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ここは人類最前線7 ~魔性争乱~  作者: 小林晴幸
星降る夜に遭いましょう
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98.星捕る夜に ~魔王兄妹の場合~

 時々、敢えて自分から苦難に突っ込む勇者様。

 軽く自爆癖があるのかもしれません。



 さあ、いよいよまぁちゃんの出番です。

 持参したお弁当から取り分けたおかずを適当にかじって、一先ずの腹ごしらえ。

 満足げな笑みで、立ち上がったまぁちゃんのしなやかな身のこなし。

 ぐいっと伸びをして、夜空に悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「まぁ殿……本当に、良いのか? 俺のことなのに、俺は何もしないで」

「おうおう、気にすんな。どーせ大した手間でもねぇし」

「た、大したことじゃないのか。他の、ドワーフの職人達には充分以上に大したことのようだが……」

「馬鹿め、ドワーフのオッサンどもと俺を一緒にしてどーすんだ」

「そうか……だがな、一つ言わせてくれ」

「あ?」

「まぁ殿、俺の為に手間をかけてくれるのは嬉しいんだが……


見る限り、凄まじく防御の備えが薄すぎるんだが。良いのか」


 勇者様が顔を引き攣らせて、指摘しました。

 その目がばっちり映しているのは、まぁちゃんの今の服装です。

 まぁちゃん個人の肉体強度はかなりのものだし、言ってみれば防御の為の備えなんて必要不必要以前に考える意義があるのかどうかも不明ですが。

 防御力低そうって思うのも無理はありませんね?

 まぁちゃんは、動きやすさを優先したのでしょう。

 魔族さん達はそもそも薄着傾向の強い種族ですが。

 今のまぁちゃんは、いつものローブもマントも脱いでいて。

 体の線がわかりやすい……というか。


 体の線ぴったりそのままの服装をしていました。


 薄っぺらぺらなズボン。

 上半身に着ているシャツ……いや、シャツ?

 ……形状的にはシャツというより腹掛と言った方が良いような。

 はっきり言いましょう。

 

 まぁちゃんは背中から脇腹にかけてが大胆に露出していました。


 ちなみに腕の方は肩からして布地より解放されております。


 別に珍しい格好じゃありません。

 だけどこれから星に挑もうという時に、そんな薄着するものですから。

 私としては、別に大丈夫じゃないかなーと思う訳ですけど。

 勇者様としては、おいおいこれ大丈夫かと心配になるようです。

 まぁちゃんに関しては心配するだけ意味がない気がします。

「まぁ殿にとって、『星』はそんなに気軽なブツなのか……?」

「疑うねぇ……まあ、見てな」

 まぁちゃんは勇者様の不安そうな顔をけたけたと笑って。

 星に挑む為に解放されている草原へと軽い足取りで向かいました。

 解放されているも何も、この草原は元々まぁちゃんの所有地ですが。


 ちなみに『流れ星』の見物に来ている人は沢山います。

 それに星への挑戦に疲れて一時休憩したいって職人さんもいます。

 そんな人達の為に用意されているのが、今私達が敷物を広げてお弁当をつついている、この休憩所。

 小銭稼ぎに来た有志の魔族さんやエルフさん達が共同で大きな結界を張っている為、割と安全です。

 狙いすましたように降って来た星が命中したって、上空で結界に阻まれて弾き飛ばされたり消滅したり。

 魔族さんが本気を出して『星』を大々的に回収しようと思えば、かなり簡単に収集できるんじゃ……?

 そんな風に思わせてくれる場所で、私達はのんびりとまぁちゃんを見守ります。

 勇者様お一人が、はらはらとされているみたいですけど。

「まぁちゃんのー、格好良いとこ見てみたいー!」

「あに様はいつも格好良いですのー」

「主様、リャン姉さんの言葉はそういう事じゃなくて……」

「う? いつも格好良いですのよ?」

「いえ……はい、そうですね!」

「はい! いつでも格好良いですのー」

「あー……うん、私もせっちゃんに同意かなー」

 そういうつもりで疑問提議した訳じゃなかったけど。

 でもせっちゃんが可愛いから良っか!

