表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消滅都市のベッケンシュタイン  作者: 平木明日香
第1章 空の果てへ
19/21

第14話 律式





「律の閃き」



──世界が、裂けた。


耳の奥で音が“死んだ”刹那、

その余白に──白い閃光が走った。


「────”引律・式起動”、《無窮帯:第式展開》」


澄んだ女の声だった。

静かで、凛としていて、──どこまでも透きとおっていた。


だがそれは、現実を捻じ曲げるほどの“威力”を孕んでいた。


次の瞬間。

蒼を絡め取っていたクレパスの影が、爆ぜた。


シュパァァンッ!!


闇が悲鳴のように砕け散る。


影の膜が、裂け、ねじれ、四方へと吹き飛んでいく。

熱ではない。圧でもない。

ただ“存在そのもの”が強制的に退けられるような、律動。


視界が明滅する。


蒼の身体が、柔らかな力で地面から引き剥がされるように宙へと浮いた。


重力が断ち切られる。


闇が遠ざかる。


そして、代わりに──千夜の姿が現れた。


「千夜……?」


朦朧とした意識の中で、蒼はその名前を呼んでいた。


立っていた。


千夜は、そこに。


蒼とクレパスの“狭間”に、無音のまま立っていた。


彼女の腕には、黒と白の二重螺旋が絡む儀礼剣セラフブレード

長く伸びる“詩片のような文字列”が、刃の縁に浮かんで揺れている。


彼女の周囲には、青白い“粒子”が漂っていた。

それは光ではない。霊でもない。

存在律を再構築する、式神の言葉。


「──離れて。今のあなたには視えすぎる。」


静かな声。


けれど、それだけで空気の密度が変わった。


千夜の背後に、

空間の亀裂が開いていた。


白く光る“紋”が空中に浮かび、そこから幾何学的な構造式が無数に展開されている。

それは、存在を言語化する“律式”の陣。


クレパスは動かない。

けれど、その影は騒いでいた。


まるで“理”そのものに怒りを向けるように、

地面の下から幾重にも波打つ影が、千夜を飲み込もうとしていた。


「来るな。……そう言ってるのに。」


千夜は一歩、前へ出た。


その一歩で、世界が震えた。


「空律庁・第三席、《式顕・一ノ律》──」


空中にあった紋が、収束する。

式が一点に集中し、剣の刃が淡く“揺れた”。


「──《封余-律霧ノ詞 (ふうよ・りつぎりのことば)》」


詠唱と同時、風が起きた。


否。

これは風ではない。


音のない衝撃が、空間の軸ごと抉るように奔った。


クレパスの本体が、影から「抜けた」。




──ドシュン。




空間が重なり、ひしゃげた。


刹那、クレパスの“体”が吹き飛ぶ。

漆黒の外殻が裂け、内部から白い気泡のような“記憶片”がこぼれ落ちた。


「────────────ァァァァァ」


聞いたことのない音。


それは言語ではない。

意思でもない。

ただ、“在ること”への抗い。


──式は、止まらない。


千夜の剣先が地面に描くように振り下ろされた。


空間の“根”から引きずり出されるように、影がひとつ、潰れた。


その一撃でクレパスの形は崩れ、ノイズのように滲んで消えた。


──沈黙。


風が止まる。

世界が一つ、息を吐くように重力を取り戻す。


蒼の身体が地面に降り、膝をついた。


「……あれは……なんなんだ……」


呟いた声に、千夜は振り向かない。


「“律に名を持たなかったもの”。残音体。……クレパス。」


「……クレパス……」


千夜はようやく、蒼を見た。


けれどその表情には、

どこか“痛み”に似た影が落ちていた。


「……もう、始まってしまったのね」


その言葉の意味を、蒼はまだ知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