われています。
様々な角度から互いの強さを測ろうという、何という念の入りよう。
単純に知略戦略だけを競う……と見せかけて、大会で最も巻き添え被害の大きい【頭脳戦の部】。
個人の単純な肉体強度と徒手空拳的な強さを競う、【個人戦(武器なしの部)】。
魔力を戦闘力に変換できる魔族の力を制限して戦う【個人戦(魔法なし)の部】。
己の武を集約し、全ての技術を用いて戦う、【個人戦(武器・魔法あり)の部】。
それから連携の強みと数の暴力でぶつかり合う、【団体戦の部】。
毎回、この四部門が武闘大会のメインです。
……まあ、年によっては主宰者である魔王さんの趣向と気まぐれで変な部門が増えるんですけれど。
今回はまぁちゃんが悪ふざけで物凄く危険な部門を設置しました。
【酔拳の部】……うん、内容は読んで字の如し。
酔っ払ったふりではなく、酔っ払って戦います……だそうで。
試合開始直後に、両者互いに蒸留酒一瓶をストレートで一気飲みして、先の飲みほした方から襲いかかるという凄まじい勝負だそうです。
まさかの単位:瓶です。大丈夫か、おい。
鬼のように酒に強い魔族や竜種以外には血も涙もない試合だけど、誰か参加する他種族の方はいるのでしょうか……。
魔族や竜種以外だったら急性アルコール中毒患者が出るかもしれないと、今から医療関係者は戦々恐々としています。
というか、急性アル中以前に、千鳥足で戦って大怪我する人間や獣人や妖精がいないかと案じています。
ただ観戦するだけなら、物凄く楽しそうなんですけどね……っ!
医療関係者として救護班に確保されてなかったらね……!!
勿論、そこに勇者様もエントリー済みです。
むしろ本当に全部門に勇者様のお名前はエントリー済みです。
嬉々としてニヤニヤ笑いながら、まぁちゃんがそれはもう楽しそうに魔王自ら登録受付をして下さいました。まぁちゃんも好きだよね!
ちなみに団体戦の部には仲間の名前をエントリーしていないので、勇者様だけ単品出場です。やったね!
ええ、盛大にやらかしてやりました。確信犯です。
「取り合えず部門ごとに、勇者様のお衣装のテーマを変えるとして……何着くらいなら着られますか?」
「俺は着せ替え人形か……っ ああ、もう! どれだけ予選を勝ち抜かなきゃいけないんだ!? どれか一部門にしようと思ってたのに……酔拳の部にだけは絶対に出るまいと思ってたのに!!」
「勇者様、ファイト!」
「ひ、他人事だと思って!」
「いえいえいえいえ! 全然他人事何かじゃありませんよ! だって私のお財布かかってるし」
「賭けたのか! また賭けたのか!?」
「え、そりゃ賭けますよ? ちなみに今回の胴元は魔王城です」
「公営事業か!!」
「勇者様が決勝まで残ったら、配当金で慰労会しましょうね!」
「く……っそんな良い笑顔で! だ、騙されないからな!?」
「勇者、もう半ば騙されてねーか? お前」
「そんなことはない!」
「取り敢えず、頑張れや。俺のポケットマネーが何倍になるかはお前の頑張り次第なんだからよ」
「貴方は幾ら賭けたんだ、まぁ殿!?」
「……聞きてぇのか?」
「金額知っちゃったら確実にプレッシャーかかりますよ、勇者様!」
「………………嫌な予感がするので止めておく」
ついには勇者様も諦めたようにがっくりと項垂れ、魂まで出てきちゃいそうな深い溜息。
「もうどうにでもしてくれ……」
その台詞、私達に言ったらお終いだと思いますよ、勇者様?
本当にどうにでもしてしまいそうな未来がやってきますよ!
勇者様はどうやら出場してくれるみたい。ですが。
私は口では言いませんが、内心で首を傾げました。
出場登録は、確かにしました。
確かにしたんですが……本当に嫌だったら、出場辞退すれば良いのに。
気持よく戦うのが大好きな魔族さん達の大会ですから、強制はされません。
棄権しようと思えばできるのに、勇者様にはその発想はないのでしょうか。
心底嫌がるようでしたら、登録取り消しの手続きを進めても良いと思っていたんですけれど……どうやら、勇者様も許容しちゃったみたいですし。
折角の御好意を無駄にするのは勿体無いですよね!
