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クズの鎮魂歌  作者: 叢雲@ぬらきも
第二章 アースガルズ
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在らざるべきもの

 よう、地球の皆、元気か? 俺は生きてるか死んでいるかわからない状況だ。

 こいつをどう説明すればいいかわからないが、とにかくやばいんだ。

 何がやばいかって? チャイナドレス着た、見た目幼女の可愛子ちゃんが蹴っただけで目の前が壊れていくんだ。

 アニメとかで良くある衝撃波って奴だよ。現実で見ると凄いのな。失禁しちゃうヒロインとかの気持ちが良く分かったよ。

 ところで話は変わるけど、そんな幼女と、その幼女の蹴りを受けてビクともしない美少女と、その美少女の友人であるマッドな医者が俺の仲間っぽいんだけどどうしたらいいかな?


 などと現実逃避を試みていたが、効果は無し。

 考えれば考えるほどドツボに嵌まり、下へ下へと潜り込んでいく。

 思えば人ではないと思わせる場面は今までいくつもあった。

 フィルさんの最初の邂逅。目で追えないほどの速度で動き回る化物じみた身体能力。

 続いてヨミ。いつの間にか腕と足をすっぱりと切り落とした一連の動き。


 思い返せば足が竦み、一歩も動けなくなってしまうほどの恐怖が鮮明に蘇ってくる。

 それでも怯えることなく、寧ろ進んで飛び込んでいったのは何故だ?

 アニマがいたから? それとも『千里眼』と言う、他にはない特別な力を持ったことで自惚れていたからか?

 生きる意味だと。心を許してもいい仲間だと。そう思って接してきたはずの人たち。

 なのに今更。本当に今更―――化物としてしか見れなくなってしまった。


 俺は人間。ちょっと目が良くなっただけの、簡単に壊れてしまう脆い人間だ。

 彼女たちはヒューマノイド。人を超えた、敵を滅ぼすために生み出された兵器なのだ。

 心を持っている。確かにあの時そう感じた。だけどそれも今では虚妄としか思えなくなっている。

 無意識に嘲笑が浮かぶ。どうしてこうも自分は弱いのかと。

 彼女たちが差し伸べている手が―――奈落への手招きにしか見えないのだ。


 誰かの声がする。だがそれすらも悪魔の囁き声にしか聞こえない。

 曖昧に肯き、適当に返事を返す。そんなことを繰り返す内、やがてじゃり、じゃり、と荒れた大地を踏み締める音だけしか聞こえなくなっていた。


「……そろそろ休むとしようか。既に昼夜の概念は失われて等しいが、夜の時間になれば奴らも活発化する。……ヒトマの疲労もあるだろうし、ね」

「……あ、ああ、ありがとう。……まさかここで?」


 耳に入った言葉でハッと我に返り、周囲を見回す。

 まさかここで寝るつもりか? と目で訴えかける。

 こんな何もない野晒しの荒野で寝るつもりなのか? 野宿ビギナーの俺には少しハードルが高い気がする。

 それにこんな視界を遮るものがないまっさらな平地じゃ、機械人形マテリアルに見つかってしまうだろ。

 寝ている時にぐさり、なんてぞっとしないぞ。


 俺がじっとヨミを見つめていると、身を覆い隠すローブの中に腕を突っ込み、何やらごそごそと漁り始めた。

 あの中がどうなっているか少しだけ気になったが、今の心境ではヨミはおろか、アニマでさえ近くに寄りたくない。

 無意識に体が拒絶し、震えが止まらなくなるのだ。

 最初は心配してアニマやフィルさんが介抱しようと駆けつけてくれたけど、二人が近寄れば近寄るほど症状は悪化する。

 それを察してくれた三人は無理に近寄らず、痛ましいものを見る目で見守ってくれるだけになった。


 それが有難い。何故いきなりそんな態度を取るようになったか、なんて問い詰められたら答え辛い。

 そんな葛藤をしつつ、重いため息を吐くと、ヨミからあったあった、と声が上がった。


「……なにそれ?」


 としか言いようがなかった。

 なんせヨミの両手には大きさ20センチくらいの白と黒のピラミッドのような謎の物体が乗っかっていたのだ。

 と言うかそれどっから出した。あのローブの中は異次元に繋がっているとかそんな特質スキルを持っているのだろうか。

 何をするんだとじーっとそれを見つめていると、ヨミが徐に白いほうのピラミッドを地面に置き、それを弄っていると、


「―――ふぬォっ⁉」


 突然ピラミッドから透明色の薄い膜のようなものが周囲に向かって広がっていき、ある程度広がりきった後、まるで包み込むような形で膜が展開された。

 当然俺は驚いて変な声を上げてしまったが、他の三人は至って平然としている。

 せめて一声かけてくれよとヨミを恨みがましい目で軽く睨みつけていると、無表情のままのヨミがこちらに目を向けたので、さっと顔ごと逸らして視線を外す。


「これは機械人形マテリアルの侵入を防ぐ結界装置だよ。結界、と言っても奴らの認識を誤魔化すだけのものだけど、これがあるなしでは生存率が大きく変わってくる。そしてもう一つは……」


