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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
嵐の前でも賑やかに
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15.悩み多き青少年(11)の悲劇

 前回、勇者様が酷い目に遭うと予告したのに遭いませんでした。

 チッ…。 ←


 代わりに、別の人が被害に遭っています。

 後半はとっても久々まぁちゃん視点。

 そんでまぁちゃんが被害者を弄り倒します。

 被害者=勇者様じゃないのっていつぶりでしょうね?





 さて、さてさて!

 半ば予想していた通り、勇者様は罰ゲーム決定!

 さぁて、なにしてもらおっかな♪

 うきうきしつつも、実は大体何をしてもらうか決めています。

 丁度いいタイミングで罰ゲームが発動して良かった。

 どうやって言い包めようか、ちょっと考えてるところだったんですよね。

 これで大義名分が立ちましたし、余すとこなく利用してしまいましょう!

「おい、リアンカ」

「ん? なぁに、まぁちゃん」

「ご機嫌なとこ悪いけどな、ちょっとあっち見てみろ」

「あっち?」

 まぁちゃんが指さす方へ、顔を向けてみたけれど……


「……(がるるるる)」

「……」

「「…………」」


 うきうきな私とは裏腹に。

 何故か勇者様とレイちゃんの間で緊迫感が漂っていました。

 ちょっと浮かれて気が逸れていたけど……あれ、なんで?

 良く見ると、なんか一方的にレイちゃんが牙を剥いてるみたいだけど?

 背後におろおろする小動物系の男の子と、顔を引き攣らせた青年を従えて。

 ぐるぐると喉で唸り声を上げるのは、猫科に属する者に特有の威嚇音。

 ものすっごく警戒心が顕わになっています。

 警戒心というか、敵愾心かな?

「その……俺に、なにか」

 困惑を纏った勇者様が、レイちゃんに問いかけました。

 それに対する、レイちゃんのお答は……

「いきなり現れて、お前、誰だ。リアンカやバトゥーリ……」

「まぁちゃんだろ」

「……バトゥーリ」

「まぁちゃんって呼べっつってるだろ」

「……リアンカやまぁと親しげに振舞ってるが、リアンカの何なんだよ」

「この流れで譲歩した!?」

「いいから答えろ、噛み殺すぞ!」

 空気を無視したまぁちゃん。

 こんな時でも呼び名に関するツッコミだけは入れるのかと感心する思いです。

 緊迫感も重たい空気も意に介さない、この胆の太さ! 私も見習わないと!

 ……どこからか「お前(リアンカ)はもう充分だよ」と聞こえた気がしましたが、きっと気のせいです。

「勇者様、レイちゃん可愛いでしょ。この無謀そうなとことか」

「ピリピリした本人目の前に、リアンカも空気を読もうな……!」

「だ、誰が可愛いだ、誰が!」

「おおう、ダブルツッコミ……今日は豪華ですね」

 ツッコミが不足がちのハテノ村では、こんなに打てば響くように多重音声でツッコミ入れられるなんて滅多にないことです。

 ちょっと物珍しくって新鮮ですね。

「あれ? レイちゃん、ツッコミに育っちゃった?」

「我が道を行くアルディーク家の血縁にしちゃ珍しいな。親父さんに似たか」

 我が道を行く → 我が道を行って他人は踏み倒す。

 そんな含みを感じた今日この頃。

「可愛いなんて言われて、男が黙っていられるか!」

 ついに私達にまでぐるぐる(威嚇音)言いだした、レイちゃん。

「うわっ」

 そんなレイちゃんの首にまぁちゃんがヘッドロックをかましました。

 レイちゃんのお友達らしい獣人二人も、これには大慌て。

 だけどどうやら『魔王(まぁちゃん)』の絶対的な存在感が怖いらしく、腰が引けています。

「れ、れぃさあん……」

「駄目だよ、ラス……レイさんはもう、僕らじゃどうにもできない」

「れいさぁん……不甲斐無い僕らを許して……っ」

 あれ? なんだか自然な流れでレイちゃん見捨てられてますよ?