世界に羽ばたけ、勿体無い精神!
――という訳で、棄権という選択肢の存在は黙っておくことにしました。
とはいっても、別に隠す訳ではありません。
私とまぁちゃんが口にしないってだけで、知ろうと思えばいくらでも耳に入ってくる余地は残しておきます。
勇者様が本当に棄権する気なら、止めませんとも。
……本当ですよ?
陥落しちゃった勇者様。
そして上機嫌の私。
「あれ、レイちゃんは?」
気付いたらいなかった従弟の姿。
首を傾げてまぁちゃんに尋ねたら、返って来たのは何故か呆れた目線。
「レイヴィスなら、熱出して運ばれてった」
「え、レイちゃん体調悪いの!?」
「……逆上せただけだろ。色々と、慣れない状況ってやつに」
「ああ、獣人さん達のお里は随分遠いもんね……環境の違いで熱が出るなんて、レイちゃんって繊細な子だったっけ。後でお見舞い……ううん、看病に行かなくっちゃ」
「「やめてやれ」」
「え、あれ?」
なんか今、まぁちゃんと勇者様の声が見事に一致したような。
重々しい溜息を吐く勇者様と、憐みの目で遠くを見るまぁちゃん。
??? 一体どうしたんでしょうか。
なんだか、今の二人はとっても仲が良さそうだけど……
二人、共感するようなナニかがあったのかな?
知らない間にレイちゃんに対して同情心溢れる眼差しを持つようになってしまった勇者様。
そんなに仲が良くなったようには思えなかったんですが……
何となく勇者様やまぁちゃんの態度に、違和感を覚えます。
でもそんな不信感、すぐに忘れました。
それよりも私の意識を掻っ攫い、夢中にしてくれた話題があるのだから当然です。
私がじっとりとした視線を二人に注いでいたら、冷汗をさり気無く拭いながら勇者様が言いました。
「そ、それでリアンカ……? 衣装をというが、具体的にどんなものを俺に着せるつもりなんだ。言っておくが戦闘行為前提になるから、あまり動きを阻害するようなものは避けてほしいんだが……」
「!!」
まさか、勇者様が自分からこの話題に水を向けようとは。
驚きとともに、私の胸を熱くさせたモノがあります。
――うわぁ、そうだよ! 勇者様に何着せよう!?
気がついたら、私の頭はそんな気持ちでいっぱいになっておりました。
レイちゃんには後でお見舞いに行くとして、今はこっちが優先です。
レイちゃんも熱があるなら安静にしてたいでしょうしね!
レイちゃん、獣人だもんね!
獣の感性を備えている分、獣人は他人の気配に敏感だと聞きます。
実際にもぉちゃんなんかは、いくら忍び足を上達させようと背後を取れた覚えがありません。
そんなに他人の気配に敏感だったら、体が辛い時に側にいるのも酷でしょう。
特に私とレイちゃんが顔を合わせるのは六年ぶりです。
いくら血縁関係があっても、六年もの空白期間があったらレイちゃんが私に対して気を許せるほど、緊張を感じずにいられるかわかりませんから。
だから、お見舞いに行くのは明日です。明日。明日に回します。
今はそれを置いておいて、こっちを優先しましょう。そうしましょう。
私は頭の中で大義名分を弾き出し、それを掲げてにこっと笑いました。
「じゃあ勇者様、採寸しましょうか!」
「ちょっと待て」
おっと、何故か勇者様からストップが!
