表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

苦・楽

作者: NANA

比べる為に極端に違う二人を書きました。

伝わって頂けたら幸いですf^_^;

評価。コメント。厳しいお言葉お待ちしていますm(_ _)m

どうぞお読み下さいませ。。


 戦時中を生き抜いた祖母から昔こんな事を聞いた事がある。


『人の人生は生まれた瞬間から全て決められている。人生の最後には、今までの楽も苦も天秤に掛ければ同じになる。だから若い内の苦労は買ってでもしなさい』と…。


 まだ幼かったボクは祖母の言葉を単純に考えていた。


《若い内に働いてお金を残せば、老後楽が出来るって事か…》


しかし今、年を重ねたボクは、祖母の言葉の意味を理解出来た気がする。

***


 そこにある若い女がいた。


名前は花岡享子。



父親は売れっ子弁護士。

母親はエステサロンを経営する女社長。



 享子は幼稚園から大学までのエスカレーター式の名門私立に通い、幼い頃から何でも手に入れてきた。

享子が望めば全て手に入ったのだ。



 現在、享子22歳になり、大学を卒業と共に、結婚が決まっている。


相手は、27歳の新米の医者。相沢克也だ。

 親に進められ、出会い結婚が決まった。

 今までにも親の紹介で色々な男性と知り合ったが、どれも享子の目に止まらなかった。


 克也はそこそこ顔は良いが、ずば抜けて良い訳ではない。


それに、医者と言っても、新米の研修医。

給料だってそこらのサラリーマンと変わらない。

かと言って、実家が医者でもなければ、裕福な家でもない。

至って普通のサラリーマン家庭だ。


 裕福な家庭で何の苦労もなく育った享子が、克也のどこが良かったかと言うと、その至って普通な克也だった。




 享子が今まで出会った男性は、みんな裕福な育ちのお坊ちゃんばかり。


 その中で出会った唯一普通な克也。

享子が知らない世界を知っている克也に惹かれたのだ。


そう思うのも、ただ享子が世間を知らなすぎただけ。


 克也は、享子の高飛車な態度は気にかかったが、享子は誰もが振り返る程の美人。

克也はそんな享子を自分のものに出来る事に鼻が高かった。



***


 一方、そこにもある女性がいた。


名前は木村加奈子。

 父親は加奈子が幼い時に病死。


 母親は長女である加奈子と、その下の弟と父方の祖母を養う為、休みなく毎日働き続けている。


 加奈子はそんな母の苦労を知っている為、高校に行かず就職しようと言ったが、母の強引な勧めで高校に進学し、無事卒業した後就職。


 母の助けにと、ほぼ全額と云う程お給料は家に入れている。


 幼い頃から、貧相な生活で、働いてからも自分の手元に残るお金もなく、遊びにも行けず、好きな物も買えないが、加奈子はそれで良かった。

 家族の支えが何より有り難い。

そして毎日、家族の笑顔があることが加奈子にとって幸せだ。


 そんな家族の為に尽くす加奈子も22歳になり、結婚することになった。


 相手は職場の上司である司。32歳。

 年は離れているものの、司は、頼もしさや優しさを兼ね揃えており、顔も社内で評判な程の男前だ。

司は加奈子にとって理想の男性だった。

 

