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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第2章 古代遺跡
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外界



落ちた衝撃で気を失っていたティムは、自分がいる場所に目を向けると戸惑ったような表情を浮かべた。


「…どこだ? くそっ…あのバカ師弟が」

「とりあえず…逃げ切れただけでも良いんじゃないの?」


ほぼ同時に気が付いたミオは、どうやら黒蟻逹の巣穴から逃げだせたことに安堵していた。


5人は今、良く解らない場所に居た。


いや、崩れた巣穴から落ちて来たのだから、ここが蟻の巣穴よりも地下に位置する場所だというのはわかる。解らないのは、何故こんなところに人工的な部屋が有るのかということだ。


部屋の内装は床だけではなく、10メートルはあるであろう高さの天井や、人為的に整えられた四方の壁。それも、今の時代には見られないような、高級感の漂う光沢を持った強固そうな材質で統一されている。そんな大剣で斬り付けても傷が付かなそうな材質なのに、全面の壁や床に細かな細工が施してあり緻密な紋様が描かれている。その巧みさが、人の寄り付かないようなこんな所にある部屋の奇妙さを煽っていた。


5人はそんな部屋を見て惚けていた。


「師匠、ここは…」

「うむ。やはり、神代の古代遺跡は風の樹海の中にもあったようですね」

「では、慈愛神様がここに!?」

「それは…どうでしょうか」


ティム逹に遅れて目を覚ました師弟は、そんな会話をしながら惚けたように内装を眺めていた。


一緒に落ちて来た蟻達は、爆発に巻き込まれ、あるいは落下の衝撃で動かなくなっている。リオンが注意深くその蟻達を警戒していたが、既に事切れているようだ。



ティム達が助かったのは、師匠が咄嗟にかけてくれた防御魔法のおかげだった。切迫詰まった時間の中で唱えられた魔法であったため、無傷という訳にはいかなかったが、ここには回復魔法が得意なミオもいる。全員生き残れた彼等はミオの魔法で傷1つなくなっていた。


「ともあれ、部屋があるのですから出口もあるはずです。私達ならそれを見つけれますよ!」


古代遺跡に探究心をくすぐられた師弟は周囲の探索へと駆けていく。

ティム達は、バカ師弟の行動に呆れながら頭上の穴から後発の蟻が落ちてこないか注意して野宿の準備を始めた。










「お~いバカ師弟、飯が出来たぞ」


長年人が訪れず、内在する埃っぽい空気を切り裂いてティムの声が響き渡った。傷はなくとも、疲弊した身体のまま、探究心の求めに応じて探索を続けていた師弟は現実に引き戻されたことに戸惑いを見せるが、トコトコとティム達の待つ場所に戻って来る。


「出口はあったか?」


弟子が起こした魔法の焚き火を囲んでいたティムが、やっと帰ってきた師弟に目を向ける。


「扉らしきものは見つけたんですが、開け方がわからないのですよ。どうやら、ここで一泊しなくてはいけませんね」

「師匠の所為ではありません…そもそも私が良く調べもせずに爆烈岩のそばで火系魔法を用いたのがいけなかったのです」


戻って早々、頭を下げながら説明する師匠の横から、項垂れた様子の弟子が割って入る。

この小部屋から簡単に抜け出せると請け負っていたが、その結果は芳しく無かったようだ。


「別に期待してなかったわよ」


師弟共々頭を下げているが、リオンからスープを受け取ったミオは興味が無いと切り捨てた。この場所で気が付いた時から浮き足立っていた師弟にさほどの期待もしていなかったらしい。


「まぁ、扉が見つかっただけでも儲けものだろ。おっ、ありがとよ」


ティム達も同じ考えだったのか、さっさと野宿の準備を進めていたのだ。


ティムは師弟から目線を外してリオンが配膳してくれたスープを手に取り、喉を鳴らす。師弟も頭を上げ、自分達の為に用意された器の前へ着席する。師匠はリオンの配膳が終わるのを毅然とした態度で待っているようだが、弟子の方は目の前に食事が置かれた瞬間、思い出したように迫ってくる空腹感にヨダレを飲み込む。


「スープだけか?」

「パンは無いよ。2人がモグラの肉でも取っといてくれてれば、干し肉じゃないお肉が入ってたんだけどね」

「リオンのことが心配で、そんな余裕は無かったのよ」

「…ありがとう」


野草が浮かべられただけのスープを見て、ティムが不平を口にする。

ティムは料理に興味がなく、森の恩恵で生きる妖精族ーーエルフのミオは、料理に必須な炎が苦手である。もちろん過去の記憶もその一因だ。つまり、ティム達の中ではリオンが料理の担当なのだ。


