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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第3章 脈動
42/49

歴史の欠片・後編

今日は2話連続投稿しています。

この話は2話目です。


説明回です。

長いです。


『ラークが魔族と共にこの地を去ってから数十年の月日が流れた。天敵を排除し、ヒト族の天下となった世界でヒト族は私腹を肥やす。我らヒト族の飽きぬ欲望は際限なく膨れ上がり、ついにはバイアスの命を奪わせるに至った。それがエルダの怒りをかった。エルダは国々を破壊して周り、生き残ったヒト族は少ない。四大精霊の協力を得て猛るエルダを封印した時、世界からは多量のマナが消費された。マナを基礎とする私たちの文明は一度滅びることになるだろう。滅びゆく世界で、このバイアスの現身を封印することが私の最期の仕事となるだろう。


この書を読む者よ、過ちを繰り返してはいけない。過ぎた力は身を滅ぼす。私はただ、後世にもヒト族の世が栄え、末永く幸せが続く世界であることを切に願う。

封印術師 ジャック』


「良し、リオン説明してくれ!」


セキの朗読が終わった直後のティムの一言、どうやらティムの望んでいた英雄になる方法は分からなかったらしい。ところが、話を振られたリオンもティムの求めている答えなど分らない。困ったリオンはミオに振るがーー


「アンタは少し黙ってなさい」


それがミオの答えだった。

その一言でムスッと黙り込んだティムを見ながら、リオンは疑問を口にした。


「バイアスの現身ってなんだろう」


リオンが首を傾げると、肩の上でウトウトしていたローザが落ちそうになってバタついた。リオンはゆっくりと手を差し出して、肩の上に戻してやる。


「そう、そこなのだ! そこがこの文書を読み解く最初の糸口だった」


存外リオンの疑問は的を得ていたようで、セキは流石リオンだと言わんばかりに熱くなった。


「バイアスの現身というのは、おそらくローザのことなんじゃないかと思う」

「ローザ?」


セキが指差す先に皆の視線が集まるが、その当人であるローザはリオンの肩に戻れて安心したのか、またうつらうつらしていた。


「どうしてそうなるのよ?」

「そうだな、どう話せばいいのか困るのだが。歴史の探求の為には、この本で得た知識だけではなく、その他の時代の風潮や流れを頭に置きながら読み解いていかなければならないのは師匠の説明から理解したと思う。

そして、この本には何者かが、バイアスの命を奪ったと書いてあるのだが、別の文献によると、魔術文明が全盛期の時代、不老不死の秘薬を作ろうとしていたとあってな、そのために白銀竜の血が必要だと考えられているのだ。この魔術書と同じ遺跡に封印されていた真っ白なローザは、どう見ても、火竜や風竜、などのドラゴンではないからな。真っ白なドラゴンともなると、その名の通り白銀色に輝く鱗を持つ白銀竜しか歴史には出て来ないのだ」

「えっ? ローザってドラゴンだったの?」


リオンの驚きは、セキにもアルバートにも流された。どうやら魔術師師弟の中ではローザがドラゴンである事に疑いはないらしい。しかし、大切な相棒であるローザの種族を知る好機である。珍しく、狼狽したリオンがセキに食いついた。


「だから、ローザの身体的特徴を見れば分かるだろう? 今はまだ幼体の為か、ずんぐりむっくりとしているが、ドラゴンをそのまま小さくしたような見た目に長い竜尾、コウモリのような一対の竜翼、どこをどう見てもドラゴンではないか」

「そうなんですか?」


リオンはアルバートにも確認するが、アルバートは簡単に頷いた。リオンにとってはそんな身体的特徴は色んなモンスターにも見られると思っていたが、師弟にとってはそうではないらしい。アルバートの肯定を受けて、ローザがドラゴンだと知ったしたリオンは喜色に溢れた。成長すれば、どんなモンスターでもローザを襲う事が出来ないような程に強く成れるのを確信したからだ。ローザの安寧を願うリオンにとって、これ以上に喜ばしいことはない。


「ふーん。ところで不老不死の秘薬ってなんだ?」


リオンがらしからぬ興奮ではしゃぎ、ローザと戯れていると、まだまだ英雄になる方法が分からないティムは退屈そうに質問を投げかけた。


「肉体と精神を切り離し、神の様に死なない不死の生命体となる秘薬のことだ。まぁ、今の時代にそんな生命体が存在していないのだから、机上の空論で終わったのであろうがな」

