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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第3章 脈動
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やっとだな


ティムは自分がまた瘴気に身体の自由を奪われたと感じた。自分の身体が意思とは無関係に動き出すのを見ていることしか出来ない嫌な感覚だ。また自分の不甲斐なさに打ちひしがれていた。


だが、顔を上げれば笑っているリオンが見えた。この状況をずっと待っていたかのように、リオンが笑っているのだ。


ティムは何だか嬉しくなった。

瘴気に動かされる身体は、自分の意思に反して動くかも知れないが、それでもその身体はティムのモノであった。それは、この身体が成した事の責任がティムにあると言われているようなモノでだ。そこに意思の介在の有無は関係ない。


それをリオンは待ち望んでいたのだ、その笑顔はティムの暴走を止められると言っているのだ。


「グルァァァ」


ティムが奇声を上げてリオンに突っ込んでいった。その大剣にも瘴気がまとわりついている。振り上げられた大剣がリオンに向かって振り下ろされた。


「少し早くなったね」


リオンはそんな言葉と共に大剣を避ける。目標を逃した大剣は地面にぶつかり小さなクレーターを作った。リオンの額に浮かぶ冷や汗を見れば、言葉通りの余裕など無いように思える。なのにリオンは笑顔を崩さずに、話しかけて来た。


「ティム、それで全力なの?」


その言葉は安い挑発であり、リオンの見栄だった。しかしその言葉を聞いたティムは、まだ見栄を張れるリオンに対して喜びを感じる。そんなティム自身とは裏腹に、ティムの身体は憤りを覚えたのか、咆哮を上げた。同時に繰り出される大剣による連撃。

大剣のような重量がある広範囲武器での連撃は、一撃一撃が即死の危険性を孕んでいるだけに、リオンにとってはかなりの脅威に映るだろう。同時に連撃の為に酷使されるティムの身体は悲鳴を上げることだろう。


「ここで死ぬつもり? やっと本気になったんだね」


大きく距離を取ってそれを躱したリオンが挑発を繰り返して笑う。

大剣を振り回す遠心力を抑える為に、ティムの身体がギシギシと鳴っていた。こんな戦闘方法はその場限りの戦闘でしか使えない。先を考える者は戦闘後の余力を残しておかなければならない。今のティムは本当に本気になったとリオンは感じた。


「でも、当たらないなら意味無いよ」


リオンは大剣の嵐を掻い潜り、ティムに接近すると、全体重を乗せた拳でこめかみを殴り付けた。


大剣でどれだけ連撃を重ねようとしても、小剣のように細かく動かすことは出来ない。それをする為には大剣は重く、大き過ぎるのだ。

正気のティムのようにニ撃目を想定しつつ降るのであればまた違うのだろうが、正気のティムですら、連撃の最高回数は3回程度である。それ以上を重ねても、大剣の重量に耐え切れず、隙が大きくなるのだ。


こめかみを思いっきり殴られてもティムは足を縺れさせるだけで耐えた。そこにリオンが追撃の連打を放つ。一撃一撃の重みは大剣に及ぶべくもないが、それは今に始まった事ではない。力で劣るリオンは手数で勝負するいかないのだ。しかし、塵も積もれば山となる、最後に放った蹴りにティムが耐え切れず地面に転がった。


「…これぐらいかな」


更に止めを加えて動きを止めようとしたリオンだが、吹き飛んだティムがすぐさま立ったのを見て距離を取り直した。

今の手負いの獣のようなティムを相手に深追いするのは危険だと感じた。


「グルァァァ!!!」


リオンの行動が正解だとでも言うようにティムが吼える。


「タフだね、長引かせたくは…ないな」


リオンは肩で息をしながら、呟いた。


今のティムには、隙が大きい。だから大剣を掻い潜って近づく事も出来る。出来るのだが、即死の可能性を秘めた大剣の乱舞を掻い潜る為には、異常な程の精神力が必要だった。震える心を押さえ付けて嵐の中に入らなければならないのだから。


長引かせれば、こちらが死ぬかも知れない。

でもティムを死なせたくないリオンは、当て身ぐらいしか攻撃方法がない。

「八方ふさがりかな…」ティムより強いと言い切ったくせに、ティムを抑える手段が見つからない。リオンがそんな事を考えていた時、歌が聞こえた。凛と響きわたるミオの歌声だ。


