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邪神教と騎士団④

深夜。教会の内部は、まるで時すら眠ったかのように静まり返っていた。


礼拝堂にはただ一つ、古びた燭台に灯された灯火が揺れている。蝋の垂れる音さえ聞こえそうなほどの静寂の中、オレンジ色の炎が天井の彫刻を淡く照らしていた。


その沈黙を破らぬように、ライエルは音を立てぬ足取りで廊下を進んでいた。外套の裾がかすかに揺れ、軋む床板の一つ一つを見極めるように、慎重な足運び。


向かう先は、昼間の下見で気づいていた一点――床にわずかな擦れ跡が残る、不自然な板張りの一角。何度も清掃されたように見える床の中で、そこだけが異様に磨耗していた。


彼はしゃがみ込み、指先を床板の縁に添える。ひっそりと息を吐き、慎重に力を込めて持ち上げると、重たい音を立てずに木の蓋が軋んだ。


隠し扉――その下には、石造りの階段がぽっかりと口を開けていた。


冷気が微かに吹き上がる。土と石の混じった、地下特有のひんやりとした空気。湿り気を含んだ風の中に、かすかに混じる鉄錆と香の匂い、そして遠くから響く低く抑揚のある祈りの声があった。


それは人のものだ。だが、どこか異質な響き。言葉の意味は聞き取れないのに、耳の奥に残る不協和音のような感覚だけが、確かに心をざわつかせる。


「……やはり、あるのか。地下が」


呟きは、吐息とともに闇に消えた。


ライエルは背後を一瞥し、扉をそっと閉じてから、慎重に足を踏み入れる。石の階段が、静かにその身を闇の奥へと飲み込んでいった――



―――



リナウテキメノスの教会に、鈍く湿った風が吹き込んだ。


静寂の中、重厚なカーテンが風に揺れ、夜の冷気がそっと部屋の空気を撫でた。

赤黒い教会の高窓から差し込むのは、月ではない――教会に宿る不可思議な灯が、ゆらゆらと揺れながら私室を淡く照らしていた。


その窓際に立つひとつの影。


腰に布を巻いただけの姿で、セラフィスは静かに外を眺めていた。

整った横顔に、灯が斜めから柔らかく影を落とす。その瞳は遠く、まるでこの世の出来事など、すべて幻に過ぎないとでも言いたげな、深い虚無を湛えている。


背後。

薄紅のシーツに包まれた寝台には、四人の女性が横たわっていた。

アルラ、アリシア、フレイヤ、ミレイユ――いずれも今やセラフィスの直属の護衛であり、同時に彼に魅了され、忠誠を誓った者たち。


上気した頬。

汗ばんだ肌に、衣の端がかろうじてかかっている程度。

彼女たちはまるで恍惚の余韻に浸るように、セラフィスの背中を穏やかに見つめていた。


沈黙を破るように、ひとりの声が漏れる。


「……来たわ…」


ミレイユがシーツを胸元に巻きつけながら、ゆっくりと身を起こした。

かつて「一流のゴールデンランク冒険者」と謳われた彼女の指先には、淡く青白い光が残っていた。


展開された高精度の探知魔法が、無言の侵入者の気配を捉えたのだ。空間に織り込むように張り巡らされた結界は、確かに異物の通過を報せていた。


「セラフィスの予想通りだね。」


隣に寝転がるアリシアが、静かに告げる。

