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目を開けると見慣れた天井…ではなく、雨漏りのしそうなボロい天井だった。
私はベッドから出ようともせず、もう一度眠りにつこうとするがなかなか眠れない。
あの火事からもう随分経っている。
父を殺した犯人は未だ分かっていない。
家も身寄りもなかった私は、かつて父が物置として利用していた、森の奥の小屋に移った。
病院に運ばれて意識を取り戻した時、ベッドの横にはセレナがいた。
ずっと側にいてくれて疲れて寝てしまったんだろう。目には涙が残っていた。
「いつまで寝てんだよ、起きろセレナ。」
セレナはむにゃむにゃと何か言ったあと、あくびを一つしてから私を見て固まる。
「どうした、私の顔に何かついているか?ww」
「レノン目が覚めたの!?」
「覚めちゃ悪いか?ww」
いつものようにおちょくってみる。
「レノン…よかった…うぅ…。」
セレナはぐすぐすと泣き出した。
「おいおい;看護師さんに誤解されるだろ;」
「だって…死んじゃうかと思ったんだもん…。」
セレナの制服の裾は涙でぐしゃぐしゃだった。
「私がそんな簡単にくたばるわけないだろww」
私はセレナの額をピシッと弾いて笑い飛ばした。
「……。」
「どうした?急に黙り込んで。」
「…レノン無理してる。」
「…え。」
「レノン無理して作り笑いしてる。」
「そんなわけないだろ?私は今生きてるだけでも幸せなん「目が。」…え?」
セレナは私の目を見て言った。
「目が笑ってない。」
あぁ、なんでバレたのだろう。
私は心の中で呟いた。
コイツに弱いところは見せたくない。いつもの自信たっぷりな私でいたかった。
なのに…。
気づくと私は泣いていたようだ。
それから一週間後、私は退院した。
入院している間、父以外に身寄りのなかった私を見舞いに来たのはセレナと学校の先生くらいだった。
病室で一人きりの時間、私は最後に父から渡された石を取り出して見ていた。
セレナに頼んで、鉱物の文書を持ってきてもらい調べたが、該当する鉱物はなかった。
退院した今も文書を漁って調べているがやはりそれらしき鉱物は見つからない。
親父は何でこんなモノのために殺されたのだろう。
そう考えるとだんだんこの石に腹がたってきた。
もうこんなモノ窓から投げ捨ててしまおうか?
こんなことを何度も何度も思った。
それでも家が焼け何も残らなかった私にとって、これは形見と言える存在。結局捨てることはなかった。
ベッドの上で石をただボーッと眺めていると、誰かが扉を叩く音がした。
「レノン起きてる?」
「起きてるよ。今日は何しにきたんだ?」
「朝ご飯食べてないだろうと思ってせっかく持ってきたのにそれはないでしょ!!」
「どうぞお入りください。」
「急に態度変えるんだから…。」
セレナの持ってきたバスケットには、果物とサンドイッチが入っていた。
「うちのお母さんが作ったの。」
「いつも感謝してますww」
サンドイッチを口に運ぶ。おいしい。
食べながら私はセレナに言った。
「今までずっと、毎朝来てくれてありがとな。」
するとセレナはビックリして、
「どうしたの…?改まって…。」
「セレナ、お前明日からここへは来るな。」
「え…。」
「これはお前のためでもあるんだ。悪い。」
もし父を殺した奴の狙いがこの石なら、必死にこれを探すだろう。
そうなれば一番狙われるのは唯一の家族である私だ。
私はセレナにこれ以上迷惑はかけたくない。巻き込みたくない。
「いやだ。」
セレナは予想どおりの返事をした。
「確かに理由もなく来るなと言っても、セレナが納得するわけないよな…。」
私は立ち上がり言った。
「私の親父は殺されたんだ。もしかしたら次は私かもしれない。その次は誰かな?もしかしたら私と会ってたセレナかもしれない。もしかしたらセレナの両親かもしれない。」
だから…
「もう私とは会わない方がいい。帰ってくれ。」
"殺された"という事実に、怖くなったのかセレナは震えていた。
そして私に背を向けると、
「私は…レノンが学校来るまで、まだ明日も来るから。」
バタンと扉は閉められ、小屋には私以外に誰もいなくなった。