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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第2章 古代遺跡
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通路は続く



「おい、聞いてるのかよ?」

「はいはい、ガルドは魔剣で大岩みたいなドラゴンを切り裂いたのよね」

「違うって! ガルドは巨大な岩石を切り裂くような技術と怪力を持っていて、さらに魔法剣で炎を切り裂いて…んで、ドラゴンキラーになったんだよ。全く、何を聞いてたんだ?」

「はいはい」

「なんだよ…たくっこれだから女はよ。リオン! お前は解るよな?」

「…まぁ」


昼を過ぎてから起きてきたティムはずっとこんな調子だった。

昨晩手に入れた新しいガルドの英雄譚を織り交ぜて、我が物顔でミオに語って聞かせているのだ。ミオからすれば全く興味のない話を永遠と繰り返してくるティムがうっとおしくて仕方が無い。ティムもミオの適当過ぎる相槌に嫌気がさしたのか、同じ男ならば理解し合えるのではと相手をリオンに切り替えてみても、リオンもリオンで反応が薄かった。


「リオンは本当に気分屋ね」


ミオは、黙々と遅めの昼食を片付けているリオンに笑みを浮かべる。また言葉少なになっているリオンだが、何処か嬉しそうにしているのがミオには嬉しかった。それはティムも同様で、親しいヒトにしか分からない変化をリオンが見せているからだ。


今も初めてのヒトには分かりづらい笑顔を浮かべたリオンが、まだ眠そうなセキの口周りに付いた食べカスを綺麗に拭っている。


「ティム…だったか? 師匠も言ったと思うがガルドがドラゴンキラーだというのは、怪しい噂だぞ」


されるがままに口を拭われているセキが、そんな事を言い出してミオは小さな幸せから解き放たれて深いため息を付いた。やっとティムの話も落ち着き始めていたのに、わざわざケンカを売るような話題を振らないで欲しい。


「何だと!? お前はガルドをバカにすんのか?」


ーーほら、簡単にノッてきた。全く単純バカなんだから。


ミオはもう一度深いため息を吐き出した。


「ガルドの事をバカにしている訳ではない。現在の王都ローレンスのある場所が、まだ対モンスター戦線の最前線として傭兵都市となっていた頃、その頃のガルドの活躍は多くの史書にも記されていて、それは疑う余地のない事実であろうさ。しかし、その後突如として姿を消したガルドがドラゴンキラーになったという話は口伝でしか伝わっていない眉唾ものの話だということだ」

「あん?」


ーーアレ? ティムがあんまり騒がない…あっ、ティムの理解能力の限界を超えたのね。コムル村にはセキみたいな話し方の人はいないし、聞きなれない単語も多いものね、まぁ仕方ないわね。さぁ、何て言うかしら? ここで引き下がっちゃダメよ。


ミオは何処か楽しそうな表情で、戸惑うティムを見守り出した。


「何言ってるかわかんねぇ!」


その余りに安直な一言に、ミオは思わず吹き出す。小さな少女にやり込まれていくティムの様子がおかしすぎる。


「だから、ガルドがドラゴンを倒したとは限らないと言っているのだ。」

「何を言ってんだ? お前は知らないかもしれないが、風竜はもういないんだぜ?」


ーーん~、それはちょっと弱いんじゃないかしら。


風のドラゴン、又は風竜、それはこの風の樹海に君臨していたモンスターの王だった。ティムが生まれた時には既に存在しておらず、ティム自身がガルドの英雄譚に憧れて、不在のドラゴンの巣を見に行っていたのだ。ならば誰が魔物の王を倒したのかーーこれで勝機を得たとティムは思い、ニヤニヤと卑劣な笑顔を浮かべてセキに近付いていくが…。


「お前はバカなのか? 風のドラゴンは確かに居ないかも知れないが、それがガルドが退治したからだ、という証拠は何処にもないと言っているのだぞ?」

「ん?」


ーーほら…ティムのバカ。


セキにジリジリと歩み寄っていたティムの動きが止まった。ドラゴンがいないのに、ガルドが倒した訳でもない? なら、誰が風竜を倒したというのだろうか? セキの言葉は意味がわからない。


ティムは止まったまま、困惑の表情で首を傾げている。


ーーはぁ…限界ね。


「お母さんから、風のドラゴンの消失とガルドが樹海に旅立った時期が一致しているって聞いたわ。証拠は無くても、可能性としては高いんじゃないの?」


ミオは仕方が無いので、助け舟を出してあげることにした。ティムは喜びの瞳を向けてくる。


「そっ…そうだよな! やっぱ、ガルドが倒したんだよな? なっ?」


風竜をガルドが倒したかどうかはミオにとってはどうでも良い事だ。だが、新顔のセキに負けっぱなしのティムは見ていられなかった。身長だってティムの半分ぐらいしかないんだから。


「まぁ…そうだな。倒した証拠は無いが、ガルドが退治したのでは無いといする証拠も無い。時期が一致するというのも確かな事だし、そう考えるのも若者には夢があるのかもしれないな」