「死なない為にドラゴンを殺す…そんなに大事な事なのかしら…」


セキの説明にミオが反応を見せる。ミオはチラリとティムやリオンに視線を向けていた。いずれ訪れる2つの別れ、それだけでも既に耐え難いというのに、永遠の命を手にした者はどれほどの別れを経験しなければならないのだろうか。ミオには想像すらしたくないことだった。


「まぁ、いつまでも生きることが出来るのであれば、終わりがないような魔術の探究や歴史の探求にも充分な時間を割くことが出来るのだがな。それが終わっても、死ぬことが出来ないのは辛いことなのかもしれないな」


セキに取っても不死というのはあまり魅力的なものではないようであった。それはアルバートの教えがしっかりと体に染み込んでいるからだろう。

「魔術師は世の理を捻じ曲げられるだけの力を持っている。しかしそれは世の為、人の為に用いるモノでなければならない。決して自身の欲望を満たすために用いてはならない。そうしなければ、自身がモンスターとなるだろう」

その言葉は幼いセキの心に焼き付いていた。


「じゃぁ、ラークって誰なんだ? 魔族と共に去ったとかあるが、そいつも魔族なのか」

「そう、それも重要なところなのだ」


そういって、セキはアルバートに目を配り、アルバートの許可を得ると話し始めた。


「まず、知っておいてもらいたいことなのだがーー」


セキ曰く、今の時代の常識では、文明が1度滅びたのは、魔族の神である魔神が行った蛮行とされている。そうして魔神はヒト族から恐れを持って邪神と呼ばれるようになったというのだ。また、慈愛神も邪神によって世界樹の麓に閉じ込められたとなっているのだ。


「世界樹の麓って死者が逝く場所だろ? そこは楽園なんじゃなかったのかよ?」


ティムは世界樹の麓が慈愛神の封印場所だというのが気に食わなかった。世界樹の麓といえば故人が肉体の死を迎えた後に訪れる安寧の地と呼ばれているからだ。


「まぁ、楽園だった。というのが一般的な認識だな。今では邪神の遣わしたモンスターによって支配されているなんて話もあるが、どれも推測の域を出てないうえに確かめようがないのだから、どうこういっても仕方がないことなのだ。私としては、世界樹の麓は故人が安らかに過ごすことの出来る安楽の地だと思っていたい」


「それで、話を元に戻すのだがラークは魔神、魔族の神であることはほぼ間違いない」

「魔神ねぇ…まぁ、でもどっかに去っちまったんだろ? 何が大事な事なんだよ?」

「ラークが魔神だと考えられる原因に問題があるのだ。本当に正しいのかが不確かなために、読み上げるのは避けたのだが、何度も読み返し、師匠と頭を悩ませてみて、やはりそうとしか思えなかった」


セキはそんな前置きを置いて、更に改まった様子で続きを語る。


「この本には、ラークが去っていったのはエルダと話し合った結果だと書いてあるのだ。話し合ったということは、ラークとエルダは同格の力を備えた存在であったということなのだ。そして、エルダはドラゴンの中の王と呼ばれていた白銀竜を殺すほどに繁栄したヒト族を滅ぼした存在なのだ。そんな存在など、3大神でしかあり得ない」


ここでセキが言う3大神とは、古代から失われた歴史すらも飛び越えて今に伝わる神話の話だった。前述された神も含めてーー


 妖精族の王、妖精王

 魔族の神、魔神

 ヒト族の神、慈愛神


今でも、この3柱の存在を3大神と呼び、市井の者は恐れ敬っている。そのいずれもが世界創造に最初から関わったとされる大神で、この世界の頂点なのだ。白銀竜や黒紫竜は神達の愛騎と言われており、3大神に次ぐ力を持っていたのだそうだ。


そして、妖精王は基本的にはヒトの世界に関わりをもたない。また、魔族と共に去った者が慈愛神である可能性は無いだろう。


「つまり、可逆的に考えた結果、エルダが慈愛神ということになるのだ」

「ちょっと待ってよ、それっておかしいんじゃないの?」

「ミオの言うとおりだ」

「ん? つまりどういうことだ?」

「ヒトを滅ぼしたのが慈愛神であるエルダってことになるんじゃないかな」

「ははは、そりゃ面白い冗談だ」


ティムは笑い飛ばす。当たり前だ。ヒト族の神である慈愛神がその手でヒト族を滅ぼすなどあってはならないことなのだから。


「そう、あり得ないことなのだ。今の常識で測ればだがな。しかしこの本が信頼出来るものであるならば、過去、人間を滅ぼしたのがエルダであり、慈愛神であるエルダが邪神だということになってしまうのだ」

