翠と橙(みどりとゆず) vol.001 枕元の顔…、全く起きる気配がない。
病室のベッドで、
「えっ???彼…。退院したんだ。」
看護師、
「ふん。2日前に。あら…、逢坂さんには…、何も…???」
そんな看護師に少女、
「うん。」
そして、数分後、いきなり布団を頭まですっぽりと。
「もう!!!なんで言ってくれなかったのよ。」
そして涙がとめどもなく流れて…。
「もう…逢えないじゃん。好きだったのに。もう逢えないじゃん。もう!!!!!!!もぅ――――――――――っ!!!!」
周囲の患者たちも、少女を見ながら、慰めるように…静かに見守って…。
そして数ヶ月後。とある中学校の昇降口。
女子生徒、
「あの…。これ…。受け取って下さい。」
もはやはちきれんばかりの鼓動を抑えて、ようやく男子に小さな箱と紙袋。
「お願いします。受け取って下さい。」
何度も何度も頭を下げる女子生徒。
「少し早いんだけど…バレンタイン。先生から、引越しするって聞いたから…。」
そう言われて男子生徒。
「うん。明後日には…。これ…???」
目尻から流れる涙。女子生徒、
「ずっと…。ずっと…、好きだった。もう…逢えないから…。」
そして、声を殺した様に…、
「バイバイ。」
男子に背を向けて廊下を駆けて行く女子生徒。
その声に、男子生徒、
「あっ。……。」
それから……。…10年後。
午前8時15分。スマホのアラームが鳴る。
枕元の顔…、全く起きる気配がない。
わずか3秒程で、そのアラームの音量も大きく…、
寝返りを打ちながら布団の中から右手が…。
「…ん…、ん~~。ん~~。」
そして、薄らと目が開き、アラームを止める。
「ん~~。」
そして…、右手はまた布団の中に…。
そして、何もなかったかのように、布団を首元に…。気持ち良さそうに…。
それから……。
いきなり布団がバッ!!!
ベッド上で起き上がり、
「今何時!!!ユッキ、何で起こしてくんないのよ!!!」
そして自分の隣りを見る…が、その、ユッキなる人物は…、いない。
「あっ。」
そして、
「ちゃ~~~。そっか~~。」
右手に顔半分を乗せて。ボサボサの髪がダラリと…。
「出張だったんだ~~~。そっか~~~。あ~~~~。」
そのまま、目を閉じたままで顔は天井に向けて。
…が…。傍の腕時計を見て、
「わっ!!!こんな事してる場合じゃない。仕事、仕事。会社、会社。やばいよ、やばいよ。遅刻するよ、遅刻するよ。」
いきなりパジャマから仕事着に。そして冷蔵庫に入っている野菜ジュースをパックごと口に。
一瞬、この時、頭の中に登場する男の顔。
瞬間、思わず噴き出しそうになるが、なんとか堪えて…。
「ぐふ。なんでこういう時に、顔が頭に浮かぶかな~~。ゲホ。」
ドタバタとしながら部屋のドアを開き、
「行ってきま~~す。」
階段を下りて…。
「ん~~。みど…。起きたか…。」
歯磨きをしながら…。
「ん…???」
振り向いて部屋の壁掛け時計を見て、
「…もしか…して…。遅刻…???」
そして通路を駆け足で行くその背中に、
「お~~い、みど~。気を付けてけよ~~。遅刻じゃないのか~~。弁当~。」
その声を背中で聞いて、右手を振りながら、
「おはよ~~。分かった~~。」
「けけけけ。寝坊ってか…。」
下駄箱の上の弁当をバッグに。店の裏口から。そして駆け足で…。
そして駅の改札を抜けて。階段を上り切った途端。最後のひとりが電車のドアの中に入ろうと…。
「ふ~~。」
ようやく…。
「間~に合った~~。」
バッグの中のスマホにLINE。
「起きたか~~。」
その内容に、
「やばかったよ。遅刻寸前だよ。」
送信。
「かかか。やっぱ、寝坊したか。」
その返信に、
「うるさい。今、電車の中、切るよ。」
「あいよ。明後日には帰る。」
「うん。分かった。」
そしてスマホをバッグに、つり革に摑まりながら。
30分後、ドアを開き、
「おはよ~ございます。」
周りの社員も、
「おはよ~~。」
そして自分のデスクに就いて…。
斜め後ろのデスクから椅子をスライドさせて、
「おっはよ~~。かかかか。2分前~~。」
同期の泉水江万美。
「ふ~~。やぱい、やばい。ギリギリセーフ。」
そして、椅子を少し回転させて万美、
「おっとっと。みど、グランドミーティング、はっじまっるよ~~。」
翠、
「ふ~~~。」




