表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第3章 脈動
35/49

十人十色



「そうか、リオンの魔力はそんな色なんだな」


手に集めた火属性の魔力を無属性へと変えていく。手を包んでいた光の色も赤から白へと変化していった。準備はこれで終わりではない。同じ無属性の白でもヒトによって若干の違いがあるからだ。私は先に見たリオンの白を再現する為、集めた魔力をさらに変化させていく。


私の心が妙に落ち着いているように感じた。先程まで心の大半を占めていた不安や迷いが、どこかに消え去ってしまったようだ。


リオンの魔力の色は白の中に色んな色が混ざっているような感じがする。言うなれば、雑多な白、あるいは統合された白だろうか。そんな白を作り出すのはなかなか難しい。


「大丈夫」

「ああ、分かっている」


何て心地の良い響きだろうか。おそらくリオンではない者がそう口にすれば、今の私は焦燥感に駆られる事だろう。なのに、今の私は今までの不安が嘘だったように秘儀の準備に注力している。


初めて行う魔送抗増の秘儀に大丈夫だと言い切れる要因は何処にもないのに。それなのに、リオンからもたらされるその言葉を聞くと、私は心底安心してしまう。慣れない魔力制御で震えていた指先までが、ピタリと止まって私の言う事に素直に従うようになったのだ。


「セキも堕とされたな」

「ふふふ」


横で見守っているティム達の言葉を聞いても、不思議と不快感が湧いてこない。むしろ、私からそうである事を望んでいるような…そんな気がした。


「準備は…いいか?」


私と目を合わせると、リオンは少し微笑んでから頷いた。なんだか私も笑みが溢れた。


私の手にはリオンの魔力と酷似した白色の光が集まっている。魔力を纏ったその手をリオンの頭の頂天にそっと添えると、リオンは僅かに姿勢を整えた。


後は魔力をゆっくりとリオンの身体に浸透させていくだけだ。頂天から身体中の細部に魔力を巡らせ、ヘソから指3本ほど下の辺りに魔力を定着させるイメージだ。


私はそっと秘儀を開始させた。


「くっ…」


ダメだ…まだ魔力を注ぎ始めたばかりだというのに、リオンが呻き声を漏らす。これは、私の魔力とリオンの魔力が同じモノに成っていない証だ。この状態でも続けることは出来るが、そのまま続ければ、過剰な回復魔法に晒されたときのように、身体に害を及ぼしてしまう。


「…すまない、大丈夫か?」

「…大丈夫」

「そうか…一端止める」


今までの大丈夫とは、声色の違う大丈夫が私の耳に痛みを誘う。

私は注いでいた魔力を止めて、手を離す。もう一度、属性変化を行わなければならない。


「大丈夫だよ、ゆっくりやれば良いから。僕も頑張るから」


私の失敗にもリオンは笑顔で大丈夫という。明らかに、私を安心させる為に作られた笑顔だ、心が痛む。


私はもう一度、魔力を変化させる。リオンの白色を再現する為に、もう一度リオンの魔力を見せてもらう。様々な色を統一したような白色、それは先ほども理解した。けれど、それだけでは足りないのだ。この色の中には、リオンの魔力をリオンだけのモノに足らしめる何か特別さがある筈だ。


私はリオンの手のひらの白色をことさら注視する。些細な煌めきのような、そんな僅かな特異性も見逃さないという目でジッと見つめる。


…分からない


こんなもの、ただの白色じゃないか!

私の作る白と何が違うんだ!?


「大丈夫」


…くそっ


今まで、私の心に安寧をもたらしてくれていた言葉が、私を追い詰めてくる気がした。


私はまた大きくなってきた不安と戦いながら、当てずっぽうに属性を変化させていく。私の手のひらには、色んな白が浮かんでは消えていた。

しかし、そんなことをどれだけ繰り返しても、リオンの白色とは何処かが違う気がしてしまう。

またやり直しだ。


「セキ?」

「…何だ?」


度重なる失敗で私の集中力が途切れ始めると、狙ったようにリオンが話し掛けてくる。穏やかなその声は、荒れ狂いそうな私の心をいま一歩のところで抑えてくれる。


「同じ白色でも、一人一人の魔力には微細な違いがあるんだよね?」

「そうだ。それがどうしたというのだ?」

「そう…なら、僕はね…」


でも、続く言葉が理解出来なかった。


「皆んなが助け合って生きられれば良いと思ってるんだ。自分に出来ない事があっても別のヒトならきっと出来るから、それを補い合えば良いんじゃないかな、って」

「…何を言っている?」


いきなり何を言い出すんだ?


「いや、魔力は一人一人違うって言ってたから、性格に似てるなって思って。だから僕が大事にしている事を伝えてみたんだけど…ダメかな?」


性格…?

魔力も性格と同じように一人一人違うから、それに影響されているのではないか、という事か?

一理あるかも知れない。


「…参考にしてみよう」

「ありがとう」


何故そこで笑うのか、何故ありがとうなのか、私には分からないが…悪い気はしない。


リオンの言う通り、性格に魔力が影響されるのだとしたら、私はどうすれば良いのだろうか。今、私の手のひらには白色の光が灯っている。多くの色を微細にコントロールして、無理矢理白色に近づけた光だ。


リオンは皆が助け合うと良い、と言っていた。ならば、この色はリオンの色ではない。私が無理矢理調節した白色は、皆を無理強いさせているようなモノだ。それはリオンが大切にしている想いとは違うだろう。


ならば…好き勝手にさせてみるか?


