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仁義なきハト戦争

ここ最近、僕と妻を悩ませている事がある。


それは、お隣のベランダにどうやらハトが住み着いてしまったらしい。と言うことだ。

隣ならいいと思うだろうか。イヤイヤ、それは大きな間違いである。

ハトは我が家のベランダにも頻繁に遊びに来ては糞を撒き散らしてはバタバタと羽を散らして去っていく。

このままでは我が家の洗濯物が危うい。花粉の時期も終わり、梅雨前のすがすがしいこの季節、この時期までも部屋干しを余儀なくされるなんて!…妻はへこんでいた。しかし、理由は部屋干しだけではない。

元来、妻とハト、いや、鳥とは只ならぬ因縁があるらしい。

始まりは、妻が小学生の時、友達の飼ってたインコにいつも自分だけ糞を落とされていたことからだと言う。

友達には「としこちゃんの頭、鳥の巣みたいだからじゃない?」とちょっと辛いことを言われたらしい。

それから、中学に入っても体育祭のお弁当をカラスにとられたり、高校では学際の時に謎の鳥に一人襲来されたり、大学では3回連続鳥の糞を落とされていた。(これは僕も目撃した)

とにかく、妻は鳥が大の苦手なのだ。

どこまで本当かはわからないが、妻はネットでハトの糞について調べ、「仮に妊婦が空気中のハトの糞が舞った空気を吸い込むと、稀に胎児に多大な悪影響を及ぼす可能性も否定できないらしいわよ!聞いてる??多大な悪影響って相当でしょ!!」と息を荒げて僕に訴えてきた。

「へっ、へ~、それはずいぶんな悪影響だね。」

だいぶリスクヘッジしたぼんやりとした表現で結局どんだけ危険なのかよくわからなかったが…。


「まあ…妊娠してないんだけど…。」妻が急にトーンを落としてボソリと言った。

「あっこれからね!!いつ妊娠するかわからないし、念には念をだよね!」僕は慌ててフォローする。

…結婚して3年、最近周りからのベイビーに対する圧が凄い。


それから、僕たちの仁義なきハト戦争が幕をおろす。


まずは、掃除から始めた。

糞はすぐに掃除!とにかく掃除!ハトは帰巣本能が非常に強く、気に入ったら何度もしつこく戻ってくるらしい。そして糞は一種のマーキングのようなものらしい。

糞を掃除し終えたら、鳥よけで定番の目玉風船(キラキラ光る)をつるした。

しかし、このハト達、この手の脅しには慣れているらしい。


ーポトリ。


付けたばかりの目玉風船にかけて飛び立っていった。


次にハトが苦手だというバラの植木鉢を買ってきてベランダに置いた。ハトはバラのにおいが嫌いらしい。棘のあるものが嫌いだとか…。これで、寄り付かないはずだ。


ーポトリ。


翌日、ハトはあざ笑うかのようにバラの近くの手すりにとまり、マーキングして帰って行った。


作戦は失敗に終わった。


今度はハトの天敵作戦に出た。

ハトはカラスが天敵、ということでカラスの鳴き声をスピーカーで(ご近所迷惑にならないように、と言うか、怪しい黒魔術でもやってるのでは??とあらぬ疑いがかからぬように、ボリュームを落として)流すことにした。


正直、微妙だが、試してみる価値はある。


ー翌日、ハトは来なかった。

翌々日、ハトはやっぱり来なかった!

「やったわ!遂にハトを駆逐してやったわ!」

駆逐はしてないだろっと思ったが、とりあえずハトが寄り付かなくなった。

作戦成功である。妻が上機嫌で勢いよく、ベランダの窓を開けると、、、

「ギャー!!」

「?!どうした?!」

僕が急いでベランダに出るとカラスに襲来されている妻の姿があった。

急いで近くにあったほうきでカラスを追っ払うと、スピーカーの電源をoffにした。

どうやら、ハトは寄り付かなくなるが、代わりにカラスが来るというハイリスクハイリターン?の作戦だったらしい。


今回も失敗。妻は半べそだった。

カラスに襲来された妻の髪の毛はぐっちゃぐちゃになっていて、まるで、鳥の巣…。

「あなた!今なにかとんでもなく失礼なこと考えてたでしょ!?」

「…い…いえ、なにも!!」

女の勘恐るべし…。


次の一手はどうするか。僕がネットで検索していると、ベランダでハトの糞を掃除しながら、妻が言った。

「ていうか、根本的な原因を対処しなきゃエンドレスじゃない??」

…確かに!!

僕は意を決してお隣さんのインターホンを鳴らした。

「…はい…」

「…あの〜隣に住んでいるものですが、ベランダの鳩についてなにですが…」

「わしゃ、知らん!!」

「え!?あの!おじいさん!?」

ーブチっ

インターホンは途切れてしまい、一向に取り合ってくれなかった。


なんという、態度!こちらの要件言い終わってないじゃないか!


…クソじじいめ!長生きしてたら無条件に皆が敬うと思ったら大間違いだぞ!!

そんな態度だから息子も娘も寄り付かないんじゃボケー!