私は首を傾げながら、上目に勇者様を見上げてもう一度繰り返しました。
「勇者様、採寸しましょう?」
「リアンカ……君、俺の寸法知ってなかったか?」
「何を仰るんですか、今更成長期が」
「…………」
「最後に勇者様の寸法を調べたのは、半年前です。でもそれから勇者様の身長が五cm位伸びましたよね? 手足の長さにも差が出てるでしょうし、何より動きやすい服というのは正確な寸法に合わせて仕立ててこそですよ?」
「しまった、正論だ。そっちから来られると何も言い返せない」
「勇者様がどうしてもと言うのでしたら、先に衣装デザインから決めても構いませんけれど……」
「心の準備が必要なので、寸法は後回しにしてくれ。頼む……!」
「えー……心の準備? ただ巻き尺で計測するだけなのに、何の準備が……」
「お願いします……!」
……なんだろう。
勇者様が、やけに真剣です。
土下座でもしかねない勢いを感じます。
体のあちこちを測られるだけなのに、何の心構えが必要なのかも謎です。
首を傾げて訝しがる私の肩を、ぽんっとまぁちゃんが叩きました。
「リアンカ、勇者が面倒臭ぇからもう先にデザイン決めからやっちまえば?」
「うーん……仕方ありませんね」
前はちゃんと計らせてくれたのに……。
勇者様は、どうして寸法をすぐに計らせてくれないんでしょうか。
私に計られるのが、嫌なのかな? それとも寸法自体が嫌なのでしょうか。
寸法自体が嫌なら、仕方ありませんが……正確な数値が記録できるんなら、別に私が寸法測らなくっても良いんですけど。
何だか勇者様が真剣な顔でこちらをひたと見つめているので、空気的に言いそびれました。
まあ、大して重要なことでもないですし、構いませんよね。
「それじゃあ、先にデザインを決めるとしましょう」
「!」
そう言った途端、露骨に勇者様の素晴らしいお顔が安堵に緩みました。
そうですか、そんなに寸法が嫌だったんですか……。
…………私に計られるのが嫌だったら、後で別の人に計ってもらわないと。
でもとりあえず、それより先にデザイン決定ですね!
「……という訳で、早速画伯と相談しないと!」
「!?」
あれ、勇者様がぎょっとした顔で固っちゃいましたね。
さっきまではホッとした顔をしていましたが……目の輝きが失せましたよ?
本当に勇者様は表情豊かな方ですね?
「リアンカ、その……ヨシュアンどの、と?」
「勇者様、なんか口調が拙くなってるけど……」
「うん、いや、その、ヨシュアン殿に相談……するのか?」
「え、しますよ? 私がデザインするより、ヨシュアンさんの方が引出し多いし」
「OH……」
わあ、勇者様が頭抱えちゃったよ……。
えっと、これは嫌なんでしょうか?
「勇者様、ヨシュアンさんの何が嫌なんでしょうか?」
「碌なことにならない予感しかしないことだろうか……」
「そうですか……わかりました」
「え、わかってくれたのか!?」
「ええ、わかりましたとも。画伯の感性だけに任せるのは不安……ということですよね」
「そういうことだけれども! 何故だろう……リアンカが理解を示してくれたことに不安を覚える俺がいる……!」
ちゃんとわかりましたよ。わかりましたとも。
だったら画伯の感性そのまま真っ直ぐに暴走しないよう、他の服飾系プロフェッショナルを巻き込もうじゃありませんか☆
「だったら騎士C……サイさんも抱き込みます」
「終わった……っ! 全部終わった!」
何故か勇者様がはしゃぎだしました。
あれー……? 勇者様、そんなに反応しちゃうんですか。
騎士Cってこんな過剰反応されるような、ナニかやったことがありましたっけ?
よくわかりませんが、勇者様は大喜び(笑)です。
いえいえ本当は喜んでいませんが。
でも何となく、取り乱した反応の方向性が傍目に一周回ってそんな感じに見えます。
そんなに喚いたって、画伯も騎士Cも逃げませんよ?
そう、逃げないんです。
画伯に早速相談を持ちかけようと、その足で私は魔王城へ走りました。
そうしたら、勇者様も追って来ました。
何となく追いつかれるのが惜しい気がしたので、逃げきろうと思います。
「――まぁちゃん!」
「よっしゃ任せろ!」
指笛一つで、いつも隣に☆
まぁちゃんに両手を組んでお願いしたら(走りながら)、まぁちゃんは器用にウインク付きで快諾してくれました(走りながら)。
……ん? 何をって?
この流れなら、皆さんおわかりですよね!
「それは反則だろーっ!?」
勇者様が叫びました。
理由は簡単!
まぁちゃんが私を抱えて走ってくれたからです。
そもそも純粋に身体能力には物凄い差があるんですもの。
勇者様がその気になったら、私なんてすぐ追いつかれてしまいます。
今この場で、勇者様に追いつかれずにいる為の手段なんて一つですよね!
