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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第2章 古代遺跡
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バカ師弟



「こんな狭い空間で強力な魔法を使ってはいけない! もしかしたら床が崩れるかも知れないでしょう!」


迫り来る蟻達から逃げながら、弟子が多量の魔素を集めていることに気付いた師匠が一喝する。


食料庫から続いていた通路はやはり蟻の巣の中で、5人が逃げ出したことに気付いた蟻達が再度捕らえようと追ってきているのだ。

蟻逹は5人よりも足が遅い為、何とか逃げ続けているが、囲まれてしまえば戦うしか道がない。


「良いから走れ、バカ師弟!」


ティムは自分の事を棚上げしている師匠や、律儀に頭を下げようと立ち止まる弟子に苛立ちながら、2人のケツを蹴飛ばして走らせる。若干、2人から咎めるような視線が向けられたが、そんなものは無視だ。

真っ暗闇の通路は2人の魔術師が創り出した、拳大の光球によって照らされている。だが、そのバカ2人が何度も立ち止まろうとする所為で、先頭を走るリオンまで十分な光が届いていないのだ。ティムは色んな苛立ちを抑え込みながら走っていた。


「挟まれるっ…」


自分まで届いて来ない光など気にする様子もなく先頭を走り続けていたリオンが急に立ち止まる。

狭い洞窟の中では小さな物音が反響してしまい、音を聞き分けるのも難しくなるのだが、リオンにしてみれば、自分達以外の存在の音ーーすなわち、“敵”であることが分かる。それゆえ、暗闇に問題を感じていないのだ。また、自分の足音が壁に当たって反響するまでの時間に気を配れば、壁までの距離が何と無く分かってしまうという、コウモリのような人間離れした感覚で自分の位置を認識している。


そんなリオンが立ち止まり、ティム達を振り返った。

おそらく、リオンの前方から蟻達が迫っている音なりなんなりが聞こえて来たのだろう。このまま進めば、挟み撃ちになってしまう。


「ちっ…仕方ない。後方の蟻を殲滅するぞ」


ティムは即座に決断を下した。前方からやってくる蟻達は、それなりの隊列を組んで5人に襲いかかるだろう。


それならば、ティム達が逃げ続けたことによって、隊列を崩している後方の蟻を個別に殲滅していく方が比較的安全だった。どんなモンスターであれ、個体によって足の速さなどに差が出てくるものだ。これは森の中で群勢を組んで襲いかかってくるモンスターから学んだ戦闘方法だった。


もちろんその戦法が役に立つのは、追従を個体の身体能力に任せて行うモンスターだけだ。狼種などで頭の良いモンスターはチームとしての連携を意識しながら追従してくるため、あまり効果はないし、自分達よりも足が速いモンスターが相手ならば、逃亡中に無防備な背中をグサリとやられる。また、各個撃破に時間がかかり過ぎれば、追い付いてきたモンスターに囲まれてしまい、数で劣るティム達には勝機がなくなってしまう。


「リオン! こいつら外皮は硬くて剣が通らない。関節や口内を狙え! バカ師弟はデカイ魔法は使うなよ! 炎の壁も水の柱もナシだからな!」


瓦礫にまみれて階下に落ちたくないティムは今までの戦闘から得た知識をリオンに伝えながら、師弟に釘をさす。同時に追って来た先頭の蟻へと歩みより実際に蟻の首筋に大剣を押し当てて、力任せに切り落とした。

リオンも即座に動き出し、殿しんがりのティムを追い抜くと、大剣よりも小回りの効く小剣で蟻の口内に剣を突き入れ、内側から切り裂いていく。


「なるほど、内側ならば魔法も無効化出来ないかもしれませんね」


それを見ていた師匠から目配せを受けて、弟子がその意図を読み取り魔素を集め始める。魔法の準備が整ったのか、弟子が鋭い眼光を放ったかと思うと、蟻の口内へと赤い光が注ぎ込まれていく。やがて、その一匹が内側から爆散した。


