悪魔の囁きは暗闇と共に
少年は一人暗闇の中にいた。
自暴自棄になり、冥府へと自ら落ちていったのだ。生きたままで。
後ろも前も分からず、その場に座り続けて幾星霜。
精神も疲れ果て、少年はもう虫の息。
ある時だった。
一人の悪魔が少年を見つけたのだ。
そして、悪魔は少年にこう言った。
「どうした。人生に絶望したのか? それなら、まだ早い。お前たちはいつも人生を無駄にする。悪魔から見たら人間の一生なんぞ、一瞬だ、一瞬」
無言で少年は悪魔を見つめた。
その顔は痩せこけ、目にハイライトがなく虚ろだった。表情らしいものでさえ、見られなかった。
「ボ、クハ……モウ、シヌノ? 」
忘れかけた、忘却の彼方へと押しやった人の言葉を思い出しながら紡いだ。
「いいや、俺がお前を連れていく。実は俺も悪魔ではあるが、悪魔稼業には飽きたんでね。二人で世界を旅しようじゃないか 」
悪魔は強引に少年の腕を引っ張る。
よろめいて倒れそうになる少年だが、悪魔に抱きとめられた。
そのまま手を繋いで歩く。
少年はいつの間にか泣いていた。
久方ぶりの暖かさ。
悪魔の体温もこんなに温かくて安心できるものなんだと。少年は決意する。
今まで逃げて逃げて、逃げた先がここだった。
被害者ヅラなんてもうしない。逃げない。
少年の心に灯った小さい炎。
二人が地上に出る頃、少年の顔は明るい笑顔が太陽のように煌めいていた。
「僕は、逃げない。人生って奴に一泡吹かせてやる」
それを聞いて悪魔は、微笑んだ。