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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
嵐の前でも賑やかに
14/122

12.あいつとそいつとこいつ ~あいつと酒盛り~

あいつとそいつとこいつの内、あいつが再登場!

さて、そのあいつとは一体…?





 この数日、毎朝のように似たような物体を目にしています。


 勇者様が二日酔いで苦しんだり、父さんが二日酔いで苦しんだり。

 勇者様が二日酔いで潰れたり、父さんが二日酔いで潰れたり。


 なんだかとっても駄目な大人を見ている気分だね☆

 片方が実の父親かと思うと、とても微妙です。

 二人とも、こんな醜態を晒すような無様な行いに自ら進んで突き進むような人じゃなかった気がするんだけどな…。

 そんなに毎朝辛そうなのに、何故に毎夜呑む………。

 これも男同士の交流というやつなのかもしれませんが、野郎同士の付き合いは私には意味不明なことばかりです。うん、謎。


 そして、そうこうしている間に年が明けました。

 

 今年は父さんが常時グロッキー状態だったから、新年の準備やら慣習やらが曖昧になってしまいました。

 いつもはきっちりな父さんも、止むなしとばかりに潰れています。

 それでも毎夜呑むのは、根情ですか? 根情なんですか?


 いつの間にかまぁちゃんも混ざってるんだけど………魔王城の方は放っておいて良いのかなぁ?

 私の気のせいじゃなければ、年末年始を三日三晩呑んで騒いで祝い踊るお祭り騒ぎな行事が行われていたような…

 魔境の各地に散って、各一族を纏めているそれぞれの部族長やら何やらが『魔王陛下(まぁちゃん)』に挨拶しに来るのに。

 肝心の魔王が此処に居て良いの、まぁちゃん。

「あ? 良いんだよ、挨拶を口実に呑みてぇだけなんだから。俺だって最初に顔だししてっし、問題ねえ」

「つまり、見世物にされて酒の肴にされる宴から、より気軽な宅飲み会場に避難してきた、と…」

「そうとも言うな。酔っ払った族長どもに絡まれてうぜぇんだよ」

「まぁちゃんってば、そんな宴会も嫌いじゃない癖に!」

「今年はこっちの方が楽しそうっつか、見ものだから良いんだよ。自分の楽しみ超優先!」

「悪い大人だー!」

 蒼白な顔の勇者様と父さんを酒の肴に、けたけたと笑うまぁちゃん。

 鴨の煮卵をあぐあぐしながら、幸せそうに微笑むせっちゃん。

 私も楽しんでいたことは否定しません。

 そんな感じで、年明け一日目と二日目が過ぎ去…

 

 ………ろうとしたところで、お客様が来ました。


「もし、陛下はこちらにいらっしゃいますか」

 そんな優雅な声とともに姿を現したのは、清雅な印象のお兄さん。

「あら、まぁちゃーん、お客様よぉ」

「伯母さん、客って………って、おい。お前かよ」

「ふふ? やはりこちらにいらっしゃったようで」

 長衣の裾を捌いて、颯爽と歩いてやってくる。

 額を飾る、赤い宝石がキラリと光った。

「あ、エチカさん!?」

「ふふ…お久しゅうございます、姫?」

 現れたのは、素敵に愉快なカーバンクルの長でした。

 去年、狩祭でお世話になったエチカさんです。

 知りあいの登場に、私だけじゃなく勇者様まで顔を見せました。

 エチカさんは腕にふくふくと愛らしい獣を抱いています。

 あれは…カーバンクル(獣型)ですね。

「昨年は陛下にも姫にも、そこな勇者殿にも大変お世話になりました。我が同胞(はらから)がそれでどうしても御礼申し上げたいと言い出しまして。不躾ですがこうして直接参上しました」