「あに様ー、格好良いですのー!」

「まぁちゃん格好良いー!」

 うん、せっちゃんが満足ならそれで良いよ。

 なので私もせっちゃんに合わせて声を上げました。

 

 そしたら妹思いなまぁちゃんの気合いが、見るからに上がった。

 おおぅ、張り切っとる……。

「――よし、やる気出てきた!」

 そしてまぁちゃんは、意気揚々。

 少し広めの空間に出て……折よく降って来た全長二mくらいの星に、ギラリと目を光らせて、迎撃態勢。

 向かってくる丁度良い機に合わせて、跳躍。

 そして、星を。


 蹴り砕いた。


 もっと正確に言うのなら、踵落としで粉砕しました。


「えぇぇえええええええええええええっ!?」

 勇者様、絶叫。

 というかまぁちゃん、砕いてどうするんですか! 砕いて!

「もう! まぁちゃん!?」

「やべ、わりぃわりぃ! 気合いが入り過ぎた」

「粉々にしてどうするの! もー!」

「あに様……駄目ですのー」

「バトゥーリ、格好悪……」

 ここぞとばかり、好き放題に野次を飛ばす私達。

 でもまぁちゃんだって自分の失態をわかっているからでしょう。

 苦笑を浮かべて頬を掻いています。

「次は失敗しねーよ」

 そう言い置いて、新たな獲物を探し始めました。


 星見の丘は、星狙いで訪れた沢山の職人さんや武芸者さんで大混雑。

 それぞれが譲り合ったり兼ね合いを考えたりしながら、狙いがかぶったり喧嘩にならないようにそれぞれで星を狙います。

 アレが手頃だなとか思っても、既に狙っている人がいるなら手を出さないのが暗黙の了解。

 それは魔王のまぁちゃんだって変わりません。

 だから、挑み易そうな星は狙いたい人がすぐに出てくるので、自分の順番を確保するのが大変ですが。

 逆に言うと、誰もが挑むのを躊躇するような……大物は、逆に狙い目で。

 割と手頃だった最初の星を蹴り砕いた後です。

 まぁちゃんはお手頃サイズ狙いから、大物狙いへと移行しました。

 他にも欲しい人がいるので譲り合い精神を発揮した訳ですね!


 ……という訳で、次にまぁちゃんが狙った星は結構な大物でした。


 具体的に言うと、全長……目測で四mくらいですか?

 小柄な体型のドワーフさん達なら、狙うのも大変なサイズです。

 何しろ相対しても腕からはみ出ちゃうので。

 大型ゴーレムを駆使して狙う人達もいなくはないですけど。

「まぁちゃーん、手加減! 手加減ですよー!」

「あに様、ふぁいとですのー!」

 声援を送る私達。

 勇者様は遠くを見る眼差しで「ふぅ……」と溜息。

 まるで今更心配する馬鹿らしさに気付いたとでも云わんばかりで。

 その目に、今日も何故か死んだ魚の目を連想しました。


「そんじゃ、今度こそアイツらに良いとこでも見せてやろーかね」


 いつも良いとこばっかりな気がしなくもないですが。

 まぁちゃんは肩から力を抜き、腕をだらんと垂らして次なる星に相対しました。

 ……今度も受け止める気、無しですかね?

 足技でどうにかしようとしたら、今度も砕いちゃいそうな気がするんですが。


 そんな私の予想は、ただの気のせいで終わりました。


 いや、肩から力抜いたので。

 腕を使う気が無いのかなって思ったんですよ。

 でもそれは私の早とちりでした。


 まぁちゃんは、轟音を立てて迫る星が、今まさに激突しようとした瞬間。

 目を見開いた勇者様が「ま、まぁ殿ぉぉおおおお!?」と悲鳴を上げる中。

 僅かな一刹那、腕に力を漲らせ……いや、割と軽かったかな?

