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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第1章 旅の準備
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3人の決断



昼間の戦闘で体力を奪われ、張り詰めていた緊張感が緩む。だから余計に眠くなる。仲間が毛布に包まりスピーッスピーッと寝息を立てる、その横で自分も一緒に眠れればどんなに幸せだろうか。


樹海の中で初の夜営を行うフモール達は、眠気に負けじと必死に見張りを行っていた。


今はフモール、バミル、マメルの見張り番だ。

ビリーは脚の傷を癒す時に消費した自分の体力を回復する為、見張りはせずにずっと眠っている。ティム達は最戦線で戦っていたフモールも抜けさせる予定だったのだが、フモールがそれを許諾しなかった。


「マメル達と一緒なら大丈夫よ」


フモールは胸を張ってティムにそう告げた。寝入るビリーをチラリと見ていた様子を見れば、フモールの行動が責任感からきているのだとわかっただろう。

それに気付いたミオは、無理矢理にも休ませようとするティムを押し留めた。


そして、フモール達の3人は眠気以外には外敵と戦うこともなく、交代の時間が近付いてきていた。寝たふりをしながらりずっと3人の様子を心配していたリオンに気付く事もなく。


「…そろそろ時間じゃないか?」

「そうですね、そろそろホッブズさん達と交代しましょう」


眠気よりも面倒くささで地面でダラけていたバミルが言うと、慈愛神教の聖書を読んで眠気を紛らしていたマメルが頷く。

自分は眠気なんかに負けはしないと意気込んでいたフモールも、疲れのせいで限界が近かったようだ。マメル達に返事をすることもなくスッと立ち上がり、残り3人の子どもーーホッブズ、ステフ、ジャムーーとリオンを起こしに向かった。


「…交代か?」

「そうよ、特に何もなかったけど樹海の中なんだから油断なんかしないでよね」

「…言われなくても分かってるよ」


ホッブズ達は覚醒直後の寝ぼけを感じさせずに立ち上がりフモール達と交代する。リオンもフモールが寝床に起こしに来る前に起き上がり、見張りにつく為に歩き出した。


フモールは見張りに向かう彼らの姿を見守っていた、交代が終わるまでは自分達の見張りの時間なのだと言うように。そして、交代が終わったと確信すると同時に毛布に包まり、すぐに寝息を立て始める。







パチパチと焚き火が爆ぜる音、仲間の寝息、風に揺らぐ葉、樹海の生き物達の生活音。それらの多様な音が樹海の中で1つになって、樹海が脈動するかのように響く。


「「「…」」」


ホッブズ、ステフ、ジャム、3人の子どもは焚き火を中心に集まって沈黙を貫いていた。

身じろぎ1つせず、全く音を立てない3人を何も知らない人が見ていれば、自然の中に生きている生物として、巨大な樹海の生態系に居る事を楽しんでいるのだと思ったかも知れない。


3人の顔が苦々しい表情を浮かべていなければ…


「…」

「…」

「…」


誰も何も話さなかった。もちろん見張りの仕事を考えれば、無駄話に華を咲かせるよりはタンタンと周囲を警戒している方が良い。それでも、眠気ざましや退屈しのぎに一言二言の話があっても良いのだが。

誰も、何も話さなかった。


リオンはそんな3人から少し離れた場所で、樹に背をあずけて座って居た。


沈黙の中で苦痛を浮かべる3人が動き出すのを待ちながら。


「…」

「…」

「…」



「…ぁ」


1人が小さな音を出す。

長い沈黙の中で使い方を忘れた喉を無理矢理使おうとして失敗したような、そんな掠れた音だった。


残りの2人は何も聞こえなかったかのように、先程までと同様にピクリとも動かない。


「…」

「…」


音を出そうとしていたのは3人の中で一番年少のジャムだった。

声が上手く出せなかった事の恥ずかしさや、今から言い出そうとしている事が、他の2人に上手く伝わらないかも知れない不安で、再度声を出すのに躊躇いが出ていた。


「…」


それでも、この重たい空気が耐えられず、ジャムはもう一度発声を試みる。


「…ねぇ」


この一言。

近くにいる人間に呼び掛ける為のたった一言。

この一声を出す為だけに、見張り番についてから優に1時間以上の刻を有した。


「…」


2人は沈黙を貫きながら、顔だけ挙げてジャムに応えた。何のようだ? と語っているような、鬱陶しそうに見ているような、そんな表情だった。


「…ごめん」


2人の顔を見たジャムは諦めて俯く。2人は特に何も言うことなく、また沈黙へと戻る。


沈黙の中、ホッブズとステフが時折眉を顰めて苦悶の表情を浮かべる。ジャムが何度か顔を挙げ、何かを言おうとして、諦めたように俯く。

そんなことを繰り返しながら、また時が過ぎていく。


そうしてまた1時間が過ぎた頃、ポツリと沈黙を破る言葉があった。

何度も挫折して、もはや言葉を出すことを諦めていたジャムは驚いたように声の主を見る。


「…あのよ…寝れた、か?」


ホッブズだった。

そよ風に揺らぐ焚き火の炎を見つめながら、2人のどちらに問いかけているという風でもなく、ただポツリと呟いた。


ジャムは、これはステフへの問いなのだろうと考えた。ホッブズが自分に話しかけてくる時は、こんな風に躊躇いがちに言葉を話すことなどないからだ。だからジャムはステフの反応を見た。


炎が作る影の中でどんな表情をしているかまではわからなかったが、なかなかステフから返答の言葉が出て来ずにジャムはヤキモキする。いっそ、自分が応えてしまおうか、そう考え始めた頃ステフがやっと言葉を紡いだ。


「俺も、だ」


何が?