「流暢に話せるのだな…」

「…え?」

「いや、お前は言葉を話すのが苦手な人間かと思っていたのだ。気に障ったのなら謝る」


弟子は、今まで殆どの会話を単語で済ませていたリオンが流暢に話をしているのが気になったようだった。


「あぁ、リオンはね、私達以外には心を開いて無いのよ。まぁ、私達の前でも話さないことは多いけどね」


ミオがさも当然とばかりに説明するが、弟子には言っている意味が良く解らなかった。


「昔の貴女と同じなんでしょう」


首をひねっている弟子に、師匠が説明を付け加えてくれた。弟子も自分の過去を振り返り、納得したのか深妙な面持ちでリオンを眺める。


「無作法ですね」

「あっ…すまない、いや、すみませんでした」


他人を凝視する弟子に師匠が一喝入れる。しかし、師匠も弟子の様子に思うところが有るようで、それ程責めている様子はみられない。


「さて、落ち着いた所で自己紹介からしませんか?」


全員が落ち着くと、師匠は暗鬱とした空気を咲くように、明るい声量で切り出した。蟻の巣穴を抜け出すまで、バタバタとしていてお互いの名前も知らないままだが、ここから抜け出すのもまだまだ時間が掛かるのだからと、互いを知りたいようだ。


グゥ〜


そんな中、弟子のお腹が盛大に鳴り響く。

リオンの着席と同時に、スープへと手を伸ばしていた弟子は、師匠の発言に目を丸くしていた。それに気付いたリオンが大きな笑い声をあげる。


「あははっ。先にご飯にしませんか、お弟子さんは堪え切れないみたいですし、冷める前に頂きましょう」

「不肖の弟子がすみません、ありがとう」


リオンは気にしていないように笑顔で食事を促した。








「さてと、ご馳走様でした。そろそろ…全く、どれだけ食べるつもりですか?」


スープだけの食事であったため、皆の胃袋に収まるのに然程の時間はかからなかった。改めて自己紹介を、と思った師匠の目にはリオンにお代わりを求める弟子の姿が映る。そんな愚弟な態度にため息をつく師匠と、スプーンを加えたまま、お代わりを受け取る弟子の姿がティム達から笑いを生んだ。


弟子の代わりに頭を下げる師匠だったが、尊大な言葉遣いをする幼い少女に、少し嫌悪感を抱いていたティムやミオは年相応なその態度に好感を抱いていた。


弟子は師匠に怒られながらも、腹の虫を黙らす為に急いでお代わりのスープを飲み干した。急ぎ過ぎて咳き込む姿が、またティム逹の笑いを引き寄せた。


「改めまして、私の名はアルバート・オー・ニルソン。王都ローレンスの魔術学院で教鞭を執っていましたが、現在は故あって神代の古代遺跡を調査する旅を行っています。この度は、危ない所を助けて頂き本当にありがとうございました。愚弟共々、感謝致します」


王都ローレンスやら、魔術学院やらと聞きなれない言葉が出たが、ティム達はそれほど気にしていない。ティム達が知らない人間なのだから、樹海の外から来た人間だというのは一目瞭然で、外にはそんな名前の国があるのか、といった程度の受け止め方だ。


「そして私が弟子のセキ・オー・ニルソンだ。同じニルソン姓だが、旅中の師匠に拾ってもらった孤児だ。よろしく頼む」


「ふーん、俺はティム、ティム・グラムだ。親はもういない。見ての通り剣士だ」

「ミオ・ジン・テテュスよ。種族はエルフで精霊魔法が得意なのは…まぁ、わかるわよね。その中でも風や樹々の恩恵を深く受けているわ」

「リオン・ホソヒトです。索敵や囮役を良くやってます。よろしくお願いします」


食後の倦怠感もあり、ティム達は思い思いの体勢で軽い挨拶を行う。アルバートは、出自よりも、戦闘能力に重きを置いた傭兵や冒険者のような自己紹介に苦笑いを浮かべていた。


「君達は見た所かなりの腕前のようだけど、どこの国の所属ですか? それとも冒険者ですか?」


アルバートにとってこの質問はとても大事な意味があった。


多くの国で信仰されている慈愛神を探す目的で風の樹海の調査を行っている国は多い為、彼等がどこの出身なのかが重要になってくる。こんな危険地帯で国を隔てた争いなどしている暇はないのだ。

その為、どこの国民なのかを知ることで、作法や常識のズレを認識しておきたいのだ。いくら腕が立つといっても、まだ年若い者を国士として送ってくるような国であれば、大きな価値観の違いがありそうな気がした。


