学者の病
「長いんだよ! 何なんだよ!」
「手は大事にしなさいよ」
ティムの憤りが通路の壁にぶつけられる。
壁を殴った衝撃で赤く腫れたティムの手を見たミオは、治療もせずにそれだけ告げた。
1本道の通路を歩き始めて、既に2日が経とうとしていた。
終わりが見えず、代わり映えもしないこの通路は一体何の為に在るのだろうか。それが分からない彼等にとって、この時間は苦痛でしかない。だんだんと軽くなる食糧袋もそんな彼等の憔悴を大きくさせていた。5人全員が苛立ちや焦りを抱き、些細な事に過剰に反応、あるいは逆に反応しなくなっていた。
「師匠…やはりこの通路には幻惑魔法が掛けられているのではないでしょうか?」
「それはないでしょう。私と貴女でトコトンまで調べたじゃないですか。いくら神代遺跡の中だからといって、私達が魔法の痕跡すら見つけられないのでは、それはあり得ませんよ」
師弟は通路に魔法が掛けられている事を疑っていた。本当は短い通路を幻惑か何かで長いように見せ、グルグルと同じ所を回らされているのではないかと。しかしそれは打ち破られる。
セキはまだ自信が無いようだが、師匠はセキの魔力感知には高い信頼を抱いていた。そこに元魔法学院教員である自分の知識をプラスしても、何の痕跡も見つからなかったのだ。幻惑魔法の類は無いとしか考えられなかった。
「ちっ…」
ティムは魔法の事など分からない。2人の師弟も出会ったばかりで良く知らない。いつまでも通路を抜けられないティムの鬱憤は、そんな師弟に集まっていた。
「何だ? 私達に何か不満でも在るのか?」
ティムの舌打ちを目敏く聞き付けたセキが責める。それを見ても残りの3人は止める気力を見せない。
「やっぱあの時、戻っときゃ良かったんだよ。そしたら、蟻の巣穴に戻れただろうが!」
「またそれを蒸し返すのか。貴様は空でも飛べるのか?」
つい昨日にティムは言った、落ちて来た穴から上に戻ろうと。
しかし、2日掛けて進んできた通路を戻る気力はなく、10メートル以上もある天井の穴へと向かう手立ては無い。極め付けはミオが先見魔法で探った時に蟻が穴を塞いでいたという話だ。戻ってみれば穴がありませんでした、では体力の無駄使いでしかない。
だから、彼等は先に進む事を選択したのだ。
セキにとっては、何度も同じことを口にするティムのバカさ加減が我慢ならなかった。
「それにお前らは食糧も大して持ってねぇしよ。それなのにお前は俺たちの飯をバカみたいに食いやがって…」
これは大きな問題だった。通路がどれほど長くても、変わらない風景にストレスが溜まっても、食糧さえあればそこまで大きな問題にはなっていなかった。特に師弟は蟻達に襲われた時に荷物の多くを失っており、持参していた食糧も同時に失くしていたのだ。
先の見えないこの場所で、ご相伴に預かる師弟は、特に大食らいの弟子を持つ師匠はいたたまれない気持ちでいたことだろう。
「そっ…それは助け合いというものだろうが! それに元々、この通路を発見出来たのも師匠と私がいたおかげだろうに何を言う!」
「この終わらない通路を見つけたのがそんなに偉いのかよっ!」
「まだ、終わらないとは決まってない!」
「もぉっ、いい加減に止めなさい!」
聞いているだけで不快になってくる言い合いが続き、我慢の限界を迎えたミオが2人を引き離す。
「全く…アイツは思慮というモノが足りない」
「それは貴女もですよ。私達が食糧を無償で受けているのも事実なのですから、互いに譲り合いをせねばなりません。それを真っ向から対抗しようとするのはいただけませんよ」
セキは師匠に怒られる。
「ミオ、アイツらには…特にあの赤毛にはもう水はやるなよ」
「バカなんじゃないの? そんなこと出来るわけないでしょ。子ども相手に耳まで真っ赤にして怒るなんて、恥ずかしくてしょうがないわ」
ティムはミオに怒られる。
ティムとセキは、同じようにムスッとした表情を浮かべて歩いて行った。
なぜか、アルバートはその姿を見て笑みを浮かべる。
引き剥がしても、すぐまたグチグチと言い争いながら歩く2人を尻目に、ミオは何度目かの先見魔法を使う。
