氷に包まれたユ=ツ・スエ・ビル⑭
決闘当日――暁光が血に染まるような、不吉な朝だった。
深い霧が谷間を覆い、ソーンベル全体を灰白の帳で包み込んでいる。
空は雲に閉ざされ、太陽は未だ姿を見せない。あたりには光の代わりに、湿った冷気が漂い、吐く息さえ白く霞んだ。
風は薄ら寒く、どこか甘く鉄錆びた香りを含んでいる。それは血と、魔の気配――古より命が懸けられた儀式の朝にだけ訪れる、忌まわしき徴だった。
アビスローゼ邸の中庭。
石畳の広場には、すでに多くの村人たちが整然と並び、重苦しい静寂が場を支配していた。
声を潜め、息を呑み、誰もがこの場に臨む異常の気配に飲まれている。
そして――その中央に、風を切って一陣の黒が現れた。
黒髪をなびかせ、黒き外套の裾を翻しながら姿を見せたのは、他でもない異形の主――クトゥル。
「……ククク……今日も我が名に相応しき朝よ……」
その声音は、地の底から響くような濁声であった。
耳に届くというよりは、直接、魂の深部を撫でるような奇妙な波動を帯びており、聞いた者は誰しも肌の奥を冷たいものが這うような錯覚を覚える。
観衆の中には、ぞっと身をすくめる者もいた。
それでも皆、一様に悟っていた。
この男こそが、今ここに顕現した異なる存在――常世と現世の狭間に立つ者、邪神クトゥルであると。
その外套の奥で、クトゥルは静かに腕を組んでいた。
その動作は威風堂々とし、微塵の迷いもない。
視線一つ、呼吸一つに至るまで、すべてがこの地に君臨する支配者としての風格を漂わせていた。
――だが、それは演技だった。
その内面では、怒涛のような悲鳴と焦燥が渦巻いている。
脳裏の片隅で、冷ややかな警鐘が鳴り響いていた。
《血が流れるぞ》
その予感は拭えなかった。
決闘という名の儀式、それは名誉と誇りと信念を賭けた、逃れられぬ争い。
たとえそれが形式であっても、失うものは多く、代償は常に血の色をしている。
――だが、それでもクトゥルの心には、揺るぎなき余裕があった。
なぜなら、彼には秘策があったのだ。
誰にも知られてはならぬ策略。
そして、自らが血を流すことなく、この場を切り抜けるための、緻密に組み上げられた道筋。
それは天の啓示などではない。幸運の贈り物でもなければ、他者から授かった助言でもない。
彼自身が、あらゆる可能性を洗い出し、組み立て、冷酷な計算と知略で練り上げた、完璧な˝秘策˝だった。
クトゥルは静かに笑った。
それは、他者には理解できぬほど冷ややかで、自信と狂気の入り混じった微笑――。
続いて現れたのは、エリザベート=ド=アビスローゼ。
初代アビスローゼ家の当主が、邪神より譲渡されたと伝えられる混沌のローブを身に纏い、深く染め上げられた漆黒の髪を風にたなびかせながら、彼女は静かに歩を進めてくる。
その歩みは淑やかでありながら、ひとつの儀式のように厳粛なものだった。
まるで処刑台へと向かう聖女――否、断罪を与える神託者のようにさえ見える。その足取りは地に縛られず、気高さと畏怖を伴っていた。
そして、紅玉のように輝く瞳。その目に見つめられた者は、ただ立ち尽くすことしか許されぬだろう。そこには慈悲も、情もなく、あるのはただ純粋な断罪の光。赤き光の奥に、燃えるような意思が煌めいていた。
「ふふ……今日でクラゲイン家は終わりね。クトゥル様という真の邪神が存在しているというのに、自らを邪神と名乗るなんて……烏滸がましいにもほどがあるわ。」
