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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第4章 王都ローレンス
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大烏・前編

今日から新章です。

物語のテンポを上げていけるように頑張ります。

4つの人影が前人未到と呼ばれる樹海の中を進んでいる。樹海を住処とする巨大で力強く、あるいは身体は小さくとも凶悪なモンスター達はそんな4人に出会ってしまった事を後悔する。


「燃え尽きろ」


今もまた、6匹の大猿のモンスターが炎に包まれ、斬り捨てられ、矢に射抜かれて、その命に幕を閉じていた。怪力と素早さに長け、4匹以上の集団で連携して襲ってくる大猿のモンスターはヒト族からしてみればかなりの脅威なのだが、彼らには敵ではないようだった。


そんな4人は戦闘後の血生臭く、焦げた臭いに包まれて、今後の指針を話していた。


「今日はこの辺で休むか?」

「もう少し進まない? 雪が心配だわ」


そんな話合いだが、なかなか上手くまとまらないようで、ティムが休憩の準備を求めると、すかさずミオが反論していた。


「大体、これから冬が来るっていうのに旅に出ようとするのがおかしいのよ。冬を越してからの方が絶対に安全だったのに」


最近の樹海は一気に気温が下がって来ていた。これは、冬の到来を意味しており、もう間もなく風の樹海を雪が埋め尽くす事を意味している。

ミオもこの旅の日程には同意していた筈なのだが、いざ旅に出てみると例年よりも早めの寒波がその身を凍てつかせ、旅路も予定より遅くれている為、度々不満を募らせるようになっているのだ。


コムル村から盛大に見送られて、もう3週間程が経つ。彼らは樹海を抜ける為に東に真っ直ぐ進んでいたが、途中で毒を噴出させる沼地地帯に遭遇し、直進が困難だと気付かされたのだ。本来ならもう樹海の半分は踏破していなければならない日程だったが、迂回を余儀なくされた為、まだそれも終わっていない。


ティムとリオンは目を交わし、下ろした荷物を再度背負い直すと、何も言わずに歩き始めた。


「何であんな所に毒の沼地があるのよ! それぐらい知らなかったの?」


ティム達が渋々ながらも言う通りに行動した為、ミオの不満はセキに向けられる。セキはこの中で唯一外界から樹海を踏破してコムル村に辿り着いた者である。その為、外界までの道案内を兼ねているのだ。


「私はオニール渓谷を通って来たのだから、この辺りの事を知っているわけが無いだろう。だから、少し遠回りでも渓谷に向かってから東に行った方が良いと申告したのだ。それなのに、直線が1番早いと譲らなかったのは、ティムだろうが」

「おいおい、ミオもそれに納得してたじゃねぇかよ。それに俺だってあんな所に毒の沼地があるなんて知らねぇよ。俺達は行った事がない土地だったんだからよ。良いから渓谷を目指して歩こうぜ。いちいち腹立ててたら体力の無駄だ」

「…ふんっ」


白羽の矢が立てられたティムは、さもお前の責任だというように睨み付けてくるミオにすかさず反論した。ミオは誰に責任があるのかと追及したそうにキツく細められた目を彷徨わせたが、長旅で疲れていたのかそこで口を閉ざす。


結局、4人はトボトボと毒の沼地を迂回して、確実に抜けられる渓谷を目指している。

だが、迂回路による遅延が生じた。食料は基本的に現地調達である為、然程問題は無いのだが、迫り来る冬の気配が4人に焦りを生じさせていたのだった。

誰も、ただでさえ歩きにくい樹海の中を、雪に足を取られてれ進みたくないのだ。


その日、太陽が沈んでも歩き続けた4人は、やっと渓谷に辿り着いていた。夜の限られた視界の中、歩き続けた4人はすっかり疲れ切っていた。今度はミオから反対の声が上がる事もなく、野営の準備に取り掛かる。