「うわっ!? 何やってんだよ!」

「すまん、魔力の暴走だ」


ダメだった。

好き勝手にさせれば簡単にコントロールを失い、爆発してしまう。少量の魔力だったから小規模の爆発で済んだが、もう少し量が多ければティムの眉毛が焼失していたかもしれない。


「まぁ、良いけどよ。失敗したらリオンに聞けば良いんじゃないか? リオンは困った時には絶対助けてくれるからな」

「ふふ」


バカな事を言う。

ティムもミオも、リオンにぞっこんだな。確かにリオンの笑顔は2人の安寧の役にはたつかもしれないが、今行っているのは高度な魔術の秘儀だぞ? 出来るならリオンに助けて欲しいが、魔力操作を覚えたばかりのリオンがそんな事を出来る筈が無い。


でも…


「ティム」

「なんだよ?」

「リオンには困っている時に助けてもらったのか?」

「何度もな!」

「私もね! リオンったら自分の事より他人の事ばっかり気にしてるんだから。私は助けてって言って無いのに、困った時に突然現れて、助けてくれるのよ」

「英雄みたいな男だ!」

「ふふふ、そうね」

「…そうか」


凄いんだな、リオンは。英雄はティム本人が目指している姿の筈なのに、リオンは既にそれに近いと認めている。リオンはそんな男なのか、凄いんだな。


「で、出来そうなのか?」

「…あぁ、多分次は大丈夫だ」

「そうか、やっぱりリオンはスゲェな! リオンのヒントで気付けたんだろ?」

「…そうだな」


そうなのだ、確かに性格に影響されているかも知れないというヒントは、私に新しい見方を示してくれた。私も助けられているのだ…。


多分、次は大丈夫。

そんな言葉は何のアテにもならない。本当に性格が魔力に影響を与えているのかどうかなど分からないからだ。

なのに、何故か次はイケるという確信があった。


私はまた手に魔力を集める。

今度は無理に1つの力には絞らずに色んな魔力が集まるように力を込める。手のひらには、古代遺跡の中で見たような、様々な色の光が飛び交い始める。そこに集まった光は自由に飛び交い、混じり合い、好き勝手に動き始める。だからといって好き勝手にさせる訳にはいかない。また暴発してしまうからだ。


ならばどうするか…


ただ、集まった魔力を見守る。全体の流れを見て、私の制御を離れて暴走しそうな光を見つけると、そっと他のみんなの元へ戻してやる。私の得意な魔力は火系統の為か、赤い魔力の力が強い気がする。それも、そっと皆んなの元へ還してやる。

そうやって手のひらの上に1つの光の群を作ってやる。それをずっと繰り返していると、色とりどりの光が徐々に纏まって1つの魔力と成っていく。その魔力は白色に成った、色とりどりの光を統一したような白色だ。


「似てるわね」

「良いんじゃないか?」


ティム達でも分かる程、この魔力はリオンの魔力に酷似していた。

これなら、大丈夫だろう。何故かそう思えた。


「じゃぁ、もう一度だな」

「待ってたよ」

「ああ、待たせたな」


何だかリオンとのやり取りが心地良い。最初からそうなる事が分かっていたように告げられる言葉が、私の中にスッと溶け込んで気分を高揚させてくれる。


私はまた頭に手を添えると、スッと魔力を注ぎ始める。乾燥した大地が恵みの雨を求めるように、私の魔力がリオンに吸い取られていった。


不思議な感覚だった。自分から魔力を注がねばならぬ筈なのに、リオンが求める魔力が私から抜け出ているようなそんな感覚だった。


「あっ」

「どうしたの?」

「失敗か!?」


私から漏れ出た声でティム達が不安を抱いた。私は首だけでそれを否定する。


この秘儀には、もう1つの関門として注ぐ魔力量の問題があった。その限界量が、何となく分かってしまったのだ。というよりも、リオンが教えてくれたのかも知れない。抜け出していく魔力量が自然と減っていったのだ。私はその感覚に合わせて魔力量を調節する。段々と量を減らしていくと、もうそろそろ限界だと言うような抵抗を感じた。その抵抗に少しだけ抗うように、魔力を注ぐ。

するとスゥーッと抵抗が無くなり、また私から魔力を吸い取ろうとするのを感じた。私は、そこで魔力を止めた。


「どうしたの?」

「やっぱり失敗か!?」


私が手を止めると、見ていただけの2人が問いかけてくる。それを否定しようと私が口を開く前に、リオンが立ち上がった。


「成功だよ」

「そうか!!」

「やったわね!」


「セキ、ありがとう」

「気にするな」


リオンを囲んでティム達が小躍りしている。リオンが私に向けてくる笑顔が私は誇らしかった。信頼に応えられたような気がしたからだ。


リオンは変化を確かめようと、手のひらに魔力を込める。今迄と変わらない様子の魔力に、ティム達が首を傾げているが、リオンはそれで満足だったようだ。リオン曰く、今迄よりも簡単に魔力が集まるようになり、扱える量も増えたような気がするとの事だった。

2人もその言葉を聞いて笑顔を咲かせていた。


私の中に自信が湧いてきていた。


「次は俺の番だな! 頼んだぜ!」

「任せておけ!」


弾んだ足取りで地面に座ったティムに、私も声に力を漲らせて返答した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