井戸
井の中の蛙、大海を知らず
今日もまた、井戸の中に蛙がいた
真っ青な蛙であった
天を見上げていた
すると、井戸の隙間から現れた
ボロボロの上着
ビチャビチャの靴下
貧相な小人であった
「やぁ、蛙よ。外の世界をのぞきたいかい?」
「あぁ、のぞきたいよ」
「そうかい、ちょっと待っておきな」
小人は、隙間から引っ張り出す
ブリキのバネを引っ張り出す
蛙の前に引っ張り出す
「やぁ、蛙よ。このバネに乗りたまえ」
「バネ?」
「あぁ、このバネを使えば、外の世界を少しのぞけるぞ」
「そうかい、乗ってみるか」
蛙はバネに飛び乗った
外の世界へ、ビョーーン、ビョーーン
天高く、ビョーーン、ビョーーン
井戸の外へ、ビョーーン、ビョーーン
「小人くん、井戸の壁に窓がついてるよ」
「まぁ、開けてみたらいい」
古びた窓をゆっくりと、
蛙は両手で押し開けた
キーーン・コーーン・カーーン・コーーン
校門を行き交う小学生
授業開始を告げるチャイム
白いコンクリートの小学校
「小人くん、外の世界とはこれのことかい?」
「いや、まだ、上があるよ」
「上は見れるのかい?」
「ちょっと待っておきな、バネを持ってくるよ」
小人はバネを引っ張り出す
ブリキのバネを引っ張り出す
蛙のバネに付け足した
「君のバネに、新たなバネを付け足したよ」
「そうかい」
「これで君は、もっと上へ飛べる」
外の世界へ、ビョーーン、ビョーーン
天高く、ビョーーン、ビョーーン
井戸の外へ、ビョーーン、ビョーーン
古びた窓をゆっくりと、
蛙は両手で押し開けた
カラン、カラン、カラン、カラン
夕方の海岸
恋人が鐘を鳴らす
ドレス姿に花びらが舞う
「小人くん、外の世界とはこれのことかい?」
「いや、まだ上があるよ」
「上は見れるのかい?」
「ちょっと待っておきな、バネを持ってくるよ」
小人はバネを引っ張り出す
ブリキのバネを引っ張り出す
蛙のバネに付け足した
外の世界へ、ビョーーン、ビョーーン
天高く、ビョーーン、ビョーーン
井戸の外へ、ビョーーン、ビョーーン
古びた窓をゆっくりと、
蛙は両手で押し開けた
ヒューーーーーーー
荒れ果てた公園
伸びきった青い草
ひっそりと建てられたお墓
「小人くん、外の世界とはこれのことかい?」
「いや、まだ上があるよ」
「上は見れるのかい?」
「ちょっと待っておきな、バネを持ってくるよ」
外の世界へ、ビョーーン、ビョーーン
天高く、ビョーーン、ビョーーン
井戸の外へ、ビョーーン、ビョーーン
古びた窓をゆっくりと、
蛙は両手で押し開けた
チャポン、チャポン、チャポン、チャポン
深い霧に包まれた
湖に一匹、そびえ立つ
白蟻のような鷺、そびえ立つ
「小人くん、外の世界とはこれのことかい?」
「あぁ、そうだよ」
「もう上はないのかい?」
「あぁ、もう無いよ」
「そうかい」
「下に戻ってくるかい?」
「いや、バネで飛ぶのが楽しいから、しばらく飛んでおくよ」
「そうかい、それじゃ、僕は帰るよ」
「あぁ、ありがとう、小人くん」
小人は隙間へトコトコ歩く
隙間の家へトコトコ帰る
蛙は井戸で飛び上がる
どんどん上へ、飛び上がる
外の世界へ、ビョーーン、ビョーーン
天高く、ビョーーン、ビョーーン
井戸の外へ、ビョーーン、ビョーーン
パクッ
赤く光った目
鋭く尖ったくちばし
白蟻のような鷺