疲れで声も出せない4人は黙々と野営の準備に取り掛かり、自分の見張り番が来るまで眠りにつく。


「みんなは元気かな」


見張り番が回ってきたリオンは、渓谷からの風に揺らされる焚き火を見つめて、コムル村を思い出していた。これまでも、1カ月やそれ以上の期間を樹海の中で過ごす時はよくあった。しかし、それは帰ろうと思えばいつでも帰れるような状況だ。白服に復讐を果たすまでは戻らないと決めた今、いつ帰れるのか分からない不安が、リオンに故郷を思い起こさせる。


リオンは新しい小剣をそっと鞘から取り出した。炎の揺らめきを反射して煌めく、変に手に馴染むその小剣をジッと見つめていた。


「父さん…僕は父さんの事を許す気はないよ。でも、この小剣は有難く使わせてもらいます」


夜の帳に隠れて、小剣に向かったリオンはそっと目礼していた。



ーーー


リオン達が旅の疲れを癒していた頃、巨大な蛇が毒の沼地地帯を這いずり進んでいた。


沼が噴出している毒の所為で、この辺りに大樹が育つ事はない。そのため、鬱蒼と大樹が繁る樹海の中で、広範囲に渡って見渡せる場所はこの沼地ぐらいだろう。


遮るもののないそんな沼地を大蛇は我が物顔で進んでいく。ここは大蛇の巣のようだ。沼地地帯にポツポツと存在する毒溜まりを通り過ぎる度、毒沼の中から親の帰還を喜ぶ小さな蛇が顔を出していた。

対敵の進入を許さないこの土地で、大蛇達は悠々自適に生きていた。


「ご苦労だった。お前はもう自由にしていろ」


毒の沼地地帯を通り過ぎると、大蛇の背中から1つの人影が飛び降りる。安全な地面に降り立った人影は、左腕に身に付けた金の腕輪に魔力を通し、自身を包んでいた防護の魔法を解除する。そして、大蛇に向かって右手に持った黒い杖を振る。

大蛇はヒト影に深々と頭を下げて、子ども達の待つ巣へと戻って行くのだった。


そんな大蛇の背中を見送った人影は、先程見て来た光景を思い出して渋い表情で呻る。


「ゴブリンキングを討った者は何者だ? 誰があの転移陣を破壊した?」


その声はしわがれた男の声だった。その顔には怒りの感情が見て取れる。自分の計画が壊され、隠せない憤りを発していた。


「…何にせよ、これでジャックの封石はアテに出来んようになった。この大陸では、まだ火竜が生きているというのに…」


何千年の刻を超え、自らが求めるマジックアイテムを探し続けている男はまた計画の遅延が生じた事に溜め息を吐き出す。黒い杖を握る右手からは、ギシギシと杖が軋む音が聞こえてくる。


「せめて研究所の場所さえ……ふん、まぁ良い。ここ数百年が予定通りに進み過ぎていただけだ。時間だけはある」


男は、自分の言葉で若干の落ち着きを取り戻したようだった。雲の切れ間から漏れた月明かりが男を照らす。


左腕に煌めく金色の腕輪が月明かりを反射して、男の身に付けている白い服を煌めかせていた。身に付けた純白の服とは対照的な黒い杖を持った男は、その顔に年齢を感じさせるシワを刻み込んでいる。しかし、シワしか見えないような見た目とは違い、東に進むその足は健脚だった。黒い杖を頼りにする事もなく、若々しさすら感じさせる足取りで男は進む。


「ゆっくりと力を養えば良い」


雲が月を隠すと、男の姿は見えなくなった。樹海の中を進んで行く音だけが、男の歩みを教えてくれる。

男は自分の目的の為に、また、進んで行くのだろう。どれだけの年月を要しようとも、男には関係ないのだから。



ーーー


王都ローレンスを目指すティム達は渓谷に沿って東に進む。その足取りは軽く、先日までの重苦しい雰囲気はない。


それは、塩気を含んだ風を樹海の植物が嫌う為、渓谷沿いに歩きやすい道幅があるおかげだろう。藪の中を切り進んで行く行程とは段違いに旅程が稼げているのだ。この分だと遅延していた予定分も取り戻せるかも知れない。


