本日で攻略終了です!~ヒロインと悪役令嬢がサポートをやめたら、攻略対象が全員フリーズしました~
「エリアナ・アトワール! 貴様のような卑しい平民が聖女の座を騙り、あろうことか公爵令嬢エウフェミアを虐めるとは……この毒婦め! 今すぐ国外へ去れ!」
卒業パーティーの主役である第一王子が、高らかに私を指差した。
その隣で「虐められた」はずの悪役令嬢エウフェミア様が、扇を口元に当ててプルプルと震えている。
(……エウフェミア様、笑い堪えるの必死すぎ。お疲れ様です!)
私は、内心でガッツポーズを作った。
「はい、謹んでお受けいたします! フラグ管理、これにて全業務終了です!」
最初は最高にハイだった。乙女ゲームの世界に転生して、聖女としてイケメンをはべらせる。
「推しを最高に輝かせたい!」という善意で、私は寝る間も惜しんでイベントを完遂させた。
雨の日に王子に傘を差し出す「運命の邂逅」、騎士の特訓後に「たまたま作りすぎた」お弁当を渡す「献身的サポート」、孤独な魔術師と図書室の隅で手が重なる「知的な接近」。
エウフェミア様もそうだった。彼女は「彼らを強く気高い王に育てるには、乗り越えるべき『悪』が必要だわ」と、高潔な自己犠牲の精神で、嫌がらせという名のスパイスを完璧なタイミングで投入してくれたのだ。
利害が一致した私たちは二人三脚で、この世界を最高にエモい「神ゲー」へとプロデュースし続けた。
「推しを愛でて、最高に輝く彼らに侍られたい!」と欲望に忠実な私に対し、エウフェミア様は「私が厳しく律して、彼らを高潔な王に育ててみせますわ!」と高らかに宣言した。
私もぶっちゃけ結婚して王妃とか役割ある立場なんて無理だったので、学生の間だけは自由にしていいとエウフェミア様にお墨付きをもらったのである。
私が甘やかし、彼女が叩き直す。
飴と鞭の完璧な役割分担によって、私たちは彼らを「理想の英雄」へと仕立て上げていったのだ。
――けれど、いつからか構造がおかしくなった。
私たちが「正解の選択肢」を与えすぎたせいで、彼らは自力でフラグを立てる機能を失ったのだ。
「エリアナ、今日はどちらの道を通れば『ときめく』んだ? 君がいないと、どちらが正しいのか分からない」
「エウフェミア、次はどのタイミングで罵りに来てくれる? 君が来ないと、私は剣を振るう理由が見つからない」
大真面目な顔でそう尋ねる彼らの瞳は、虚無そのものだった。
私が止めれば、彼らは止まる。私が走らせれば、彼らは走る。
(……これ、攻略じゃない。依存症の製造だわ)
限界だった。善意で始めたプロデュースは、いつの間にか「自律不能な人形」の糸を操るだけの、終わりのない介護作業に変わっていた。
「エリアナ様、私……もう限界ですわ。私の『悪役』は、彼らを高めるための壁だったはず。なのに今の彼らは、私に罵られないと立ち上がることもできない……! 社交界で泥を塗られ続け、心まで削って、こんな指示待ちの粗大ゴミを育てたかったわけじゃありませんの!」
パーティー前夜、密会したエウフェミア様は涙ながらに訴えた。
「……ええ。これ、教育じゃないです。介護の押し付け合いですよ」
私たちは、固く手を取り合った。
「もう、辞めましょう」
「ええ、辞めましょう」
私たちは、彼らの恋人でも敵でもない。
ただの「全自動意思決定マシン」と「イベントトリガー」として、人生を搾取されていただけなのだから。
「追放ですね? わかりました、今すぐ消えます。あ、皆様が次に愛する新しいヒロイン、ご自分で一から探してくださいね。……行きましょう、エウフェミア様」
「ええ、私も『悪役』は本日で退職ですので。おーほっほっほ!」
「ま、待て! エリアナ! エウフェミアもか?! 待ってくれ、明日の朝食は何を食べれば……!」
すがりつく王子の手を振り払い、私たちはドレスを翻してパーティー会場を脱出した。
翌朝、王宮は建国以来最大の危機に陥った。
壇上に上がった王子は、私が用意した原稿もなく、エウフェミア様の「野次」というきっかけもないため、「次の発言待ち」のまま一時間以上も沈黙を続け、 国家の祝賀会を物理的にフリーズさせた。
騎士は「エリアナの応援がないと士気が上がらない」と訓練を放棄。
さらに魔術師は「エリアナが数値を指定してくれないから」と、国を守る結界の更新作業すら停止させた。
彼らはあまりに「最適化」されすぎた結果、コマンド入力がないと動けない、ただの置物に成り果てていた。
私は今、隣国ののどかなカフェで、エウフェミア様と激甘のケーキをシェアしている。
「エリアナ! エウフェミア! 頼む、戻ってきてくれ! 君たちが指示をくれないと、私は自分が今、幸せなのかどうかさえ判断できないんだ!」
国境を越えて追いかけてきたボロボロの元王子たちが、カフェの床に膝をつく。
私は一口、生クリームを口に運んでから、エウフェミア様と顔を見合わせて、二人でにっこりと笑う。
「残念ですが、私たちのサポート期間は終了しました。有償アップデートの予定もございません」
「なお、初歩的な操作方法についてのお問い合わせにも、一切対応しておりません」
「出口はすぐそこです。……あとは『自分で考えて』、お帰りくださいませ」
立ち上がることすら選べない彼らを、私たちはもう助けない。
――だって、自分で考えられない人に、未来なんて選べないのだから。
指示待ち人間になるって怖いですよね。
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