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偽りの邪神②


翌朝、柔らかな陽の光が石畳を照らし出す中、クトゥル一行は、カランティアの賑わう街路を歩いていた。


香ばしいパンの香りが市場から漂い、遠くでは楽器の音が響いている。


だが、彼らの目的は買い物でも観光でもない。


向かう先は、広場。――クトゥルがこの街で演説をする、という、まったく身に覚えのない予定があったからだ。


人の流れに紛れて進んでいたそのとき――耳に飛び込んできたのは、どこか芝居がかった奇妙な声だった。


「――今日も我が神、クトゥル様に祈りを捧げようではないかーッ!」


その甲高い声に、人々のざわめきが波のように広がった。


広場の方角からだ。


「(…誰だ…あいつ…)」


クトゥルは足を止め、不思議そうに首をかしげた。


彼の傍らでは、エリザベートがローブをひるがえし、ルドラヴェールは獣の姿のまま、尻尾を揺らしながら静かに鼻を鳴らす。


ティファーもまた、目を細めて声の主の方角に視線を向けていた。


「…司祭のようですね…」


そう言いながら、一行は人の流れを掻き分け、賑やかな市場を抜けて、声の発信源である広場へと向かう。


そこは、すでに多くの人で埋め尽くされていた。


広場の一角には、日除けの布が張られた即席の石壇が設けられ、その上に一人の男が立っていた。


白銀の法衣をまとい、金糸で縁取られた襟元が朝陽を浴びて眩く輝いている。


年の頃は三十代前後だろうか、声には張りがあり、動きには舞台俳優のような誇張があった。


男は両手を天に掲げ、まるで観客に感情を届けるようにして叫ぶ。


「深き混沌より現れし真理の象徴、我らが神・クトゥル様こそ、このウロボロスを照らす灯火なり!その御姿は時として異形にして崇高、凡俗の理解を超えし叡智!皆よ、ただ跪き、祈りを捧げよ! 恐れるなかれ、救済は既に始まっているのだからっ!」


