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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第3章 脈動
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罰なのかも知れないな



ティムの魔力を見せてもらい、ティムの性格を考えて、私は魔力を練っていく。リオンでの秘儀の成功は私に自信を漲らせ、行動に確信を与えてくれていた。


ティムには、1つの白い魔力を大きくして他の色を取り込んでいくようなイメージで練った。それだけで成功を確信出来る程に酷似した魔力が生み出せる。やはり、英雄を目指すティムは、他人を巻き込んでリーダーシップを取る事を大事にしているようだ。


ここまでくれば、私の中に疑いはない。個々人の魔力は性格に影響されているのだ。


私は、ヒントをくれたリオンに微笑み掛けて、ティムの頭に手を添えた。リオンの時と同じように、スルスルと魔力が吸い取られていく。


「くすぐってぇ」

「コラッ、喋るな集中していろ!」

「へーへー」


流れ込む魔力の感覚がくすぐったいそうだ、ティムは不気味にニヤケながら秘儀を続ける。


「魔力が増えるのよね? 私もやってもらおうかしら? 霊力にも効果はあるの?」

「おそらく無駄だ。集中したいから話かけるな」

「そっか…残念ね」


コイツらは…一度の成功で気を緩め過ぎだ。微細なコントロールが求められる儀式の途中で話しかけるなど、ティムを殺したいのか…全く。


まぁ、ただ抵抗感が生じるのを待っているだけだから、別に話しかけられても問題はないのだがな。しかし、それもこれも私が行っているからなのだ。大体、同日に2人の限界量を超える魔力を注ぎ込める者など、私以外にはそういないだろう。師匠にも私の魔力量は前例が無いと言われていたからな。


「おっ」


そろそろだな。

ティムから僅かな抵抗を感じた。あとはそれを少し越えるだけの魔力を注いで…


ん?

何故だ?

魔力を調節出来ない!


「セキ!? ティムが苦しそうよ! 儀式を中断して!」


待て、分かっているんだ。もう既に限界量は越えた。しかし、魔力を止めようにも止められないんだ。まるで、私が止めようとしている魔力を無理矢理引っ張られるような…。


「…ティム、止めるんだ! これ以上、魔力を取り込めば、お前が危険なんだぞ!!」


そうだ、ティムが私の魔力制御を邪魔している。そうとしか考えられない。


「へへへ、セキ、限界の壁ってのはさ、何も1つとは限らねぇ。そう思わねぇか?」

「何!?」

「だからよ、次の壁も一度に壊しちまおうぜ?」

「何を言っているんだ!? 無理に決まってるだろう!」

「無理? 誰が決めたんだよ? へへ」

「ティム、止めなさい!!」


ミオの制止もティムには届かない。ティムは苦痛の呻きを洩らしながら、それでもなお、私の魔力を奪い取ろうとしてくる。


「セキ、お願いだから手を離して!!」

「やっている、だが無理なんだ!」

「何でよ!?」


何でかなんて、私の方が聞きたい。注がれる魔力が引き留める糸になったかのように、私の意思に反して離れようとしないのだ。


私の魔力がドンドンとティムに流れ込んでいく。ティムの呻きが大きくなる。それなのにティムは止めようとはしない。


「グァァァ!!!」


一際大きな声でティムが叫んだ。私は2度目の抵抗を感じる。だが、同時にこれを超えてはならないような感覚に襲われた。


「ダメだ! これ以上は本当に! 死んでしまうぞ!!」

「覚悟のォォォォ、ぅぅぅえだ!!」


ティムは呻き声に紛れて意志を示した。一体、何がそんなにティムを急かせるのだろうか。

強くなる想いは理解しているつもりだった。ティムが自らの命を賭けても強くなろうとしているのも知っているつもりだった。


だが、何故?


何故ティムはこんなにも強さを求めているのだ?

ゴブリンキングのような規格外の化け物が相手でも勝てるように成る為?