 まぁちゃんが余程怖いのか、二人はじりじりとバックステップで後退しています。

 それに追い縋ることも出来ない、レイちゃん。

 ただぎりぎりとまぁちゃんに締めあげられて、声なき声を上げています。

 まぁちゃんは手が届く範囲にまで無駄に育ったレイちゃんの頭を引き下げてくれました。

 私はまぁちゃんの好意に感謝を注ぎながら、折角だからと思いっきり好意に甘えます。

「レイちゃん可愛い、可愛いー」

「おいちょっこら、やめ…っ」

 まぁちゃんに身動き封じられて、動けないレイちゃん。

 私はレイちゃんの頭を、摩擦で静電気が起きるまで撫で回しまくりました。

 うん、楽しいです!


 ぐったりした、レイちゃん。

 遠巻きに眺める、避難完了したっぽい獣人二人。

 同情的な眼差しの、勇者様。

 いつもは勇者様の方が同情される立ち位置の様な気がします。

 うん、そこはかとなく新鮮。

「それで結局、お前誰だよ……」

 疲労困憊、ぐったりと脱力したレイちゃん。

 それでも気にせずにいられないのか、ぎらっと勇者様を睨み上げました。

 あれ、そういえば紹介すっとばしちゃった?

 こういう時って、共通の知り合いに当たる私が間を繋ぐのが自然な流れですよね?

 ここは自分の不親切を反省して、私が紹介してあげるべきでしょう。

「レイちゃん、レイちゃん。こちらは勇者様! まぁちゃんを倒そうなんて無謀にして遠大、果てしなく不可能に近い不毛な使命を帯びて魔境にまでやって来ちゃった可哀想な人です。倒すまで帰れないとか、態の良い追放と何が違うんでしょう? まあ、お国に帰って(王)家を継がないといけないらしいので、期限は区切ってあるそうですけど、まったく酷い運命ですよね!」

「その紹介が一番酷いけどな!?」

「それで勇者様、こちらはレイちゃん。私の従弟です。その一言で色々察してあげてください」

「何だ、その突き放した説明!? リアンカ、俺のこと手を抜き過ぎだ! そっちの金髪に比べて簡略し過ぎだろう!」

「わー……私の紹介、本人達に思いっきり不評ですね!」

「さもありなんって感じだけどな。ところでリアンカ」

「なぁに、まぁちゃん」

「レイヴィスが聞きたかったのは、勇者の来歴じゃなくって、お前(リアンカ)との関係じゃねーの?」

「え?」

 あれ、見てわからないかな……?

 くりっとレイちゃんの方に目を向けてみれば、思いっきり不服そうな不機嫌そうな……私に対して、不信感全開の問う眼差しが向けられています。

 ええと、これはまぁちゃんの言う通りなのかな?

 私は勇者様に目を向け、じっと見つめました。

「私と勇者様の関係ですか?」

「……友達、だよな?」

 何故か自信がなさそうな不安そうな物言いの勇者様。

 なんで疑問形なんですか?

「ええ、お友達ですよ。何の疑問が差し挟まるって言うんです?」

「そう、だよな……」

 何だか勇者様のお言葉が歯切れ悪いなぁ。

 私は首を傾げながら、他に関係を指す言葉があったか思い当たる単語を探しました。

「えーと……ああ、家主の娘と店子、とか?」

「またの名を居候とも言うな。一時引籠ったりと、やけに図太てぇ居候だけどな」

「それはもう言わないでくれ……!」

 一年近く前の、勇者様の黒歴史ですね!

 友達になれそうな相手だと思っていたまぁちゃんが、実は魔王だって知った時の!

 当時を思い出したのか、勇者様がまるで人形の様に虚ろで遠い目をしています。

 思えば遠いところまで来たもんだって?

 何を言ってるんですか、まだまだ序の口ですよ。

「って、待ておい! 居候って…………一緒に住んでるのか!? ひとつ屋根の下!?」

「うわ、吃驚した」

 私達の言葉をただ黙って聞いて……というか硬直してポカンと大口開けたまま聞いていたレイちゃんが、急に再起動しました。

 今更聞き捨てならないと、私を強く睨みつけてきます。

 ええと? なんで私が睨まれてるのかな?

 首を傾げると、レイちゃんが苛立たしげに「わかってない……っ」と頭を抱えてしまいました。 

 レイちゃん、どうしたんだろ?