長過ぎる通路を先見魔法で見ていても、代わり映えしない風景が伝えられるだけ。今回もそうだろうと半ば惰性な考えを抱きつつ、風の精霊に願いを唱えた。
「えっ!? と…扉よ!」
しかし、今回のミオは信じられないように叫んだ。
変化のなかった通路の先に扉のビジョンが写し出されたのだ。
「何っ!?」
「エルフ、それは本当だろうな?」
ミオの声に全員が振り向く。醜く言い争っていた2人にも笑顔が浮かんだ。
同時にガツンと鈍い音がする。ミオの拳がセキの頭に落とされた音だ。
「ミオよ! 自己紹介したでしょ? 名前で呼びなさい」
頭を抱えて痛がるセキはミオを睨む。
それをまた師匠に怒られる。
(年頃の友達っていうのは、良いものですね)
怒り、怒られ、様々な表情を見せるセキを見ながらアルバートは微笑んだ。
こんなにも感情的なセキをアルバートは見た事がない。こんなにもセキのことを怒ったことも1度もない。いつも私の言う事に素直に従っていたセキが…本当のセキを初めて見たようで嬉しいようだ。
「さて、とにかく終わりの見えない通路に終わりが見えました。それじゃあ皆さん、扉までの最後の道のりを全員で乗り越えましょう」
「乗り越えるっつっても、歩いて行くだけだろうがよ」
ティムの言葉を聞き流し、アルバートは楽しそうに進んで行った。
「ふむ、着いたな」
「やっとだ」
「これで地上に戻れるわね」
「さて…それはどうでしょうか」
ミオが発見した扉の前、通路を歩き続けてやっとここに辿り着いた彼らは感慨深く扉を見ている。
若干不安を煽るようなアルバートの発言に、ミオが嫌そうな表情を向けるが、アルバートは古代遺跡の扉に見入っていた。
風の大精霊が描かれた扉、その扉を皆を代表したアルバートがすっと押してみる。今度もまたミオの霊力が必要かもしれないと思いつつ、躊躇いがちに押してみたが今度の扉はなんの問題もなく動く。
ゆっくりと横に開いていく扉の向こうには、薄暗い空間の中で色とりどりの光が煌めく部屋があった。
「何だ? 何の部屋だ?」
「素晴らしい…」
「…綺麗」
部屋の中心には希少な宝石を展示するような台座がありその上には、手のひらに収まる大きさのエメラルド色の石が置いてあった。床にはその台座を中心に緻密な魔法陣が描かれており、台座とつながるように傍にある箱の中には、台座の上にあるような石が部屋を漂う光と同じく色取り取りに入っている。
師弟は古代の高度な魔術が詰め込まれた魔法陣に目を奪われる。ミオは薄暗い部屋の中で幻想的に揺らめく光に感動していた。
ティム達が通って来た通路は全員が扉を抜けると勝手に道が閉じ、そこに扉があることがわからないよう、扉の前に金属製の大きな何かが移動してくる。誰もいない部屋の中で勝手にモノが移動する様子に気付かないほど、彼らはこの部屋の様子に魅入られていた。
「素晴らしい!!」
「師匠! 迂闊に魔法陣の中に入るのはっ!」
子どもの様に目を輝かせて、目的のわからない魔法陣に不注意に飛び込んで行くアルバートをセキが追う。
「コレ何だ?」
「さぁ…あんまり触らない方が良いんじゃないかな?」
背後の扉が金属製の何かで閉ざされたことに気付いたティムが、リオンに咎められながらその金属板から飛び出ている突起物をカチャカチャと押していた。
「セキ、見てみろこの台座に霊力が集まっているよ」
「これは…つまり、この石の中に霊力を収束させて封入する魔法陣という事でしょうか? …あり得ないっ!」
「あり得ない? あり得ているじゃないか! この箱から溢れ落ちる程の量の石、その全てが霊力で満ちている!」
「いや、しかし…」
「自分の目で見たものを信じずに、何を信じるというのです?」
興奮の坩堝の中で師弟は魔術論争に盛り上がる。台座に隣接する箱の中には納まりきらなかったのだろう、ミオは床に溢れ落ちていたエメラルド色の石を拾い上げる。
「不思議、この石からは風の精霊の力を感じるわ…」
「ほらっ! ミオさんが言うのだ間違いない!」
独り言として呟かれたミオの発言にアルバートは顔全体を綻ばせた。
「ですが、マキシーム著の『精霊と自然』では…」
