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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第2章 古代遺跡
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火照った身体



「凄いわね、コレ。地下水でも汲み上げてるのかと思ったら、お湯が出てくるじゃない。…どこから出てるのかしら?」


男達が魔法陣の調査に四苦八苦している頃、セキを連れたミオは入浴場に居た。

セキを連れて来たのは、一緒に水浴びをするのと、入浴場に設置されていた魔道具の使い方を調べる為だった。もし使えなくても、精霊に願えば良いと思いつつやってきたのだが、魔道具は初見のミオでも問題ない程簡単に動き、扱えた。

綺麗な青色の石に触れるだけで温かい水が出てくるのだ。便利過ぎる魔道具を見たミオは驚嘆したものだ。


「これが古代の魔術力だ!」

「ふふふ…そうね」


自分の事のように誇るセキが可愛らしくて、ミオは思わず笑みを漏らす。しかし、そんな自慢気な姿も素直に受け入れてしまう程にこの魔道具は便利なものだった。


「さっ、身体を洗いましょうか」

「…良いのか?」


それじゃあさっそくとばかりに、準備を始めるミオの前で、セキは怪訝な顔をする。

今頃、アルバート達は魔法陣の調査に勤しんでいることだろう。そんな中で自分達だけ、湯浴みをしていて良いのだろうか。


「良いのよ。女の子には女の子の事情ってものがあるの。アルバートさんも男だからその辺りには詳しくないかも知れないけど、女の子の入浴はどんなモノより優先されるのよ」

「…そうなのか」


まだ10歳にも満たないセキは、アルバートからも男女の違いを詳しく教わっていない。ミオの言葉をそういうものなのかと簡単に納得してしまう。良いように言いくるめられたセキは有無を言わさず服を脱がされ、女同士の裸の付き合いへと引きずり込まれていった。


「贅沢ね…」


身体を洗い、温かいお湯の中に肩まで浸かったミオは嘆息の息を吐き出した。溜め込んだ水で身体を拭くだけ、良くても川で水浴びが普通のミオにとっては、こんなにも沢山のお湯を自由に使えるのは贅沢なのだ。


「セキ、アンタ…定期的に身体を洗わなきゃダメよ?」


湯船の中で、全身に温もりが浸透していくのを堪能しながら、ミオは目前のセキを眺める。長い赤毛を頭の上で1つに纏めた少女は、その歳に見合わない程身体中が傷だらけであった。


(でも…それは私もおんなじね)


ミオは自らの身体を振り返ってそう思う。ティム達に付き合って樹海でモンスター退治に励んでいるのだから傷だらけなのは仕方ない。


「う〜む、そうは言っても旅暮らしの身だからな。それに、師匠はそういうのを気にされないしな」

「それでもアンタは入りなさい! 女の子なんだからね」

「う〜む」


もしかすると、セキ自身もそれほど清潔感にこだわっていないのかも知れない。今回のお風呂もそんなに乗り気を感じず、ミオに誘われたから渋々入るといった表情でいるのだ。


「…もうっ! こうしてやるわ!」

「何をするっ!? くはははは!…ヤメろ、ヤメるんだ!」


固い表情が解れないのを見かねたミオは、いきなりセキの脇腹をクスグり始めた。脇腹は弱点だったのか湯船の中でバシャバシャと抵抗するセキ、全力で抵抗する姿を見てもミオはその手を決して緩めない。


「くはははは…ゃ、ヤメてくれぇははははは」


足の裏、お腹や脇、背中、首筋にミオの細指がソワソワと沿う。優しく愛撫されるような手付きにむず痒くなるセキは、身体をねじらせて必死に抵抗する。


「逃がさないわよ!」

「ぐふぁっはははははは」


クスグりながら全身を弄っていたミオは、気付かれないようにそっと魔法を掛けていた。まだ小さな女の子が全身に傷を負っているなど、ミオには我慢ならないものらしい。セキの身体中にある傷を治せるモノならば治しておこうと精霊に願いを唱えていた。


