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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
嵐の前でも賑やかに
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13.あいつとそいつとこいつ ~そいつともふもふ~




 連日連夜の宴会騒ぎなど、歯牙にもかけず!

 魔族の各族長さん達は、翌朝にはぴしっときりっとしたご様子で、まるで紳士のように振舞う大人の集団と化しました。

 一つ目巨人(サイクロプス)の族長さんなんて、昨夜の醜態を思わせない軽い足取りで綺麗なターンを見せてくれましたし。

 …魔族って、絶対に肝機能が人間と違う構造してると思う。


 

 状況の変化は、どちらかというと勇者様にとっては『悪化』の方向で。

 その頃合いで、新たなお客様がいらしたんです。

 ああ、もうすぐ武闘大会が始まるんだなって。

 そんな季節の到来を感じさせてくれる、感慨深いお客さん。


「リアンカちゃーん、御在宅―?」


 気の抜けた声とともに、彼らはやって来ました。

「リスくん、もぉちゃん!」

 孤児院で働く人間と、豹の獣人。

 昔馴染みのリス君ともぉちゃんが、なんか大きい毛玉?を持ち込んで来たんですが!?

「なーに? その毛玉。なんでうちに持って来たの?」

「その反応はちょっと…毛玉って言ったら可哀想じゃん」

「???」

 まるで、毛玉に人格があるかのように言う、もぉちゃん。

 ………もぉちゃんは、獣人です。

「え、もしかしてその毛玉って…」

 言っている端から、毛玉がぴこっと動きました!

 ぴょこ! そんな効果音が聞こえそうな勢いで跳ねあがったのは、耳。

 ぴんと立った、獣のお耳です!

「りあんかしゃーん!」

「その声、ジル!?」

 勢いよくもぉちゃんの腕からぴょこんっと飛び跳ね、飛び降りる。

 そんな動作も思わずはらはらしながら見ちゃうのは、その子が獣人にしては凄く小さな体をしているから。

 本来の獣よりも大きな、立派な体躯の獣に変身するのが獣人の常。

 だけどジル…ジルグストの体はあまりに小さい。


 なんでかと言えば、 マ メ ジ カ の獣人だから仕方ないんだけど。


 …うん、マメジカだと考えたら、すっごく大きいと思うよ!

 だって全長1mくらいあるもん。

「リアンカしゃん、お久しぶりでっす!」

「わあ、ジルだー。大きくなったねぇ」

「それ…みんなに言われますよ」

「いや、最後に会った時…六年前だっけ? あの頃は獣姿で全長12cmくらいだったし。あれに比べたら約十倍近い大きさだよ!?」

「僕はもう子供じゃありません! だからこのサイズで当然です。十倍近くあっても当然ってものですよ」

 ぷいっと顔をそむけるマメジカさん。

 どうやら拗ねちゃったみたいだけど…

 でも、耳がぴくぴくしてる。

 足は忙しなく動いてるし、なんだかそわそわしてるよね?

「それにしても、もぉちゃん」

「んー?」

「…なんで二人がわざわざ連れて来たの?」

「あっはっはっはっは…っ!!」

「!?」

 あ、あれ!?

 なんでかいきなりもぉちゃんが爆笑し始めたんだけど!

 身を捩るどころか、身を二つに折る勢いで馬鹿笑いしてるんだけど…!!

「あ、あのなー、リアンカ? そいつなぁ?」

「ちょっ 言わない約束! 約束だって言いましたよ!」

「あっはははははははあはははははははははははは…!!」

 駄目だ、使い物にならない…!

 笑い上戸の気は元々あったけど、それにしても笑い過ぎだと思う。

「え、と…何があったの、リス君」

 もぉちゃんがてんで駄目で使えないので、代わりにリス君に聞いてみました。

 そうしたら、簡潔なお言葉が!

「レイヴィスが良い歳して迷子になったらしいぞ」

「は!? レイちゃん何やってんの!」

 お、おおっと…!?

 ………思いがけない身内の恥ずかしい話に、私は珍しく頭を抱えたくなりました。

「リアンカ、どうしたんだ?」

「なんか、えらい笑い声が反響して聞こえんだけど」

 騒いでいるのを聞き付けたのでしょう。

 家の奥から、まぁちゃんと勇者様が来ちゃった。

 私は情けなく、へにょっと眉を歪めてまぁちゃんを見上げました。

 こんなに途方に暮れるのも、なんだか久しぶりかな…!!