しかし、そんな質問をしながらもアルバート自身は彼等を冒険者だと半ば確信していた。一攫千金を夢見て無謀なーー彼等の腕前ならば、この風の樹海でも無謀とは呼ばないかもしれないがーー挑戦を行った類では無いだろうかと。


「所属?」


ティムは回答に困ってリオンに助けを求める。戦闘知識やら、鍛冶術やらに生涯を捧げて来たティムはそれ以外の言葉をよく理解していないのだ。つまり、バカなのだ。


「えっと…この樹海は、どこの国に所属していますか?」


視線で話を振られたリオンは、戸惑いながら、なんとか質問に答えようと思考を巡らした。質問に質問を返す形になってしまったが、それをしなければ師弟が求めている返答は出来ないだろう。


「ん? 風の樹海のことですか? …もちろん風の樹海は神域とされているので、どこの国にも所属してはいませんよ。あえて言うならば、一番身近な場所に建国されていて強国でもある王都ローレンスの主張が最も有力ではありますが…何しろどこの国も手を付けられないような危険地帯ですからね、一番最初にこの樹海を踏破した国が占有権を宣告すると思いますよ」


意図していなかった返答にアルバートは戸惑いを見せるが、即座に問われた内容に答えを返す。


「リオン…意味わかるか?」


ややこしい話を聞いたティムは、途中で理解するのを諦めてしまったようだ。


「えっ…えっと、そうですね、それなら僕達はどこの国にも所属していません」

「ん?」


リオンもミオも、話自体は大体理解していたが、樹海外の情勢や常識を知らない為に、返答に迷う。そうしてやっと絞り出した答えに、今度はアルバートの思考が追いつかなかった。

暫く悩んだ後、先ほどの質問の意味と照らし合わせて、その答えに辿り着く。


「もしかして…貴方逹はこの樹海の生まれなのですか?」


そんな師匠の言葉に、眠そうにしていたセキが身を震わせて驚いた。

一瞬にしてスッカリ目が覚めたようだ。


「そうですよ。僕らの村はこの森の最奥にあります。この森で生まれて、この森で育ったのが僕らです」

「それは…その…」


師匠は言葉に詰まってしまった。

樹海の外に生きる人間にとって、この森にヒトが住んでいることなどあり得ない。それはこの森に巣食っている猛獣達との生存競争に耐えているということなのだから。

どうやって生きてきたのか、この樹海は何処まで続くのか、森のモンスターの生態系、この森で慈愛神を見た事があるのか…問い詰めたい事は多いが、何から聞けば良いのかがわからなかった。


「えっと…」


アルバートは多過ぎる質問に言葉を詰まらせる。

そもそも、彼らが言っていることは本当なのだろうか、彼らが嘘を言っているようには見えないが、強国と呼ばれる王都ローレンスやジブリス帝国でもこの樹海の表層を撫でたような調査しか行えていない。そんな樹海で生き残っている…今は頭の中の常識と戦うことで精一杯なようだ。


「よぉ、おっさん達はガルドって知ってるか?」


やけにテンションが上がったティムが英雄の話を切り出した。微妙な沈黙が漂っていた空間が簡単に切り裂かれていく。


「えっ? 英雄ガルドの事ですか?」

「そう! ガルドは外地の人間なんだろ? 俺の憧れなんだよ! 話聞かせてくれないか? 外地ではどんな話が伝わってんだ!?」

「はぁ…樹海でもガルドの話は知られているんですね。いいですよ、英雄ガルドについては様々な学者が研究していますが、未だに詳細は分かっていません。

出生地はジブリス帝国だとも、砂漠の国だとも言われていて、種族もヒト族だとも、妖精族のドワーフだともーーー。」


結局、その夜のアルバートは、目を輝かせて話をせがみ続けるティムが疲れ果てて眠りにつくまで、英雄ガルドの物語を聞かせる事となった。少年逹の出自については、言葉で聞くよりも、もう少し一緒に過ごしてみることにしたようだ。


自己紹介も簡単なものだったが、少年たちのヒトとなりを知るには十分だった気がする。そうでなくとも心配していたような国同士の喧騒に発展するようなことはないだろう。

それがティム達と関わったアルバートの感想だった。


すでに眠気に負けたセキは、焚き火のそばで丸くなって眠っていて、ミオも思いの場所で眠りについる。リオンは、ミオに毛布を手渡し、セキを毛布で優しく包み込んだ後、周囲を警戒しながら座った姿勢で眠りについた。

ティムだけがいつまでも眠らなそうな笑い声を上げ、うつらうつらし始めたアルバートを揺り起こしては話をせがんでいた。



地下深くの古代遺跡の中で、今が何時頃なのかはわからないが、夜は更けきって居ることだろう。この日一日で色んな体験をした面々は、深い眠りにつくのだった。


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