その言葉に、広場に集まった民衆が、まるで合図でもあったかのように一斉に胸に手を当て、静かに頭を垂れる。


老若男女、種族を問わず、その眼差しは恍惚とした信仰に染まっていた。


演台の背後には、小さな石造りの建物が建っていた。


尖塔も装飾もない質素な造りながらも、その佇まいは確かに聖域としての威厳を持っている。


扉の上部には、見る者の頭を悩ませるような歪んだ幾何学模様のシンボルが刻まれており、その下に一文が掲げられていた。


《クトゥル教会》


その光景を、クトゥルはじっと見つめていた。


口元に手を当て、黙して思考する彼の瞳には、困惑と警戒が同居している。


広場に集う人々の瞳には純粋な敬意が宿り、壇上の布教者の声には揺るぎない確信があった。


そして何より――自分の名前が、何の疑問もなく人々の口から発せられているという現実が、彼の中でじわじわと理解を拒んでいた。


「……ふふっ。クトゥル様を崇めるのは当然ね」


隣でエリザベートが頬に手を添え、誇らしげに微笑んだ。


その表情はどこか満足気で、信仰に生きる者の凛とした誇りが滲んでいた。


「……我ガ主ノ魂ガ、マタココニ……。ウム……良イ波動ダ」


ルドラヴェールは、もふりとした尻尾を左右に揺らしながら、どこか陶酔したように呟く。


そのエメラルドグリーンの瞳は優しく細められ、まるで聖域に帰還した獣のような落ち着きを見せていた。


「クトゥル様が……また民の心を救われたのですね……!」


ティファーは胸元に手を置き、目を閉じて深く祈るような仕草を見せる。


その表情には、穏やかな喜びと崇敬が溢れていた。


法衣を纏い、満面の笑みで腕を広げた男が、集まった信者に向かって声を張り上げる。


顔は汗に濡れ、その額には緊張の色が浮かんでいた。


「さぁ、皆の者っ!あと数分でクトゥル様の演説が始まるぞっ!心して聞くが良いっ!」


その言葉とともに、広場のあちこちから歓声と拍手が巻き起こる。


人々の目は輝き、時に涙さえにじませて、壇上の言葉を待ちわびていた。


老若男女、商人に旅人、子を背に抱いた母までもが、息を呑むように静まり返っている。


「(……信者が増えるってことは、スキル取得のチャンスが増えるってことだし、正直ちょっと嬉しいけど…何で演説することになってるっ!?)」


そんなことを考えながら、クトゥルは内心で冷や汗を流しつつも、表情には一切動揺を見せず、あくまで威厳ある神としての風格を保ち続けていた。


「(でも、でもだ。もしこの中の誰かが俺の˝中身˝を知ったら……˝ただの見掛け倒しの異形˝ってバレたら…………うん、火あぶりとか、普通にあるな……)」


広場の空気は、静かに――しかし確実に、神として迎えるものへと変わっていた。




―――



異形の存在となったクトゥルには、発汗という生理現象は存在しない。


しかしこのときばかりは、心の中で滝のような冷や汗を流していた。


混雑した広場の一角。


信者の賛美に包まれる中、突如として石壇の上の布教者が、勢いよく指を伸ばした。


「皆の者っ!到着したぞっ。あちらにいらっしゃるのが、我らが神、クトゥル様だッ!!」


「おおおっ!」


その瞬間、場の空気が爆発したかのように熱を帯びた。


驚きと歓喜がないまぜになった歓声が、幾重にも重なって響き渡る。


「おお……!神が……!」


「尊きお姿……!」


「この地に顕現されるとは……!」


人々が一斉に膝をつき、胸に手を当て、口々に祈りの言葉を捧げる。


まるで奇跡が降臨したかのような錯覚。


空気が震え、空までが祝福するかのように晴れわたっていた。


エリザベートは自信に満ちた表情で胸を張り、長い黒髪を揺らしながら誇らしげに広場を見渡す。


ティファーは膝をつき、両手を胸に重ねて祈るような姿勢を取り、涙ぐんでいた。


ルドラヴェールは大型の猫の姿で低く咆哮を放ち、尻尾をくるりと巻くと、瞳を細めてうっとりとした様子で空気の波動を感じ取っていた。


「(ん…?ちょっと…待て何か可笑しくないか…?)」