銀の月明かりを思わせる白髪が肩口で揺れ、その手にはすでに、重厚な鉄の杖が握られていた。静かな眼差しの奥に、敵を見据える氷のような意志が宿る。


炎のような赤髪を後ろで束ねたフレイヤがベッドから起き上がると壁際に寄りかかる。


猫のように鋭い瞳がわずかに動き、彼女の背に預けた石壁すら、その存在感を薄くさせるほど静かな気配。呼吸ひとつ乱すことなく、狩人のように気配を抑え、時を待っている。


「まぁ、あんだけ信者たちが来れば一匹くらい、混じってるだろうがな…」


ぶっきらぼうな口調に滲むのは、警戒と確信の入り混じった諦観。

フレイヤの口元にわずかに浮かぶ皮肉めいた笑みが、夜の静寂に微かな緊張を落とした。


そして――。


「思ったより、早い段階で潜入して来ましたが、予想通りです。」


重たくも艶やかな声が、階段の上から響いた。

その声は柔らかく空気を撫で、それでいて夜を裂くような鋭さを孕んでいた。


ゆるやかな足取りで現れたのは、セラフィス。

赤黒い法衣が彼の細身の身体を包み、その裾が階段の縁を流れるように揺れる。

長く垂れたエメラルドの髪が闇の中で淡く光り、琥珀の瞳は相変わらず冴え冴えと、あらゆるものを見透かすように輝いていた。


「それにしても、よくライエルがスパイだって分かったな。普通の旅人って感じだったぞ…?」


階段に、法衣の裾が静かに擦れる音が落ちていく。

蝋燭の灯りがかすかに揺れるなか、セラフィスはゆるやかに、まるで独り言を漏らすように呟いた。


「……些細な綻びだったのですよ。けれど、人の色を見慣れていれば、それで十分です。」


彼の足が止まる。蒼白の光を帯びた指先が、空気をなぞるようにゆっくりと動く。


その瞬間、空間がわずかにざらついた。

目には見えない、だが確かにそこにある違和――魔力の感触。


教会内に仕掛けられた信仰波の検知魔法が、ひそやかに震えを返す。

これは、元教祖セラリウスの時代から受け継がれている秘術であり、かつて多くの異教徒をあぶり出してきた教会の秘匿技術だった。


人は祈るとき、無意識に魔力を揺らす。

それは微細な「波」となって空間に染み込み、信じる神の名のもとに波長を刻む。

信仰の色――それを読む魔法だ。


セラフィスの唇が、微かに笑みの弧を描いた。


「ライエルは、礼拝の時に祈らなかった。いや、形は祈っていました。しかし、波長が空白だったんです。」


控えていたアリシアが、涼しげな声で応じる。


「……つまり、誰にも祈っていないと?」


「ええ。それは、何よりの証拠です。――この邪神教会において、無信仰は最も不自然な色ですから」


その言葉とともに、セラフィスの瞳が、闇に溶けるような深さを帯びる。

慈しみのような微笑を浮かべたまま、その表情にはどこか危うい美しさが宿っていた。


彼は続ける。思索の果てを確信へと変えながら。


「そもそも、リナウテキメノスのような僻地に旅人が一人で訪れること自体が、もはや時代錯誤なのです。この街の外は、すでに多くの教会が監視している。あえてここを選び、しかも『導きを求めている』と口にする――…定型句にしては、心がこもっていなさすぎた。」