その声は冷たく、透き通るほどに澄んでいた。しかしその中に籠められた嘲笑と断罪の響きは、場の空気を凍りつかせるほどの威圧を持っていた。まるで、その言葉だけでクラゲイン家の命運は既に決したと告げているかのようだ。
「(……いや、邪神はエリザベート…お前だよ……)」
無論、クトゥルはそれを口には出さない。彼女の傍らに佇むその姿は、沈黙をもって彼女の言葉に応じるのみだった。
そして、別の方向から風を切るようにして声が響いた。
「全くじゃ……本来なら、わっちが一人で蹴散らしてやるところじゃったのに!」
堂々とふんぞり返るように言ったのは、アーヴァ=ンシュタウンフェン。灰青色のハーフツインテールが風に舞い、後ろに伸びた青色の尾をくるりと弧を描くように振るう。
その瞳には、抑えきれない高揚が宿っていた。戦いを目前に控え、胸の奥に潜む竜の血がうねりを上げているのがひしひしと伝わってくる。表情は誇らしげで、まるでこれから始まる戦を祝福しているかのようだった。
その熱を冷ますかのように、低く落ち着いた声が続く。
「油断ハ禁物ダ、アーヴァ殿。敵ハ、名家。足元ヲ救ワレルゾ」
忠告を投げたのは、ルドラヴェール。感情を抑えた口調ではあるが、その一言一言には鋭利な刃のような警告が込められている。彼の双眸には、状況を見据える戦士の冷徹さが宿っていた。
「うっ……わ、分かっておるわっ!」
図星を突かれたアーヴァは、反射的に顔を真っ赤に染めて反論する。尾をバタバタと激しく揺らし、憤慨の意を露わにした。
マロ眉をつり上げ、ルドラヴェールをきつく睨みつけながらも、その姿にはどこか子供っぽい可愛らしさすらあった。
「そ、そもそもっ。わっちはただの脳筋ではないのじゃぞい!? な、なめるでないぞ、ルドラヴェールっ!」
「事実ヲ言ッタマデダ」
即座に返された淡白な一言に、アーヴァはさらに頬を膨らませる。
「ぬぬぬぬぬぅ……!お主、また後で覚えておれっ!」
彼女の言葉に込められた怒りと照れ、そしてどこか微笑ましい躍動感が、緊迫した空気の中に一瞬の和らぎをもたらした。
その隙間に、もう一人――静かに歩を進める影があった。
リュミエールが、一歩、前へと進み出る。
背筋を伸ばし、真っ直ぐに前方を見据えるその姿には、もはや迷いの色はなかった。彼女の中に眠っていた芯が、今まさに目覚めたのだ。
「私の代わりに出るのだ…負けるなよ…リュミエール」
その声は、柔らかくも背中を押すような温かさに満ちていた。
そう言って歩み寄ったのはティファー。軽やかな笑みを浮かべるその目元には、姉のような優しさが宿っていた。
リュミエールは、はっとしてその顔を見上げる。
「ティファーさん……」
言葉少なに呟くその声には、感情が込められていた。
ティファーの瞳は、どこまでも力強く、そして穏やかだった。戦場に立つことを選ばず、託すことを選んだ者の潔さが、そこにはあった。
「……はい…負けるつもりはありませんっ」
リュミエールは小さく頷きながら、胸の奥から熱く込み上げてくる感情を押し込める。
己の足で、己の意志で、今こそ前へ進むと決意した瞬間だった。
―――
クトゥルたちは、静まり返った闇の中を抜け、決して穢してはならぬとされる決闘の聖地へと足を運んでいた。
その名は――「屍灰の闘技場」。