今のままでも戦えるではないか。実際、あの洞窟では倒したではないか。その時の技を使う為には魔力が不足しているから、今度は気絶しない為に魔力量を増やしたい。そう思っていたが、それならば1度目の限界を突破した時点で十分ではないのか?


私は何かを勘違いしているのか?

ティムが足りないと思っている強さは魔力量ではないのか?

何だ?

何が足りないのだ?


「グァァァ!!!」

「うわっ!!」


それまで張り詰めていた糸がプツンと切れるように、突然私の手が離れる。ずっと引き剥がそうとしていた力が唐突に解放された私は、勢いに任せて背後にゴロゴロと転がった。


「きゃぁぁぁ!」

「目がっ!?」


同時に視界を埋め尽くすような強烈な白い光が辺りを覆う。ミオの悲鳴とリオンの戸惑いが聞こえてくる。


「何だっ、どうなった!?」


私は直ぐに体勢を整えて現状把握に努めた。ミオもリオンも光量に目をヤられたのか、手で目を覆っている。

ティムは?

無事なのか?




ティムは生きていた。

自分の足で立ち上がり、ミオ達を見ていた。


「…ティム?」


だが、何か様子がおかしい…。

何かが変だ。


「グルァァァァ!!!」


私がティムを呼んだ時、ティムから大音量の奇声があがった。


「何だっ!? 何だその黒煙は!?」


その広場全体を覆い尽くすような黒煙が、ティムの全身から吹き上がっていた。


ティムの身体から出て来たくせに、そのまま名残惜しそうにティムの周囲を漂う黒煙。空に向かって消えていくような、何かが焼けた時に出る煙とは違う異質の黒煙が、私を身構えさせた。


そんな黒煙の話など、私の知識にはない。


「ティム!! あぁぁ…うっ…歌を、歌を歌わなくちゃ」


私が黒煙に目を奪われている間に、ミオ達が視界を取り戻したのだろう。いきなり訳の分からない事を言っているが、何か対抗策でも行おうということなのだろうか。ということは、以前にもティムがこんな風に成った事があるという事だ。


後から思えば、私はこの時相当に混乱していたのだろう。2人分の魔力を注ぎ、その後に訪れた恐慌を冷静に受け止める事が出来なかったのだろう。


私は安心していた。

儀式による過剰な魔力の暴走か何かで、ティムの生命を危険に晒した現実から逃避して、自分の責任ではないと思っていた。


今回の黒煙はティム自身が抱えている問題なのだろう。それがどんな問題なのかは分からないが、ミオが対抗策を知っているということは、以前に似たような状態になった時に解決出来たということだ。儀式の失敗で、私がティムの命を奪うことはなくなった。


そう思うと、この不思議な現象に興味が湧いてくる。おそらく儀式上の何かがこの現象の一端を担っていることも想像に容易い為、今後の参考にしたい。


「ミオ、この黒煙は何なんだ?」

「えっ…これは…その…」


説明出来ないか…まぁ、分かる。ティム達とは出会って間もないのだ、心の底まで完全に打ち解けあった訳ではない。私にはまだ話せないこともあるのだろうな。少し寂しさを、感じるが仕方のない事だろう。


しかし、その思いは間違いだった。

それはリオンの言葉で明らかになる。


「ミオ…ティムを覆っている黒い煙はなに?」

「リオンも知らない…のか?」


3人セットのような生活を送っているのに、ミオは知っていて、リオンが知らない?

どういう事だ?


戸惑うようなリオンの顔を見て、私の心に生まれた不安が段々と大きく育っていく。

ティムを見てみれば、喉の奥から奇妙な音を出して突っ立っていた。


「これ…これがバミルが出していたっていう…」


リオンは記憶を辿るかのように言葉を発する。それは、嫌な予想が外れて欲しいと願うような声だった。


その声色を聞いた私は動き出す。

不足の事態が起きても良いように、魔力を練った。しかし、この魔力をどうすれば良い?

ティムを殺す訳にはいかないんだぞ?