「アンタは一々偉そうよね」


ミオとセキの視線が交わり、思わず揃って苦笑を浮かべる。ティムは結局何が正しいのか不安になって答えを求めるように2人の顔を見交わすが、2人にしてみれば話は既に終わったようで、スタスタとその場から去っていった。


「なぁリオン…ガルドは英雄だよな?」

「ふふ。たぶんね」


リオンは、不安でいっぱいのティムの顔を見つめると、堪えていたモノを吹き出したように微笑みを浮かべた。そして、ただ笑顔でティムの頭を撫でてくれた。

ティムはそれで満足したらしい。


「やっぱり! 俺の目標はガルドだ! 俺はガルドに成るんだ!!」


その瞳で何を見つめているのか、天井しかない虚空を見上げて、ティムは自身の夢に誓いをたてるのだった。










アルバートとセキの2人は昼食後、扉の調査を再開していた。扉を前に、あーでもないこーでもないと頭を悩ませている。


ミオは大剣を振るティムをボーッと眺めていた。ティムは憧れの存在に少しでも近付こうと、今からでも努力を重ねるつもりらしい。別に今やらなくても良いのでは無いだろうか? 汗だくに成りながら、剣を振る姿を見てミオが思う。


リオンはというと、蟻の亡き骸を埋葬でもしようというのか、部屋の隅で此方に背を向けて、何やらガサゴソやっている。ミオだけが何の目的も無いかのように、この時間を持て余していた。


「ヒマねぇ」


そんな風に呟いた言葉を聞いてくれる者はいない。ふぅ〜と息を吐き出したミオはヒマだからという理由で、先読みの魔法を使ってみた。

頭上の穴の様子を索敵を兼ねて調べてみるらしい。


そんな何と無しに唱えた魔法で得られたのは、穴の周囲に蟻が集まっているとの情報だった。もしやこの部屋まで攻めて来るつもりでは! ミオは一気に血の気が引いた。こんな小部屋に多量の蟻が落ちてくれば、流石のティム達でも危ない。皆に報せる為に声を出そうとしたところで、精霊が新たな情報をもたらした。どうやら、襲ってくるような気配はなく、巣穴に空いた穴の修繕を行っているようなのだ。ミオは安堵に包まれる。


「ミオさん」

「きゃっ!」


気が緩んだ瞬間に声をかけられたミオは、返事の代わりに悲鳴を上げた。剣を振っていたティムやリオンも何事かと振り返える。


「驚かせてしまいましたか?」

「いいえ、問題ないわ。どうかしたの?」

「ふむ。少しお願いがありましてね、あの扉、何かしらの魔力を注げば開くようなのですが、私の扱える系統では開かないのですよ。なので、ミオさんの霊力を試してみて欲しいのです」


どうやら、アルバート逹は扉の開け方をなんとなく理解出来たようだった。しかし、自分達だけで試してみても開かない為、ミオに助力を願い出たようだ。


ちなみに、アルバートは魔術学院の教師をしていただけあり、4大基礎と呼ばれる地水火風の属性魔法は全て扱える。それでも開かないとなれば、アルバートが知らない魔力かそれとも…ということだ。


「私、古代魔法の理論なんて解らないわよ?」

「大丈夫です、決まった場所に手をかざしながら魔法を使う時のように魔力を…いや霊力を溜めてくれればそれでいいので」


つまりは手のひらに集めた霊力を、決まった場所にかざすだけで良いのだろうか? それならば簡単だ。霊力を練る特訓で手のひらに霊力を集める事は何度も行ったのだから。


「それなら、やってみるわ」

「よろしくお願いします」

「おっ…プハァー…扉が開くのか?」


ミオ達の雰囲気から、面白そうな事が始まると思ったティムが近くに寄って来ていた。その手には中の水を飲み干して、ヒラヒラになった皮袋が垂れ下がっている。


「アンタは…いつ出られるのか解らないのよ。水は大切に飲みなさい」


周りに水が無くとも、そこに水の精霊さえいれば、ミオの願いで簡単に飲料水は手に入る。しかし、それでも節度は守って欲しい。ミオの目は鋭くティムを射抜いていた。


「悪りぃ悪りぃ」


ティムは、空に成った皮袋を見つめて頭を掻いた。言われてみればと思ったのだろう、少しバツが悪そうに眉を顰める。


「まぁ、いいわ邪魔しないように見てなさい。今から私の魔法で扉を開いてあげるから。」


開く保証もないのに、そんなことを明言するミオにアルバートは苦笑を浮かべる。リオンも様子が気になったのか皆のそばにやって来た。


ミオは全員に見つめられたまま、アルバートに指し示された場所に手をかざす。やることは、簡単な事なのに自分の言葉で余計なプレッシャーをかけってしまったようだ。少し指が震えていた。


