第4話 時を越えて
眩しい光に包まれ目を閉じた俺はなんだか激しい眩暈に襲われていた。
それは一瞬だったのか長時間続いたのかは分からない。
ようやく光が消え去り目を開けた俺達だった。
「何だったんだ今の光は?」
その瞬間、ルーチェを庇うように抱きしめたルドルフは辺りを見回した。
同じ部屋のようだ。だがその景色はまったく違っていた。
積み重ねられた家具はどこへ消えたのかきれいさっぱり無くなっていた。
作りはまったく同じだというのにまるで部屋の模様替えでもしたかのように重厚な家具が適所に配置されている。
さっきまでの埃っぽさもなくなり、丁寧な掃除がなされた後のようにすっきりとしていた。
呆然と立ち尽くすアルクとケイトも辺りを見回して驚きを隠せないようだ。
「誰か魔力でも使いましたか?」
アルクは疑わしそうにルーチェの方を窺がう。
ルーチェはと言うと驚きのあまり涙も止まってしまったようだ。
「私は何もやってないわよ!何がなんだかわからないわ。どうなっているの?」
アルクの疑いの眼差しに不満を唱えながらルーチェは詰め寄るようにルドルフに問う。
「いや魔力が使われた気配は感じなかった。我々の魔力とはまったく違う何か怪しい力のようなものは感じたんだが・・・」
ルドルフがその時の事を思い出そうと首を傾げる。
『大変!窓の景色も変わっているわ。』 ミーアが窓際で叫ぶ。
『ほんとだ!確か神殿が見えていたはずなのに・・・無くなってる。』
俺はミーアのいる窓に駆け寄った。
あれほど巨大な神殿が無くなってそこはただ広々とした広場となっていた。
『ちょっと様子を見て来るわ』
サリーは外の様子を見るためにその窓から飛び立った。
「神殿は先々代の皇帝が建てられましたが、その前は確か広場だったと聞き及んでおりますが・・・・・
まさかこの景色って・・・・・そんなことって・・・ありえませんよね?」
アルクはそう言いながら窓の外を眺めた。全員が窓辺に寄り沿い外の様子を窺がう。
「神殿を建てる時、大きなポプリの木がじゃまをして、結局切り倒す事が出来ずにそのまま中庭に残したとも言っていたが・・」
ルドルフは記憶を辿るように神殿の建設時の話をした。
「あれ見て!あれはポプリの木じゃない?神殿の中庭の木ほどのりっぱさはないけど・・・・」
ケイトが広場の片隅にある木を指差した。
「・・・て事はやっぱり?これは神殿が建つ前の景色なの?」
「神殿が建つ前といえば半世紀は前ということか?」
ルドルフとルーチェは顔を見合わせた。
バタバタ・・・・サリーが窓から飛び込んで来た。
『大変!王宮の高さが半分もないの!それに周りの塔も無くて低い建物が点在しているだけだわ。
変わってないのは城壁だけよ。』
「そんなばかな!塔がないなんて・・・・
そうだとすれば半世紀どころの騒ぎではないぞ。」
「そうです。王宮は建て増し、建て増しでどんどん上へ伸びて行ったのでしたよね。
周りの塔もそのつど同じように上へと増築して行って今の形になったのですよ。
しかしそれにはかなりの年月が費やされてます。戦争の続いた時代にはそれが出来なかったのですから。
平和が続いて財政に余裕のある時に少しづつなのですからそれこそ何百年もかかっているんですよ。」
アルクも城の増改築の事は熟知していた。
『それであんなに内部が複雑に入り組んでいたのか・・・俺達が迷子になるはずだ。』
俺は入り組んだ廊下やあちこちにある階段も途中で途切れていた事を思い出した。
『そんな事より、これは本当に過去へ来ちゃったって事なの?それも何時頃の?』
ミーアは恐怖のあまり、すっぽりとキースの足元に隠れながら聞いた。
無言のキースは皆を守る為にいつも以上に緊張の糸を張り詰めているようだ。
「でもこんな事ってありえるのかしら?時を逆のぼる魔法なんてあるの?」
ルーチェはルドルフに問いかける。
「いや、そんな魔法は聞いたことはないな。そしてこれが何時頃なのか想像もつかない。」
ルドルフが首を振ってそう答えた。
何がどうなったかは分からない。しかしこの光景は・・・・
俺達はまちがいなく時を越えてしまったようだ。
ここが何時の頃なのか、これからいったいどうすればいいのかも分からない。
皆がこの状態に考えが追いつかず、とんでもない不安に襲われた。
元に戻る事は出来るのだろうか・・・・・
ただ呆然と立ちつくすだけで時間は過ぎて行った。