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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第3章 脈動
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追放



魔術書に書かれた内容を聞いてから、また数日が過ぎた。

そろそろ、ティム達の旅立ちの日が付いて来ている。

コムル村の誰もがそう感じていた。


ティム達3人が話し合ってその日を決めた訳ではない。当事者の3人ですら、いつ旅立つのか具体的な日程など知らないのだ。それは、3人が3人ともこの住み慣れた村から離れることに小さな抵抗を抱いている為だろう。


それでも、その日が近いことは当事者達が一番理解している。フモール達も強くなりティム達がいなくてもある程度の安全が確保出来るようになった。より幼い子ども達も成長して、ハンスやミレーヌを手伝えるようにもなった。一番のネックだったティム達自身の強さも磨かれていた。特にティムは、ゴブリンキングを撃破出来る程に強く成ったのだ。


最初に動いたのはリオンだった。リオンは、それまでの訓練の合間を縫って、単身で樹海に潜り保存食の確保に勤しんだ。

次に動いたのはミオだった。当分の間、必要となる回復薬を村に残して置く分も含めて調合していた。

そんな2人を見ていたティムは、旅立ちを急かされているような気持ちを抱いた。


しかし、ティムにはまだ不安が残る。


魔力の量が増えれば、魔力切れによる気絶はなくなる。そう聞いていたティムは、安心してゴメスラッシュの訓練に戻った。だが未だ、まともにゴメスラッシュを使えた事がなかった。未だに女の声が頭に響くし、気絶もする。この克服方法がわからなかった。


それなのに、リオンもミオも旅の準備を進めていく。こうなるとティムも準備をせざるを得なかった。不安な気持ちだけを置き去りにして動く他なかった。

ティムはこのパーティーのリーダーだから。


旅立ちの日が決まる前に、何としてでもゴメスラッシュを使えるようになってやる。そんな思いで身体を酷使する事しか出来なかった。


ーーー


「帰って来たか、お前もちょっと来てくれないか」


いつもと同様にボロボロになったティムが帰って来ると、セキが待っていた。もう他の皆は寝静まった時間だ。いつもなら、セキも寝ているような時間なのに、わざわざ帰りを待っているとは、何の用だろうか。


冷めた夕飯を急かされて食べたティムは、ミオの部屋に連れて来られる。ミオが異性を意識し始めてからは立ち寄る事が許されなくなった神秘の部屋だ。


ミオの部屋の前まで連れて来られ、何か変な緊張感が芽生えるティムだが、セキはそんなティムを無視して不用意に扉を開く。ティムがミオの許可は得ているのだろうかと、恐る恐る後に続くと、そこには既にリオンとミオの姿があった。自分以外の異性の姿を確認したティムは、これが同意の上での滞在である事を理解する。と同時に、緊張で強張っていた身体から力が抜けていくのを感じた。


「遅かったわね」

「すまないな、ティムが腹が減っているままでは気の毒だったからな」

「まぁそうね。いいわ、適当に掛けて」

「あぁ」


ティムは腰掛ける場所を探そうと部屋をキョロキョロとするが、久しぶりに入った部屋の中だからか、綺麗に整頓された机や、ゴミで溢れたゴミ箱、黄緑色に染色されたクッションなど、部屋の様子の方が気になってしまう。その中でも一際目立っていたのは、自分の部屋には無いような観葉植物。部屋の中にでも置けるような、子どもぐらいの背丈の植物だ。

だが観葉…なのだろうか?

その植物の隣にはすり鉢が置いてあり、その中にはすり潰されている植物があった。もしかしたら薬か何かの素材になる植物なのかも知れない。その辺りはミオやリオンに任せっきりでほとんど知らない。知っている植物といえば、回復薬の原料となり、それ自体を食べても回復効果のある癒し草ぐらいだ。


「何見てるのよ? ナギの木なんて珍しくも無いでしょう、早く座りなさいよ」


苛立ったようにミオが急かす。

確かにティムは植物などに興味が無い。そんなのに気を取られて、ミオの怒りを買っては疲れた身体に鞭打つものだと、ティムは大人しくその場に座った。


「さて、まずは夜更けに集まってもらってありがとう。それでーー」

「待ちなさい。ティムはまだボロボロじゃない。まともに回復薬も飲んでなかったんでしょ? コレを飲んどきなさいよ」


全員が座に付き、セキがさっそく目的の話を語ろうとすると、ミオが話を遮ってティムに回復薬を手渡した。ティムは迷わずそれを飲み干し、礼を伝える。そんな相槌のような礼には取り合わず、ミオはティムの顔色を伺う。そして、体力を回復させた事を認めてやっとセキに続きを促した。