草木に分け入る時に着いたのであろう手足の細かな傷は完全に消せた。魔法を使う時の余波だろうか? 手に付いていた火傷の痕は、小さくなったが完全には消えなかった。背中に付いた2本の線のような傷痕はかなり幼い時に負ったのだろう、ミオには傷を薄くする事すら出来なかった。


全ての傷を治せない未熟さのために、ミオの顔が曇る。そんなことには気付かないセキは、ミオの指先が笑スポットに入るたび、苦悶の声を響かせていた。


「死ぬっ! シヌぅぅっ!!」


呼吸困難での笑い死を覚悟したセキは、すんでのところで解放される。2度と捕まえられてたまるかと、乱れた息で湯船から脱出し、洗い場でクタンと倒れ込んだ。


「どう? わかった?」

「…くっ……わ…わかった」


何がわかったのだろうか?

息も絶え絶えなりながら平伏すように頷くセキを、湯船の中で腰に手を当てて胸を張るミオは見下ろしていた。


「それで良いのよ!」

「…くっ…」


なんだか分からないが、2人の中では何かの優劣が決したらしい。どちらが勝者になったのかは、浮かべている表情を見比べれば一目瞭然だった。


「…っ、次は必ず私が勝つからな!」


やっとこさ、呼吸を落ち着かせたセキは声高々に宣言する。

勝利の笑みを浮かべていたミオは、その堂々とした立ち姿に内心たじろいだ。そこに存在する双子の丘がミオの心を揺るがしたのだ。


(触ってる時も思ったけど…セキって私よりも……いいえ、まだ私の方が大きいわ…その筈よ!)


表情には出さずに焦りを抱いたミオは、自分のモノに目を移す。控え目なソレをみながら、そんな事は無いと無理矢理、自尊心を維持したミオは余裕の態度を崩さない。


「いつでも掛かって来なさい、受けて立つわ」

「その言葉、決して忘れるなよ!」


ーーこれが、永遠のライバルと呼ばれる2人の初の闘いであった

……………

…………

………

……

…何のライバルなんだろうか?











「おっせぇぞ! 何してたんだよ!」

「女の闘いよ!」

「…何っ!? 決闘か?」


1時間以上も何をしていたのか。ただ待たされて苛立っていたティムは、やっと戻ってきた2人を怒鳴り付けるが、ミオから返された言葉は、ティムの想像を軽く超えた。


よく見ると2人は薄く汗ばんでおり、ミオの言葉を裏付けているようだ。どんな諍いが原因だったのかは分からないが、わだかまりは解消されたのだろう。汗ばんでいるのに、どこかサッパリとした空気で笑い合うミオとセキがいた。