「師匠! 低位魔法でも簡単に倒せます」


その結果に目を輝かせた弟子が、多量の魔素を集め始めた。その効力を見ていたティムも、それ程焦る必要なく殲滅出来そうだと安堵の表情を浮かべる。


「やるじゃねぇかよ、でもやり過ぎるなよ!」


だが、釘は刺しておく。

床が抜けて落ちて死ぬなど、とんでもない。


「ライトウィスプはお任せします」


師匠にそう告げた弟子は、光源の源であった魔法ーーライトウィスプを消し去った。蟻達の殲滅を優先するために、光源魔法の使用をやめたのだろう。その直後、弟子の魔法によって複数の蟻達が連続で爆散していく。


「私、いる意味ないわね」


5人に近い位置まで来た蟻はティムやリオンが切り裂いていく。少し遠くにいる蟻を赤毛の少女が爆散させていく。土系の精霊魔法を扱えないミオには出番が無いようだった。


ミオは赤毛の少女の一騎当千の活躍をながめる。自分が出るまでもなく終わってしまうだろう。それよりも、もしもの時を考えて回復役に徹しているのだーーが、誰もかすり傷すら負う気配がない今、出番などなさそうだった。


「ミオさん…でしたか? 貴方は偉いですね」


師匠が光が皆に行き届くようにライトウィスプを高い位置に登らせて、光量を上げると、同じように手持ち無沙汰になっているミオに話しかけていた。

そんなたわいない日常会話を持ちかけながら、師匠の目は3人の少年少女をジックリと観察していた。なぜこんな少年たちが危険な樹海の中にいるのか。自分達に害を及ぼすような人種なのかどうかを。


ただ、今の時点でわかっていることは、少年逹は思っていたよりも遥かに強いということだけだった。もしかしたら王都を守護する騎士よりも…。


「はいはい」


ミオは師匠の言葉をお座なりに聞き流す。出会い頭には、この師匠に対するミオの下方修正が止まらない。何もしていない自分に対して、また適当なことを言い出した師匠を軽く受け流すことにしたのだ。


「貴女は自分の役割を良く考えて行動しているように見えます」

「そうでしょうね」


ミオは後方の蟻達がドンドンと減っていくのを確認しながら、前方の蟻達の迫り具合に注意を払う。リオンの索敵は流石の精度で、大分と時間が経ったのに、ミオには未だに前方から迫ってくる蟻達の気配がわからなかった。


「でも必ず、来るわね…リオンが言ってるんだから」

「ん、なんですか?」


ミオは、自分の感覚で油断してしまわないように、仲間の言葉を信頼することで気を引きしめた。自身の為に囁いた言葉が隣に立っている師匠まで届かなかったことなど、意中にない。


「先に居るはずの蟻達が気になりますか? 心配なら先読みの魔法を使えば良いんじゃないですか?」


師匠の言葉に、ミオは一緒、訝しげな表情を浮かべた。何のことを言っているのかがわからないようだ。


「貴女はエルフでしょう? 風や樹木、水の精霊に縁深い。ならば、先読みの魔法…でしたか? 風の精霊にこの洞窟の先の様子を教えて貰えば良いのでは?」


ミオはその精霊魔法を知っていた。しかも、使えないかと言えば、そうでは無い。

精霊魔法は師弟が使っている様な、魔力を元に組み立てられる複雑な理論理解などは必要とせず、各属性の精霊に願いを伝えるだけで良いからだ。必要なのは、各精霊が求める霊力を必要なだけ練りあげること。

願いを叶えてもらう引き換えに霊力を渡すことなるのだが、土系の精霊が好む霊力の練り方がわからずにここでは殆ど役立たずでも、慣れ親しんだ風の精霊になら願いを伝える事もたやすい。


「…何でアンタがそんな事を知っているのよ?」


この情報がミオの母親から得られたモノであったならば、ミオも驚かなかったであろう。体内で霊力を練ることが出来ず、目に見えない精霊を感知する手段のないヒト族からもたらされた情報だから驚いているのだ。


