翠と橙(みどりとゆず) vol.063 「チーフ、お父さん…いない。」橙。
「チーフ、お父さん…いない。」
橙。
巽、
「えっ…???」
「高校時代に、交通事故で、お父さん、亡くなったんだって。」
「……。」
「救急車で病院に運ばれたとき、チーフのお父さん、間に合わなくって…。でも、その時、チーフもその交通事故で重傷。」
巽、話を聞きながら、
「……。」
「相当、精神的にも不安定だったんだって。…でも、その時、病院でひとりの男性と出会って、立ち直ったって…言ってた。」
いきなり巽、ドキン。
シンクを後ろ向きに橙、
「ふふ。チーフの初恋の人、だったんだって~~。」
その声に巽、思わず無表情に。
「ねね、巽~~。今度一緒に、その焼き鳥屋さん、行ってみない…???」
呆然としている巽、
「……。」
「ねね、巽~~。」
我に返った巽、
「へっ…???あ…あ~~。あ~~。うん。良いよ。…なんていうお店…、名前…???」
「がらくって名前。」
「がらく…???」
「うん。」
少し上目遣いで巽、
「…ん…???ん…???…がらく…???」
「うん。焼き鳥屋って…巽…???」
「い~~や~~。まず…滅多に…。うん。行くこと…ないかも…。」
「みやびに、らくと書いて雅楽。」
「あ~~~。な~るほど。あ…、いや…。へぇ~~。感じのいい名前じゃん。」
「うん。私も最初にそのお店入ったとき、おっしゃれ~~って。それほど広いお店じゃないんだけど…。おじいちゃんと若い店員さんでやってるお店なの。」
「ふ~~ん。」
「しかも、物凄い気さくなおじいちゃん。そして可愛い店員さん。」
「へぇ~~。」
「この前、チーフから連れてってもらって、初めて行った~~。」
「ほぅ、ほぅ。そのお店の2階に、そのチーフ、と、杉浦君、住んでるって。」
「うん。そう…みたい。」
未だに橙のスマホの画像を見ている巽、頭の中で、
「…あの…ときの…。」
そして、
「…完璧に、思い出した~~。そうそう。…みど。逢坂って言うんだ~~。そしてみど、翠…。翡翠のすい…か…。」
「巽も~~。食べ終わったね~~。洗っちゃうよ~~。」
目の前から皿を持ち上げる橙。
「おっと、サンキュ~~。」
そして今度は画像をスワイプして、
「それにしても、この人、かっこいいよな~~。」
皿を洗いながら橙、
「誰~~???」
「かかかか。ブランドマネージャー。橙のおじさん。」
「あ~~。うん。かっこいいよ~~。奥さんもね~~。」
「この隣の人…奥さん…???」
「うん。菫さん。綺麗でしょう~~。ときどき、ラインしてる~~。」
「ふ~~ん。」
そして、
「しっかし、みんな、良い顔、してるよね~~。」
その巽の声に橙、
「当然です。あの…ロンドの仕事、してるんだもん。」
「ロンドって…、あの…、大型の総合デパートの…???」
「うん。営業マネージャーの山根千慧と、杉浦薫郎君が取ってきた仕事~~。」
「へぇ~~。」
「よそではなかなかできない商品、やっちゃったって、メーカーさん大喜び。」
「ふ~~ん。」
「え~~。まだ画像見てんだ。かかか。」
巽、
「えっ…???あ~~。はは。なんだか、ついついね。」
「巽も、ウチの女性スタッフに、かなり人気じゃん。リーダーも言ってる。イケメンだって。」
そんな橙のオデコを突っついて、
「な~に、言ってんだか。」




