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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第2章 古代遺跡
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再会



「うげぇぇ、気持ち悪りぃ」


転移魔法陣によって飛ばされた5人は、唐突に意識が途切れたかと思うと、別の場所にいる自分に気付く。

5人は浮遊感のある身体や、グラグラと視界の回る頭、初めての転移酔いに苦難していた。


「はぁ…はぁ…」

「…ここは、何処なの? まだ地下じゃない!」

「転移とは気持ち悪いモノだな」

「本当に転移したのですね…私の身体は…私だ! 素晴らしい」


酔いが収まってくると、5人は自分達のいる洞窟を見渡した。当然、地上へとたどり着くだろうと思っていたミオは、まだ薄暗い洞窟の中にいる事に不満を見せる。ジトッとアルバートを睨めつけるが、当のアルバートは古代魔法を体感出来た興奮に満ちていた。


「私は在る! 確かに私は此処に在る! どうやったのだ? どうすればこんな事が出来るのだ!?」

「師匠、私達はまだまだ魔術の深淵を全く知らないのですね…」

「そうだ! 深淵…私達はこの世界の事を何も知らない。…素晴らしい、私達はまだまだ成長出来るという事だ!」

「っ…師匠!」


何か良くわからないが、師弟は自分達の伸びしろを発見したようだ。その喜びで抱き合い始めた。


「何が…成長よ。ここが何処かも分からないのに」

「まぁ、そう言うなよ。自分がもっと強くなれるかもって時は嬉しいもんだろ?」

「…ティムもアッチ側なのね」


どうやら師弟に共感を覚えるティムは、2人の騒ぎ方も納得出来るらしい。

ミオの恨み言を聞き流して、自分の掌を握りしめ、自分の力を再確認しているようであった。


「何か来るよ」

「何っ!?」


リオンは1人、洞窟の中に危険がないかと調べていた。この洞窟には魔法陣以外にも机やソファー、その他色んなモノが置いてあった。そもそも、こんな洞窟の中に家財道具が置いてある事がおかしいのだが、転移酔いの中で、そこに注意を払えたのはリオンしかいなかった。


家財道具には今でも使われている生活跡が残っていた。しかも、そのソファーや机の数から、まとまった数がここで生活しているのだろうということが分かる。


そこにティム達が現れた。

そんな5人が騒ぐものだから、洞窟の住人が気付いかない筈がない。


リオンは自分達に近付いてくる複数の足音に耳を澄ます。


「…っ!」

「どうしたのだ?」

「何が近付いてくるのですか?」


リオンは腰の小剣を抜き放ち、戦闘態勢を整え始めた。それを見たティムとミオも、瞬時に習う。状況が分からない師弟だけが、何が起こったのかと右往左往していた。


「武装しているよ」


リオンは近付いてくる足音の中に、金属同士がぶつかるカチャリという音を聞いた。

師弟はリオンから告げられた言葉で、敵かも知れない者達が近づいているのだと、やっと理解した。


5人は慌ただしく動き始める。


「敵なのか!? 不法進入はこちらなのだ、まずは話し合いで解決した方が良いのではないのか?」

「セキ、とりあえず防衛態勢だけはとっていなさい」

「しかし!」


たった1つの入口に向かって、ティム達がキビキビと戦闘陣形を整える。

自分達の方に非があると考えたセキは武装解除を訴える。

アルバートもそれに同感であるようだが、何が起こるか分からない為、防衛だけは整えておくようにと指示を出す。


ティム達の後ろで師弟がまだアタフタとしている時、住居の主達が顔を見せた。


その姿を見た師弟がその容貌に驚き、ティムは瞳の中に炎を燃やした。


「ゴブリンなのかっ!? それが武装しているっ!?」

「大きい!? それが10匹もいるのですか!?」


現れたゴブリンリーダーの姿を見た師弟が思い思いに驚きを口にする。2人は樹海の外には存在しないゴブリンリーダーを初めて見たのだ。2倍近いその身長に、整備された装備品を見て驚愕に震えた。


