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第7話 王家の衰退

どうやらルドルフは誰かと間違われているようだ。


「ご無事でなによりでございます。陛下もさぞお喜びになりましょう。」


老齢の男はルドルフをしげしげと眺めていた。その目には涙すら浮かべている。


「し・・しかしエドバン様・・・」


傍にいた兵士達はお互いに顔を見合わせながらなにやら困惑している様子であった。


「すぐ陛下にお帰りのご報告を・・・ささ、こちらでございます。」


エドバンと呼ばれる男はうやうやしく俺達を陛下の元へ案内しようとした。


『このまま付いて行くしかないだろう。しばらく様子をみよう。』


ルドルフが皆にテレパシーで意思を伝えてきた。

俺達はそのまま黙ってエドバンの後ろに付いて歩く。後ろにはさっきの兵士達が続く。


長い廊下を歩く俺達を見て、すれ違う侍女達は驚いた様に動きを止め振り返りいつまでも見ていた。

そんな周りの人々の様子を見ながら俺はなんだか違和感を感じていた。


階段を下り謁見室に入った俺達はそこで陛下のお越しを待つように言われた。

兵士達は持ち場に帰りエドバンはおそらく陛下に報告に行ったのだろう。


ルドルフはこれから先を、どう対処すべきか考え込んでいるようだった。

本当の事を言っても信じてもらえるかどうか・・・・


だが残念ながらゆっくり考える時間は与えて貰えなかったようだ。

時を置かずしてバタバタと足音がした。よほどあわてて駆け付けて来たようだ。


衛兵と共に現れたのは立派な装いの老齢の紳士であった。どうやらそれが陛下であるらしい事は一目でわかった。

エドバンよりは少し若いかと思われるが銀白の髪を肩まで伸ばし、皺は目立つが整った顔立ちである。


部屋に入って来た陛下は俺達を見回すようにしてから、その視線はルドルフに止まった。

そして一瞬驚いた表情を見せて固まった。


「ベルナルドです。ただ今帰りました。」


ルドルフはつかつかと陛下の前に近づくとうやうやしく跪いた。


「ベルナルド!顔をあげてもう一度・・・」


陛下は跪いたルドルフの肩に手を置き立つように促した。

立ち上がったルドルフと陛下はお互いを確かめるように長い間見つめあっていた。


俺達はこのまま騙し通せたのかと期待した。

だがその時、陛下の顔がふっと歪み肩を落とした。


「お客人・・・どこから来られた?」


『バレた!ど・・どうするんだよ。』


ルドルフはハッと驚き、その場にいた全員が緊張した表情で立ち竦んでいた。

ヤバいぞ。俺達よりにもよって皇太子殿下の名を騙っちまったんだ!


「申し訳ありません。ベルナルド殿下の名を騙ったのは悪気があった訳ではなく・・・・

真実を話しても信じて貰えず混乱を招くだけだと思いまして。」


ルドルフはもう一度跪き、真摯な態度で陛下に詫びた。

もはや牢に入れられるか、へたをすれば絞首刑ってこともあるかもと俺はビビった。


「話をする前から信じて貰えぬと決めつけるのか。その姿だけでも十分驚かされてはいるがな。

なにか相当な訳がありそうだが・・・・まずは話してみてはどうかな?」


陛下は穏やかな口調でそう言った。その物腰もやわらかく、表情は優しげだ。

あれ?もしかしてこの陛下って話のわかる奴かもしれない・・・


「突然現れた得体の知れない我々の話を聞いて下さるのですか?」


膝まづいたまま顔をあげたルドルフは信じられない表情で陛下を見上げた。


「その服装といい、立ち居振る舞いといい、なによりその髪の色・・・・銀白の髪は王家の血筋の証。

ベルナルドにそっくりなそなたは一体何者なのか。話を聞く価値はあるであろう?」


陛下は落ち着きを取り戻した様子でゆっくりと中央の王座に腰かけた。

ルドルフは全てを話すしかなさそうだと腹を括った。


「実は・・・我々は千年後の未来から、ある魔力によりここへ導かれて来た者です。

こんな突拍子もない話などにわかには信じて貰えないでしょうが・・・・」


いくらなんでも、いきなり核心からって・・・それは信じろと言っても無理だろうと俺は思った。


「なんと!千年後にはそんな魔力が使えるようになると言うのか?」


・・・・・・・どうやらすんなり信じてくれたみたいだ!ありえない!


「その服装・・・そんな生地は見たこともない。なんとも不思議な布であるな。」


なるほどルドルフの服装は謁見の途中だっただけにその高級な生地に刺繍が見事に施された正装だ。

アルクとケイトにしても普段着とはいえ、その身分にふさわしい高級な装いである。


ルーチェに至ってはウェディングドレスにティアラの細工も見事なものだ。

問題はその足元が裸足であるという事以外は・・・・


そう言われてみればこの陛下の服装もりっぱには見えるがいろいろな生地をただ腰のあたりでベルトで纏めているだけのようで縫製はなされていないようだ。生地もまだまだ目の粗いものである。


縫製や織物の技術がまだそれほど進んではいないのだろう。

千年前の人達からみれば俺達の服装はあきらかに違いすぎるのだ。


おそらくは賢明な陛下なのだろう。

話を聞く前からどこか異界の雰囲気を持つ俺達を見て、そのあたりは想定内だったのかもしれない。


「見たこともないその装いや装飾品などから、未来の者だと信じよう。

しかし、ただ一つ・・・王家がそれほど先まで栄えるとは信じられない。」


それまで目を輝かせてルドルフの服装を見ていた陛下だったが、そう言った瞬間その表情に陰りが差した。


「なぜなら、おそらく王家は私の代で途絶えてしまうのだから。」


そんな!この時代の王家はそこまで衰退しているというのだろうか?

だとしたら俺達の時代の王家は・・・ルドルフの存在すらありえないじゃないか!


「それは・・・何故でしょうか?陛下には・・・・」


ルドルフは言葉に詰まった。自分がその名を騙ってしまったベルナンド殿下。

そんな後継ぎががおられるはずなのに・・・


「ベルナルドが行方知れずになったのは15年も前だ。そなたは当時のベルナンドに瓜二つなのだよ。

ベルナルドさえ居てくれれば・・・・」


「15年前!」


騙せようはずもなかったのだ。

ベルナルド殿下は生きていれば30代後半だったのか!


なのになぜあのエドバンは・・・・

思い起こせば、あの兵士達の困惑や侍女達の驚きの意味がようやくわかった俺達だった。





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