名を聞くだけで人々の背筋を冷やすその場所は、今なお幾重もの死の記憶を抱えながら、凍りついたような静寂を保っている。風は音を失い、空気には鉄錆のような匂いが満ちていた。だが、そこに足を踏み入れる者にとって、後戻りという選択肢は存在しない。
この地が初めて血に染まったのは、遥か数千年前。
それは神と邪神がまだ世界に深く干渉していた時代のことだった。
突如として現れた災厄――災厄の邪神が、一帯を覆う漆黒の瘴気と共に姿を現したのだ。
その黒き霧に触れたものは、生きとし生ける者すべてが命を奪われ、声をあげる間もなく崩れ落ちた。
けれども、その死は終わりではなかった。
邪神の力によって、倒れた者たちは再びその骸を起こし、生者を喰らい、己の死体を増やしていく恐怖の連鎖が始まったのだ。
死者が死者を呼び、地には骸が降り積もる。
やがてそれらは山をなし、腐臭と呻きの渦となって、一帯を呑みこんでいった。
最も多くの命が散ったその中心に、やがて建てられたのが、かつて「屍の闘技場」と呼ばれた忌まわしき処刑場であった。
見世物としての死が繰り返されるその場所は、永く人々に恐れられ、忌避されてきた。
だが、幾星霜の時が流れる中で、積み重なった屍は朽ち果て、肉は溶け、骨すらも風化して――灰へと変わった。
今、地を覆うのは「屍の形」ではなく、「灰に宿る死の記憶」。
大地は静まり、だがその静けさは、まるで死者の呻きを包み隠すかのようであった。
この地は新たに「屍灰の闘技場」と名を改められたのだ。
闘技場の中心には、直径百メートルを優に超える広大な戦場が広がっている。
地面はすべて灰で構成されており、足を踏みしめるたびに微細な粒子が舞い上がり、光を遮るように揺らめく。
耳を澄ませば、乾いた大地の底から、微かに死者の呻きが聞こえるとも言われていた。
その灰はただの塵ではない。
かつてこの地に命を落とした無数の者たちの記憶であり、怨嗟の証だった。
何人もがここに挑み、そして還らなかった。
観客席は、闘技場をぐるりと囲むように築かれた段状の構造をしていた。
すべてが深い黒色をした黒石で組まれており、その石には時間の流れと死者の呪いが染み込んでいるかのように、どこか煤けたような色合いが滲んでいた。
石段の最上段、中央に据えられた一対の王座――「漆黒の玉座」。
かつては王侯や貴族がここに座し、処刑や戦いを見届けたと伝えられているが、今は誰もその座に座る者はいない。
ただ冷たく空席のまま、風にさらされ、朽ちることなく鎮座していた。
灰塵の中央に立ったクトゥルは、腕を組み、悠然とした様子で周囲を見渡した。口元にはいつも通りの余裕ある笑みが浮かんでいる。
「ククク…ここが、決闘の場か。」
低く響く声に威圧を滲ませながらも、その胸中では別の感情が渦巻いていた。
「(うぅ…秘策はあると言ってもイレギュラーがある可能性もある…緊張するな)」
見た目にはまったくわからぬよう、巧妙に表情を保つが、内心では一抹の不安を隠せなかった。邪神と呼ばれる存在でありながら、この場の呪われた気配にはさすがの彼も緊張を覚えたのだ。
一行の布陣は、戦略に基づいた整然としたものだった。中央にクトゥルが立ち、その左右にエリザベートとアーヴァが並ぶ。さらにその外側にはリュミエールが控え、最後列にルドラヴェールが構えている。緊迫した空気の中、それぞれが己の役目を胸に刻み、視線を闘技場の向こうへと送っていた。