「こんばんは!」

 そう言って、エチカさんの腕から飛び降りるカーバンクル(獣型)。

 …よく見たら、その額には抉られたような空洞がありました。

「あ………その子、は」

「はい。姫や勇者殿が大急ぎで取って来て下さった、妖精の霊薬がバッチリ効きまして。お陰様でうちの一族の子も一命を取り留めました」

「今ではほら、こんなに元気!! 額の石は残念だけど、体自体は前より調子よくって風邪ひとつ引かないんだ、やったね!」

「いやそれ、当人が言っちゃうのか…俺の方も、あの時は巻き込むような形で災難に遭わせてすまない。本当にもう体は大丈夫だろうか」

「わあ、勇者のお兄ちゃんだ! 激レア!」

「…っておい、レアって何だレアって!?」

「………ほら、お前って半年以上姿見えなかったから」

「だからってここでも珍獣扱いか!」

「いえ、むしろコレクターズアイテムくらいの感覚に近いような…」

 カーバンクルの子は、こちらがびっくりするくらい元気でした。

 流石魔族………ちみっ子でもえらく頑丈です。

 一時は本気でもう駄目だと思っちゃうような状況だったんですけどねー…。

 流石、エリクサー…物凄く強力です。

「勇者様、アスパラまみれのトラウマをこさえてでも行って良かったね☆」

「そんな言い方をされると良かったのか悪かったのか微妙にわからなくなりそうだから止めてくれ! まあ、でも…ああ、良かったよ」

 勇者様も自分の魅了耐性のせいで巻き込んだって、やっぱり命が助かってもどこかで気にしていたのでしょう。

 予想以上に元気そうなカーバンクルの子の姿に、どことなく気も緩んだような顔で。

 物凄くほっとした、と。

 お顔に描いてあるようでした。

「挨拶がちゃんと出来て偉いな。エチカんとこの一族のガキとは思えねーな」

「魔族は基本、愉快犯と戦闘狂の集団ですからねぇ」

「カーバンクルは特に愉快犯気質が強ぇからな」

「相変わらず世知辛い種族だな…っ! 主に、他種族に対して!」

「…勇者、そんなに構ってほしいのか? あ?」

「なんだ、はやく仰って下されば技術の粋を凝らして遊んで差し上げたのに」

「何の技術!? 一体何をするつもりだ…!?」

「ふふふふふ…」

「おお、エチカがやる気になってんぞ…勇者、成仏しろ」

「本当に何をする気なんだ、アンタらはー!!」

 それでも最終的に勇者様を弄って遊ぶ当たり、やっぱり魔族は魔族。

 勇者様はそれから三時間、まぁちゃんとエチカさんとカーバンクルの子に遊び倒されていました。

「それでは1番、カーバンクルのエチカ………定番の宴会芸をおひとつ」

「おお、毎年やってるヤツな(笑)」

「族長の―! かっこいいとこ見てみたーい!」

 やんやの喝采に押され、エチカさんは前に進み出てくると…


  …カカッ


 額に煌く真紅の宝石が、怪しげな光を…!!

 ドキドキワクワクしながら見守る私達の前で、勇者様が動きました。

「待ておい何するつもりだー…っ!!」

 放たれた光線(ビーム)は、真っ直ぐカリカを向いていました。

 うわ、やべ…っ

 そういえば、エチカさん達にカリカが私のペットだって言ってない!

 攻撃が放たれるまで気付かなかった。

 だから、カリカを庇うことなんて出来なくって。

 だけど誰かが困った時、一早く救済に動く方がここにいる。

 勇者様、流石です。

 彼の『勇者』の肩書は伊達ではありません。

 何か察するものがあったのか、勇者様は光線が放たれるや否や、身を躍らせました。

 その手に、剣を握って。

「く…っ」

 旋廻する動きに合わせ、衣が翻る。

 回転する運動エネルギーを、剣に込めて…!

 放たれた閃光を、勇者様が切り裂きました!


 光に強いのは知っていましたが、まさか光線(ビーム)を切り裂くなんて………勇者様、やっぱり人間じゃないんじゃないですか?

