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「レノン!!待って!!行っちゃダメ!!」


セレナの声が聞こえるが私の体は止まろうとしない。


昨日までの私なら、きっとこんな馬鹿な真似しなかっただろう。


しかし今日は違う。今朝父は昼頃帰ると言っていたのだ。もしかしたら…もしかしたらこの中に父が…



「親父!!親父!!」


野次馬の中に紛れているのではと声を張り上げるものの、その声は悲鳴と燃え上がる炎の音でかき消えてしまう。


その時消防団の一人が叫んだ。



「まだ中に人がいる!!」


次の瞬間には私の体は勝手に動いていた。


消防団の持っている水のはいったバケツを奪いとり、制服にも関わらず、それを頭から被り、頭を鞄で守る体制のまま、私は燃える家の中に飛び込んだ。



ーーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーー



「ゲホッ、ゲホッ!!」


煙を吸ってしまい、喉が焼けるような感覚になる。


1階は全て探した。残すは2階。そこまで部屋数はなかったが、炎に邪魔されてかなり時間を食ってしまった。


2階にある部屋は2つ。私の部屋と父の部屋。


父は自分の部屋にこもることがある。そうなると私がどれだけ叫んでも父は気づかない。


その時火事になったなら…父ならありえる。


私は自分の部屋を後回しにして父の部屋のドアを叩く。


「親父!!そこにいるんだろ!!」


ドアノブを回しても、鍵が掛かっていて開かない。


「こうなったら…。」


煙によって削られた体力を振り絞り、ドアに体当たりする。


バキッ!!


金具部分が外れドアが倒れる。


部屋の中にはーー


「親父!!」


父が倒れていた。


「早く外へ出ないとッ!!」


2階なら窓から飛び降りても死にはしないだろう。私は父を背負った。



……?



父の背中に触れた手に感触がある。


後ろにまわしていた手を見た私は急がなければいけないというのに、背負った父をおろし、父の体を見た。


ここから出ることで頭がいっぱいだったから気づかなかった。



父の腹部には、何かで刺されたような傷があり、それは背中まで貫通していた。そのまわりだけでなく、よく見ると父が倒れていた床もどす黒い血で汚れていた。


「な、何で…。」


私は停止しようとした思考を働かせる。首に指をあて、脈があるか確認する。微かだが、血液はめぐっているようだ。まだ助かるかもしれない。


もう一度背負おうと父の体を抱えたその時、父の手が私の腕をつかんだ。


「…レノン…もういい。1人で…逃げろ。」


「ハァ!?何言ってんだよ!!さっさとここから出るぞ!!」


「…もう俺は…助からない…おいていけ。」


「何でそんなんわかるんだよ!!まだ助かるかもしれないだろ!!」


「…わかるさ、自分の体のこと…ぐらい。俺を誰だと思って…るんだよ…、お前の…親父だろ?」


「でも…でもッ!!」


「…そうだ研究…、1番最初にレノンに話すって言ってたよな…。約束は破れない…からな…、これ…お前にやるよ…。」


左手に持っていたそれを、父は私の手に握らせた。それは不思議な紋の入った石だった。


「これ…は…?」


「…研究していたモノだ…。形見にでもしたらいい…。約束は果たした…お前は深入りはするな…絶対にだ…。」


「誰に…誰にやられたんだよ!!誰が親父を…!!」


父は何も言わなかった。ただ、




「…もう時間だ……じゃあな。」


そう言って動かなくなった。



「何がじゃあなだ!!死なせるかよ!!」


私は動かなくなった父を背負い窓から庭の植木に飛び降りた。消防団が駆けつけてきて、父と私を運ぼうとする。いつのまにか私の体もぴくりとも動かなくなっていた。体力も喉も限界らしい。視界もだんだんぼやけてきた。


ただ薄れていく意識の中で今でも覚えているのは、運ばれていく父の姿と、




「レノン!!…レノン!!」




最後に聞こえたあいつの泣きそうな声だった。













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