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勇者は何も語らない  作者: 真地 かいな
第1章 旅の準備
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心の闇


「やった! やってやったぞ!」


血を流し過ぎて自力で立つことも出来ないバミルが、青白い顔でティムに抱えられていた。


「ミオ! 早く回復魔法を掛けてくれ、このままじゃバミルが死んじまう!」


バミルは左腕や横腹から流し過ぎた血のせいで、気を失っていてもおかしくはない。それなのに、ティムの腕の中でバミルは笑う。自分は果たした、仇を討ったと声にする。


「ミオ! 何やってんだ!!」


ミオはティムの激昂にビクリと身体を震わせた。思考停止していた自分の身体に鞭打って、ミオがバミルに駆け寄ってくる。


「まずは…うっ、腕をつなぐわ」

「分かってるから早くしろ!」


ティムは狼狽したようなミオに苛立ちを抱きつつ、切れた腕の先を傷口に引っ付ける。


「そのまま持っててね、絶対に離しちゃダメよ」

「分かってるって言ってるんだよ! 良いから早くしろ!」


大怪我をした時は時間が勝負。

それは、自身の身体で十二分に体感している。時間が経てば経つほど、切り離されていた腕が自分のモノではないような違和感を感じるのだ。その状態で元に戻しても、恐らく腕は動かなくなるだろう。それがティムの感じている事だった。


だからミオを急かしているのに、当人のミオは何かに怯えるような態度でいつもの調子が伺えない。ティムに怒鳴られて、今やっと回復魔法を使い始めた。


「ふぅ…」


回復魔法が発動し、ミオの手に優し気な光が灯るのを確認したティムはやっと落ち着いた。こうなったミオの対処は早い。そうでなければ自分は既に死んでいるのだから…。

ミオに何度も命を救われたからこそ、ティムは安心したのだ。


「ダメよっ!!」

「っ!?」


悲鳴のような声を上げたミオをティムが見る。切れた腕を傷口から離さないように注意しながら、何があったとのかとティムが見返す。


「バミル! 黒いのを引っ込めて! じゃないと魔法が弾かれるのよ! バミル? 聴いてるの!?」


ティムはそれでやっとわかった。バミルの身体を包んでいる黒い何か、嫌な気分を抱かせるこの黒い何かが原因でミオの魔法が効かないのだと。


「はははは、そうだ、その通りだ殺せば良いの んだ」


バミルは笑う。血の気の引いた顔で、見ている者に嫌悪感を与える笑顔を浮かべる。


「…ティムっ!」


話が通じていないバミルの態度に、ティムに助けを求めるミオ。ティムはすぐに頷いた。


「おいっ! バミル!! さっさとこの黒いのを何とかしろっ!」

「はははは、母さんの仇だ! 薄汚いゴブリンは俺が根絶やしにしてやる! 母さんを弄んだ償いだ!」

「バミル…」


ティムが話掛けてもバミルに変化はなかった。

しかも意識があるのかどうかもわからない目で口走っているのは、ティム達が隠したかった真実だ。


どうやらバミルは知っていたようだ。

幼いから記憶など残っていないと思っていたが、バミルの中ではしっかりと刻み込まれていたらしい。ミレーヌ達も、ティム達もその真実を教えた事はない。誰が話たのか、もしくは漏れ聞いたのか…。いずれにしろ、バミルは1人で悲惨な真実を知り、それを胸中に秘めたまま生きていたようだ。


「…っそんな事はどうでも良いんだよ! さっさとこの黒いのを引っ込めろって言ってんだ!」


バミルの溜め込んでいたモノを知り、若干の戸惑いを見せつつもティムは言う。今はバミルの命が最優先なのだ。


「…そんな事…だとっ!?」

「きゃぁぁ!!」


その言葉がバミルの琴線に触れた。母親の話をそんな事と言いのけたティムを憎きゴブリンを見る時の瞳で睨み付ける。同時に噴き出した多量のドス黒い何かで、ミオは悲鳴を上げた。


「ミオ! …このバカ野郎がっ!!」


血を失い、体力の残っていないバミルは睨むこと以外何も出来ない。それなのにミオは恐怖に身体を震わせた。

ティムには細かい事まで理解出来ない。しかし、助けようとしているミオに危害を加えたと判断したティムは腕の中のバミルを殴り付ける。


怪我人にも遠慮なく振るわれたティムの拳がゴンッと鈍い音を立てる。バミルは殴られた衝撃で気を失いらそれと同時にドス黒い何かもバミルの身体の中へと還って行く。


「…何なんだ?」


ティムは目の前で起こっている現象に首を傾げながら、魔法を拒絶する原因が消えた事を好機と思う。


「ミオ回復してやってく…ミオ! 聞いてるのか!?」


黒い何かが消えた後も、ミオは縮こまって怯えていた。ティムはこちらにも首を傾げる。黒い何かは確かに変な感じがするモノではあったが、ミオのように怯える程のモノではなかったからだ。


