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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第3章 脈動
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親離れ



『酷似した魔力はそれ自体が互いに引き合う力を有し、一方のみの意思ではその流れを断ち切る事は出来ない。これまで、こういった事象の報告はないが、類似した事象として集団詠唱による他者との魔力の…』


夜も更け切った頃、ようやく慣れてきた自分の部屋の中でアルバートはそっと目を閉じていた。机の上には弟子の失敗に対して課したレポートが置かれている。


「セキはもうこんな自論を理論組み出来るようになったんだな…」


この課題は弟子の軽率な行動に対して課したものであった。その内容は師匠であるアルバートですら唸らせる。レポートの中では自身の経験論だけではなく、多角的な視点から様々な判断が描かれており、すでに確立されている魔術理論の例を挙げて、自論の正当性も説いていた。


アルバートは風の魔法を使い、そっとレポートを引き出しに戻して窓の外へと目を向ける。


「見守る事が親心、独りで進むが子の成長…か」


窓越しに望む夜空には、大小2つの月が浮かでいた。大きな月と小さな月は1年の間に距離を空け、また1年掛けて距離を縮める。今宵はその2つの月が1つに重なる夜であった。

アルバートは天文学者が語った伝説を思い出していた。


『自らの成長を望んだ小さな月は、大きな月から離れていく。だが、大きな月はまだ幼い月を独りで旅立たせる事が出来なかった。だから、また1年を掛けて小さな月を追い掛けるのだ』


「まだまだ子どもだと思っていたのに…私のワガママなのかも、な」


アルバートはまたそっと目を閉じる。

すると、瞼の裏にセキの姿が浮かんでくる。


ーー親の仇でも見るように私を睨んでいたのはいつの事だったろうか。出会った頃は、周囲全てを信用出来ずにアレコレと喧嘩を吹っ掛けていた。おかげで知人の孤児院にも預けられずに、危険な私の旅に着いて来ることになったんだったな。


ーー始めて私の魔法を見たセキは、英雄を見るような目で私を見てくれた。少しでも興味のあるものを増やそうと教えてみたが…それからは早かった。ドラゴンの跳躍のように高々と大空に飛び上がった。


ーー私の汚名を知った時には…ははは、まだ子どもだと思っていたのにな…そうか…そうなんだな…。


アルバートはそっと寝床へと向かった。落ち着かない想いを無理やり押さえ込むように、哀しみを自身の内に閉じ込めるように、静かに毛布にくるまった。


「おやすみ…セキ」


窓から夜風が吹き込んだ。

夜風はそっとアルバートを撫でていく。寝静まれない赤子を優しくあやすように。





ーーーーー


翌朝、アルバートは扉を叩く音で目を覚ました。


「…セキかい?」

「はい。朝早くからすみません、入ってもよろしいでしょうか?」


昨晩は、いつ眠ったのか覚えていない。目覚めた感覚で時間が分からない事が、いつもと違った睡眠周期だったのだと教えてくれる。


「どうぞ」

「失礼します」


丁寧に扉をくぐるセキの姿を少しぼんやりとする視界で眺めていた。セキの中では、この前の説教の熱がまだ冷め切っていないのだろう。いつもよりバカ丁寧な所作を心掛けているようだ。


「あの…師匠」


両手を使って丁寧に扉を閉めたセキは、未だベッドに腰掛けている師匠と向き合う。


「どうしたんだい? 構わずに話しなさい」

「あっ…はい」


なにを躊躇っているのか、話辛そうに目線を彷徨わせているセキに師匠が言葉を促す。セキは少し考えるような素振りで一呼吸おいた後、やっと話し始めた。


「朝早くからすみません。お疲れのところ申し訳ないのですが、師匠は私のレポートに目を通して頂けましたでしょうか?」

「はい、見させてもらいましたよ」


魔術の師弟となったばかりの頃ならいざ知らず、最近はこんなにバカ丁寧な言葉を用いる事はなかったのだが…。師匠はその何かの前段階のような言葉遣いに、続く言葉に興味が湧いていた。