「私は古代の魔法を学ぶ者ですよ? それは自身の古代魔法の鍛錬の為ではありますが、その過程で精霊魔法に関する記述を目にする事もあります」


師匠はミオの訝し気な視線の意味を理解したのだろう。何故そんな知識が有るのかを説いてくれた。


「…やるわよ」


ミオは説明を聞いても癪に障るような表情を浮かべていたが、一度頭を振ると、風の精霊に捧げる為の霊力を練り始めた。ヒト族に精霊魔法の使い道を諭されたことに思うところがあったのだろうが、そんなプライドを捨て去ったとしても新たな情報を得られる事を望んだのだ。


「これが精霊魔法というものですか…素晴らしい!」


そんなミオの様子に関係なく、文献以外で見る事のない未知の精霊魔法の行使を拝めた師匠は笑みを浮かべる。


風の精霊は簡単に願いを叶えてくれた。

ミオは師匠の言う通りに行動していることに、眉を顰め、歯噛みする。


「どうした? こっちは終わったぞ?」


師匠との遣り取りの間に、後方の蟻達を殲滅し終えたティム達が合流した。どうやら、蟻達の弱点を見つけたティム達にとって各個撃破の作戦は凄まじく、背後の憂は無くなったようだ。


それでもモタモタしていれば、また別の集団に追い付かれてしまう為、先に進む気でいたのだが、ミオの表情を見て何があったのかと心配していた。


「それで、どうでした?」


師匠は何でも無いというように、笑顔を繕いながら、先読みの結果をミオに問うた。


「この先で待ち伏せしてるわ。黄色の蟻も複数いるみたい。」

「あん? リオン?」

「…僕にはわからないよ」


ティムはミオからもたらされた情報に首を傾げてリオンに意見を求める。リオンがいるこのパーティーで、ミオは先読みの魔法を使ったことが無い。その為ティムは、そんな魔法の存在を知らなかった。

ミオの事を信頼していないわけではないが、索敵に関しては経験上、リオンの言葉が優先されるのだ。


「前から迫っていた音は無くなったよ。気配はする…けど、わからない」


リオンもミオの口から語られる情報の多さに戸惑っているのだろう、いつもより口数多くティムに説明していた。リオンの索敵方法は人より優れた五感を頼りにしたものだ、視覚の効かない洞窟の中では、嗅覚や聴覚がその主な収集手段であるが、それで解る事は多くない。


「黄色のか…リオン、黄色の蟻は口から溶ける奴を吐き出して、ケツからベタベタの糸を出すし、噛みつかれたら身体が痺れるぞ」


ティムはミオの真剣な表情を見て、簡単に情報を信じたようだ。黒蟻とは異なる黄色蟻の特殊性をリオンに説明する。


「溶解性の毒液に粘着糸ですね。麻痺は対抗魔力を体内で練れれば有る程度の抵抗は出来ますが…私以外はまだ難しいでしょう」


ティムの説明に師匠が情報を付け加えた。弟子は自分の不出来を悔やむように俯く。蟻達に囲まれた時、師匠だけならば逃げる事が出来たかもしれない。麻痺に対抗しきれなかった為に2人揃って繭に囚われる結果となったのだ。


「ミオ、細かい場所はわかるか? 先制攻撃でカタ付けちまおう」


先に進もうとした瞬間、待ち伏せしている黄色蟻から毒液の雨を浴びせられたら目も当てられない。

もはや未知であるはずのミオがもたらした情報の信用性は気にも止めていない。それはリオンも同様で2人とも迷いなく、ミオの情報で待ち伏せへの対策を取り始めた。


「ここから10mぐらい先に枝分かれの道があるわ。その曲がり角で待ち伏せしてるのよ」

「細かい場所はわからぬのか? 解れば私が爆散させてやるぞ」

「解るわよ、あの角のーー」


どうやってティムとリオンが突撃していくのかの話し合いの最中、弟子が自分の魔法が有効だと申し出てくる。見えない相手への遠距離攻撃手段を持ち合わせていないティム達は、素直にその申し出を受けた。