「ミオ、何に怯えてるのかは知らんが…頼む! バミルを助けてくれっ!」


ミオはなんとか自分を奮い立たせる。ティムの懇願に促されるように魔法を用い、怖々とバミルの身体に触れる。


黒い何かが消えたおかげだろう。ミオの魔法はすぐに効果を発揮した。ティムが切れた腕から手を離しても、もうポロリと落ちる事はない。バミルの腕は元に戻り、横腹の傷も塞がった。


「助かった…か?」


その様子を見てティムが問いかける。自信がないように問い掛けているのは、ミオの表情に不安が見えたからだ。


「わからないわ」

「なっ…わからないってどういう意味だよ!?」

「ちがっ…生きてはいるわ。ある程度は血も補えたはずだから、バミルが死ぬ事は無いわよ」

「なら何が駄目なんだよ?」

「腕が動くかどうかがわからないのt…」

「そうか…まぁ、それはコイツが仕出かした代償だろうよ。そこまでは俺も責任持てねぇさ。生きてるだけで儲けもんだ」


ミオは言葉を続けようとして止めていた。時間がかかるかもしれないが、おそらく腕は元通りに動くようになる。ただ…先程のドス黒い何かに不安を抱いていたのだ。


それはティムには教えたくない。

特に根拠も何も無く、ただ自分が恐怖を抱いただけだからだ。そんな意味の分からないモノで、ティムを戸惑わせるわけにはいかなかった。


ティムが欲しい答えは治療の結果だけである。ならば、その事についてのみ答えよう。ドス黒い何かについての不安はミオの中にだけ残る事になった。




ーーー


「ティム兄ちゃん! …ぁっ」

「バミルのバカ野郎は…大丈夫?」


ティムが気を失ったままのバミルを担いで洞窟を出ると、バミルを心配した子ども達から声が掛けられる。特に実妹のフモールはティムの肩でグッタリとひているバミルを見て、いつもの気丈な顔を崩し今にも泣き出しそうになっていた。


「このバカなら大丈夫だ。時期に目を覚ますだろうさ。その時は思いっ切り怒ってやれ」


ティムの言葉で、フモールの表情が一気に晴れる。その表情が怒りに変わり、無謀な行動に出たバミルを叱り付けるのは自分の役目だと決意していた。

ミオはそんなフモールの様子に安堵を浮かべる。今のフモールにはバミルのように、ゴブリンへの極度の恨みが見られなかったからだ。おそらく、バミルもフモールには話さなかったのだろう。


「それより、お前らも良く頑張ったな。お前らだけでゴブリンを殲滅出来たんだ! 胸を張れ!」


ティム達が入り口まで帰ってくる道中、ゴブリンの屍体が其処彼処に転がっていた。そのどれもが一刀に伏され、たいした抵抗にも合わずに殲滅出来たことを示していた。

ある意味では最終試験であった今回の殲滅作戦は無事に終わったようだ。


「やったぁ〜!」

「コレで帰れるんだよな!?」

「ハンスさんに会える!」

「ミレーヌさんも喜ぶぞ!」

「簡単には食い切れないぐらいの食材を手に入れたもんな!」


子ども達は村に帰れると喜んだ。

子ども達の反応を見たミオは他の子ども達の中にもバミルのような強い恨みが無いことに安堵した。その反応を見ているとバミルへの憂いも晴れ、残っているのは村へ帰りたいという欲求だけに見えた。


「よし、取り敢えずこのバカが目を覚ますまで休憩だ。もしかしたら、ゴブリンの生き残りがいるかも知れねぇからな周囲は警戒しとけよ」


もしかしたら洞窟を離れていたゴブリンが帰ってくるかも知れない。もしくは、洞窟の中にはティム達では気付かなかった道が存在していて、そこに隠れ潜んでいたゴブリンが出てくるかも知れない。そんな事はほとんど無いに等しいと思いつつ、ティムは警戒しておくようにと伝えた。


ここは樹海、ゴブリン以外にもいつ何処から敵が現れるかわからないのだ。常に警戒を怠らないのは当然の心構えなのだ。




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