しかし、ゴブリンリーダーに見慣れている筈のティム達にも戸惑いが見られる。

ゴブリンリーダー、群の中に1匹しかしいない筈のゴブリンリーダーが10匹も居た。それぞれが長柄の武器を手にしてこちらを見ているのだ。


「ちっ…リオン! ミオ!」

「分かってるわよ!」


ゴブリンリーダーの群れを見ても、ティムはその驚きを舌打ちだけに留めて動き始める。ティムの呼び掛けに、ミオは精霊魔法で応えた。戦闘態勢を整えている時に練っていた霊力が風の精霊に願いを伝える。


初動は明らかにティム逹の方が早かった。未だに突然の来訪者に戸惑ったように入口で1つ纏まっているゴブリンリーダー達に風の刃が斬りかかる。


「先ずは1匹よ!」

「良くやった!」


風の刃は1匹のゴブリンリーダーの首を刈り取った。残りも傷付き血を流す。


「2匹…3匹目」


不可視の風の刃に攻撃を受けたゴブリンリーダー達は、慌てて迎撃行動を取り始める。

その動揺の最中、そっと近寄っていたリオンが2匹のゴブリンリーダーに小剣を食い込ませる。計3匹は何も出来ずに命を散らした。


「おらぁ!! 鬱陶しいんだよ!」


ティムの大剣の横薙ぎは、得物が大きいだけに大振りになる。だが、少人数で多数を相手取るならば、それもまた良し。

2匹同時に狙って払われた横薙ぎは1匹には逃げられたが、もう1匹のゴブリンリーダーを上下2つに分断した。


「ばっ…バカな!?」

「師匠?」


完全に戦闘に乗り遅れていた師弟は、ティム達の活躍をただ見守っていた。その連携もさる事ながら、ティム達の個人の力量に舌を巻き、その強さを再認識しているのだ。

しかし、アルバートが驚いたのはティム逹の力に対してではない。ゴブリンリーダー達が見せた剣技のような動きに対してだった。


「アレは宮廷剣技の足運び…なぜゴブリンがソレを知っているんだ!?」

「宮廷剣技ですか?」


ティムの大振りを避けたゴブリンリーダーのバックステップ、それがアルバートには信じられなかった。他のゴブリンリーダー達も、腰に手を当て長柄の武器を突き出す構えを見せている。


「…師匠?」

「アレは狭い宮廷の通路で仲間を傷付けないようにと編み出された剣技なのです。その源流は古代魔法文明時代から続くと言われており…決してモンスターが身に付けているようなモノではない!!」


最後は全てを否定するような叫び声だった。アルバートが学院で講師をしていた頃に、何度も見た、王を護るべきあの剣技を、何故モンスターごときが扱っているのか…たとえ未知のゴブリンであっても許されるべき事ではなかった。


「…師匠」


セキは、こんなにも取り乱したアルバートを見た事がない。確かに動き自体はただのゴブリンのソレを大きく上回っているが、ただ前後に動いて長柄の武器を突き出す姿が何故そんなにもアルバートの琴線に触れているのか、宮廷剣技を知らないセキにはわからなかった。


「ティムさん! 気を付けて下さい、その剣技は集団で用いる時こそ真価を発揮します!!」

「見りゃ分かるってんだよ!」


ティムは突き出された3つの剣先から逃れながら叫んだ。

横並びに同時に突き出された切先は、ティムの選択肢を狭めると同時に命を狙ってくる。周囲を巻き込んでしまう為、集団で用いることが難しい長柄の武器では普通考えられない攻撃だ。


もちろん樹海に住むティムはそんな宮廷剣技がどんなものなのかなど知らない。しかし、樹海の中で数の暴利と戦った経験は活かされる。確かに厄介な攻撃方法では在るが、ティムにとってはそれ以上ではないのだ。