私は攻撃しか知らない…


「グゥゥゥラァァァ!!!」


ティムが吼えた。

聞き覚えのあるような、無いような、心のそこまで響く叫び声が森の中に木霊する。


私は咄嗟に魔法を放った。

この樹海に潜むモンスターでさえ、その1発で全身を火達磨に変える火球の魔法。身を守る為に幾度となく使い、私が最も得意とする魔法だ。得意とするが故に、ティムの発した咆哮に反射的に放ってしまった。


私が放った火球がティムに向けて飛んでいく。


「セキ!?」


ティムを攻撃した私にリオンが驚愕する。私自身も驚きに身を竦める。


放たれた魔法は止められない。

どうすれば良いのか考える余地すらなく、私の火球がティムに当たった。同時に爆発音が響き、ティムが炎に包まれる。ティムを覆う黒煙すらも焼き尽くさんと、私の炎が轟々と燃え盛る。


「ミオ! 水の精霊を!」


自分でやった事に唖然としてしまう。

ティムを殺したくないと思って儀式を躊躇っていた私が、ティムを焼き殺してしまった。


リオンが恐慌に陥りそうなミオをなだめて水の魔法で消火を試みさせているが、それはもう遅いのだ。火球の魔法は当たった瞬間、最高温度に達する。その後身を焼く炎など、火球の残り香に過ぎない。ティムの身を焦がす炎を消化したとしてもティムはもう…


指先1つも動かせない程の惨劇を見つめながら、私の中の冷静な思考だけは、まるでそれが当たり前であるかのように状況分析を停止しなかった。


ティムの死を前にしても通常を保つそれが…恨めしかった。


「グゥラァァァ!!!」


だからだろう。

そんな思考も停止した時、私は喜んだ。

炎の中から黒煙に身を包まれたティムが飛び出し、その手に握る大剣が私の頭上に煌めいていたのに、思考でも悲劇を受け入れられたように感じた私は…笑顔を浮かべていた。


振り下ろされようとしている大剣が私に断罪を与えてくれる。それを笑顔で受け入れようとする私の身体が大剣から遠ざかっていく。


生き残った実感よりも、罪を受け入れられなかった悔いが勝って、私を助けた者を睨み付けた。


「何やってるんだよ!!」


リオンは私が睨んでいる事も知らず、私の身体をそっと地面に降ろしてティムを怒鳴る。

そんなリオンに奇声を上げるティムが切り掛かった。


私はティムを応援した。


そのままリオンをやり過ごし、私に向けて凶刃を振るって欲しかった。仲間に致死の魔法を放った私を恥辱の元に斬り伏せて欲しかった。


それなのにリオンが邪魔をする。


地面に座り込んで降り注ぐ刃を心待ちにしている私の前で、リオンが壁のように立ち塞がる。

ティムが振り下ろす大剣が、リオンの小剣によってことごとく方向を変えていく。リオンの背中伝いに剣と剣が交わる音が響き渡る。


「邪魔だ、退いてくれ!」


リオンの背中に向かって、私はそう口にした。一瞬、リオンの怪訝な視線が私を貫き、すぐさまティムへと向き直る。ティムの大剣がリオンの隙を突こうと踊ったが、リオンは見事にそれを防いだ。


くそっ…もう少しで大剣が私に届きそうだったのに。私は心の中で舌打ちした。


「ティム! 止めろよ! 何がしたいんだ!?」


ティムに向かってリオンが叫んだ。私にしてみれば、リオンの行動こそ意味が分からない。ティムは私を救おうとしてくれているのだ。リオンにはそれが分からないのか?


「グァァァ!!」


リオンに応えるようにティムが呻いた。私にはその声が「そこな魔の者を殺してやる」と言ったように聞こえた。


それでこそだ。

私はそれを待ち望んでいた。

いつから?

もちろんこの世に生を受ける前から、私はそうあるべきだったのだ。

私の生存をこの世界は望んでいない。

許していない。


私は…


私がいなければ…


…師匠…


…すみません


…その腕は…


…すみません…


…すみません…


…ごめんなさい…


…………


………


……



…歌?


何の歌だ?



……


………


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