「納得がいかない」


 難しい顔で、レイヴィスが言った。

 一丁前の顔して、なーに言ってんのやら。

 目線で問うと、あからさまに顔をしかめやがる。

「あんなぽっと出てきた、訳のわからない奴…何者か知らないが、気安い態度が気に障る」

「……つまり、要はリアンカと仲良さそうなのが気に入らない、と」

「ち、ちが……っ!? アイツが何様かって話だろ!」

 何様って、ねえ……強いて言うなら、王子様だけどな。彼奴(あいつ)

「リアンカが呼んでんの、聞いてなかったのか? 『勇者様』ってな」

「勇者だろうが何だろうが、俺は認めないっ」

 ぶんむくれた面の、この従弟をどうしたものやら(笑)

 その顔には盛大に、「気に入らない」って書いてある訳だが。

 この状況を面白がる以外の楽しみ方って、なんかあるか?


 ちょいと前までレイヴィスが不機嫌そうに睨みつけていた先には、この一年で見慣れた光景。

 明るく可愛く、花の様に笑うリアンカがいる。

 うん、今日も元気に楽しそうじゃねーか。

 良いことだと頷きながら、もう一方。

 まるで『明暗』を図にしたかのように、対照的な奴がいる。

「ば、ばつゲームってソレか……っ」

 今日も飽きずに打ちひしがれた様を存分に曝している、勇者だ。

 リアンカが可愛く笑う為の、まるで糧みてぇに見えるな。こうして見ると。

 傍目に見ると勝者と敗者に分かれたかのようで笑える。

 だけど見ているだけでわかる。

 ま、仲良きことは美しき哉……ってな。

 打ちひしがれていようと、陰鬱にはならない奴。

 そしてそんな奴を笑うなんて酷ぇ態度に見えはするが……

 陰りない笑顔は、本当に楽しそうだし。

 勇者も心底から嫌そうじゃねーし、アンカの笑顔が見られるんなら満更でもねーだろ?

 見てると和むな、あれ。

 けどレイヴィスはそれが大変気に食わない……と。

「ホント、わかりやすいな……お前」

「その生温い笑みはなんだ、バトゥーリ……っ」

「まぁちゃん、だろ。名前で呼ぶなや」

「……ふん」

 そんな生意気そうに顔逸らしちまって……俺が喜ぶだけだぞ、おい。

「そういやお前、前に会った時はまだリアンカよりもちっさかったよな」

「……おい? いきなりなんだ」

「あん時もリアンカに遊ばれて可愛がられて……」

「待て、おい。何を言う?」

 怪訝な顔で、及び腰。

 嫌な予感でもすんのか、俺からそろりと距離を取り始める。


 逃がさねぇって(笑)


「レイヴィス、そういやお前さぁ……前に会った時、言ってたよなぁ」

「っ! ちょ、何を……っ」

「『見てろよ、数年でお前の背丈なんか抜いてやる! リアンカを』……」

「に、にゃぁぁああああああああああっ!!」

「馬鹿、煩ぇだろ。そんな言われたくねぇって?」

 幼少期の決意なんて、後から振り返ったら黒歴史だしなぁ、おい(笑)

 気持ちは変わってねぇみてーだが、台詞をなぞられるのは恥ずかしいってか。

 俺の口を塞ごうと伸ばされてくる腕を逆に絡め取りながら、俺はケタケタと笑う。

 愉悦を込めて笑いながら、レイヴィスの耳元で言ってやった。

「今でもリアンカを嫁にしてーのかい、レ・イ・ちゃん?」

「っ! っっ! ~~!!」

「あっはっは、声になってねーぞ?」

 (つっつ)き甲斐のあるレイヴィスも変わってねぇ。

 顔を異常なほど赤くして、きつく睨んでくる。

 ……が、この流れじゃ可愛くて仕方ねぇだけだぞ。おい。

 あんまり従弟が可愛くて、楽しくって涙が出そうだ。

 笑い狂えってか、ははははは(笑)