もしこれが避ける場所の少ない通路の中なら、ティムも追い詰められていたかも知れないが…


「…スゴい」


気付けばゴブリンリーダーの数は、残り2匹になっていた。

近接戦闘の経験がなく、宮廷剣技の恐ろしさだけを知るアルバートからすれば、ティム達の強さは異常だった。長柄の武器で距離を取りつつ、防御は通路の壁に任せて仲間と共に攻撃だけを行う。相手に触らせることなく敵を屠るを目的とした宮廷剣技…場所が広い洞窟内だとしても、そんな剣技を扱う多勢を相手に傷1つ負うことなく未知のゴブリンを片付けいくティム逹は強かった。


「終わりだ!」


同じく長柄の武器であるティムの大剣は、ゴブリンリーダーのソレよりも細かく動く。宮廷剣技を用いるゴブリンリーダーの突きを避け、その引き戻す腕に合わせて大剣が振り抜かれる。ゴブリンリーダーは身体を斜めに裂かれて崩れ落ちるのだ。


「…想像以上でしたね」


硬いだけの蟻との戦闘では見れなかったティム達の武技、あっという間に10匹全てを片付けたティム達にアルバートは感心していた。あるいは王都騎士団の隊長クラスにも匹敵するのではないのだろうか、ティム達の強さはそんな感想を抱かせた。


「ったく、何だってこんなとこに飛ばされるんだ?」

「随分と、嬉しそうね?」

「そうか?」


ひと段落ついたティムが大剣を肩で受け止め愚痴っているが、その表情にはニヤニヤとした笑顔が浮かんでいる。隠す素振りもないその笑顔は、やっと身体を動かせる機会が出来たと喜んでいるのだと物語っていた。

しかも相手は憎いゴブリンだ、ティムはもっと戦いたい欲求を抱いていることだろう。


そんなティムが、今の騒ぎを聞き付けて駆け寄ってくる足音に笑みを大きくする。


「さっきより多いよ」


リオンの言葉で、ティムの顔は裂けんばかりになっていた。


「お前らも手伝え! つってもデカいのは使うなよ。また地下に落ちるのはゴメンだからな!」


師弟も今度は戸惑わない。今度は話し合いを持つつもりなど毛頭ない。明確な敵意を持ったゴブリン達が来るのだから。


「手伝うのは良いが、魔法に巻き込まれるなよ?」

「っはん、今まで俺たちがそんなヘマしたかよ?」


いくら小規模に抑えたとしても、セキが得意とするのは火系統の魔法なのだ、その威力は凄まじく範囲も広い。蟻達の時のように敵の体内で衝撃を抑えられれば別だろうが、剣技まで用いて素早く動くゴブリンリーダーを相手には、それも難しい。

先程よりも多くの敵の来襲を聞き、混戦を予想したセキが心配そうに告げるが、ティムは鼻で笑う。魔法が発動される違和感をティムもリオンも知っているのだ。ミオが扱う精霊魔法と似ているようで若干ん違う感覚、だからこそ範囲が広い攻撃が来ると簡単に認識出来るのだ。