何が“俺も”なのだろうか、ジャムにはイマイチ理解が出来なかった。それでも、ホッブズには理解出来たようで、得心がいったように頷き、難しい顔をして話を続けた。


「何でだと思う」

「それがわかれば苦労しねぇよ」

「…まっ、そりゃそうだよな」


ジャムはその会話の中に入れなかった。

ジャムはもともと仲の良かった2人組を慕うようにして、このグループに入ったからだ。ジャムのわからないところで通じ合っている2人は、時折今回のようにジャムには理解出来ない会話を行うことがあった。


「…悔しい、よな」

「…あぁ」

「自分もっ! って…」

「そりゃ俺もだよ。それこそ何度もな」

「だよな」

「あぁ」


ジャムはただ聞いていた。何のことを言っているのか確信があるわけではない。でも、なんとなくわかる気がしていた。2人の会話から漂ってくる雰囲気が自分も感じていた感情に似ていたからだ。


「でも…さ」

「あぁ…そうだよな」


そういって2人は頷き合っていた。ジャムは2人の声に耳を傾けながら、2人を見ていた。

2人がジャムを見た。

だからジャムは言った。


「俺も今度こそは、戦いたい!」


おそらくはこれで合っている筈だ。これが2人の出した答えの筈だ。確信までは出来ていないが、ジャムは決意を胸に込めた瞳で言葉を出した。


「そうだな」

「あぁ、俺達も! だな」


合っていたようだ。2人は少し恥ずかし気な笑みを浮かべて、ジャムに頷いた。

ジャムは、本当の意味でこのグループの中に入れたような気がした。








リオンは見守っていた。


今日1日この3人組は、自ら戦闘に参加するということをしなかった。リオンやミオの陰に隠れながらモンスターの姿に恐怖を覚えていたからだ。もちろん、陰の中でも戦ってはいた。恐る恐る剣を振るい、自分達の手でモンスターを倒していた。しかし、それでも自分達から戦いにいくという“勇気”が湧いている姿が見られなかった。


だから、見守っていた。


この夜営中に“答え”を出してもらう為に。

明日の朝村に帰るか、まだ付いて来るかの答えを、だ。今回、3人の中で自然に話し合いが行われなければ、リオンからその話を振るつもりだったが、どうやら答えは出たようだ。


リオンとしては、3人組が村に帰っても良かった。今帰る選択をすれば、樹海の恐怖に呑まれて、酷くすれば2度と足を踏み入れることが出来ないかもしれない。それも有りだと思っていた。村でも畑仕事や比較的安全な海側での食料採取、やることは山程ある。全員が樹海に入ってモンスターと戦える必要はないと考えていたからだ。


しかし、次は戦う! と語っている3人組を見ていると…リオンは自然と口角が上がっていた。


「俺達も戦える」

「あぁ、実際何匹かは俺の手で倒したしね」

「ミオ姉ちゃんが弱らせた戦闘蜂を横から掠め取ったヤツの事か?」

「なっ!? 違う! それ以外にもちゃんと自分の力で倒したよ」


「あぁ、ジャムはちゃんと倒してたよ。3匹ぐらいだったかな?」

「もっと倒したよ!!」

「まぁ、俺は20匹は倒したけどな」

「えぇ! 凄い!」

「俺はステフよりも5匹は多く倒したぞ」

「えぇ! 凄い!」

「嘘つくなよ! 絶対俺の方が多かったぞ!」

「お前こそ嘘つくなよ!」


口では言い争っていても、その顔から迷いはなくなっていた。沈黙の中で浮かべていた表情は、焚き火の煙と一緒に飛んでいったようだ。

リオンは目を細めて3人を見守る。ハツラツとした元気さを惜しみなく発散させている3人を見守る。


けれども、リオンのその目が瞬間的に見開かれた。


「モンスターだよ」


リオンはそれだけを告げた。


今までその存在を忘れていたリオンの言葉に、3人組はキョトンとしたような表情を浮かべる。

だが、その言葉の意味を理解した後の行動は早かった。早過ぎる次の機会の到来にも負けず、むしろ熱くたぎった気持ちを冷ましてしまわないように、すぐに戦闘準備を整え出す。


素早く準備を整えた3人組は、樹海の闇の中からモンスターがいつ飛び出して来ても良いように身構えていた。


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