何度生まれ変わっても、君を守る――輪廻の絆
フローレンスの言葉が、胸の奥深くまで響いた。
『何度も時代を超えて出会い、恋をし、そして戦う運命――』
その刹那、視界がぼんやりと滲み、心の奥底で眠っていた記憶の扉が、ぎしりと軋みをあげて開きはじめる。
――真紅に染まった空が広がる戦場。
砲煙と砂塵が舞い、鋼鉄の咆哮が轟く荒野。
胸に槍を受けて笑う仲間。
敵陣へと叫び、果敢に突撃していく――あの頃のフローレンス。
あの場所で、俺はすべてを背負おうとした。
そして、多くを失った。
それでも、忘れられない声があった。
震える声で伝えられた「好きだ」という言葉。
涙に濡れた頬をそっと撫でながら、フローレンスの瞳を見つめた。
隣には何も言わず、ただ手を握ってくれていた少女。
詩織の温もりは、今も胸の奥に生きている。
――前世の俺は、確かに愛されていた。だが。
その愛は重すぎた。
「英雄」と呼ばれるたび、己を追い詰めていった。
“そうでなければならない”と。
本当は、何一つ守りきれていなかったのに。
未熟な弱さを晒すたびに、誰かを傷つけ、裏切ってしまった。
それでも、戦い続けるしかなかった。
誰かの「理想」に縛られながら。
「期待されるたび、守りたいと思うたび、裏切ってしまった気がして……」
名声も、愛情も、鎖のように重く。
逃げることすら許されない、重圧だった。
「次に生まれ変わるなら、もっと自由でいたい……モテなくていい。心の底からそう思っていたんだ」
それは、逃げだったのかもしれない。
だが――もう誰かの期待に応える自信はなかった。
それなのに、また巡り会ってしまう。
同じ瞳、同じ声。
前世で命を賭けて守ろうとした者たちが、今、目の前にいる。
「それでも、今の俺には、一緒に戦ってくれる仲間が必要なんだ」
胸の奥底から、切実な願いが零れ落ちた。
かつて拒んだはずの言葉――「絆」への祈り。
リンク越しに、詩織の心が静かに震える。
彼女の想いは、水面に落ちる一滴の雫のように、じわりと俺の中へと広がっていった。
『……レン。ずっと見ていた。あの頃のあなたも、今のあなたも』
その囁きは耳元でそっと触れるように響き、優しさに満ちている。
だが、その声の奥には、凍りつくような痛みが隠されていた。
断片的に、遠い記憶の欠片が胸の奥で揺らめく。
あの日の風景、懐かしい笑顔、そして失ったもの――
思い出そうとするほど、全貌は霞んでいく。
『あなたが苦しんでいたのを知っていた。けれど何もできなかった。何も言えなかった。
ただそばにいることしか、私にはできなかったの』
俺の胸が締めつけられる。
詩織の沈黙は優しさだったのか――。
あの涙の意味を、ようやく理解できた気がした。
胸の奥底が、じんわりと温かさに満たされていく。
しかし。
その穏やかな空気を、鋭く切り裂く声が響いた。
『……ずるいわね。私がここにいるのに、勝手にそんな顔をするなんて』
フローレンスの声がリンク越しに鋭く響く。
怒りではない。
焦がれるような嫉妬、そして抑えきれない想い――燃えるような情熱。
《エルグラヴィス》の装甲が微かに震え、まるでフローレンスの感情がそのまま機体に刻まれているかのようだった。
『でも、絶対に諦めない。あなたの心を誰にも渡さない。
どれだけ時が巡っても、私が必ず奪い返す』
その瞳に宿るのは、誓い。
強く、美しく、そして――恐ろしいほど真っ直ぐな執着。
俺は苦笑しながら応じた。
「フローレンス、詩織も、お前も、俺にとってかけがえのない仲間だ。どちらかを選ぶなんて、俺には無理だ」
それが今の自分に言える、精一杯の本心だった。
フローレンスは少し沈黙した後、少女のように笑った。
『知ってる。だから負けたくないと思えるの。ふふ、こういうのも悪くないでしょ?』
その声に宿る温もりは、かつて敵すら恐れた戦乙女のものではなかった。
ただ、一人の少女が微笑んでいるようだった。
言葉では言い表せない“予感”を、俺は感じ取った。
三人の間に芽生えた感情――
ただの戦友という言葉では片づけられない。
もっと深く、抗えない、運命のような繋がり。
「きっと、俺たちはただの仲間じゃない。ずっと前からこうして結ばれていた――そんな気がする」
その予感が胸の奥深くで静かに灯る。
希望と不安。
そして、再び巡る戦いへの覚悟。
そう――その刹那だった。
胸の奥にざらついた波紋のような揺れが走る。
言葉にできないわだかまりが、記憶の底で揺れ動く。
(……これは。前にも、どこかで……)
冷たい風が心を吹き抜けた。
あの“災いの影”が再び世界に近づいている。
理由も根拠もない。
それでも、確かな確信だけが胸に残った。
俺はそっと胸元に手を当てる。
――この輪廻の絆は、もう決して断ち切ることはできないのだ。
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