「まぁちゃーん………レイちゃんが迷子になったって」

「はあ!? あいつ、確かもう10歳超えてたろ! 何やってんだ…」

「リアンカ? まぁ殿? レイというのが何者かは知らないが…10歳は立派な子供じゃないか?」

「勇者様、レイちゃんは獣人です」

「?」

「………あれ? 前に何人か獣人の女の子に魅了体質の克服訓練に付き合ってもらってましたよね。忘れました?」

「あ。そういえば獣人は…成長が早く、成人も早いんだったか?」

「そうそう。レイちゃんはまだ11歳だけど、その年齢ならもう立派な大人扱いされておかしくない…はず、なんですけどねー」

 マメジカの獣人の、ジル。

 そのジルと幼馴染の親友で、いつも一緒にいたはずのレイちゃん。

 帰巣本能は強いけど、馴染みのない縄張り以外の場所には弱いという弱点が獣人の彼らにはあります。

 いつもは獣人の里に籠りがちで、恐らく成人の儀式(武力誇示系の通過儀礼)に備えて修行でもしていたはずなんだけど。

「ハテノ村に来たってことは、もしかして武闘大会に参加でもする気だったのか?」

「はい」

 頷く、ジル。

 かねてより、腕試しを兼ねた修行として、ある一定以上の年齢に達した魔境の若者は魔族の武闘大会に参加する傾向にあります。

 ただの人間に過ぎない、うちの村人達だって参加するんです。

 それが戦士の誇りと武術の自信を有した獣人なら…まあ、当然ながら参加しますね。

 初挑戦する時期も、人間より早熟な獣人はちょっと早めで大体十歳前後くらいから。

 毎年開催される大会じゃないので、それによって平均年齢もちょっと幅がある感じでしょうか。

 ちょーっと若過ぎても、これを逃せば三、四年後!なんて言われたらつい参加しちゃう血の気の多さ!

 特に肉食系の獣人さん達の熱さには感服するものがあります。

「それで…ほら、今回村に来るのは6年ぶりですから。レイも「自分だったら村長の家まで案内できる!」なんて言ってたんですけど…」

「見事に、迷ったんだね」

「はい」

「そして他人を気軽に頼れない性格が災いして………迷子だって自覚しながらますます迷っていった、んだね…」

「リアンカしゃん、レイを理解してますね」

「それは、まあ…ね。ついでにジルが目を離した隙にはぐれた…、とか?」

「大当たりです…。今回は僕だけじゃなく、他の仲間も連れていた筈なんですけど………見事に、一緒に消えました。このまま放っておいたらまずい気がして」

「ああ、それで人に道を聞きながら此処まで知らせに来てくれたんだね……お迎えに行ったら、逆にレイちゃん不貞腐れそうだけど」

 れい、ちゃん…!

 身内ながら、見事なまでに残念過ぎるよ!

 ジルに比べれば、我が家に来る機会も多かったはずでしょ!?

 多いと言っても、片手の指で足りる回数分くらいだけど!

 普段里に籠りっきりなことの弊害が、思いっきり出ています。

 レイのあまりの残念ぶりに、まぁちゃんも沈鬱な顔だよ!

「ジル…ごめんな、レイがいつも面倒かけてるみてぇで」

「いや、好きで一緒にいる友達なんですから、謝らないで下さい」

 魔境の支配者魔王様(まぁちゃん)に軽く頭を下げられ、ジルがあたふたしています。

 何か鹿に似た獣がうろっとしている姿…わあ、和む。

 実際はマメジカって鹿より猪とかの方が種としては近いらしいけど。あれ、牛だったっけ。←リアンカの曖昧知識

「………なんで、まぁ殿が謝るんだ?」

 きょとん、と。

 今一つお話の展開を理解していないらしい勇者様が首を傾げました。

 ああ、そういえば説明が中途半端だった!


「「いとこ、だから」」


「え?」


 私とまぁちゃんの声が、見事に重なりました。

 これぞ異口同音。

 私達はまだ呑み込めていないのかパチリと目を瞬いた勇者様に、言い含める様に繰り返しました。

「レイちゃん…レイヴィスって、言うんだけどね………」

「ちょっと意地っ張りな奴なんだけどな…俺達の、従弟なんだわ」

「それはつまり…二人共通の従弟というと、アルディーク家の?」

 勇者様が確認の為か念を押して来た時には、私とまぁちゃんは遠い目をしてしまっていました。


 我がハテノ村を、代々村長として見守ってきた我が家。

 たまに忘れる家名はアルディーク。

 始祖の檜武人の頃から続く、当代アルディーク家の村長には二人ほど下に兄弟がいます。

 その内一人は先代魔王と電撃過ぎる出来ちゃった婚。

 もう一人はとある獣人の肉体美に惚れて押し掛け女房よろしく強引に嫁に行きました。

 ………父の若き日の心労が思いやられます。


 まあ、叔母が嫁に行った翌年にはレイちゃんが生まれていたので、夫婦仲は睦まじいというか慣れない筈の獣人の里でも叔母は上手く君臨しているようです。

 レイちゃんも、父さんより母さんの方が怖いって言ってたし(六年前)。


 まあ、普段はちょっと離れた所に住んでいて、あまり会うことのない従弟ではあるんですが…

 年少の従弟を、年長者で身内である私達が面倒見るのは、これもう当然のことですよね?

 例え種族差故に発達段階に差が付いていても…! 

 発達速度、レイちゃんの方が早くっても…!!