「それで話なのだが、お前達…ティム達に頼みたい事があって呼んだのだ」

「わざわざ夜中に? お願いなんて、いつでも良いじゃない」


ティムはミオの言葉に頷いていた。ティム達が各自で旅の準備をしているとは言っても、全く顔を合わせられないほど忙しなく行動しているわけでは無いのだ。それでなくとも、ティム以外は昼食になれば集まるのだから。わざわざ深夜に3人を一堂に集めて頼み事をする理由が分からない。


「…師匠には、聞かれたくなかったのだ。それに、3人共に一緒に話した方が何かと都合が良いからな」

「ふ〜ん、まっ何でも良いわ。じゃぁ早く話しなさい」

「あぁーー」


結局、内容を聞かなければセキの本意など分からないと感じたのだろう。ミオに促されたセキは重苦しそうに口を開き始めた。


セキがまず語り始めたのは、アルバートと自分が旅を始めた理由だった。というよりも、セキは旅の途中でアルバートに拾われた為、アルバートが旅を始めた理由が主だ。


「つまり師匠は遺された文献や、文献とも言えないぐらいに痛んだ紙片から失われた歴史を読み解くことを生業としていた。その知識や魔術師としての才を買われて王都の魔術学院で教鞭も取っていたそうだが、本来は歴史家であったそうだ」


セキの口から語られる身の上話に、ミオは眠たそうな欠伸をしていた。ティムは既に飽きたように床に寝転がり、いつ眠っても可笑しくないような体勢でいた。


「そうやって師匠はいくつもの文献の中に共通の敵の存在を見つける。そう、魔術全盛期の古代には世界共通の敵がいたのだ。それが魔族だ。これは他の歴史家達も共通の認識でありーー」


長い話が続く。最初はアルバートの身の上話だったが、今はアルバートの研究方法やその成果、他の歴史家達との認識の違いの話にまで発展していた。


「他の歴史家達は、この古代文明の崩壊をもたらした厄災、あるいは攻撃を魔族、あるいは魔神の仕業と結論付けた。こうやって古代の文献に記された邪神という存在が魔神だと認識されるようになったのだ」


ついには、真面目に話を聞いていたリオンまで、片手間にローザを弄び始める。真夜中の眠気に負けたローザは突き出されたリオンの指と夢の中で戦っているのだろう、寝息を立てながら手足をジタバタと動かしてリオンの指に対抗している。


「しかし、師匠はその説を受け入れられなかった。文献の中から魔族の存在が唐突に消え去った時期と古代文明が滅びた時期がズレていると感じたのだ。それに、古代文明を滅ぼしたのが魔族や魔神であるなら、そんな存在が今の時代に存在していない事が説明できないのだ。この疑問に頭を抱える歴史家達も多かったが、古代の高度な魔術文明を滅ぼしたのが共通の敵である魔族であるという結論は皆揺るぎなかった」


この中で一番可哀想なのはティムだろうか。ティムが寝息を立てるたび、ミオの拳が振り下ろされた。疲れた身体で、興味の無い長話を聞かされても寝ることは許されないようだ。


「現実は小説より奇なり。まさにその言葉通りの何かが古代にあったはずだ。師匠はそう考えて文献を読み漁った。そして、一節の文章を見つけたのだ。ボロボロに引き裂かれ、判読出来る文字も一文しか残っていないような紙片に信憑性は認め難いが、師匠はその言葉に一縷の光を見た。その一文には『もう慈愛神を崇める者はいない』と書かれていたのだ。もちろんこんな言葉は前後の文章によって如何様にも意味が変わる。だが、師匠はこれこそが真実なのだと確信したのだ」

「長げぇよ! 結局何が言いたいんだ? さっさと頼み事ってのを言えよ!」


ティムはついに堪え切れなくなる。良い加減眠いのに、それを許してもらえない環境を早く抜け出したくて必死のようだった。


「ティム! セキがアルバートさんの事をどれだけ慕っているか分かってるでしょ!? セキにとってはとても大切な話なんだから、それぐらい待ってあげなさいよ!」


しかしミオはそんなティムの行動をたしなめる。ティムを寝かさないように苦心していたミオも、セキの話は殆ど聴いてない筈なのに、ティムだけが怒られてしまった。ティムはそれが納得出来ずに不貞腐れる。態度だけは改めたように取り繕いつつ、早く話を終わらせろと、目だけでセキに訴える。

それはセキに正しく伝わったようだった。


「すまないもう話は終わる。つまり、当時の師匠は確たる証拠がないままで、慈愛神が邪神ではないかという説を思い浮かべてしまったのだ。それだけならまだ良いが、その説を世に出してしまったのだ」


