翠と橙(みどりとゆず) vol.026 「遊馬さんに…、合格の報告…したくって…。」
橙、テーブルの上で、
「遊馬さんに…、合格の報告…したくって…。」
その声に巽、
「うんうん。わさわざ、ありがとう。合格、おめでとう。」
電話をしながら橙、少し涙声で…、
「ありがとう…ございます。」
巽、
「…ん…???木葉…さん…???」
何故か涙が出てくる橙。
「はは。ごめんなさい。男の人に、電話したの…。初めてなんです。」
スマホから聞こえてくる涙声に巽、
「えっ…???」
「男の人と、ここで会って、喋ったのも…、初めてだったんです。…だから…。」
巽、
「……。」
「凄く、嬉しくって。…はは。ごめんなさい。なんだか…涙出てきて、止まんない。はは。」
右手指で、目尻から零れる涙を拭いながら…。
店員が、そんな女性を見て、テーブルに近づき…。
そんな店員を見て橙、にっこりと笑って。
そして、「大丈夫」のゼスチャー。
店員、にっこりとその場を去る。
巽、
「ここで…って…。…もしかして、木葉さん…、この前の…???」
「うん。遊馬さんと一緒だった、お店の…、同じ席に…。」
その声に巽、瞬間、息を吐き、
「そっか~~。」
橙、
「うん。今、ひとりで…、またソーダ・フロート、飲んでます。」
巽、
「そっか~~。木葉さん…。今年からは…東大生かぁ~~。」
橙、
「はい。」
「がんばれよ。」
「ありがとうございます。」
少し、落ち着いてきた橙。
「あの…。遊馬さん…。」
巽、
「…ん…???」
「また…。電話して…。いいですか…???」
女性から、そんな声を耳にして巽、
「えっ…???」
一瞬、ためらったものの、すぐに、
「うん。いいよぉ~~。」
そんな巽の声に橙、スマホ越しに、
「ありがとうございます。」
「おっ、今度は明るい声に戻った。」
「はい。ありがとうございます。」
「おっと~~、巽~~。昼飯か~~。さすがに旨そうだな~~。おまえの弁当。」
電話をしている巽の後ろから男性社員、
「おっと、電話か…。」
そんな男性社員に右手を挙げて。スマホに、
「うん。わざわざ、ありがとう。じゃ…また。」
そして電話を切る。
「珍しいじゃん、昼休みにおまえ、電話なんて…。しかも、弁当食いながら…。」
そんな男性社員に、
「そうっすか~~。」
そんな巽に、
「ん~~。その様子じゃ…。相手は…女か…???」
巽、
「ん~~~。教えてあげません。かかか。」
「…ったくよ~~。この色男が~~。」
これから橙と巽の距離は…、徐々に縮まって行く。
…実際、一見、周囲から見ると、橙は、子供の頃から殆ど変化なし。
中学時代も、高校でも、全く目立たない女子生徒。
そして、とにかく人の前には出ないと言う、ただ、ただ大人しい生徒。
そして、中学と高校と、身に着ける洋服ですら、オーソドックスなものばかり。
つまりは、地味な女子。だった。ただ、勉強だけは出来た。
当然の事ではあるが、中学時代から高校時代にまで、
男性と対面で話す事…は、ない女性だった。
ただ…、中学の時に、ひとりの男性に好意を持ったと言う過去はあった。