「どっちが…勝ったんだ?」

「あら、気になるの?」

「まぁ…そりゃな」

「それは言えんな…女の事情というやつだ」

「あら、わかってきたじゃない」

「ふっ…私の学習能力は飛び抜けているからな」

「何だそれ?」


頭にハテナを浮かべるティムを無視して、2人はアルバートの元へと進む。

リオンとアルバートは、漂ってくる洗剤の香りやしっとりとした髪を見て、2人が何をしていたのか気付いていたのだろう。仲良さげに歩く2人を見て、クスリと笑っていた。


「お帰りセキ、スッキリしたかい?」

「はい! それよりスミマセン、魔法陣の事を全て任てしまいました…」

「それは良いよ。ミオさんとも仲良くなれたみたいだし良かったじゃないか」

「はい、ありがとうございます」


アルバートは、ローブからはみ出しいるセキの手足を見てミオに感謝した。自分が回復魔法を使えないばかりに…と悔やんでいた傷が綺麗サッパリとなくなっていたのだ。


「ミオさんも、セキを綺麗にしてくれてありがとうございました」

「そんなの良いわよ…それで、この魔法陣は出口なの?」

「えっと…それは分かりません」

「分からないってどういうこと?」

「転移の魔法陣である事は間違いありませんし、動かすのも出来そうですが、どこに転移させられるのかが分からないのですよ。まぁ、試してみるしかありませんね」

「そう…まぁそれなら仕方ないわね」


おかしい…アルバートとミオのやり取りを聞いていたティムはそう感じていた。

いつものミオなら、分からないと聞いた時点で怒りだす筈なのに、しおらしい女の子のように受け答えしているのだから。


そこまで考えた時、ティムは気付いてしまった。




ーーミオが負けたのか

決闘での敗戦が尾を引いているのだろう。



まだ2人が決闘したのだと思っているティムは、ミオが知ったら迷わず拳が飛んでくるような理由で納得してしまう。事実を知らぬまま、ミオの気持ちを気遣うのだった。


「…リオン、慰めてやってくれ」

「…誰を?」

「俺じゃぁ…ミオを怒らすだけだからよ、やっぱこういうのはお前がやるもんだよ」


ティムの言っている事が理解出来ないリオンは、前後の会話からティムが誤解しそうな内容を予想する。そして…憐れむ目付きでティムを眺めた。


「ほら何やってんだよ、早く行ってやれよ!」


ミオが落ち込んでいるというのに、リオンは微動だにもしない。ティムはもどかしそうにリオンの背中を無理矢理バンッと押し出した。


「あんた達、何やってんのよ!早く来なさい、早く地上に帰るわよ」

「…ほら、元気だよ?」


今から魔法陣を動かそうというのに、部屋の隅でゴチャゴチャとやっている2人を見たミオが早く行こうと手招きしている。

リオンは、そんな声を聞けば納得するだろうと、ティムを振り返るのだが。


「空元気だよ…バカだなリオンは女心ってもんが分かっちゃいねぇな」


深い溜め息を吐き出したティムは、ミオを心配そうに気遣いながら魔法陣の上に立つのだった。


残されたリオンは、どうしようもないティムの勘違いにため息を吐いていた。


「リオンも! はやくっ!」

「……うん」

「じゃ、アルバートさん動かしちゃって!」

「はい。それじゃぁいきましょうか」


全員が魔法陣上に整列したのを確認したアルバートは、ミオに促されるまま魔力を溜めて行く。それを魔法陣へと注いでいくのだが、以外と多くの魔力が必要なようで時間が掛かっていた。


「ミオ…あの、よ」

「えっ、何?」


その隙を狙ってティムが話し掛ける。リオンがどうしてもやらないというのなら、ミオを元気づけられるのは自分しかいない。ティムの瞳には決意がこもっていた。


「まぁ、なんだ…その内良いことあるぞ!」

「は? アンタ頭でも打ったの?」

「なっ!?」


「そろそろです、皆さん行きますよ。転移後には若干の転移酔いがあるそうなので、気をしっかりと保っていて下さいね!」


アルバートの言葉が終わると同時に転移が始まる。淡い光が魔法陣から立ち昇ると、陣の上に並んだ5人をゆっくりと包み込み始めた。


「何だっ!? と…溶けてるぞ!?」

「痛くないわ!?」

「動けないよ」

「素晴らしい…これは身体の構成要素を分解しているのか? いやしかし、それでは再構築時はどうするのだ? どうやって個体管理をしている? 再構築の構成パターンはどこに保存されている…魂…は…」


身体を包む光が5人の身体を光の粒子に分解しだした。互いの身体が透けるように分解されてティム達が慌てだす。途端に魔法陣から逃げ出そうとしたティム達だが、何故か身体が動かない。

アルバートは呑気に転移陣の素晴らしさに酔いしれて、その原理を解明しようと自論を展開…


5人の身体が消え失せた。


光が一際強く輝いたかと思うと、5人の姿は消え去って、ただ魔法陣だけが残された。5人が消えても少しの間漂っていた淡い光が段々と消えて行く。

すっかり光も消え去った部屋は、また来訪者が訪れるまで沈黙するのだ。

何年も何百年も何千年も…




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