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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
魔境にただいま☆
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9.ぶらり村めぐり ~ちびっ子竜とサーベルタイガーがえらい物を発見しました~


 

 従者のあまりに予想外過ぎる変貌に耐えられなかったのでしょうか。

 それともアスパラの館と化したお家に純粋に居辛かったのでしょうか。

 勇者様は『勇者様ハウス』を飛び出してしまいました。

 勇者様の家なのに勇者様が居住に耐えないとはこれ如何に。

 逃亡なんて勇者様らしくありません。

 でも、この家には留まりたくなかったのでしょう。

 ………勇者様的にアスパラと寝起きを共にするのは『ナシ』だったのかも。

 うん、泣きそうな顔してましたね。

 へにゃっとしたお顔が情けない感じ。

 アディオンさんに裏切られたような気でもしているのかもしれません。

 それでも見目麗しさが損なわれないのが勇者様の勇者様たる由縁ですね!

 ちょっと年の離れたお姉様方が見たら保護欲だか母性本能高をくすぐられて思わずちょっかいをかけそうなくらいには弱々しい顔をしていらっしゃいますよ!

 …うん、危険。超、危険。

 勇者様ならすぐに若いツバメ(親指姫を運ばない方)?とかいうのにジョブチェンジできそうだけど、それって多分勇者様にとっては地獄の日々の始まりだと思う!

 ……………うん、なんかリアルに想像出来ちゃった。

 ツバメ(黄金の王子像に使役されない方)に転職なんてさせちゃ駄目。絶対。

 これはちょっと放っとけないよね…。

 世を儚んで自傷するタイプじゃないけど、やっぱりちょっと心配です。

 それに、今を逃すと何か面白いこと見逃しちゃうかも…

「勇者様、骨は拾ってあげますからね…!」

 …という訳で放っておけない私は勇者様を追いかけました。

 お友達が悪い大人の毒牙にかからないか案じて追いかける。

 これも一つの友情☆ですよね!!


「勇者様、まってー!」


 でも、勇者様って足が速いから追いかけるのは大変…。

 これは何か足を調達するべきでしたね。

 普段は私に合わせて歩いてくれていますが、今は周囲が見えてないみたいだし。

 ああ、ほらほら!

 泣きそうなお顔がいつもとは雰囲気が違いながらもお美しいから、道行くマダムや雌豹なお姉様方が一瞬ぎらっとした視線を向けて満足そうに頷いてますよ。

 これは次の村の寄合い(という名の宴会)で、勇者様の周辺が荒れそうです。

 うっかりお持ち帰りされるほど、勇者様の自衛能力は甘くないけど、酒の肴にどんな遊ばれ方をすることか………

 今からどんな醜態を見せてくれるのか、楽しみですね☆

 精々、勇者様が呑まされ過ぎないように気をつけないと!

「勇者様、まってってばー!」

 いつもは待ってと言えば待ってくれるんですけどね。

 アディオンさんのこと、そんなに衝撃強かったんでしょうか。

 それともアスパラのことが、そんなに…?

 合わせ技でメンタル方面に大打撃を受けたのかも知れません。


「リャン姉ぇ。なにやってんの」

「――…って、え、ロロイ!」


 走ることに一所懸命になっていたら、横合いからかかる声。

 驚きの余り、勢いを殺すのに失敗して転びそうになりました。

「りゃ、リャン姉、大丈夫か…!?」

「ろ、ロロ? なんでここにいるの?」

 あれ、ロロイって【竜の谷】に帰らなかったっけ…?

 なんでここにいるんだろう。

「いや、帰るつもりだったんだけど」

 気まずそうな、ロロイ。

 なんだか歯に物の挟まったような、はっきりしない物言いです。

 この子がこんな顔をするのも珍しいかも。

 どうしたんだろうと、首を傾げる私。

 そうしたら、なんか声が聞こえました。

 聞きなれた、動物の鳴き声が。

「がおー」

「「あ」」

 ロロイの懐から、ぴょこんと。

 出て来たのは、猫科の丸い頭。

 でも、猫にしては大きい頭。

「カリカ!」

 そういえば、姿を見ないと思ったら。←放任主義

「…ごめん、リャン姉。うっかり連れ帰りそうになっててさ」

「ああ、普段からロロイが面倒見てくれてたもんね…」

「鞄の中で昼寝してんの忘れて。つい」

「あー…私、てっきりせっちゃんのとこの猫ちゃん達といつもみたいにその辺で遊び回ってると思ってた」

「俺も途中で思い出した。鞄開けたら、いるし。それで引き返してきた」

「………【竜の谷】、大きい竜ばっかでカリカなんて踏み潰されそうだもんね」

「いや、それ以前にカリカはリャン姉のペットだろ」

「いつもロロイが何くれとなく面倒見てくれてるから、半ば私のペットだって忘れかけてたわ」

「じゃ、何だと思ってたんだよ」

「ロロイの弟分」

「……………こんな猫もどき、弟にした覚えないし」

 私の言葉に、ぶすっと不満そうなロロイ。

 それでもカリカを抱える手は優しくって、あながち間違いとも言えない気がするんだけどなぁ。

「ほら、リャン姉」

「カリカー、おいで」

「がう!」

 ロロイが私の胸元にずいっとカリカを押し付けてくるから、私は重くなってきたカリカを両腕で抱えました。

 ……………そろそろ猫と呼ぶのもきついサイズなんだよね。

 前は肩とか頭に乗せてたけど、そろそろそれも不可能になりつつあります。

 着実に育ちつつあるけれど、カリカってどのくらい大きくなるんだろう?

 サーベルタイガー(推定)なら、きっと凄く大きくなるんだろうなぁ…それこそ、せっちゃんが大喜びで背中に乗るくらい?