 ちょっと見ねぇ内に無駄に育ったレイヴィス。

 けどちょっとやそっとの体格差なんぞ、俺には意味もない。

 レイヴィスの首にするっと腕を回し、抵抗の隙すら与えずにヘッドロックへ持ち込んだ。

 なんか締めやすいんだよな、コイツの首。

「ば、バトゥーリっ」

「だーかぁら、ま・ぁ・ち・ゃ・ん、だろ」

「だ……っ誰が呼ぶかー!!」

 おお? 俺を相手に強情を張るか。

 楽しくなったんで、サービス精神を発揮してやろう。

 更にがっちりホールドかけてやっか。

「まぁちゃーん、なにやってるの?」

「ちょ、え……リアンカぁ!?」

 そこにリアンカがやって来た。

 ここで来るのか、とレイヴィスの目から光が消える。

 逆にリアンカは生気に満ちた弾ける笑みだ。

 目ぇキラキラさせやがって……可愛いじゃねーか。

 いつも思うが、うちの従妹と妹は世界で一番可愛いと思う。

「なんか楽しそう!」

「た、の、しそー……じゃなくって助けろよ! リアンカ!?」

「わあ、この状況で助けてじゃなくって助けろだって! 上から目線で生意気~♪」

 おー……レイヴィスも抜かりなくスイッチを踏むよな。

 それは自爆に繋がるスイッチだぞ、レイヴィス?

 可愛い従弟はこういう時、期待を外さない。

「私、レイちゃんの尻尾……思う存分自由気ままに触りたかったんだよねー……再会してから、ずっと油断なくがっちりガードしてるんだもん。さっきは直ぐに解放されちゃったし、自分で捕まえる機会を窺ってたんだけど……ありがとう、まぁちゃん!」

「おー、任せとけ」

「ちょ、待て! おい、冗談じゃないぞ……っ」

 リアンカの本気がチラ見する言葉に、レイヴィスも大慌てだ。

 何年か前、リアンカに延々と玩具にされてから、ずっと庇ってた尻尾。

 まあ、顔を合わせる度、何だかんだで最終的に玩具にされてたらまぁ嫌にもなるだろ。

 まだ余裕があったのか、一回目に締めた時も尻尾は庇ってやがったし。

 随分と有利に育った体格差を上手く利用して捕獲されねぇようにしてたみてーだけど。

 ま、これも運命と諦めろ。南無南無。


 けどな、リアンカ。

 禿げる勢いで尻尾撫で回すのは止めたれ?

 後からやって来た勇者も、なんか憐みの目で見てやがる。

 こりゃ勇者も知ってんのかね?


 リアンカ……尻尾は獣人にとって、マジで弱点だぞ?

 根元辺りが特に……なんつうか、性的な意味で。


 リアンカも魔境の諸々の事情に通じちゃいるが、知らないのか?

その辺りのセクハラ系な事情は辺り憚って女にゃ滅多に教えねーしな……

 そっか、リアンカは知らねぇのか。

 ……知っててやってる訳じゃねぇよな?

 そうだったら流石にレイヴィスが可哀想というか、リアンカが酷ぇというか。


 まあ、リアンカがべたべた触りまくってるのは、主に先っぽの方。

 一応問題の箇所とは離れた部分だし、触られる側もただ擽ってぇだけだろうが。

 ギリギリ、おお見事にギリギリ(性的な)弱点とは別の個所だ。

 ……が、触られる側としちゃ、堪ったもんじゃねーだろうな。

 肝心の部分をいつか触られやしねぇかと、レイヴィスが冷汗塗れになってやがる。

「~~~~~っ」

「耐えろ、レイヴィス。リアンカは多分……うん、たぶん、知らねぇんじゃねーかな。多分。

今暴露すっと、めちゃくちゃ気まずくなるのはお前だぞ」

「ひ、ひとごとだと思って……~っ!!」

 

 無自覚に軽くセクハラをかますリアンカ。

 呻きながら見悶えるレイヴィス。

 そっと目を逸らし、沈黙を貫く勇者。

 同じく、微妙過ぎてリアンカにゃ言えねえなぁと黙り込んで見守る、俺。

 けど、まあ……無邪気に尻尾をもふもふと楽しむリアンカが嬉しそうに喜んでるし。

 レイヴィスが羞恥に震えるくらい、まあいっか。 ←鬼

 




 次回、勇者様に与えられた罰ゲーム発表!

 リアンカちゃんと画伯、騎士Cのコラボ再び……!

 ……と言ったら、大体どんな系統か予想がつきますかね(笑)


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