「ん? んんんん??」


長く、難しい話しを何とか理解しようとしていたティムだが、今の話で完全に理解が追いつかなくなってしまう。この世界のヒトならば、敬愛する慈愛神を疑う事はしない。それを思えば、むしろティムの反応が正しいのだろう。


「セキは、今の常識が間違っているって言いたいんだね?」

「この本に書かれていることを考慮すれば、どうしてもそうなってしまうのだ。そもそも四大精霊が神の封印に助力するなんてことは、想像すらされたことはなかった。しかしこの本にはエルダを封印したのは四大精霊だとはっきりと書かれているのだ」

「いいや違うね。エルダが慈愛神だってことが、まず間違っているに違いねぇ。そいつはドラゴンじゃないのか黒紫竜とかいうドラゴンは魔神の愛騎なんだろ?」


何とか思考を取り戻したティムは、精一杯の反抗を試みる。もちろんセキもティムの想いは理解出来るし、そうあって欲しいとも思っている。


「確かに、今でもドラゴンは人間の街を襲い破壊する。今ある文献には書かれていないだけで、白銀竜以上の力を持ったドラゴンがいてもおかしくはないだろうが、その可能性の方が低いと思うぞ」

「何言ってんだ、ヒト族の神である慈愛神が邪神で、人間を滅ぼすってことの方があり得ねぇ話だろうが」

「しかし、この本を読み解けば、そうなってしまうのだから、しかたあるまい」


しかし、この魔術書の存在が慈愛神への盲目的な信仰を許さなかった。理論や歴史、引いては事実を重んじるセキと信仰を重んじるティム達一般の民…どちらも正しくあって欲しい。


 ミオとリオンも、ティムと同様に納得は出来てはいない。だが、話の内容を理解はしていた。2人とも、どちらの言い分が正しいのかと頭を捻るが、どちらも心底認める事は出来なかった。


「それで、これがわかったことで何かが変わるのかしら」


ミオは正しさの決断を先延ばしにする事にした。それを当時の時代に生きていなかった者達が語っても、水掛論にしか成り得ないからだ。


「それを皆さんにも考えて欲しかったのですよ」


これまでの説明をほとんどセキに一任していたアルバートが口を開く。ティム達3人を見つめて、この話をどう受け止めるのかと問うているのだ。


アルバートの真剣な瞳を前に考え込んだ3人。それに先んじるようにセキが自分の考えを唱え始めた。


「これは失われた歴史をつなぐ大事な書物だ。他にも様々な内容が描かれているから、その内容を他の信頼出来る文献と見比べ、考察し、この本の信頼性を確認せねばならない。そしてこの本が信頼に足るものであると証明されれば…」

「今の慈愛神教会での教えが、問われる事になります。それが私達が出した答えです」


邪神に閉じ込められた慈愛神を救うために躍起になりーー風の樹海も世界樹に続く道があるのでは無いかと考えられている場所の1つーー行動しているが、何も進展を見せない慈愛神教徒達。しかし、その思違いが証明され、四大精霊に封印された方法と、場所か解明されれば、慈愛神が復活するかもしれないのだ。


慈愛神であるだろうエルダが古代文明崩壊の原因であるならば、復活させるのが正しいのかどうかは、また別問題になってしまうが…。


そんな言葉を受けてーー


「俺は信じない。その本がイカれてるって事に賭けるね」


ティムは不貞腐れたように呟いた。


「私には分からないわよ。そんな話、大き過ぎるわ」


ミオは自身の身には重過ぎる議題だと断じた。


ほとんどの者は2人のどちらかの考えに成るだろう。それはアルバートにも予想出来たことだった。しかし、続くリオンの言葉に、セキもアルバートも目を丸くする事になる。


「僕は…結局、慈愛神様を捜すのは同じなんじゃ無いかな? その捜す道が違うっていう考え方があるなら、その両方を試してみるべきだと思うよ。だって無くした物って思わぬ処にあるのが常だから」

「いや、しかし!!」


セキは思わずリオンに反論しようとして、アルバートにも止められた。


「どちらが正しいのかなんて、慈愛神様を見つけてから聞いてみれば良いんじゃないかな?」

「ははは、流石リオンだ! 俺もリオンに賛成だな」

「全く…ティムは単純よね」


リオンの提案はティムにも分かりやすいものだった。自分達に分からないなら、本人にーー今回は神だがーー聞いてみればいいのだ。


「ふむ、確かにそうかも知れませんね。史実は事実にはなり得ませんし、年月を経れば事実すら、真実を含まなくなっているかも知れませんからね」


アルバートが語った言葉の真意は、セキにも理解出来なかった。ただ、実に興味深そうにティム達を見ていた事だけが、事実であった。


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