「良く出来た内容でした。あの文書からもセキの成長を感じましたよ」

「あっ、ありがとうございます!」

「それで、今日の要件はなんですか?」

「あっ…あの…実は、解除方法を思い付いたのですが、それを試してみたくて師匠に許可を頂きに参りました」


アルバートは解除と言われて、何の事かが分からずに少し迷いを見せた。しかし、すぐに封印された魔術書の事だと思い至る。しかし今度は何故許可が必要なのかが分からずに迷いを抱く。魔術書の封印を解く事が出来るのならば、許可など必要ない筈だからだ。


「許可ですか?」

「…はい」

「詳しく話しなさい」

「……はい」


より一層の躊躇いが入った返事と共に、セキは思い付いた解除方法を話し始めた。出来ればその方法をあまり細かく話さずに許可を取り付けたかったのだろう。危険な方法だからこそ、アルバートが拒否するだろうから。


「…そうですか。確かにそれならば膨大な魔力で封印魔術が施されているあの魔術書も解除可能かも知れませんね」

「はい。危険な方法だという事は重々承知ですが、あれだけの封印が施されている魔術書は、必ず我らの未知を、あるいは既知を改変してくれます。師匠が私の身を案じて下さる事は大変有り難く思いますが、それでも真理を求めることこそ、魔術師の本義であると心得ます。どうぞ御英断賜りますよう、よろしくお願い申し上げます」


この言葉遣いでセキがあの魔術書に大きな思いを馳せていたのがわかる。もはや、師匠に対して扱ったことなどない程の堅い言葉で必死に嘆願するのだから。そのあまりの必死さにアルバートが笑いを堪えられなかった程だ。


「あの…師匠?」


突然笑い始めたアルバートに、セキが怪訝に問い掛ける。アルバートはそんなセキの表情が可笑しくて更に笑った。


「師匠!!」

「あはは、いや、すまない。」


セキが咎めるように鋭く叫ぶ。アルバートはそれでやっと笑いを収めた。といっても、まだ頬にはその名残がある辺り、収めたとは言い辛い。


「分かりました。許可しましょう」

「よろしいのですか!?」

「ただし!」

「はい! 絶対に守ります!!」

「ちゃんと聞きなさい」

「はい! 聞きます!」

「はぁ…ただし、セキの身が危ないと、私が判断した時はあの魔術書には消えてもらいます」

「えっ…ですが…」

「よろしいですね?」

「………はい! 必ずやり遂げます」


貴重な魔術書を処分すると聞いたセキは、また躊躇いを見せるが、自分が失敗しなければいいのだとすぐに意識を切り替えた。セキはそれだけ今回の解除方法に自信を持っているのだ。


やる気に満ちたセキを見たアルバートは詠唱すらせずに、風の魔法で魔術書を取り出してセキへと受け渡す。

そんな微細な魔法の用い方にセキは目を丸くした。


「師匠? 今、どうやったのですか?」

「ははは、セキ、世界は魔力で満ちているんです。それに気付ければ魔法の用い方は大きく変わる。そうすれば、両腕など無くとも生きていく事に困りはしない」

「…やはり師匠は凄い方です」


セキの賞賛にアルバートは微笑みで返答した。


「私にこの方法を教えてくれたのはティムさんですよ」

「えっ、ティムですか!?」

「そうですよ。やはり私達、魔術師の頭は堅い。世界の理を求めるのに古代の本ばかり求めていてもダメなんです。これからの時代は、すでに起こっている事象から理を導き出せる若い柔軟性が必要です。だからセキ、貴女には期待しています」

「…はい、精進致します」

「ははは、まずはこの魔術書の封印を解除しましょう」


ただでさえ魔術の才に溢れるセキに、これ以上成長を急がれては師匠としての立場がない。新しい封印の解除方法を思い付いたセキを見ながら、アルバートはそんな思いを込めて笑みをこぼした。



ーーー


これからセキが試みようとしている封印解除は大きな危険が予想される。セキ達は広い屋外を求めた。また、何かがあった時の対処としてリオンを必要としていた為、リオンがいるであろう訓練場所に足を運んだ。