 湧き上がる疑惑は、最早おなじみのもの。

 私達は固唾を呑んで、勇者様の動きとエチカさんの反応を窺いました。

「――おや、防がれてしまいました」

「おい、エチカ…お前、酔っ払ってないか」

「何を仰るうさぎさん。わたくしは酔ってなど…」

「ああ、こりゃ完璧に酔ってるわ。家ん中で、しかもそこんちのペット向ってソドムフラッシュ放つのはやめろよ」

「なんと」

「そんな超吃驚☆な顔されるこっちの方が『なんと』だぞ、おい」

「それからエチカさん、あのサーベルタイガー…私のペットなんだけど」

「……………」

 ………何やら、エチカさんが黙り込んでしまいました。

 え、なになに?

 そのまま私に目を合わせることなく、エチカさんの視線は勇者様へ…

「それにしても見違えるようですね。勇者殿の反応速度、筋力の動き、流れるような仕草…どれをとっても、昨年の狩祭時とは段違いです。精進なされたのですね」

 は、話を誤魔化した…っ!!

 駄目な大人がここにもいたよ!

 エチカさんは、頑なに私と目を合わせようとしません。

 それどころか、全力で回避に徹している気がします。

「本当に勇者な方の成長には驚かされるばっかりで………驚きついでに、ひとつ祝福を差し上げましょう!」

「うん? 祝福…?」

「そぉーれっ★」

 

 瞬間。

 エチカさんの額が、再びカッと光りました。

 

 おつまみの山を薙ぎ払う閃光!

 勇者様は神がかった動きで緊急回避!

「いま、本気で殺しにかかってただろう!?」

 そして猛烈な抗議。

 エチカさんは「おや?」という顔で首を傾げました。

「おかしいですね…どうやら失敗したようです」

「エチカ? お前、なにするつもりだった」

「いえ…勇者殿の顔に魔法的な刻印を入れて魔術的な能力向上にご協力しようと」

「さっきの勢いで薙ぎ払われたら、顔に刻印入れる前に吹っ飛ぶからな? 下手したら死ぬからな!? 顔面大火傷じゃ済まないからなっ!!」

 がくがく、がくがくと。

 勇者様がエチカさんの襟首を引っ掴んで前後に揺すります。

 揺すられながらもエチカさんは涼しい顔色をしていましたが…

 その顔には、うっすらと笑みが浮かんでいて。

 

 普段は鉄面皮並に無表情な、エチカさん。

 どうやら彼も今、盛大に酔っ払っているようでした。



 その後、不在のまぁちゃんとエチカさんの場所を嗅ぎ付けたのか、多数の魔族(各部族の族長)さんがうちに乱入…

 未だかつて勇者様は見たことの無いだろう、多種多様な魔族さん達は宴会場の拡張だと言わんばかりにこっちに移動してきて…

 そのまま宴会の続きだーっとばかりに浮かれ騒ぎ、えらいことになっていく我が家…

 そうして勇者様は、やんややんやと喝采を送る魔族さん達に飲み込まれ…暇をもてあまし、余興を求めていた彼らに盛大に遊び倒されることとなったのでした。






まぁちゃん、大掃除からの帰還直後

「ただいまー…って、なんか面白そうなことになってんな?」

「お、おかえ…………おい、まぁ殿? なんだか凄い色になってるんだが」

「おお、今回は三種類の魔物が同じ場所で異常発生しててな。それぞれ青・緑・黄色い血をしてたもんだから返り血が混ざっ…」

「ストップストーップ!! 気分悪いんだから胸の悪くなるような話は止めてくれ…!!」

「お、おお…? 勇者、お前大丈夫かよ………」

「ただの二日酔い、だ……ぐっ」


 次回、【あいつとそいつとこいつ2】

 あいつとそいつとこいつの内、そいつが再登場!

 はたしてそいつとは一体…?




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