 それでもガラガラ片手にあやしたこともある相手です。

 到底、放ってはおけません。


 それに今は、武闘大会シーズン。

 いや、レイちゃん達もそれを目当てに村に来たんだろうけれど。

 レイちゃん達みたいに、他の方々…魔境全土、引いては魔境の外からも魔族と試合しようなんて言う素晴らしく血の気がヤバいことになっている猛者共がやって来ているんです。

 中には当然、人品よろしくない相手もいる訳で。

 ガラの悪いチンピラが、時々武闘大会挑戦者に混ざってるんだよねー…

 そんなのに、あの毛並みのよろしい(獣姿)レイちゃんが絡まれたら大変です!


 ある意味、現在の村の治安は最悪。

 …まあ、魔族さん達が村のことを保護してくれているんですけれど。村に魔族の拾い子を育てている孤児院があることも手伝って、村の治安維持には村人よりも魔族さん達の方が熱心だし。

 無茶する相手は相応に酷い目に遭うので、全体的に治安云々は+-相殺されています。

 それでも、野蛮な戦士達が集っているんですから、何が起こるかはわかりません。

 私だってこの期間中は、常より携帯するお薬は増量出血大サービス(ただし出血するのは相手)なんですから。


 勇者様は真っ当な『勇者様』だし、一年近く様子を見てきたので信用がありますが…村の中に、この時期の来訪者を泊めない裏の理由もこの辺にあるんですよね。

 下手に泊めて、強盗化されたら堪ったものじゃありませんから。

 …まあ、勿論、犯罪発生の暁にはまぁちゃんが素晴らしい笑顔で素晴らしい手際を発揮し、犯罪者に地獄を見せてくれる落ちがついてきますけど。

 それでも未然に犯罪を防ぐに、越したことはないですよね?

 普段の魔境なら、ここまで浮ついたりしないんですけどねー…


 本当に、血の気の多い戦闘狂って厄介です。

 それが限度のあるものならまだしも、この期間は本当に再現ありませんから。

 魔族の皆さんが対応をきっちりやってくれていなかったら、ハテノ村で一斉蜂起していたかもしれません。


「取り敢えず、レイを探し行くか」

「リス君も、もぉちゃんも手伝ってくれるよね?」

「まあ…同じ獣人のよしみだし? 村の中で迷子になった傑作な従弟君(笑)は是非とも見てやらないとな!」

「性格悪いな。俺もレイとは昔遊んでやったことがあるし…探さないでもない」

「よろしくお願いします……あ、それと」

「ん? なに、ジル」

「その…レイもだいぶ大きくなりましたから」

「まあ、最後に会ってから六年だしな」

「体もですけど、意地の方も+六年です」

「あれ、なんだか面倒そうに聞こえる…」

「もう体は大人と変わりありません。子供扱いすると火が付いたように怒るので…呉々も、注意して接していただけますか」

「「それは…」」


 会話の中で、さり気無く。

 私とまぁちゃんの眼差しがぶつかりました。

 一刹那の、アイコンタクト。

 だけど互いの目の中に、きらりと光るものを見つけて…。


 ――そんなことを言われたら、弄らないではいられないよね?


 視界の端で、勇者様が頭を抱えています。

 苦い目でジルを見て、「なんてことを…」とか呟いています。

 うん、久々に会うジルに比べて、勇者様の方は私達のことを重く理解してくれているようで!


 相手は、従弟。

 身内です。

 なので勿論、度を越した無体を働くつもりはありませんけれど…

 それでも、従弟だし。身内だし。

 親戚だからこそ許される領域って、あるよね?


 勇者様が項垂れながらも、何としても私やまぁちゃんより先にレイちゃんを見つけようと決意する中。

 私とまぁちゃんは、六年ぶりに会うだろう従弟に…

 とっても久々に会う、『弄り甲斐のある従弟』の存在に、僅かに胸を高鳴らせていました。


 レイちゃん、もうすぐ会えるよ。

 すぐに見つけてあげるから、待っててね☆




「…………………碌なことにならない気がする」


 勇者様の呟きは、勿論のこと無言で流しました!





ジルグスト(12)

 ジャワマメジカの獣人。ただし此方の世界にジャワはない。

 本来の獣の大きさは20~25cmだそうだが、獣人さんの獣姿は本来の獣の大体2~3倍くらいだと考えると、マメジカの獣人としては平均より大きな約1m。

 礼儀正しいですます口調の小さい男の子(物理)で、身長165cm。

 人間に合わせた発育段階で言うと、19歳くらい。

 レイヴィスの親友というか取り巻きというか、なポジション。


センさん

 本当は登場させようとしたんですが、見事に空気になりました。

 なので登場は見送り。今はきっと孤児院で煮炊きでもしてることでしょう。



次回、とうとうリアンカの残された最後の従弟が登場します。

名前はレイちゃん。

レイヴィス(♂)、11歳です。

そんな彼について、小林が今言えるのはこれだけでしょう。


 ――レイちゃん逃げて、超逃げて(笑)!


 ちなみに性格は意地っ張り系弄られキャラ…の予定です。





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