僕は自分がとんと田舎に帰ってないことを棚に上げココぞとばかり罵ってやった。(もちろん心の中で)

「ご近所でも偏屈で有名なのよね…。」

妻がぼそりと言った。

「やっぱりおじいさんに言っても無駄だったみたいねぇ」

お前が言えって言ったんじゃないかと思ったが、とりあえず家に戻り、新たな策を考える事にした。


視覚、嗅覚、聴覚、どれに訴えてもハトにはまるで効き目がない。


…となると。


「あっこれは?」

としこがスマホの画面を僕に見せる。


「…」


僕たちは見合わせ、うなづいた。


「…ご近所や、あのジジイに見られると厄介だ…。決戦は…金曜日の夜!!」


「わかった、今日の夜ね〜深夜1時くらいでいいんじゃない?」


せっかく雰囲気を出したのに(何の?)妻がアッサリかわす。…ちぇっ。


とりあえず深夜の決戦に備えるべく、早めの晩酌に手を伸ばした。


「…いいけどちゃんと起きてよ??」


妻の目がいつもより鋭かった。


案の定、爆睡してしまった。


「もう!起きてってば!」

妻がキレ気味に僕の布団を剥ぎ取った。

暗かったので電気をつけようとしたが、

「やめて。明かりがついているのを誰かに見られたらどうするの?スマホの電気を使って。」

…いつになく用心深い妻がちょっとコワイ。

…妻は本気だ。


僕に黙ってソレを渡す。

僕は黙ってソレを受け取ると、中身が入っていることを確認する。

そして、ゆっくりと引き金を引く-。


「キャアッ!!こんなところで水出さないで!!遊んでないで、早くベランダ行くよ!」


「あっ、ごめん!ちょっと、出るか確認を…」


そう、僕らの作戦はこうである。

夏に買った水鉄砲で夜襲をかけるというものだ。

妻がネットで「ハトは羽が濡れるのを嫌がるので、水をかけると逃げていく」という記事を見つけ、水鉄砲で追い払うことにしたのだ。

昼間にすると、ご近所さんに動物虐待だと思われても何なので、(そもそも人ん家のベランダに勝手に水をかける行為自体問題だが)夜、あのジジイも寝静まった時、決行することにしたのだ。


僕と妻は静かにベランダに出た。

隣のベランダまでは2mといったところ。

このウォーターガン(要は水鉄砲)は最高5m。十分射程範囲内だ。

妻がスマホでハトを確認する。

ハトは手前の室外機の隙間に巣をつくり寝ている。

-ふっ、気持よく寝ていられるのも今のうちさ。

僕は悪魔のような笑いを浮かべる。

隣の妻も妖魔のような笑みで返す。

ようやく、これで長かったハトとの仁義なき戦いも終わる。

僕は勢いよく引き金を引いた

-えいっつ!!


びゅー!!。


勢いよく発射された水ははなだらかな弧を描いた。

そして、、、隣のベランダに到着する前に下降していった…。


おかしい!!何でだ?!最高5mは飛ぶはずじゃ?!


僕はもう一度引き金を引く。しかし、やっぱりそれは力なく下降していく。

「落ち着いて!これ、加圧式だからピストンを引いてからの方が遠くにとばせるんじゃないかしら!」

僕はどうやら焦りすぎていたようだ。落ち着いてピストンを数回引いて、重くなってきたところでもう一度標準を合わせる。


びしゃあーっ。


今度は前回よりも勢いよく飛んでいった。

が、手すりが邪魔して、ハトには届かない。

ハトは「我関せず」、と言ったように相変わらずぐっすり寝ている。


クソッ!!もう一度!!


ぴゅう。


…。


-水がもう無かった。


僕たちは暗闇の部屋に戻り、暗闇の中、向かい合って座った。


…。


「…寝よっか。」


「…うん。」


-ばからしい。


恐らく妻もそう思ったに違いない。

決行前の鋭い目つきはなく、軽くどこか遠い目をしていた。


一体僕らは何をやっているんだろう。

明日は朝一から会議だから、早めに行って資料整理しようと思っていたのに。

僕はなんだか凄く時間を無駄にした気がしてならなくて、とっとと寝ることにした。


翌朝。

「グルーッポッツポッツポ。」

今日も元気にハトが鳴く。


僕は、と言うか妻も寝過ごして、会社に早めに行くなんて愚か、遅刻ギリギリの出社になってしまった。

急いで、資料を持って会議室に向かったが、もう皆さん揃い済みだ。

当然、印象は悪く、風当たりは冷たい。挙句の果てに資料にも不備があった。

いつもなら、口頭でも問題ない範囲だが今日はそうはいかない・・・。


終わってから、課長にみっちりしごかれた。


クソっ!アホなことしてないで、寝ればよかった!!

なんで俺は会議の日に寝過ごすなんてバカな真似を…。


チクショーッ!!


「グルーポッツポッツポ」


どこかでハトの鳴き声が聞こえた。



後日、ベランダと屋根の一部にテグスと猫除けの剣山を張り巡らせると鳩はパタリと来なくなった。見た目は悪いが、しょうがない。

人も鳥も痛い目見ないと覚えないよね。。。


こうして、僕らの仁義なき鳩戦争は幕を落としたのであった。

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