「お前ら、リオンに負けるなよ!!」

「病み上がりなんだから、あんまり興奮しないでよね」

「分かってるって」


訓練場所には、今朝目覚めたばかりのティムもいた。甲斐甲斐しく付き添うミオに支えられて、地面に胡座をかいている。ミオに重心を半分預けている辺り、体調が良いとは言えないのだろうが、無事に生きていたティムを見て、セキはホッと胸をなで下ろす。


「目が覚めたのか、無事で良かった」

「おう、セキ達も来たのか、見ろよフモール達も強くなったよな。リオンが本気で相手しても秒殺とはいかないぜ」

「リオンさん…前よりかなり強くなっていませんか?」


アルバートは、荒ぶるドラゴンを制するが如く右に左に舞い飛ぶリオンに目が串刺しになっていた。洞窟内で見た時も強いとは思っていたが、ここまでのものだったろうか? あの時はまだ常人の中での上位者ぐらいにしか思っていなかったが、今のリオンは超人と言われる者達に近付いている気がする。


「そうか? リオンは元々凄いぞ?」

「はぁ…そうですか」


そう言い切るティムは笑顔を浮かべていた。


強さを渇望しているティムが今のリオンを見ても焦りを浮かべていないのだ。ティム自身も眼前の若者と同程度以上の強さを秘めているのだろう。


「元から? …それとも強くなった?」


アルバートの理解が追いつかず、様々な思考に囚われている間にリオンとフモール達との勝敗は決していた。息も絶え絶えになりながら、地面に仰向くフモール達とは対照的に、余裕の残るリオンがフモール達に悪かった点を話している。


「リオン、訓練中に悪いが手伝ってくれないか?」

「良いよ」

「有り難い、助かる」

「なんだよ、ホッブズ達の再戦が見れないじゃねぇかよ」


反省会も終わった頃に、セキがリオンへと話しかける。まだ十全に身体を動かせないティムは、楽しみにしていた次戦が中止になるだろうことに不満をあげていた。


「何を手伝えば良いの?」

「実は、魔術書の封印を解除する方法を思い付いたのだがな、その過程で私が暴れてしまうかも知れないので、その時、リオンに止めて欲しいのだ」

「暴れる?」

「まぁ、そうはならないだろうが、念の為だ。あまり気にするな」

「良いよ」


手伝って欲しい内容を簡潔に話しただけのセキだが、リオンは快諾する。暴れるという言葉を聞いたティムは、セキとリオンの戦いが始まると思って胸を高鳴らせだした。


「何だ? セキがリオンと戦うのか?」

「バカね、魔術書とかってやつの封印を解除するだけよ。その時にもしかしたらがないように…」

「戦うかも知れないんだな!!」

「…もうそれで良いわ」


ティムの勘違いを訂正しようとしたミオは、すぐに諦めてしまう。しかし、ティムの腰に手を回して体勢を整え直しているミオを見れば、ミオも小さな期待を抱いているのかも知れない。…ただ単に今の状況を楽しんでいるのかも知れないが。


「では、準備するからフモール達は場所を空けてくれ。訓練中に悪いな」


リオンの了承を得たセキは、テキパキと準備を始める。持ってきていた小さな台の上に魔術書を乗せ、その周りに透明な石を置いていく。


訓練を邪魔された形のフモール達だが、セキ達かこれから何をするのかと、期待に瞳を輝かせて準備を手伝っていた。


「師匠、準備が整いました! 仕上げに魔方陣をお願いします!」

「いやしかし…こんな短期間であんなに急成長するとは思えない。ではやはり元から…」

「師匠!!」


アルバートは、未だにリオンの強さに首を捻っていたようだった。思考の最中にセキの声に気付いたアルバートは、すぐさま準備を始める。


「ん? あっ、準備が出来たのですね?」

「そうです。魔方陣をお願いします!」

「分かりました」


台の上の魔術書と、セキを中心に魔方陣を描いていくアルバートは、時たまリオンやティムを見て首を傾げていた。


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