「あれは何かしら?」

「あん?」

「…鳥だね」


数日の間、軽快に進んで旅程を稼いでいた一行はある日、1羽の鳥の姿を見つけて足を止める。


「デカ過ぎだろ?」

「セキ?」


それが普通の鳥ならば、その姿に囚われる事もなく旅が続くのだが、その鳥は大き過ぎた。まだ遥かな前方に居るというのに、4人がハッキリと鳥だと分かる大きさなのだ。それはティム達が未だ見ぬモンスターの姿で違いなかった。


「初めて見る。師匠とこの渓谷を歩いた時には合わなかったな」

「分かんねぇのか」


渓谷を旅して来たセキならば何か知っているかも知れないと意見を求めても、セキも合った事がないという。


「見た事はないが、奴が何者なのかは知っている。アイツは大烏と呼ばれているカラス型のモンスターだ。神探しの勇者達が随分と襲われていると聞いている。勇者達が身に付ける煌びやかな金属製の武具を好んでいるらしく。それらを身に付けた者を襲い、巣に持ち帰るらしい」

「なら、私達には見向きもしないでしょう?」


自分達が身に付けている革製の装備を見たミオは興味も無さそうにそう言った。


ティム達の武具は、急所には金属も打ち付けられているが、基本的にモンスターの獣皮を元にした革製品だ。何かに当たるたびに金属音を奏でる金属鎧はモンスターに囲まれた樹海の中での生活には向かない。長期間、歩き回り、動き回るにも、重い金属鎧よりも革製鎧の方が向いているのだ。


「神探しの勇者ってのはバカなんだな」


だから、それを実感しているティムがそう思うのも無理はなかった。


「そうとも言えんな。樹海のモンスターはヒト族が抗うには強力過ぎる。少しでも命を大事にしたいなら、金属鎧を選ぶのも自然な事だ」

「ふ〜ん、そんなもんか?」

「そうだ」


樹海のモンスターの異常さは、幸運にも逃げ帰れた勇者達や、たまに樹海の外に出て来るモンスターから知れ渡っていた。そんな噂を知っているセキも自分が魔術師でなければ、迷わず金属鎧を選んだだろう。むしろ、偶に外に出て来るモンスターが樹海の中では表層部分のモンスターであり、弱い部類に入ると知っていれば樹海に入る事を諦めたかも知れない。


革製鎧で樹海を駆け回るティム達が異常なのだ。ティム達も、外界のモンスターよりも樹海のモンスターが強いとセキから聞いていたが、外界を知らぬティム達にその辺りの常識に欠けているのは変わらない。


セキは、自分達の強さも知らぬ生活しかできなかったティム達を不憫に感じていた。


「まっ、とりあえずカラスと戦う準備だけはしとけ。こっちも武器は金物だし、アイツの近くを素通り出来るとは思えねぇからな」

「そうね」

「戦うつもりなのか!? あの大烏は戦えば死ぬと言われているようなモンスターなんだぞ?」


大烏を迂回して進むのだとばかり思っていたセキは、ティムの発言に目を見開いた。大烏がいかに危険か理解してもらうために、金属鎧すら切り裂く風の魔法の事を説明するが、ティム達は気にも留めない。


「魔法を使ってくるモンスターなんて珍しくもねぇ。冬が近いんだ。これ以上、迂回している時間はねぇし、俺達は元々強いモンスターと戦って更に強くなりたいんだよ。戦いたくないなら、俺達が通る頃には、あのカラスが飛び去って行くのを願っとくんだな」


自分は戦えるように願っておくとがな、と最後にティムは付け加えた。ミオもリオンもそんなティムに反対する様子は見せない。セキは諦めてティム達に付いて行く事しか出来なかった。


セキはティム達を不憫だと思っていた自分を心の中で訂正する。異常なティム達について来てしまった自分が1番不憫なのだと理解したのだった。



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