ミオは弟子に細かな場所を伝えていく。自分の出番を理解したリオンは後方に注意を払い、背後から迫ってくる敵がいないか耳を澄まし始めた。。


「おっさんは、あの赤毛の使ってる魔法を使えねぇのか?」


今度はティムが暇になった為、同じく暇を持て余している師匠に話しかける。魔術の師匠である筈の男が、ただ光源を創るだけで、作戦会議にも加わらず、ボーッとしたように立ち尽くしているのが気に食わないようだ。


「私は無詠唱での魔法の行使が出来ないんですよ。だから、魔法の同時使用もそれ程得意ではありませんし、発動に時間がかかってしまうんです。今回は出番は無さそうなので、光源維持に尽力しますよ」

「なんだ、弟子に、負けてんのか?」

「ははは、そうですね」


礼儀を知らないティムの言葉を、師匠は怒ることなく受け流す。

師匠は魔法の使用については弟子に及ばないということを受け止めているのだ。その生涯をかけて得た、余りある魔法の知識や戦闘経験の為、師弟の上下関係が変わることはまだ無いだろうが、それも時間の問題だろう。赤毛の少女は10にも満たない年齢で様々な魔法を操る事が出来るのだから。


得意な火系魔法だけではあるが、少女は師匠の知識にある魔法は全て扱える。少女の複雑な魔法様式を理解するその頭脳や、その成長速度は、多くの魔術師を育ててきた師匠にしても麒麟児と呼ぶしかないものだった。更に、少女は使用する事が苦手なだけで、他系統の古代魔法も理解し終えているのだ。

「あとは色を付けるだけで、私を超えていけるんですけどね…」師匠は、真剣にミオの言葉に耳を寄せている弟子の横顔に笑みを浮かべた。


「ふむ、十分だ」


弟子が長い赤毛を揺らして、満足気に頷いた。

どうやら、ミオ達の相談が終わったようである。


「よし、それならもう少し近づくぞ。飛び出して来る黒蟻はリオンと俺で叩くから、お前はさっさと黄色を片付けてくれ」

「言われなくとも解っているさ」


ティムはリオンに目配せすると、2人で気配を消して分かれ道に向かう。すると、自分達の頭上を師匠のライトウィスプが付いてきていることに、ティムは一瞬不可解な表情を浮かべた。


ーーちっ、遠隔操作が出来るなら、さっきやってろよ…


逃げていた時にこうしていてくれていれば、リオンにも光が届いていたであろうに、今更のような師匠の行動にティムは顔を顰めた。


師匠にしてみれば、蟻が何を頼りに獲物を捕捉しているのかが解らず、光源であるライトウィプスを近くに置くことで自分に攻撃を集中させようという思惑があったからなのだがーーまぁティムには、そんな師匠の思惑は解らない。


「もう良いか?」


曲がり角の手前で立ち止まったティムに、追従する少女から攻撃の許可を求められる。ティムはリオンにも目配せして了承するように頷く。


少女はそれを確認して、静かに魔素を取り込み始めた。


少女の準備が整い、先行する2人に合図を送る。同時に魔法が爆ぜる音が聞こえて予定通りに黄色蟻を倒せた事を教えてくれる。


ティム達は、曲がり角から出てきた黒蟻に歩みより…


ーードガンッ! ドカンッ! ドゴンッ!


「なんだっ!?」


しかし思わぬ爆発音の連続にティムの動きが止まった。


「危ないわ!」

「爆烈岩だよ!」

「皆、下がりなさい!」


少し離れて見守っていたミオや師匠は不自然に続く爆発音で異変に気付く。


リオンがティムと弟子の首根っこを掴んで後ろに下がらせる。

赤毛の少女が、何が起きたか解らずに慌てふためく。

師匠がライトウィスプ打ち消して、何かの詠唱を始める。






洞窟内に散在していた岩ーー衝撃を受けると爆発する、爆烈岩ーー少女の爆散魔法を起爆剤として、その岩が名前の通り爆烈した。その衝撃に蟻の巣穴は耐えられず、ボロボロと崩れ始める。


5人の仲間は衝撃で気を失いながら、抜け落ちた床下へと瓦礫と共に落ちて行った…。


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