「初めて来たが、なるほど…灰を被った屍の場…屍灰の闘技場の名にぴったりじゃな。」
アーヴァは腰に手を当て、まるで風を感じるように周囲を見渡した。頭部の小さな角が興奮に反応してピクピクと動いている。その瞳は、かつてアビスローゼ家と並び称された一族の誇りを背負う者のものであり、彼女自身がこの場に立つ意義を深く感じているようだった。
「グル…血ノ匂イガスル…」
ルドラヴェールは低く喉を鳴らしながら、鼻をひくつかせた。光沢のある尾が長く宙を舞い、まるで獲物の気配に喜ぶ獣のように揺れている。屍の眠りが広がる地下から漂ってくる死と血の気配に、彼は明らかに高揚していた。
「…クラゲイン家も登場ね…」
エリザベートは静かに告げながら、纏う混沌のローブを滑らかに変形させた。生地は音もなく流れるように変化し、優雅でありながらも戦場に相応しいドレスとなる。
右肩には、バラの蔓の片翼が揺れ動く。
紅い瞳には一切の迷いがなく、目に映るものすべてが敵か否か、それだけであるかのような鋭さを帯びていた。
最初に姿を現したのは、艶やかな肢体を揺らすメドゥリーナ。長蛇のような尾を大地に這わせ、紅く艶めく瞳で場を見渡す。妖艶に微笑みながら、細い指で二つの髪を弄び、舌をぬるりと覗かせた。
「ふぅん…アタシの相手は誰かしら…?」
その仕草は誘惑とも殺意ともとれる危うさを孕んでいた。場の空気が、一瞬、粘性を持ったように変化する。
続いて現れたのは、ずしんと大地を踏み鳴らす巨体、ベルザ・モーグ。
両腕には巨大な大槌を携え、その肩を上下させて白い息を荒く吐く。獣のように研ぎ澄まされた殺意を隠そうともせず、低く唸るように言い放った。
「ブモォッ!…敵…すべて…砕く!」
大地をも砕くその腕に力を込めるたび、足元の灰が弾け飛んだ。
その後ろには、冷たい気配を漂わせた老婆――グライア。静かでありながら、底知れぬ深海のような重さと、身の内から溢れ出る呪いを帯びた気配が周囲を包み込む。彼女の言葉は低く、そして愉悦に満ちていた。
「ぐふふ…なるほど、あれが偽りの邪神…面白いのぉ…」
目に宿るのは、狂気と好奇心。底知れぬものに惹かれる者のそれだった。
その三人に続き、テネブルが一歩後方に姿を見せる。翼を静かにたたみ、赤き角の影の中に佇むその姿は、まるで闇の中に沈む彫像のように静かだった。
彼の瞳はただ、リュミエールをまっすぐに見据えていた。その視線には、言葉より深い何かが込められていた。
そして最後に――すべてを見下ろすように、重々しい気配とともに現れたのは、˝氷獄の暴君˝イグロス=クラゲイン。
その存在感は一際異質だった。
褐色の肌に浮かぶ彫刻のような筋肉。猫背にも関わらずわかる異様なまでの長身。前髪には二本のタコの足が垂れ下がり、背中からは触手が不気味にうねっている。その金色の右目が、まるで獲物を選定する捕食者のように、鋭く光った。
「ふん…ヤツが、邪神か…随分と小さいじゃねぇか…」
氷のような侮蔑の声と共に、ズボンのポケットに片手を突っ込み、鋭いノコギリ状の歯をむき出しにして笑った。
その姿を正面から見据えるクトゥルは、思わず心中で叫びを上げた。
「――ククク(うおっ…あれが、真の邪神…?強そうなんだけど…!?目つき…こわっ…背中にタコの足蠢いてるし…やばそうだなっ!?)