セキは苦しそうな顔で最後の言葉を告げる。そしてその目から涙を流し始めた。ミオもつられて涙を流した。そしてセキをギュッと抱きしめる。慰めるように優しく抱きしめ、一緒に泣いた。


「だから何なんだよ?」

「ティム!! アンタってホントに女心が分からないのね!!」


そんな空気を読まないティムの発言にミオが怒る。ティムにしてみれば、何も結論に至っていないのだから当然の反応なのにだ。だから2人はいつも通り、啀み始めるのだ。


「何だよ!? じゃぁミオはセキの頼み事が分かったのか?」

「もちろんよ! そんな辛い人生を歩んで来たアルバートさんといつまでも一緒に、このコムル村で安らかに過ごしたいって事よ! そうでしょ? 大丈夫、2人共、ちゃんとこの村に受け入れられているから、いつまでも居てくれて良いのよ。もちろん、母さんやハンスさんには、私からも重々お願いしておくからね」

「何だ…そんな事か」

「そんな事って何よっ! だからアンタは鈍感だって言うのよ!」

「そんな事だよ! それなら、俺達じゃなくてハンスさんに直接言えば良いだろうが」

「それを直接言えたら苦労しないわよ! セキが心を許せるのは、私達しか居ないことぐらい察せられないの!?」

「分かる訳がねぇ!」

「この鈍感!」

「うるせぇ、このチビ! …、貧乳!!」

「ひっひっ、貧乳ですって!!!?」


2人の啀み合いの中で、ミオの胸板に押し付けられたセキがゴモゴモと何かを言っている。しかし、ティム達の声に負けてその言葉は誰にも聞き取れなかった。リオンですら、何かを言っているということしか分からなかったのだ。

そして、そんなセキの様子に唯一気付いていたリオンがティム達を諌める。


「セキの話は終わってないよ? 2人共、ヒトの話は最後まで聞こうね?」


何度も言ってるでしょ? そんなリオンの言葉でティムもミオも瞬時に押し黙った。どうやら過去に何かがあったらしい。ミオも、ティムすらも粛々とリオンに頭を下げ、沈黙を貫いた。一瞬にして重苦しい空気になったミオの部屋に、ローザの寝息だけが響いていた。


「プハァッ!」


ミオの胸板から解放されたセキが大きく息を吸う。そして、ティムとミオを睨め付け…諦めたように溜息を吐いた。


「私の頼み事というのは、3人の旅に私も連れて行って欲しいということだ」


セキの言葉でティムがニヤける。そんなニヤ顔を向けられたミオは、そんな筈は無いとばかりにセキを見やった。


「ミオの言うこともある意味正しい。師匠には、このコムル村に留まり安寧な生活を送って欲しいのだ。そちらは、ハンスさん方にもう話してある」


ほら見ろ! ミオの目は雄弁に語っていた。しかしティムも負けていない、半分しか当たってないじゃないかと、ミオに抗議していた。そんな抗議はすぐにリオンの目線で消されてしまっうのだが。


アルバートが発表した説は、もちろん慈愛神教会から強い反発を受けた。そんな軋轢を避ける為、また信憑性の薄い紙切れしかなかった為、魔術学院もアルバートを庇い切れなかった。むしろ、進んでアルバートを学院から追放したのだ。アルバートは教会から異端であると断じられ、自死、あるいは国外追放のどちらかを選べと迫られた。当時の王都は、国教として擁護している慈愛神教の言いなりだったそうだ。

アルバートは国外追放を受け入れ、さらなる証拠を求めて遺跡探索の旅を始めたのだった。


「だから、今回手に入れたこの魔術書があれば、師匠の名誉が護れるかも知れないのだ。改めて頼む、白服の男とやらを捜す片手間で良い、私を王都ローレンスへ連れて行ってくれないか? もちろんその間も、その後も、私もティム達の復讐を手伝う。だから、頼む!!」


セキは深々と頭を下げて願いを告げた。ティムとミオも、その姿の前でまでくだらない争いを続ける事は出来ず、自らの師匠の為に真摯な想いを懇願するセキを見つめる。


「良いぜ、白服の男が何処にいるのか何て分からねぇんだ。まずは王都に向かうってのも別に構わねぇ」

「私達は森の中しか知らないからね、外地を旅慣れたセキが付いて来てくれるなら心強いわ」


2人の快い返事、見るとリオンも静かに頷いていた。それまで緊張感が漂っていたセキの顔が崩れていった。セキは今日初めての笑顔を浮かべる。そんなセキの瞳はやけに潤んでいた。



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