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9/11

モテない俺が、知らぬ間に世界の命運を握っていた

 詩織は言葉を選ぶように、少し間を置いてから口を開いた。


「《エルグラヴィス》を動かせたのは、偶然なんかじゃない」


 胸の奥で何かがざわめく。ずっと感じていた違和感が、今ようやく形を成した気がした。


「E-Driveの動力源は“感情粒子”。その反応には、感情が限界を越えることが必要なの。特に《エルグラヴィス》は、るぎない意志に反応する機体よ」


 拳が自然とにぎられる。あの時、死を覚悟した瞬間に頭にあったのは、ただ一つ。


「でも、それだけで俺にしか動かせない理由になるのか?」


 詩織の視線が熱を帯びた。


「あなたの『守りたい』は特別よ。誰かに押し付けられた使命でも、虚勢きょせいを張った正義でもない。必要とされなかった孤独の中から、自分の意思だけで生み出した感情。だからこそ純度が高い」


 その言葉は、刺さった。

 誰にも認められず、裏切られ、何度も傷ついた過去。

 俺は「非モテ」として笑い飛ばしてきたけれど、そこには認められたいと必死に叫んでいた自分がいる。


「誰にも必要とされなかった俺が、選ばれるなんて――まるで運命の悪戯いたずらだ。」


 詩織は静かにうなずく。


「それは違うわ。あなたが選ばれたのは偶然じゃなく、必然よ。」


 彼女は続ける。


「多くの人は、誰かのために動こうとする。でも、自分の傷と向き合いながら、心の衝動しょうどうに素直に従う人は少ない。あなたの熱情が《エルグラヴィス》を目覚めさせたの」


 俺は自分にそんな力があるとは思えなかった。

 でも、挫折ざせつと孤独の中で、ようやく自分の気持ちに気づいた。


「ただ……その時、必死に守りたいと思ったんだ」


「それで十分。あなたの想いが、機体を動かしたの」


 詩織の声は柔らかく、それでいて真実の重みがあった。


「フローレンスも同じことを言っていた」


 彼女の表情が曇り、過去の苦い記憶を思わせる。


「前世でともに戦い、敗北した。ゆずれなかった痛みを抱えて、またここにいるの」


 記憶はない。

 ただ胸の奥で、欠けたパズルのピースを探すような焦燥しょうそうがくすぶり続けている。

 過去の過ちを繰り返したくない。あの時、失ったものを二度と失いたくないという強い思いが、形にならず胸を締め付ける。


「また戦うのか」


「今度こそ、決着をつけるために」


 決意の言葉には痛みがにじむが、確固たるものだった。


「ミュートスや“災いの影”も転生を繰り返し、破壊を求めている。敵もまた、ずっとこの場所にいる存在よ」


 これはただの戦いではない。終わらなかった物語の続きを歩むことだ。


「逃げたくなる気持ちもわかる」


 詩織はそっと言う。


「でも、あなたは違った。踏みとどまり、ここにいる。だから私は、あなたを信じたい」


 彼女の目には計算も、軍人の冷徹れいてつさもなく、ただ一人の人間としてのレンが映っていた。


 過去の痛みが浮かび上がる。裏切り、孤独、傷ついた自分。

 でも今、心の奥に灯る光がある。


「わかった……やるよ。何も持ってなかった俺が、今ここで選ぶ。すべてをけて、この手で未来をつかみ取る」


 詩織の微笑みは暖かく、長い時間をかけて得た覚悟の証だった。


「頼りにしている、レン」


 深く息を吐く。

 もう戻れない。

 けれど、その重さがどこか心地よい。解放されたような、静かな安堵あんどが胸を満たしている。

 最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

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