「ガァ! ガァァァァア!!」


ティムの苦しそうな悲鳴と同時に、まとっている瘴気が揺らめきだした。敵対しているリオンが目の前に居るにも関わらず、ティムは頭を抱えて苦しんでいた。


自分の身体が苦しそうにのたうち回っているのを見ていたティムは、目に涙を溜めていた。


リオンだけじゃなかった。ミオも自分が暴走した時の対応を準備してくれていたのだと知ったティムは嬉しくて嬉しくて、目に涙が溜まっていくのを感じていた。


ティムが仲間に支えられている喜びを噛み締めていると、のたうつ身体にリオンが近付いていくのが見えた。リオンは軽々とティムの身体に取り付いて、首を絞めていた。歌と同時に攻められて、ティムの身体は余計に苦しそうに暴れていたが、リオンは絞めている首を離そうとはしなかった。1分も経たずにティムの身体は堕ちた。酸素が身体に回らなくなったようだ。


その様子を他人事のように見る事しか出来なかったティムの意識も、同時に堕ちていった。




ーーー


目が覚めたティムは、背中に冷たい植物の感触を感じた。まだ野外に居るのだと気付いたティムは、夢現つの中から、一気に五感を覚醒させる。すると、美味しそうな香りが鼻腔を突いた。


上体を起こしたティムは、周囲の状況を眺める。気を失った自分の身体が冷えないようにする為か、ただ単に食事の準備をする為か、すぐそばに焚き火が焚かれていた。その爆ぜる火の上でリオンが簡単な夜食を作っている。


「おい、ティムが起きたぞ」

「おはようティム、身体は大丈夫?」

「夜まで寝てたんだから、大丈夫でしょ? 私の魔法も効いてるわよね?」


ティムに気付いた面々の目がティムを心配そうに見つめていた。


「あぁ、大丈夫だ」


すっかり起き上がり地面に座したティムの前に、干し肉入りのスープが置かれる。ティムはそれをゆっくりと食べ始めた。


ミオはまた暴れ出すのではないかという勢いで、ティムの食事風景をジッと見つめていた。ミオはまだティムが完全に大丈夫なのだと確信出来ていなかったのだ。

匙を口に運び、スープに入れられた具材をゆっくり咀嚼しているティムを見て、やっとミオも安心したように自分のスープを食べ始める。


「さてと、それじゃ話を戻すけど…」


全員が食事を終えたのを見計らい、リオンが話し出す。何のことかと首を傾げていたミオ達は、続く言葉で余計に首を傾げた。


「旅立ちは3日後にしようよ」

「そんなに急がなくちゃいけないの?」


旅立ちの日程、確かにティムが暴れる前にはその話をしていた筈だ。そう思ったミオだが、何故3日後と言い出したのかが分からなかった。


「ミオが考えてくれたみたいに、特別な意味は無いんだけどね」


リオンの事だから何か特別な理由があるのではないかと思い尋ねてみたが、意味は無いようだ。余計にミオは首を傾げていた。ただ、ティムはそんなリオンの言葉に頷いて、それで良いと言っていた。


「ティムの不安はなくなったよね?」

「あぁ、もちろんだ」

「なら、いつまでも先延ばしにしていても意味なんて無いよ。迷った時は動き出す。それがティムの生き方でしょ? 動く前に考え抜くのはティムらしく無い。それは僕のやり方だよ」

「旅に出るんだ、なら早い方が良いさ」


理解出来なさそうなミオに向かってリオンとティムが説明してくれた。ミオは2人の想いを理解して、確かにそれが良いお思えた。


ただ3人の話を聞いていただけのセキには、その決定にティムへの優しさが含まれている事など分からなかっただろう。それでも、3人にはそれだけで充分だった。

そして、その理由が分からなくても、旅立ちが決まり、最初の目的地が王都ローレンスであるならば、セキにもそれで充分だった。


「じゃ、3日後だな」

「私もそれで良いぞ」

「ええ」

「うん」


ティム達は旅立つ事になった。


「…やっとだな」


ティムはやっと、復讐を誓った相手を捜す事が出来るのだった。



次回からやっと樹海の外へと旅立ちます。


今回の題は作者の想いであり、こんな駄文に溢れた小説を読み続け下さる心優しい読者の皆様の想いでもあると思います。


描くのが下手くそで、読み苦しい話ばかりで、本当に申し訳ございません。


これからも、温かい気持ちで変わらず読み続けて頂ければ幸いです。

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