私はいつもと同じく、まぁちゃんの腕に抱きあげられました。
まぁちゃんの腕に腰かける形の、縦抱きで。
そのまま、まぁちゃんが走るけど速い速い(笑)!
私の経験から言って、これでもまぁちゃんの全力1/10ってところですが!
それでも人間には到底超えられない時空の壁を越えんばかりの早さです。
元々魔王城は村から歩いて約五分(ただし道なりに歩いた場合)。
私達は村の奥まったところにいましたが、それでも大して距離はありません。
まるで瞬間移動でもしたかのような景色の流れ方で目的地は目の前です。
あっという間に勇者様を引き離し、魔王城に滑り込みで突入!
ぎゃりぎゃりと足下の小石を跳ね上げながら、まぁちゃんはヨシュアンさんがいるだろう職場に向かいました。
それに喰らいついて、引き離されながら追ってくる勇者様も凄いです。
追いつく余地はなさそうですが、付いてこれるようになっただけでも大したものでしょう。
だってまぁちゃん、魔王ですよ?
これが一年前なら、とっくの昔に勇者様は芥子の実サイズ程度の大きさに見えるくらい引き離されていたこと筈です。
こんなところで、勇者様の成長を……修業の成果を実感してしまいました。
わぁ……本当に勇者様すげぇ。
本当に凄いけど、こんな他愛もない追いかけっこで発揮して良いレベルじゃないと思うんだ。その身体能力。
こうして喰らいつけている時点で、人間の領域を大きく逸脱してしまっていることに彼は気付いているのでしょうか……。
うん、勇者様、やっぱり人間やめてる。
これもう、化け物レベルだから。
勇者様の韋駄天ぶり(でもまぁちゃんには追いつけない)に深い感慨を覚えている間に、まぁちゃんは第3コーナーを回り……
「――到着っと!」
「!!?」
急ブレーキで緊急停止しました。
そんなまぁちゃんの結構近いところを走っていた勇者様。
全力疾走中の彼は、あまりの急停止に止まりようもなく……
「×△×~……ごふっ!!」
廊下突き当たりの壁に激突しました。
うん、良い音が響きましたね……
そう、悠久の時の中で存在感を増して行った、鐘楼の鐘の音の如き音が……。
勇者様、撃沈。
でもそれでも怪我を負っているように見えないあたり、本当に丈夫な御人です。
勇者様の頑丈さなら大丈夫だって信じてた☆
そして同じく、無傷の魔王城……ヒビすら入っていない事実に脅威を感じます。
流石、戦闘民族の城。頑丈さには同じく定評があります。
魔王が住んでいるだけあって、建材の強度も規格外なのでしょう。
こうして尊い犠牲を出したような出さなかったような……やはり出していませんね。
まあ、そんなこんなで私達は辿り着きました。
ヨシュアンさんの仕事場……
……と聞くと、何故かいかがわしい執筆室のような印象になってしまうのですが。
まあ、そんな訳はありません。
本業の方の職場です。
つまり、魔王直属の武官が勤務する詰め所……なのです、が。
部屋の中にいた武官のお姉さんに尋ねたら、無情なお答えが返ってきました。
ここに来るまでに、勇者様という犠牲まで出したと言うのに……!
勇者様が犠牲になった(※自爆)というのに!
それなのに、返ってきたお言葉は。
「え、ヨシュアン? 彼なら……今朝、医療棟に入院しちゃいましたけど」
――What?
一瞬、頭が単語の意味を理解してくれませんでした。
自分の額をぽんと叩いて、再起動。
改めて言葉の意味をゆっくり飲み込んだけれど……
入院ってどういうことですか、画伯――っ!?