「だから何度も言っているだろう、今の学術が全てではないと。事実、何かに依存しなければ霊力が存在出来ないのであれば、ミオさんはどうやってあの通路の中で水を生み出したと言うのだい? 何処にも川なんて無かったのに」
「それは…」
「そうだろ?」
「類する自然と隔離された場所で精霊や霊力が発現するとでも言うのですか!? そんなことを言い始めれば…」
これは、精霊を感知出来ず、霊力を練ることの出来ないヒト族が抱いている想定と、現実の相違から生まれる話である。精霊は自身の持つ霊力に類する自然が無ければ存在出来ず、その為、精霊魔法には多くの制限がかけられる、と。
それは精霊魔法の制限から見れば、その理論が正しいような印象を受ける。精霊がいてもその精霊が自由に操ることの出来る自然がなければ叶えられない願いもあるからだ。
しかし精霊を感知出来るミオからすれば、精霊が類する自然が無ければ存在出来ないという理論は甚だおかしな話だった。海の中にも火の精霊がいないわけではなく、適切な霊力を練れれば願いを叶えてくれるのだから。
まぁ、ミオには難しい言葉が飛び交う2人の会話に進んで入っていくつもりなどないのだが。
「本当に綺麗…それにとても強い力を感じるわ」
そんな事よりも、ミオにはこのエメラルド色の石の方が興味深かった。この石の中にはミオがその身で練れる最大量の霊力を遥かに超えた力が溜め込まれている。ミオにはこの石が嵐そのモノであるかのように感じていた。
「霊力が込められた石、霊石…かしら?」
そんな呟やきに、アルバートの耳がピクリと反応する。信じられないモノを見たような瞳でミオを見つめ、いきなり走り寄ってミオを抱きしめた。
「きやぁぁ!」
ミオは突然の奇行に悲鳴をあげるが、アルバートは笑い始める。
「あっははは、素晴らしい! “霊石”…なんて良い響きなんだ。ミオさんは名付けの才能に満ち溢れているね」
「ぇっ…えぇ?」
「決まりだ、この石は霊石と名付けよう!」
「ぇっ…あぁ、そうなの?」
何だか分からない内に石の名付け親になってしまったミオは、恥ずかしさで顔を赤らめた。誰でも思い付くような名前なのにベタ褒めされた事も上乗せされて、色白のミオは夕陽のように真っ赤に染まった。
「エル…ミオ喜ぶといいぞ。これを王都の学院で発表すれば、“霊石”の名前と共にミオの名前も何年も語り継がれていくだろう。あの英雄ガルドのようにな」
「えぇ!?」
竜殺しのガルドのように語り継がれる、それはミオの心をドクンッと高鳴らせる。ただ何と無く思い付きを呟いただけなのに、そんなにも偉大な事なのだろうかと。
ミオは霊石の価値を良く理解していなかった。まだ発見されたばかりの霊石に利用価値は何もないからだ。
しかし、そこに内包されている霊力を放出する方法さえ分かってしまえば、霊力を練ることが出来ずに精霊に願いを伝えられないヒト族ですら精霊魔法を使えるようになるのかも知れない。それだけでも、霊石の価値は計り知れないモノとなる。
「…あっ」
そんな事も知らず…思い付きで歴史に名を連ねるという栄光を手に入れるかも知れない。それだけで頭がいっぱいになっていたミオは、何かに気付いたように視線を移す。
ミオを抱きしめたままのアルバートがその視線を追ってみると、そこには金属板をカチャカチャと叩いているティムの姿があった。
「どうかしたのかい?」
ティムの姿を見つめながら、悩み始めたミオは潤んだ瞳でアルバートを見つめる。そして静かに懇願しだした。
「…このことはティムには言わないで」
「このこと?」
「ティムは…英雄ガルドを越えるのがティムの夢なの。それを私が奪うことは出来ないわ、だから、ティムにはこのことは言わないで。お願い!」
「あぁ…なるほど」
アルバートにもミオが言いたい事がやっと分かった。ミオはティムとの関係が歪になる事を恐れているのだ。
霊石の将来価値を考えれば、名付け親であるミオの名前はガルドと肩を並べるか、本当にそれを越えてしまうかもしれない。それを夢見ている少年には決して告げられない事だった。
「わかりましたよ、もちろんですとも」
「ありがとうっ!!」
アルバートの腕から解放されたミオは、了承の言葉にパッと顔を輝かす。その笑顔は野に咲く一輪の花のように、周囲を華やかに彩った。