普段は他者を威圧する側のクトゥルであったが、あまりにも異様な存在感に内心は激しく揺れていた。それでも、表面上は平静を装い、余裕の笑みを保ったままジッとイグロスを見つめ返す。
イグロスもまた、クトゥルの視線に気づき、鋭く睨み返した。
一瞬、目を逸らしそうになる。だが――クトゥルは踏みとどまった。ほんのわずかに口角を上げ、嘲るような笑みを浮かべる。
その一連のやりとりを、冷ややかに見つめていたエリザベートが、イグロスの姿を一瞥した後、鼻で笑った。
「あれが…クラゲイン家の邪神、ね…」
その口調はまるで品定めを終えた貴族のようで、冷徹さと自信に満ちていた。
「クトゥル様と比べたら見劣りするわ。」
その言葉には、一切の疑いも迷いもない。彼女にとって、比較するまでもない事実でしかなかった。
――灰舞う屍の闘技場。死と名誉、誇りと狂気がぶつかる舞台に、今、ふたつの陣営が出揃った。
―――
石造りの観客席には、一人として座る者はなかった。だが、その無人の空間に、確かに何かがいた。目には映らず、耳にも届かぬその存在は、空気を歪ませ、肌に粘りつくような圧をもたらしていた。
無言のまま、十人の代表者たちが闘技場の中心に歩み寄る。
アビスローゼ家とクラゲイン家――古より対立してきた二つの血脈が、五対五に分かれ、互いを見据えた。
緊張が最高潮に達したその刹那、地の底から呻くような音が響き渡る。
闘技場の中央に刻まれた禍々しい紋章が、まるで生きているかのように淡く脈動を始め、石畳の隙間から黒い霧が吹き出した。霧は渦を巻きながら天へと伸び、空間を喰らうようにして広がっていく。
──それは、闇そのものが、姿を成したかのような光景だった。
渦の中心、霧の奥から何かが這い出してくる。
重く、鈍い音を立てながら、影のような四肢が石畳を掴み、ゆっくりと姿を現したのは、黒衣を纏った何かだった。
その姿は、異形であった。全身を包む黒い外套。顔は見えず、否、存在そのものが欠落しているかのようだった。
フードの奥、虚無の中から徐々に現れたのは――剥き出しの骸骨の顔。
眼窩には光一つ灯っていない。それでも、その存在は全ての者の心を見透かすような重圧を放っていた。
「……敵か?」
沈黙の中、クトゥルは内心で警戒を呟く。
その傍らで、アーヴァが竜の尾を緊張に揺らし、自然と一歩前へ出た。彼女の細身の体は、既に無意識のうちに戦闘態勢を取っていた。
だが、そんな二人に冷静な声が割り込む。
「落ち着きなさいアーヴァ。あれは――審判よ」
静かに告げたのは、エリザベートだった。彼女の目は怯むことなく、骸骨の姿を見据えていた。
黒衣の審判は、ゆるやかに首を上げた。骨だけの顔が、まるで地の底から響くかのような声を放つ。
「――この決闘は、古の誓約に則り、『五対五の同時戦闘』で行われる!」
その声は風の音を凌駕し、石の壁を震わせながら、闘技場全体に響き渡った。
空気が揺れ、魔力の波動が瞬間的に増幅する。
「――個別の勝敗ではなく、最後に残った陣営の代表者が、この決闘の勝利者と認められる。よって、いかなる戦術・順序・戦場移動も自由。降伏も許されるが、それは即ち、誇りの放棄を意味すると知れっ!」
――うぉおおおおおおおおっ!
その瞬間――轟音のような歓声が、観客席から突如として沸き上がった。
……だが、そこには誰もいないはずだった。
声なき歓声。ざわめき。狂乱。
空気の密度が増し、背筋を凍らせるような違和感が空間を満たしていく。
代表者たちがその正体に気付いたのは、ほんの数秒後だった。
観客席に積み上がっていたのは、人ではなかった。
石段に鎮座していたのは、無数の屍の山。その骸骨たちが、口を持たぬままに歓声をあげていたのだ。
骨と灰、そして古の契約によって呼び戻された証人たちが、今まさに、決闘の始まりを歓迎していた。
審判は腕を掲げる。その動作一つで、空間が軋むような重い音を響かせる。
アビスローゼ家とクラゲイン家、それぞれの陣営が、ゆっくりと動き出す。
戦いは避けられない。これは儀式であり、宿命であり――決して後戻りのできない、戦場への一歩だった。
「――始めっ!」
そして、審判の掛け声で各々が、定めた相手に向かって一歩踏み出す。
その一歩が、すべてを変えていくのだった。