勇者様が壁に激突して良い音を響かせた以上の衝撃が、私の中を吹き荒れて行ったのでした。
レイヴィスのねぐら
→ 本来であればママンの実家であるアルディーク家(リアンカ宅)の予定だったが、今回は仲間(子分)達が同行しているので一緒にハテノ村の仮設宿舎の方へお泊りの予定。
慣れない場所で子分たちを放り出さないだけの面倒見の良さはあるらしい。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
レイヴィス「お前も試合に出るのか……お前にだけは、負けないからな」
ギラリと鋭い眼差しで勇者様を射抜き、レイヴィスは去って行った。
振り返らない背中が、「お前とは慣れ合うつもりはない」と告げている。
友好性の欠片もない態度に、勇者様は眉を寄せた。
勇者様「まぁ殿、俺は、彼に何かしただろうか。さして何もしていないつもりなんだが、やけに敵視されているような」
まぁちゃん「あー……まあ、気にしてやんな。ありゃレイヴィスの個人的な事情ってヤツだ。アイツの感情の問題だからよ」
勇「それは、どういう……?」
ま「まあ、あんま気にしてやんな。素直な可愛げってのが微塵もねぇからな。張り合う相手がいねぇと素直になることもできねぇ可哀想な奴だと思っとけ?」
勇「それは従兄弟としてあんまりな評価じゃないか?」
ま「素直じゃねぇけど違う可愛さはあるから良いんだよ。七、八年前はロロイに張り合ってたしな、あいつ(笑)」
勇「ああ、そういえば同年代なのか。あの二人」
ま「…………張り合ってた理由は年齢が近いから、じゃねーけどな」
勇「――そういえば従弟なのに6年もまぁ殿やリアンカがレイヴィス……どの? くん?に会っていなかったのは理由があるのか?」
ま「あ?」
勇「親戚仲が密な君達が、従弟と6年も会わなかったのは不思議じゃないか。それほど遠方に住んでいる訳でも、会えない距離でもないだろう?」
ま「あー……ああ、それな。アイツが言いだしたんだよ」
勇「?」
ま「『リアンカより背が高くなるまで、お前達とは絶対に会わない……っ!!』だと。一体何が気に食わなかったのか、達成しやがった。有言実行、結構なことだがよ」
勇「いや、それでも親戚なら会う機会があったんじゃ……」
ま「叔母さんらがハテノ村に来る時は留守番しやがって、俺らが少数派獣人の里に行きゃあからさまに隠れて出て来ねぇ。いっそ引きずり出してやろうかと何回か思ったがなー……流石に、叔母さんの手前、10歳も年の離れた従弟相手に大人げねぇしな」
勇「言ったことは守る、か。頑固なのか、実直なのか」
ま「意地っ張りなだけだろ。挙句、そうやって傍を離れてた間に居場所を見失ってちゃ世話ねぇ話だ。ま、可愛い従弟のことだし、本当に居場所が消えた訳じゃねーんだけど……今はお前に居場所を取られたとでも思ってんじゃねーの?」
勇「………………それが、俺が敵視される主な理由……か」
ま「絶対にそれだけでもねぇだろうけどな。なんだかんだ体は大人になっても、まだまだガキなんだろ。アイツの居場所は消えてねぇし、ちゃんとここにあるんだってアイツが気付けるのは一体いつのことやら」
勇「――なんだ、まぁ殿。貴方はレイヴィスのことを心配しているんだな」
ま「…………この、ばぁか。勇者の癖に俺の内心測ろうなんざ三千年早ぇよ」
勇「いたっ まぁ殿! 手加減していても貴方のデコピンは痛いんだ! 照れ隠しに当たるのは止めてくれ。あと三千年たったら俺は跡形も残らず土に返っているからな!?」
ま「誰が照れ隠しだ、誰が! そんな生意気言う奴ぁ、骨を骨格標本にでもして三千年残してやろうじゃねーか! それとも化石が良いか、あ゛ぁ゛!?」
勇「何が悲しくて死後まで貴方に冒涜されなくちゃいけないんだ!? 頼むから死んだら素直に安らかに眠らせてくれ……っ!!」
少数派獣人の里
魔境の獣人は、元々人間の弾圧迫害から逃れて魔境にやってきた方々や、その子孫。
自然と同じ種の獣人同士で固まり、里を作った。
たとえば獅子の里、虎の里、兎の里といった感じで。
だけど里を作るに至る程の数がいない少数派の獣人たちもいた。
そういった、里を作るには人数の厳しい獣人達で寄り集まって作られたのが『少数派獣人の里』。
レイヴィス君やその子分達はそこの出身。
特にレイヴィス君のパパンはその里の長をやっているので、レイヴィス君は同じ里の子供達に対して責任感を持っている。