 同じ様に司も、加奈子の愛くるしい面持ちに似合った、柔らかい性格に癒され、お互い惹かれ合った。



***


 享子は克也と盛大な結婚式を挙げた。

遠い親戚や、親の付き合いのある人。


何百人と出席する程だった。




 加奈子と司は、身内や友達を誘い、加奈子の手作りも混ぜた結婚式を挙げた。





***


 享子と克也は、享子の親が実家の直ぐ側に家を建て、新居を構えた。


 克也は長男で、親と同居するはずだったが、享子は断固と同居を拒んだ為、渋々別居する事になった。


それに享子の親が家を建ててくれ、克也が苦労せずともマイホームが手に入り、それを押し切って強引に同居を言う事もなかった。


***


 加奈子は結婚後、司の家に入った。

司は次男だが、既に長男が家を出ている為、司が家を守って行かなくてはならなかった。


しかし司は、同居は加奈子の好きにすればいいと言ったが、加奈子は同居を選んだ。


司が家を継がなくてはならない事も知っているし、司が家を出れば、義父さんや義母さんも寂しい筈。



司の親は、これからは加奈子の親でもある。


 加奈子は、司や義父、義母を思い同居を望んだ。


それに加奈子自身、家族は大勢が良いと思ったから。


***


 時は経ち、享子は50歳を迎えた。


 子供も一人男の子に恵まれ、その長男は遠く離れた有名大学を出た後、現地で就職。

現地で出会った女性と結婚。

 今は所帯を持ち、遠く離れた所にいる。


年に数回しか帰って来ず、享子達は孫の成長も見れない。


 その頃、克也の父親が亡くなり、克也は年老いた母親を一人にはさせておけず、家に迎え入れたいと言い出した。


享子は断固と拒否したが、享子の思いを余所に克也の意志は強かった。


その頃の享子の両親は家も売り払い、老人ホームで老後を送っており、克也のする事に口を出す事も出来ないでいた。



 克也や勝手に母親を迎え、享子はこの歳にして姑と同居となった。



***


 同じして、加奈子も50歳になった。子供は三人儲け、現在長男は結婚し、近くでアパート暮らしをしている。



 長男は結婚後、加奈子達と同居するつもりでいたが、加奈子が断ったのだ。


 舅も姑も、下の子達もいるからと…。


 しかし長男夫婦は、行く行くは加奈子達と同居するつもりでいる為、アパートを借りて住んでいた。


加奈子夫婦も息子夫婦の思いはとても嬉しく有り難たかった。


 息子夫婦は孫を連れ、よく加奈子達の家を訪れた。


加奈子は人生の幸せを噛み締めた。


 司と結婚して以来、何十年と本当の両親の様に良くしてくれる、義父や義母。

 優しく可愛い子供達に恵まれ、孫の顔まで見れた。


これ以上の幸せはない。…と。



***


人は必ず年をとる。



 享子が産まれてからずっと頼りにしてきた父親が亡くなり、翌年父親を追うように母親も亡くなった。


 同居している克也の母親も体を壊し、介護を必要とする様になった。


 元々享子は同居ですら反対だった。

自分の親の老後さえ避けた享子が、他人、ましてや毛嫌いしている姑の面倒なんて御免だ。


 享子は義母を施設に預けようと、何度も克也に言った。




 しかし克也はまたもや享子の言い分を聞こうともしなかった。


 この時既に二人の間に愛などなかった。

いや、初めからなかったのかもしれない。


 享子の外見や親の資産に惚れた克也。

現在50歳を過ぎた享子には、昔の若々しい華やかな外見はない。

裕福な両親も居ない今、享子に何の魅力も感じなくなった。


まして、今まで家事もろくにして来なかった享子に感謝すらない。


 母親の面倒が見れないなら出て行けと克也は強く言い放った。


頼る親が居らず、働いた事もない享子が、克也に追い出されたら、今の大学病院教授夫人という地位や名誉もなくなる。


今の様な豊かな暮らしも出来ない。それ処か、住む場所も食べる事すら出来ない。


 享子は克也の言いなりになるしかなかった。


 姑の食事の世話からしもの世話まで。

享子の自由などない。


享子は姑が一刻も早くこの世を去ることを願い続けた。


…早く自由になりたいと。


 姑の死を願いながら看病をつづけ6年が過ぎ、ようやく享子の待ち望んだ日が来た。


 享子は長く苦しい日々から解放される安堵感があった。


 姑は最後に、有難うと享子に微笑み息を引き取った。


 待ち望んだ姑の死なのに、享子の心は晴れなかった。


 今思えば、何故姑をあれ程毛嫌いしていたのだろう。


決して意地悪な姑ではなかった。それ処か、享子に気を使う姑だった。


 介護だって、十分な介護ではなかった。

早く死んで欲しいと、冷たく接した享子に、姑は笑顔で有難うと言ってくれた。


 今まで享子は他人から有難うなんて言って貰った事などなかった。


嬉しかった。姑の言葉がとても嬉しかった。


どうしてもっと姑を大切に出来なかったのか…。


 享子は50代半ばにして、人の暖かさを知った。


自ら望んだ結末は、享子に後悔と無念だけを残した。




***



 加奈子の義父は急に体を壊し、この世を去ってしまった。


加奈子を含め家族みんなが義父の死を悲しんだ。


義母は気を落とし、体も弱くなり、義父の死から一年。後を追うように亡くなった。



 加奈子は二人を一生懸命介護した。


そして加奈子の姿を見た夫や子供達も手助けし、家族一段となり介護した。




 加奈子は義両親に感謝した。



 決して育ちが良いとは言えない加奈子を迎え入れてくれた義両親に。


 そして、司をこれほど、優しく、しっかりとした人に育てた義両親を尊敬し、感謝した。


 義両親のおかげで幸せな家族を持てた事。


 感謝の気持ちで接し、有難うと見送った。


 義父も義母も亡くなる直前まで、加奈子に有難うと何度も言い、息を引き取った。



****


 育ち、生きてきた環境の違う享子と加奈子。


 しかし、状況は同じ二人。


 ボクは思う。

祖母が言いたかった事はこういう事ではなかったのか。


 後に享子は、夫と二人の生活に戻ったが、最後に姑から貰った暖かさは二度と味わう事はなかった。


 加奈子は家族に囲まれ、金銭的に裕福ではないが、幸せでは裕福だった。




 最初の苦、後の楽。

 最初の楽、後の苦。

 2つの苦楽。


 どうせ在る苦なら、ぼくは加奈子の様な苦楽がいい。


あくまで理想だが…。


 あなたはどちらの苦楽を選びますか?



伝わったでしょうか?

評価。お願いしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 二人の女の人生の対比(加奈子のほうはやや理想すぎな気がしましたが)が面白かった。特に、享子のいやいやながら介護をするくだりは、後戻りできない人生のどうしようもなさがリアルでした。かつ姑が死ぬ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