クトゥルが気づいた、˝何かがおかしい˝と。


人々の視線が、確かにクトゥルと名を呼びながらも……その中心に立つ本人ではなく、背後の少し離れた場所へと向けられていたのだ。


その違和感に戸惑う暇もなく、空気を裂くような鋭い声が響いた。


「皆の者ォっ!わぁれこそはぁ、真なる神ぃ、クトゥルなりィィィ!!」


群衆の後方から現れたのは、黒衣に身を包んだ一人の男。


頭に巻いた黒い布が風に舞い、異様な輝きを宿した目を見開き、狂信者のような笑みを顔に貼りつけている。


彼は宙に浮かぶかのような身軽さで壇上へと跳び乗り、両手を高く掲げて叫んだ。


「来たぞ来たぞぉ!祈りを捧げよォ!舞を踊れぇ!邪神クトゥルは、汝らを照らす太陽にして、沈まぬ月なりィィィっ!」


その姿はあまりにも堂々としていて、周囲の信者たちは疑うことなく歓声を上げ、彼の足元へと駆け寄っていく。


「クトゥル様ぁっ!」


「何と言う高貴な姿っ!」


「ボク…初めて拝見しますっ」


歓喜に満ちた笑顔と賛美の声。

本物のクトゥルがそこにいるというのに――誰も彼を見ていない。


「(えっ……誰?俺のことじゃないの……?)」


心の中でぽつりと呟いたクトゥルは、微妙に顔を引きつらせた。


理解が追いつかず、その場に突っ立ったまま固まっている。


そのすぐ隣で、エリザベートが眉をひそめ、戸惑いを隠せずに口を開く。


「……クトゥル様、あれは…何でしょうか…?」


クトゥルは目を瞬かせながら、小さく首をかしげた。


「……?」


「グル…一体ドウ言ウ事ダ…」


ティファーが、叫ぶように断言した。


「いやどう見ても、ニセモノです!!」


その言葉が、あまりに的確だった。


この街――カランティアに存在する˝クトゥル教会˝。


それは、本物のクトゥルを知らぬまま、ただの男が勝手に神を名乗り、神格を騙った˝偽りの教団˝だったのだ。




―――




クトゥルを自称する男の名は――ヴォーグ。


彼はもともと、辺境の山裾にひっそりと佇む寒村に暮らす、どこにでもいるような若者だった。

名もなき農村。名声も未来もない地で、慎ましやかに生きていた――少なくとも、それまでは。


だが、ある年。村を襲った未曽有の大飢饉が、彼の人生を根こそぎ奪った。

凶作が続き、食糧は底を尽き、病が蔓延し、村は壊滅の様相を呈した。

両親も、年の離れた弟も、彼の目の前で飢えと寒さに命を落とした。


ひとり生き延びたヴォーグは、痩せ細った身体で町を彷徨い、職を探した。だが、田舎出の若者に都会は冷たく、施しを受けることすら叶わなかった。


――そんなある日。


空腹にふらつく足取りのまま、広場の片隅でぼんやり座り込んでいた彼の脳裏に、唐突に一つのひらめきが舞い降りた。


「最近有名な邪神……それを名乗ったら飯食えるんじゃね?」


あまりに突飛で、常識を外れたその発想。

だが――彼には、他にすがるものなど何一つ残されていなかった。


それからが、彼の快進撃の始まりだった。


ヴォーグは、空想と語感だけで紡ぎ上げた神語録を自ら筆に起こし、ボロ布と拾い物の装飾品で「神の装束」を作り上げた。


そして、独特のうねるような低音の声色と、見る者に強烈なインパクトを残す奇怪な舞踏――それらを武器に、路上での布教活動を始めたのである。


その熱意は真に迫っていた。いや、飢えと絶望に追い詰められた者にとって、それはもはや生きるための唯一の手段だったのだ。

異様な迫力、奇抜な動き、あまりにリアルな嘘。

それらはやがて、周囲の人々に奇妙な誤解を植えつけていく。


「なんか凄い!」


「よく分からんけど、神っぽい!」


「これが……啓示か?」


歯車が狂い始めるのは、いつも信じたい者からだ。


誤解は連鎖し、連鎖は熱狂へと変わった。

そして気づけば、ヴォーグは「神の化身」として、崇拝の対象になっていた。


もちろん、彼が名乗った邪神の名は――あまりに軽率で、あまりに運命的だった。


よりにもよって、本物と同じ『クトゥル』。