 もったいぶるようにそれ(・・)を見せつけてきた後、もうひとつの黒いピラミッドを白いピラミッドの隣に置く。

 そして同じようにそれを弄ると、瞬きの間にコテージっぽい建物がその場に出現した。


「ちなみにコレはカインが用意してくれたものだ。流石にこんな環境で寝ろと言われて寝れないだろう?」

「……まぁ、そうだな。ありがとう」


           ◇


「……意外に広いな」


 コテージっぽい建物の中は、外面から想像も出来ないほどゆったりとしたスペースが広がっていた。

 近未来っぽい内装だが、冷蔵庫、レンジ、炊飯器、各種調理器具とキッチンらしきものもしっかり備わっていた。

 基本的にヒューマノイドに食事は必要とされない。だからこれは俺のために備え付けられたものだろうとなんとなく理解出来た。

 見た目チャラ男のカインがここまで細やかな気配りが出来るとは思いもしなかったので、素直に驚いてぼんやりとそれらを眺めていた。


「ふむ。儂の店よりも些か設備は貧相じゃが……リョウリするには問題ないな。良し、それでは儂がすぺしゃるでぃなーを振舞ってやろう」

「いや、俺が作るんでフィルさんは待っててください」


 反射的に口を衝いて出た言葉に、フィルさんは目をまん丸にさせて驚いていた。

 今まで話しかけても生返事しか返ってこなかったのだから驚くのも無理はない。

 話しかけるのも億劫だった俺が何故即答したかと言うと、フィルさんの料理の腕は壊滅的なのだ。

 食べられない訳じゃないが、はっきり言って不味い。

 それなら自分で作った方がまだマシ、と言うことで無意識に反応してしまったわけだが、少し困った状況になってしまった。


 俺が作ると言い出した事でフィルさんとアニマの目がものっそいキラキラ輝き、ヨミもほう? と興味深そうにこちらを見つめていた。

 それでも一定距離を保ってくれているアニマとフィルさんの心遣いには感謝するべきところなのだが。

 俺は心の中で申し訳ない、と非礼を詫びていそいそと晩飯の支度に取り掛かるのだった。


 あるものを使って出来た献立は……日本人が愛してやまない白米。豆腐と油揚げ、わかめの味噌汁。白菜の浅漬けとロールキャベツ。

 味はまぁまぁ、見てくれも悪くない。食卓と思しき銀のテーブルにそれらを並べ、手を合わせていただきますと小声で呟く。

 すると作法を知っているフィルさんは勿論、アニマも同じことをしていた。

 ヨミはそれを横目で見つつ、何かを呟いてから箸を持った。全員が箸を動かしたことを確認してから料理を口に運ぶ。


「んー! やはり美味い‼」

「美味しいです、ヒトマ様」


 ロールキャベツを口に入れた途端、目を閉じて握った拳をぶんすか上下に激しく振って、全身で美味しさを表現するフィルさんは相変わらず絶賛してくれる。

 アニマもほにゃっとふやけた顔で微笑んでくれる。可愛い、だけどちょっとまだ怖い。

 二人からお褒めの言葉をいただきながら食事を進めていると、無言、そして無表情で黙々と箸を動かすヨミが目に入った。

 や、別に感想を求めてるわけじゃないけど、こう淡々と食べてる姿って何か寂しいものがあるな。

 そう思いつつしばらくヨミを見つめながらもむもむと米を食んでいると、


「不味ければ不味いと言う。そんなにじろじろ見ないでくれないか? 非常に食べ辛いのだが」

「お、おう」


 ちら、と目の端で俺を捉え、要件だけを伝えて再び黙々と箸と口を動かすヨミ。

 確かにじっと見られながら食事するのは大変居心地が悪い。悪いことをした、と反省しつつロールキャベツに箸を伸ばす。おいちょっと待て結構な量作ったのにもう2、3個しかないってどんだけ食うんだこの人たち。えー……ちょっと……軽く六人前くらいは仕込んだぞ。

 結局ロールキャベツは一個しか口に出来なかった。どうやって作ったとフィルさんの質問に答えたりしつつ、遅いか早いかわからない夕食の時間を終えた。

 正直言って味なんてほとんどしなかったけど。

 片付けもそこそこに、ずっと歩き続けていた疲労もあってか、備え付けのソファに身を投げ出した後すぐに意識が溶けていった。


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