「そっ…それじゃぁいくわよ?」

「行って来い!」


いや別に何処かに移動するわけでは無いのだが…そんなティムの返答を聞き流し、ミオはいつもの様に霊力を練り始める。


体内に霊力を練り込み手の平へと集めていく、練り終われば身体の力を少し抜く。ここで願いを唱えれば対応する精霊によって練られた霊力が吸い取られていくのだが、今は願いを唱えるつもりはない。


ミオは霊力を宿した手を指示された場所にかざした。


「おぉ!! 素晴らしい! やはり霊力がこの扉を開く鍵……」


目の前の扉が、音も無く動き始める。とても重そうな扉が音も無く動きだした。

神代の技術を垣間見たアルバートはたいそう喜んでいたそうな…









扉の先には一本道の通路があった。

通路もさっきの部屋と同じような材質で造られており、光源が見当たらないのに昼間のような明るさを灯している。


5人はそんな通路を進む。


横道すら見つからず、出口も見えない長い通路をただ歩く。


「ミオぉぉ、頼むよ喉が渇いたんだよ。水出してくれよ」


ティムは中身を飲み干した革袋を差し出してミオに懇願していた。さすがに何時間も歩き続けていれば、喉も乾いてくるというものだ。


「ダメよ、アンタのせいでしょ」


だが、節制の心が足りないティムを矯正するのに良い機会だと、ミオは頑として受け付けない。


「なんだよっ! ここでモンスターに襲われたらどうなるのか分かってんのか? 俺が干からびてたら、マトモに戦えないだろうがよ!」

「はいはい」


ティムの脅しのような言葉も、ミオには通用しなかった。ティムが動けなくともリオンがいるし、今はバカみたいに強力な古代魔法を使える2人の師弟も同行しているのだから。


「素晴らしい! こんなにも完璧な形で残っている古代遺跡など見たことがない。この照明はなんだ? ライトウィスプを壁に付与しているのか? しかし、その魔力は何処からきている? …まさか!? 非生物に魔力を収集させる技術を持っていたとでも!? いや…しかし…だがそれならば説明出来る。神代の生活用品で用途のわからないモノが多数発掘されていたが、この推論が正しいならば…」


まぁ、師匠は神代遺跡の魅力に取り付かれていて、歩くこともままならないような状態なのだが。


「終わらないね…」


リオンは1人で呟いた。

終わらない通路、先の見えない長い通路。この通路をこのまま歩いていても良いのだろうか、そんな疑問が生んだ言葉だった。


「ティム達の事か? それとも師匠の独り言か?」


リオンの独り言にセキが返事をした。リオンは驚きセキを眺める。そして諦めたように言葉を紡ぐ。


「通路のことだよ」

「そうか…そうだな。それより貴様は話が出来るのに何故話さない? あの2人を信頼していない訳ではないだろう?」


セキも通路が終わらないことに思う所はあるだろうが、それは考えても仕方ないと諦めているようだ。それよりも、セキはリオンの言葉が少ないことに興味を抱いた。昔の自分と同じなのだという師匠の言葉が、余計にそうさせた。


「セキさんは、師匠を信頼してなかったから話さなかったの?」

「セキで良い。まぁ、出会った時は幼かったし、それまでの記憶も無いからな。いきなり道で出会った他人を信頼しろと言う方が難しいだろう?」

「…そうだね」


記憶が無い、セキは事も無く言うがそれがどれほど大事な事かリオンには分かる。過去を無くすのは今の自分の存在をあやふやにさせるのだ。セキは気丈に振る舞っているが、自分の存在自体に不安を抱いている事だろう。それを表に出さずに済むのは…アルバートのおかげだろうか。


「僕は…まぁ…嫌いな人の前で話をしたくないだけなんだよ。相手の方は僕の事を嫌っている訳じゃないから話し掛けてくる。それに答えないと周りが変に思うでしょ? だから、元々言葉を少なくして、そうならないようにしてるんだよ」

「…はっ! 子どもだな」


セキの重大な秘密を知った気がしたリオンは、代わりにティム達も知らない真実を語った。その事実を知ったセキは大層な理由があるかと思っていたのに、大した事のない子どもの意地のような理由を鼻で笑った。


リオンは、自分でも子どもだと思う事だが、実際に子どものセキに断言されてしまうと、少し恥ずかしさを感じた。


「…そうかも知れないね」


それでも、リオンはそれを止めるつもりはなかった。それだけがリオンに出来る抵抗だったからだ。


「なんだか、貴様は陰が濃いな。別に貴様だけが苦労している訳ではないだろうに…その陰は周囲の者にも影響するんだ。シャキッとしろ!」

「…ごめんね」


「…ふんっ!」


セキに怒られてもリオンの態度は直らない。やがて呆れたような表情で、セキは去って行った。貴様のそばにいると私にまで陰が伝染ると言い残して。







「でも…僕は貴方の事を許せないんです、どうしても……父さん」


取り残されたリオンは自分に言い訳をするように呟いた。


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