ただの思いつきだった。そこに深い意味はなかった。

だが、この瞬間――世界に二柱のクトゥルが並び立つという、前代未聞の事態が誕生した。


混沌の神を騙る、田舎出身の青年。

そして――混沌の神と呼ばれた、本物の異形の存在。


この街において、果たしてどちらが真の神なのか。


その答えを知る者は、まだ一人として存在していなかった。




―――




広場は狂気と熱狂の渦だった。


拍手と歓声が天を突き、その中心――石造りの祭壇台の上に、黒衣の男が両手を掲げて立っていた。


全身を覆う黒の法衣は風に翻り、頭に巻いた黒い布が陽光を浴びて揺れている。


男の名はヴォーグ。かつて田舎の農村に生きたただの青年にすぎなかった者だ。


だが、今の彼に向けられる視線は、まさしく˝神˝に対するそれだった。


彼は酔いしれたように首をのけぞらせ、口角を大きく吊り上げて、陶酔した笑みを浮かべる。


「愛しき我が子らよォォ……我こそがクトゥルなりィィっ!混沌にして慈悲ぃ深き者ぉッ!さあぁ、踊れィィ!!讃えろォォッ!!」


その声が響くと、信者たちは歓喜の叫びを上げ、一斉に仮面を手に取り顔にあてがった。


歪な装飾が施された仮面の奥、狂信の目がちらちらと輝く。


彼らは即興の輪を作って踊り出す。


赤と黒の布が翻り、異様なリズムに合わせて手足を振るう。


その光景はまるで、神を讃える古代の祭儀のようであり、同時に滑稽な道化の舞にも似ていた。


輪の中心で両手を掲げるヴォーグは――まるで本当に˝神˝であるかのように崇められていた。


その様子を、広場の端、石段の陰からじっと見つめる影があった。


ティファー。かつて神を裏切った背信者は、今は˝本物˝のクトゥルに身を捧げる者として、その瞳に怒りの炎を灯していた。


「っ…ありえませんっ……あの者、どこをどう見ても、クトゥル様ではありません!」


「品位のかけらもないっ」と付け加え、細身の腰に吊るした剣の鞘がわずかに光を返す。


彼女の体は前傾姿勢を取り、まるでいつでも戦いに飛び出せるよう、自然に構えを取っていた。


その隣では、もう一つの影が身じろぎした。


トランスフォームの魔法が解けたルドラヴェール。

赤く豊かで力強い毛並みが逆立ち、唸るように喉を鳴らすその姿は、まさに獣の王。


鋭い尾が地を打ち、瞳には殺気のような光が宿っていた。


「許セヌ……俺タチノ神ヲ騙ルトハ、万死二値スルッ……!」


言葉は低く、野太く唸るような咆哮。獣でありながら、そこに宿る感情は明確な怒りだった。


張り詰めた空気のなか、ただ一人、エリザベートだけは動かなかった。


深紅の瞳を細め、唇を噛むでもなく、眉を顰めるでもなく――まるで冷たい計算機のように、彼女はヴォーグを観察していた。


その表情には、怒りも動揺も一切ない。ただ静かな、致命的な沈黙だけがあった。


足元には、いつの間にか軽い電気が立ち込めていた。感情のように広がるそれは、彼女の魔力が無意識のうちに空間に滲み出ている証。


制御すらされず漏れ出る力は、彼女の内にある感情が静かに燃えていることを雄弁に物語っていた。


そう――エリザベートは冷静なのではない。冷徹なのだ。


その紅の瞳が、まるで虫けらを見下すように、偽神ヴォーグを捉えていた。


「……この地に偽りの名が広まり、真の神の名が穢されること……それは、私たち邪神の――クトゥル様への冒涜っ…」


その声は低く、震えを含むこともない、冷たく研がれた刃のようだった。


空気がひやりと冷えたように感じられたのは気のせいではない。


そこにいた誰もが、彼女の心が既に処理の工程へ移行していることを察していた。


神を騙る男と、神に仕える者たち。  


ここカランティアの広場には、まだ誰も知らぬ、奇妙な二柱の˝クトゥル˝が存在していた――


そしてその真偽が、まもなく暴かれるのは、言うまでもない。


殺す気だ。偽りの神を含む、ここにいるカランティアの民たちを――


張りつめた空気の中、ティファーとルドラヴェールが今にも飛びかかろうとした、その瞬間だった。