 それは余計な力が入っていない、って感じでした。

 まるで眼前を折良く通過した羽虫を叩き落とすかのように。

 誰かの横っ面を張り倒すかのように。


 迫る『星』に、横合いから平手を喰らわせました。


 ぱぁんって凄い音がした。

 凄まじい勢いを有していた『星』はそのまま、更なる急加速をかけたかのような勢いでまぁちゃんの斜め前方に弾き飛ばされ。


 ぞぶっと、何もない空間に沈んで消えました。


「……え?」

 勇者様は、何が起きたのかわからないという顔をしていました。

 そりゃ平手打ちで吹っ飛んだ巨大な物体が、いきなり何処とも知れず消え失せたら驚くかも?

 それをやったのがまぁちゃんじゃなかったら、私も驚いたかもしれません。

 でも、まぁちゃんだし。

 その一言で全てが片付きます。

「……よし、まず一つ」

 満足げに頷く、まぁちゃん。

 そんなまぁちゃんに、勇者様が挙手して質問しました。

「まぁ殿、あの星は何処に消えたんだろうか……」

「亜空間」

「あ、あくーかん?」

「物をしまえる便利空間ってヤツだ。必要になったらまた取り出せるから心配すんな」

「???」

 首を傾げる勇者様に、まぁちゃんは口の片端を吊り上げてニッと笑いました。

 ちなみに亜空間が何かは私もよく知りません。

 ただ、色々なモノが入るナニかだってことは知っています。

 まぁちゃんのお買い物バッグ的な便利機能とだけ理解してますが、多分その認識で間違いはないんじゃないでしょーか。

 なんでも入るんですよ、凄いんですよ?

「リアンカ、今の手順で問題ねーよな?」

「星は無傷かな、まぁちゃん」

「後で確認しとけ。何かあったとしても精々真っ二つレベルで抑えといてやるよ」

「じゃあ問題ないかな?」

「よし、んじゃこの調子でどんどんいっとくか」

「お願い、まぁちゃん」

「おう、任せとけ!」


 そしてそこからは、まさにまぁちゃん快進撃といった調子で。


 大きめな星狙いで、降って来る端からバンバン平手打ち。

 亜空間とやらを開いて、まぁちゃんはそこへお星様を打ち落としていきました。

 そりゃもう……他の星狩りに来た人達が唖然とする勢いで。


 その姿は、川で鮭を獲る雌熊みたいでした。


 まぁちゃん、かっこいー(笑)

 うん、これは雄姿と呼んで良いかもしれない。

 そんな兄の姿に触発されたのか。

 まぁちゃんを応援していたせっちゃんが、やがて元気いっぱいに右手を挙げました。

「せっちゃんもやりますのー!」

 満面の笑顔で、せっちゃんが星に挑戦です!

 勇者様が「え!?」と短く驚きの声を上げました。

 まぁちゃんの雄姿(笑)を見ている間、どんどん目の色が薄くなっていくかの様に虚ろさを増していたのですが。

 せっちゃんの宣言に驚いたのでしょう。

 ハッと正気を取り戻して、せっちゃんを見ています。

 その顔には不安と心配が渦を巻いておりました。

「り、リアンカ? セツ姫がまぁ殿の妹だということは承知しているが……その、大丈夫なのか?」

「勇者様、何事も挑戦だって前にヨシュアンさんが言っていましたよ?」

「いや、ヨシュアン殿の言葉を真に受けたら駄目だ。言葉自体はまともだが……それは、駄目なヤツだろう?」

「でもまぁちゃんがざぱざぱ獲れるような代物だし……せっちゃんでも意外にイケそうな気が」

「姫は……俺が思うより、凄いんだろうけれど。何故だろう、彼女の姿を見ていると、大丈夫とは思えなくなるんだ……」

「せっちゃんを見くびっちゃ駄目ですよ、勇者様ー?」

 せっちゃんだって、可愛くったって魔族の王妹殿下ですから!

