翠と橙(みどりとゆず) vol.043 珂帆、「ちょっとした…事…???」
カウンターの奥で珂帆、レジに向かう客に、
「ありがとうございました~~。」
客のオーダーも少し落ち着き、ゆったりとした時間が流れる店内。
「ゆずちゃん。な~んだか楽しそうだったわね~~。」
客の方を見つめている巽に珂帆。
巽、
「えぇ。デリバリーで行ったときも、賑やかなところでしたから…。」
そして、少し、体も動かさずに、何かしら黙り込む巽。
珂帆、
「…ん…???巽~、どうかした…???」
そんな珂帆に、
「…へっ…???あ~~、いえ…。なんでも…。」
「ジェシカの女性社員に、ちょっとした事、尋ねられてね~~。」
客席のテーブルを拭いていた柴乃がカウンターに戻ってきて。
珂帆、
「ちょっとした…事…???」
「巽が高校時代に、病院に入院した事実がどうとか…。」
珂帆、
「はっ…???なにそれ…???…巽…???」
巽、
「えっ…???あ~~。まぁ~~。その事実は…。うん。あるんですけど…。」
「へぇ~~。巽に…そんな過去が…。」
「…と、言うより、なんで、あの女性が…僕にそんな事訊くのか…、全くサッパリ、分かんなくって…。」
腕組みしながら巽。
「何か…病院での入院中に、あったりして…???」
珂帆。
その言葉に巽、
「えっ…???」
その時、いきなり巽の脳裏に甦る高校時代の病院での入院の頃。
「あっ。」
ひとりの女の子が頭の中に…。
けれども、どうしても、顔を思い出す事が出来ない。しかも…名前すら…。
巽、小さな声で、
「え~~~???…誰だっけ…???なんて…名前だっけ…。」
巽本人にしても、いつも一緒にいたいと思える女の子だった。
「おっと~~。その感じじゃ、その入院中に、なにやら…あったわね~~。ふんふん。」
ある意味、からかい加減で珂帆。
「もしかして…、巽が初めて女の子を好きになった…時…とか…。」
その瞬間柴乃、
「キャハ。そうなの…???」
巽、オーバーなリアクションで、
「いやいやいや。勘弁して下さいよ。」
家族連れがカウンターを通ってレジに。レジの店員が、
「ありがとうございました。」
母親らしい女性が、
「とっても美味しかった。ご馳走様でした。」
そして女の子、
「バイバイ。」
「かかかか。まっ、今や、ゆずちゃんが…いるもんね~~。」
からかう様に柴乃、巽に。
巽、
「だ~か~ら~~。」
仕事の帰り道、未だに高校時代の入院の時の、ある女の子を思い出そうと必死の巽。
「写真でも、撮っておきゃ~良かったな~~。全く…顔…思い出せない。…けど、あん時、酷かったもんな~~。俺…、女性、信用できなかったもんな~~。まさか…。結婚もしてなくって…。しかも…約束されてる相手もいて…、それなのに、妊娠するか~~。」
そんな事を思い出しながら、そして考えながら…。
「あれ…???…そう言えば、あの子…、今…、何してんだろ…???」
そして、
「まぁ…。母親に…なって…るよな~~。生まれてるんなら…。」
ぶつぶつと言いながら、既に、アパートの通り道の曲がり角まで…。