「なんだ? 嬉しそうだな。なんかあったか?」
そこにさっきまで金属板を弄っていたティムがやってくる。ミオは瞬時に取り繕うような笑顔を浮かべた。
「なんでもないわよ。それよりどうしたの、そっちこそ何かあった?」
「おう、それなんだけどよ」
ティムは、ミオの様子に気付いた素振りも見せずに自分に話題が振られたことを好機と思い、そのまま要件を話し出す。
ミオは、ホッと胸を撫で下ろした。
「また出口がないぞ」
「え?」
「入って来た所も、あの金属板が塞いじまったし。他に扉も見当たらねぇ、どうするんだ?」
「「えぇ!?」」
師弟もミオも霊石や魔法陣に気を取られていて、そのことに気付いていなかった。ティムに言われて部屋を見回し、それが事実である事にやっと気付く。
「ど、どうしよう!」
「う〜む、やはり私が心配していた通りでしたね」
「なるほど…さすが師匠ですね!」
本気で戸惑うミオの傍で、師弟が笑い出した。
「そうじゃないでしょ、どうやってこの部屋から出るのかを考えろって言ってるのよ。このバカ師弟!」
「イタッ…」
ミオの鉄拳が2人を襲う。
高笑いをしていた師弟は頭を抑えて蹲った。ミオはそんな2人を引き摺って部屋の端まで連れて行くと、さっさと調べて来い! と投げ捨てるの 。
「貴様! 乱暴だぞ!」
「まぁまぁセキ、ミオさんは私達の力が必要なんですよ。頼み方は乱暴ですが、そこは広い心で受け止めてあげようではありませんか」
「師匠…流石です!」
そんな2人の会話にイラッとしたミオはついでの鉄拳を振るう。師弟はミオの監視の元、馬車馬の如く部屋の調査を行うのだった。
「そこの、バカ師匠! サボってんじゃないわよ!」
「いや、この霊石は変わった色を…」
「それって出口見つけるのに必要なの!?」
「いや…」
「さっさと働け!」
「イタッ」
「師匠!!」
しばらくの間、部屋の中では師弟の叫びが何度も響いていたという。
「師匠…頭が痛いです」
「私もだよ」
「…私達は何故正座をさせられているのでしょうか」
「私にも分からないよ」
「「イタィッ」」
「はっはっは、ミオに逆らうからそうなるんだよ…イテェッ」
部屋の探索をしていた師弟はいつの間にかミオの前で、並んで正座させられていた。師弟は何度も殴られた頭を抑えながら、何故こんな事になっているのかが分からない。早く部屋の探索をしなければならないのに、正座をさせられて殴られるのだ。師弟は揃って頭をさすっていた。
ミオの隣で師弟を笑っていたティムも…何年も慣れ親しんだその痛みに頭を抑えていた。
「アンタ達っ!」
「「はいっ!」」
「ティムは黙ってなさい!」
「なんでだよ…イテェッ」
ミオに呼ばれると反射的に反応するようになってしまった3人は、即座に返事を返した。しかし、ミオの言う“アンタ達”の中にティムは入ってなかったようで、リオンを手伝って部屋の調査をするように言われる。ティムは痛む頭を抑えて逃げるようにその指示に従った。
「さて、アンタ達2人に聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ? さっさと要件を言え、師匠と私は早く調査を再開したいのだ」
何故正座させられているのか分からないセキは、ミオの質問に少し苛立つ。
「そうよね? 早く出口を見つけて地上に戻らなきゃいけないものね? だから部屋を調査しているのよね?」
「その通りですミオさん。ですから、早く再開させて下さい」
師匠も正座の体勢で首を傾げながら、ミオに速やかな再開を訴える。正座したままソワソワと動く足が、調査の早期再開を待ち望んでいた。
「なら…なんでアンタ達は部屋の中央で霊石を弄っていたのかしらね?」
これでバカ師弟も言いたい事が理解出来るだろう。ミオはそう思ったのだが、師弟は質問の意図が分からないように揃って首を傾げた。
「それはもちろんこの部屋を調査していたからだ」
「そうですね、壁際の調査を続けて段々とこの部屋の魔法陣の用途が分かって来たのです」
「まだまだ仕組みや構成方法等、分からない所は多いがこの魔法陣は本当に凄いぞ!」
だから早く調査の再開を!