黒衣の男の名が広場に鳴り響き、歓声が止むことなく続く中――

ひとりの青年が、静かに前へと歩を進めた。


漆黒の装束を揺らしながら現れたその影――


混沌の邪神と呼ばれる、本物のクトゥル。


彼は、群衆の目にも留まらぬ位置に立ち、そっと顔を伏せた。


ふふ……と、芝居がかった笑みがその唇から漏れる。


「クク……どうやら我を騙る愚か者が現れたか……(これも有名税って奴だな…うん)」


その声に、ティファーが鋭く振り返った。


「クトゥル様……っ!私があの穢れを討ち滅ぼしましょう!」


怒りに燃える青い瞳が煌めき、ティファーの手が剣の柄へと伸びかける。だが――


クトゥルはただ、軽く手を振ってそれを制した。


その仕草には、不思議な威圧と余裕が宿っていた。


彼はゆっくりと身を回転させながら、片手を高々と掲げた。


その仕草一つで、周囲の空気が変わる。


そして、低く響く声で告げる。


「――くだらぬ。我を騙る程度の雑音など、相手にするまでもない」


その声音には一片の怒りもなければ、感情の揺らぎすらない。

まるで深淵の底から這い出たような、冷たく、揺るがぬ響き。


「所詮は偽りの神。放っておけば、自ら崩れ落ちよう。我が名の重みに、耐えられるはずがないのだからな…」


その瞬間だった。


言葉の終わりと同時に、空気が震えた。


風が静かに吹き抜け、まるで真なる神が宣告を下したかのような錯覚が広場を包む。


ティファーは息を呑み、身体の力を一瞬だけ抜いた。


「なんと言う…余裕っ…これが真なる神っ…」


そして、その隣にいた魔獣ルドラヴェール。


深紅の毛並みが風に揺れ、鋭い獣の目が敬意を込めて主人を見上げる。


しかし――


「(正直、面倒ごとに巻き込まれるのはイヤだしな…!)」


心の奥で、クトゥルはじわりと汗をかいていた。


どこまでも落ち着いた威厳の仮面を被りながら、彼の心はこれ以上騒ぎが大きくならないことを切に願っていた。


もし信者たちを刺激すれば、瞬く間に騒動は広まり、他の信徒や騎士団にまで届きかねない。


だからこそ、余裕の神という仮面を選んだのだ。


だが――。


「おおおっ!あれを見ろ!あの姿、あの手の上げ方!あれぞ、まさしく我らが真神クトゥル様!」


「ほ、本当に…邪神様…?偽物じゃない?」


「ふ、不遜な者ども……まさか、あれを偽神と申すかっ!?天罰が下るぞ!」


――信者たちは、変わらなかった。


いや、それどころかますます熱狂の度合いを増していく。


ヴォーグはそれを見て、満面の笑みを浮かべると、再び両腕を高く掲げ、腰をくねらせた。


腕をぶん回し、足元で跳ねるように回転しながら、奇怪なステップを踏み始める。


「ルァアアア!!これがぁ深淵の三日月舞ぞおォォォッ!!」


広場の中心でひとり悦に浸るヴォーグ。


その奇天烈な踊りに、信者たちはまた歓声を上げ、拍手を送り始めた。


その光景を見て――


「(何か、あれを見ると恥ずかしい…気がする…)」


クトゥルは内心、地面に顔を埋めたくなる衝動に襲われていた。


誤解はどんどん拡がり、状況は完全に制御不能だ。


むしろ偽物のヴォーグが、本物のように持ち上げられていく始末。


そのとき、ふと。


冷たい風が一筋、広場を吹き抜けた。


エリザベートが、静かに笑ったのだ。


「……見過ごせませんわ」


その声に、ティファーが慌てて反応する。


「エ、エリザベート様!?今は我慢のときですッ!」


だが、エリザベートは静かに首を横に振った。


「ご安心しなさい…手は出さないわ…ただ……」


その双眸が、血のように深い紅に染まる。


一瞬だけ、その色が濁り、禍々しい波紋を含んだ。


「この茶番が、どこまで続くのか――興味が湧いただけよ…」


彼女の言葉に、風が再びざわめく。

まるで、血塗られた運命が微笑んでいるかのように――。




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