「…実際やってみれば分かるだろう」


そんな魔力感知を魔術師でも無いティム達が持っているなど訝しい。セキは、その言葉が真実かどうかは戦闘で答えが出ると、そっと魔力を取り込むのだった。







肉が焼ける匂いが漂う。

流れる血の鉄臭さが鼻腔をくすぐる。

金属音が鳴り響く中で、魔法詠唱の声が小さな部屋に木霊する。


ゴブリンリーダーの増援は止むことをしらぬ雨のよう。


出口付近にはゴブリンリーダーの屍体が山積みとなり、新たな増援の足を緩める。

立ち止まったゴブリンリーダー達はミオの魔法で切り刻まれる。隙を狙ってリオンの小剣が身に刺さり、血を噴き出す。

水溜りのように貯まっていたゴブリンリーダーの血液が、錆びた匂いを残してセキの魔法で蒸発していく。

火系魔法で熱せられた部屋がアルバートの詠唱から放たれる水系魔法で冷やされ熱気が生まれる。


戦場の空気を醸し出す部屋の中、ティムは楽しそうに剣を振る。突き出されるハルバートや長剣を叩きつけるように、ゴブリンリーダーの緑の皮膚を赤く染めるように。


そんなこんなを繰り返すうち、増援が来なくなる。ただ数を減らしていく仲間を見たゴブリンリーダーの1匹が、逃げ帰るように背を向けた時、ティムの大剣が腹から生えた。背中から身体を突き抜けた大剣は、そのままゴブリンリーダーを縦に切り裂く。断末魔すら挙げられずゴブリンリーダーは血の海に伏した。


「ふん、まぁまぁだな」

「貴様もなかなかだったぞ、まさか本当に魔法を察知出来るとはな」


セキとティムは互いを見つめている。


いくらティムといえども、数に囲まれてしまえば腕の1本も持っていかれていたかもしれない。そうならないようにリオンやミオがフォローするのだが、今回のゴブリンリーダーは多過ぎた。危ないところを何度も師弟に助けられたのだ。特にセキはアルバートとは違い、長ったらしい詠唱を行わずに魔法を放つ。咄嗟の機敏な対応は圧倒的にセキの方が優れていた。


セキの方も、本当に魔法発動を察知してティムが避けれるとは考えていなかった。しかし、ティムの発動予測まで利用した戦いたい方を見ていれば、それも認めざるを得ない。


2人は長い通路での言い争いが嘘のように、互いの力を認め合っていた。


「素晴らしい」


アルバートが拍手を送る。

皆の前で握手を交わしたティム達に、割れんばかりの拍手を送る。


それがこっぱずかしいのか、2人は瞬時に手を離した。互いに背中を向け合って、ティムは恥ずかしそうに鼻を掻いていた。


「さて、もう敵は来ないようですね。それではこの洞窟からも脱出しましょうか」

「やっと地上ね」


ミオがアルバートに同意した時、リオンが動く。


「まだだよ、まだ1匹近付いてくるよ」


「まだいるのかよ」

「ふんったかが1匹、私達に掛かれば敵でもない」

「はは、分かってるじゃねぇかよ」


“私達”セキのその言葉の中に含まれるのは、ついこの間までアルバートだけだった。それが、いつの間にかティム達も含まれるようになっている。他人を信用出来るようになったセキを見て、アルバートは密かに喜びを抱いていた。


「…大きい?」


リオンは、近付いてくる1つの足音に違和感を感じた。ノシノシとゆっくり近付いてくるその音は、明らかに今迄のゴブリンリーダーを凌ぐ重さを持っている。それは身体が大きい事を示しているのか、それとも超重量の防具でも身に付けているのか、どちらにせよ今迄のゴブリンリーダーとは違う個体が入口のすぐそばまで来ていることを感じていた。


「まっ…まさか」

「嘘よ! だってアレは!」

「逃げよう…逃げなきゃダメだよ!」


入口に現れたモンスターを見たティム達3人は、心の深淵から湧き出てくる恐怖に身を震わせる。


ミオが立ち竦んで現実逃避に入り込みそうな中、リオンの心がヤツと戦う事を否定する、心が逃げなければならないと言ってくる。


「…ぐっ…ぐらぁぁぁ!!!」


ティムは咆哮を上げて走り出す。

両手に大きな戦鎚を持つモンスターへと。


2メートルを超える巨体に、筋肉の鎧、元々醜いゴブリンを更に醜くさせたような醜悪な笑み。コムル村を襲い、ティムの父親を殺し、村を蹂躙したモンスター。その中でも最も強力だったモンスター。


ティム達がゴブリンキングと呼ぶ規格外なモンスターへと、大剣を振り上げたティムが疾走していた。


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