 『まぁちゃんの妹』っていうのは伊達じゃありません。

 勇者様が心配そうにおろおろしている間に、せっちゃんはまぁちゃんに通じる気軽さで草原へと踊り出ました。

 まぁちゃんが、星を狩りながら。

 さりげなくちらっと横目でせっちゃんを確認しています。

 水を差す気はなさそう。

 ここは見守る方向で、取敢えずやらせてみることにしたようです。


 まぁちゃんは過保護さんですけど、あれで大丈夫そうだと確信がある範囲内では結構自由に色々やらせてくれます。

 何事にも挑戦っていうのは、まぁちゃんのお家の教育方針にも似た感じのところがあるし。

 やって駄目そうなら、多分まぁちゃんが何とかするんじゃないかな。

 さり気無く、せっちゃんの方にいつでも駆け寄れるように位置を調整しているのがわかりました。

「がんばれ、せっちゃーん!」

「はいですのー!」

 たった一度、きょろりと周囲を見回して。

 自分以外の人達の様子を確認したんでしょう。

 それで準備が整ったのか、せっちゃんは空を見上げました。

 せっちゃんの両手は、お腹のところで組んだままでしたけど。

 あの可愛いせっちゃんには、それで充分だったっぽい。

 だって、せっちゃんは両手を使う必要がなかったみたいだから。

「それじゃあ、いっきまっすのー♪」

 次の瞬間。

 ぞんっと空気を震わせるような重低音を響かせて。

 せっちゃんを中心とした地面から、闇色の(カーテン)が突き出る様に飛び出した。

 それはまるで、天地を逆にオーロラ(闇)伸びたかのような光景で。

 周囲のドワーフ達がぎょっとする中(しかし全員、せっちゃんが飛び出した時点でさり気無く周辺から退避済みでしたが)。

 踊る闇色の幕が、地面へと降り注ぐ星の数々を包み込む。

 きちっと誰かの標的になってる星は除外しているところが凄い。

 誰にも止められることなく地面に激突コースになってる星だけ。

 地面に激突する瞬間、闇が呑み込む。

 そして勇者様のお顔がぽかーんという表現を的確に表現してくれました。


 



「なあ、リアンカ……」

「はい? どうしたんですか、勇者様」

「なんだか……まぁ殿よりも、姫の方がなんだか凄いことをやった気がするんだが…………俺の、気のせいだろうか」

「あー……まぁちゃんは完全物理、せっちゃんは魔法頼み。そんな些細な違いですよ?」

「いや、だが……どうだろうか」

「……勇者様、まぁちゃんはせっちゃんより推定で軽く数倍強い魔力を持っているそーなんですけどね?」

「えっと、そうなのか? セツ姫の魔力でさえ、多すぎて俺にはどのくらいの規模なのか測り切れないんだが……」

「勇者様、魔力に鈍いですもんね! でもまあ、それは置いておいて。まぁちゃんって魔力が強すぎるんで、制御がかなり大雑把なんですよねー。攻撃とかなら、大雑把な調整でも問題ありませんが」

「……そういえば、前に細かな調整を要する回復魔法は苦手だと言っていたな」

「そうそう、それなんですけどね? つまりまぁちゃんって制御が甘いせいで魔力の扱いは破壊力特化なんですよ。頑張ればちゃんと出来なくもないみたいですけど、何分面倒なことは手抜きしがちなものなので」

「それは……ある意味で、なんとも魔王らしいな?」

「そうですね、それは良いんですけど。つまり、何が言いたいかというと」

「何が言いたいかというと?」

「まぁちゃんが魔法で星を取るとなったら、漏れなくさっきの踵落としの二の舞……いえ、もっと酷いことになりかねませんけど。それって意味ありませんよね?」

「ああ……そういうこと、なのか…………」

 

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