師弟は声を揃えてそう訴えてくる。
「ふ〜ん…それで? 何が分かったの?」
ミオは元々細い目を更に細めて、冷たい視線を投げつけた。
「よく聞いた! この部屋の壁際には魔力を用いた封印、あるいは隠蔽されているような扉は存在しないのだ」
「ふ〜ん…そう出口が見つけられないのね…それで?」
「それでだ、壁際を調べていると何とっ、この魔法陣は周囲に漂う魔素を1点に集めているということが分かったのだ」
「分かりますか? 魔素、つまり魔力の源流を集めているのですよ? そして、集める過程で魔素を霊力に変換させて石に封入していたのです」
「しかもだ、もう一度霊石を調べてみたが内包されている力には魔力の痕跡が全くないのだ」
「つまりこれは魔力を元とした魔術構成の魔法陣で、魔素を霊力に完璧に変換できているという事なのです」
師弟は冷たい視線に気付く事なく、世紀の大発見に熱量をあげる。
「この方法を確立出来れば、魔力しか練る事の出来ないヒト族も精霊魔法を使えるようになるかもしれないのだ! この霊石だけでも大発見なのに、その霊石すらなくとも霊力を生み出す事が出来るかもしれないんだぞ!」
「まさに大発見ですよ! 古代の魔術師は精霊魔法の神秘ですらその身に納めていたのかも知れません!」
師弟の熱量が上がると共に、ミオの視線が更に鋭くなっていく。
「言っている事が分かるか? これは魔素と、霊力の源が同じモノである可能性を示唆しているのだぞ!?」
「あるいは、代用出来るという事ですね」
「この変換理論が証明されれば、種族間の違いで起こっていた諍いすらも解決に導けるかも知れない!」
「今別れている種族の垣根すら、元は同じ起源を持っているモノ同士が勝手に築いたモノかも知れませんからね」
どうだ、凄いだろう。2人の瞳はそう言いたげに輝いていた。
「…それで? その起源やらなんやらが分かれば出口は見つかるのかしら?」
しかし、ミオの言葉は限りなく冷たい。新婚夫婦のような師弟に冷水を浴びせるような言葉を投げかけた。
「「…っ!!」」
師弟はハッと息を呑んだ。
そしてやっと正面で仁王立ちしているミオの瞳に冷気が漂っていることに気付いたのだった。
「いや、まぁ…その」
師匠が言葉を濁らせる。出口を探している筈が、いつの間にか魔法陣の効力の調査にシフトしていたのだ。
「そ…それはだな、ある意味では終わりの見えない紛争問題を解決に導く…“出口”を探していることに繋がるのだ!」
「そう…ですね、そうですよ、セキ上手い! 私達がしていたのは出口の調査ですよね!」
「さぁ、師匠、調査を再開しましょう」
「今度はアッチの壁際辺りをもう一度調べて、みましょうか。この部屋からも出なければなりませんからね」
「そうですとも、早くもう1つの“出口”を見つけましょう」
師弟は冷や汗を流して、言い繕った。この理論で完璧なのだ、私達は“出口”を探していたのだと。
ミオからそっと目を逸らし、正座を解いて立ち上がる。
「2人共、座りなさい」
「「…はい」」
そしてミオの冷め切った声でもう一度座る。2人は背筋をピンと伸ばして自ら正座した。
「ちゃんとコッチを見なさい」
「見ていますよ。ねぇセキ?」
「はっ、はい! もんちろんですよ師匠」
「…そう、他に何か言いたい事はある?」
師弟は目を泳がせて顔を見合わせた。
互いの顔に流れる冷や汗が、逃れられない恐怖が来襲したのだと示していた。
ミオの冷視の前で、微妙な沈黙が辛い。
「こんの…バカ師弟がっ!!」
ミオの怒鳴り声が響く。
その声を聞いて顔を見合わせたティムとリオンは苦笑いを浮かべると、こちらにまで飛び火しないようにせっせと扉を探すのだった。