 うん、そんな未来が結構楽しみかも!

「それで、リャン姉。なんで走ってたんだよ」

「…はっ! しまった、勇者様を見失っちゃった…」

「……………勇者を追いかけてたのか?」

「うん。見失ったけど」

「………なんでまた」

 眉間に皺を寄せてそんなことを言うけれど、ロロイも何だか何かをわかっている様子でした。 

 半年間、旅路を共にしたのは伊達ではありません。

 また何か、勇者様にとって不条理なことがあったんだろうなぁと。

 ロロイの目は、露骨に同情を現わしていました。

「それじゃあ、リャン姉はこれからどうする? 勇者を探すの手伝おうか」

「うーん、どうしようかなぁ…。このまま安直に追っかけても良いけど、偶には一人にしてあげた方が良いかな。心の整理をつける時間も必要だよね?」

「まあ、個人的に勇者はどうせ復活しそうだから放ってて良いんじゃないかと思うのが正直なとこだけど」

「前からちょっと思ってたけど、ロロイって結構勇者様のことどうでも良いよね」

「うん、心底どうでも良い」

 わあ、言いきっちゃったよ。

 仲が悪い訳じゃないんだけど、なんて言うかこう…なんか、打ち解けてないんだよねー………ロロイと、勇者様。

 何かわだかまりでもあるのかな?


 結局勇者様の行方は杳として知れず。

 仕方がないので、私も諦めました。

 その代りに待っていたお仕事があります。


 リリフの捜索です。


「なんで…なんで手を放しちゃうのかなぁ」

「ごめん、リャン姉。気付いた時にはいなかった…」

「ううん、確かに普段から押し付けっぱなしだけど、ロロイが正式なお世話係って訳じゃないし。私達が甘え過ぎてるだけよ。…ロロイ、しっかり者なんだもん」

「途中まではちゃんと手を繋いでたんだ。途中までは」

「その途中までってのが曲者なのよねー…」

 どこに行ったものかと、途方にくれそうになりながらリリフを探す私とロロイ。

 そう、あの子は方向音痴。

 それも生粋の。

 今回、珍しくロロイがうっかりリリフを見失ってしまったそうです。

 2人そろってお互い同じ時に別々の相手をだけど、同じように見失って。

 これももしかして、気が合うってやつなのかな。

「本当に、奇遇よねー…」

「こんな奇遇は求めてなかったけどね」

 いい加減住み慣れた…というか育った村の中で迷うのはどうかと思うんだけど。

 それでも方向音痴はリリフのせいじゃないし。

 私達はやるせない疲労に肩を落としながら、リリフを探します。

 勇者様は最悪お一人でも何とかなるけれど、方向音痴はどうにもなりません。

 時間をかければ目的地にも到着できるようにはなって来ましたけれど…それまでの過程で、何があるやら。

 リリフ本人が強靭な肉体を持つ真竜なので過度に心配している訳じゃないけれど、それでも気がついたら何処に行ったかわからないという事態は不安です。

「幾つになっても世話の焼ける妹分よね」

「まったくだ。竜なのに方向音痴とか。本能はどうしたんだ、本能は」

「あー…リリフの帰巣本能は本格的に死んでそうよね」

「あれで他の面では俺に対して偉ぶってくるけれど、世話を焼かれてるのはどっちか本当に自覚してほしい」

 ロロイ…まだ子供なのになんて凄まじい苦労人臭!

 だからこんなにしっかり者に育ったんですね。

「カリカ、お前も探せ」

「がう!」 

 とうとう業を煮やしたのか、自棄になったのか面倒になったのか。

 ついにはカリカにリリフの匂いを追跡させようとするロロイ。

 うん、それって犬の仕事だと思うよ!

 でも私は止めません。

 何だか生温い眼差しを注いでいる自覚は、我ながらあります。

 だけど止めるのは勿体なくて。

 生温~い目で見守りながら、どこへともなく先導を務めるカリカを追う私達。

 カリカだって、もしかしたら犬並の嗅覚を持ってるかも知れないし!

 

 本音を言います。

 ただ楽しそうだなって思っただけです。


 リリフを探さなきゃいけないことは、確かにそうなんだけど。

 目の前の光景があまりに楽しげだったので、つい流されました。

 だけどそのお陰で更に面白いモノを見つけることになるなんて、思ってもいませんでした。


「がぁう!」

「あ、カリカが何か見つけたみたい」

「けどリリフじゃなさ、そ…」


「「あ」」


 正直を言うと、リリフの迷子は毎度のことで。

 心配もするし、探しもするけれど。

 でも毎度のことだから、実はそれほど緊張感がある訳でもなく。

 探していればそのうち見つかるだろうと高をくくっている部分はあって。

 だから悠長にカリカに探させたりもしたんだけれど。

 

 そのカリカが、まさかこんな物を見つけ出すとは………


「リャン姉、これ…」

「……………わーお。なんか見つけちゃったよ」


 私の手の中に、銀色の冷たい丸い石。

 つやつやと輝くそれは、氷りそのものの様な光沢…

 

 ………いえ、実際に、氷そのもので。


 

 カリカが見つけたのは、古に封じられた悪魔の欠片。

 シャイターンさんの、最後のパーツ。

 封じられて行方不明の、胴体部でした。



 まさかこんなところで、レアアイテム発見…?





~その頃、勇者様~

 彼は衝動任せに走り去り、そのまま勢いで崖山をのぼり…

 やがて辿りついたのは岩山の天辺(檜武人の廟の前)。

 勇者様は抑えきれない激情のまま、叫んだ!


「アスパラなんて、アスパラなんて…だいきr………ばっきゃろぉぉおおおおおっ!!」


 どうやら衝動に任せても、誰かに対して「嫌い」とは言い難かったらしい。

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