その分析に、壁際にいたフレイヤが鼻を鳴らした。


「なるほどな…」


その声は、警戒よりも、むしろ感心の色を含んでいた。


セラフィスの見抜く眼は、やはり只者ではない――三人の間に、暗黙の了解のような緊張感が満ちていく。


「そして、彼の素性を信者の方々に調べて貰い、ライエルが晴天の騎士団所属なのが分かりました。ミレイユ。ライエルの現在の位置はどのあたりですか…?」


セラフィスの問いかけに、縦ロングのツインテールを揺らしながらミレイユが答える。


「教会の地下ですわ。」


わずかに伏せたまつげが揺れ、淡々とした声が静寂を裂いた。


「そうですか。では、本当の意味で˝お迎え˝をしないといけませんね…」


セラフィスは肩にかかる長い緑髪をそっと払い、静かに踵を返す。

その動きには迷いも躊躇もなかった。

後ろに控えるミレイユ、アリシア、フレイヤ――三人の護衛も、言葉ひとつなくそれに従う。


古びた階段へと足を踏み入れた瞬間、ひんやりとした空気が頬を撫でた。

地下へ降りるごとに温度は下がり、息がかすかに白んで見えるほど。

冷気に混じるのは、石と湿土、そして祈りの残滓のような匂い。


四人の足音は、吸い込まれるように石造りの空間に消えていく。

壁のあちこちには、今や誰も読めぬ古代語の祈祷文が浮かび上がっていた。

文様の上には苔が生い茂り、まるで神秘の眠りに包まれたまま、時を止めているかのようだった。


誰も言葉を発しない。

それは緊張ではない。使命を前にした者たちの、研ぎ澄まされた沈黙だった。



―――




「……この地下に、何の意味があるんだ……?」


誰に聞かせるでもなく、ライエルは小さく呟いた。

古びた石壁の間を進む足音だけが、冷えた空間にこだまする。


地下通路は、ひどく単調だった。

左右には扉ひとつ見当たらず、ただ前方へと続くだけの一本道。

まるで、誰かが余計な道を作ることを恐れたかのような構造だ。


天井は低く、石造りのアーチが続いている。

壁には燭台すらなく、彼の手元の小さな魔導灯が頼りだった。

青白い光が揺れ、ライエルの表情に影を落とす。


彼の額には、うっすらと汗が滲んでいた。

この空間に足を踏み入れた時から、心臓がじわりと不穏な鼓動を刻んでいる。


まるで――誰かに、見られているかのようだった。


「……」


喉が鳴る。空気が薄いのか、息が重い。

だが、それでも彼は歩を止めない。

壁の一つひとつを視線でなぞりながら、慎重に進んでいく。


そして、それは――唐突に現れた。


それまでの無機質な石の壁に、ぽつりと扉が出現していたのだ。

木製。鉄の装飾。

古く見えるが、埃一つない。不自然なほどに、綺麗だった。


「……この先に、何が……」


ライエルは、眉をひそめる。

意識の奥で、何かが警鐘を鳴らしていた。

それでも、彼は進む。

ゆっくりと、右手をドアノブにかけた。


金属が冷たい。

まるで、生きているものの体温を奪うような冷たさだった。


ギィ……。


鈍く軋む音が、静寂を切り裂くように鳴る。

扉は、重さに逆らわず、ゆっくりと内側へと開いていった。


隙間から漏れるのは、まばゆい光ではなかった。

漆黒の深淵――

まるで光そのものが存在を拒まれたような、闇がそこに広がっていた。

ライエルの手が止まる。

彼の目が、その暗闇の向こうに何かを探るように、細く細く狭められる。


「……ようこそ。」


彼を待ち構えていたのは、他でもない――邪神教の教祖、セラフィスだった。

石造りの回廊の終端。天井の裂け目から差し込む月光に照らされ、彼の長いエメラルドグリーンの髪が淡く光を返す。


「お待ちしておりましたよ。…ライエル…。」


その声が響いた瞬間、空気が凍りつくようだった。


琥珀色の瞳が静かに揺れ、月光と相まって幻惑のように輝いていた。高身長で、痩身。法衣の裾が石の床を擦るたび、柔らかな音が鳴る。


その顔は、あまりに静謐で、あまりに優美で――だが、どこか人ならぬものを思わせた。まるで、遥か高みに立ち、すべてを見渡している仙人のように。


「いえ、騎士団のスパイ、とお呼びした方がいいですか…?」


その言葉に、ライエルは反射的に身を引いた。


「セラフィス……!」


名を呼んだ瞬間、背後で鈍い音が鳴った。

扉が軋み、閉じられる。その前に立っていたのは、眼鏡を掛けた地味な印象の女――アルラだった。


彼女は表情を一切動かさず、ぺこりと一礼すると、そのままドアを閉め、内側から鍵をかける。重たい音が空間にこだまし、逃げ道が絶たれたことを告げていた。


そして、その奥に現れる三つの影――


褐色の肌に燃えるような赤髪をポニーテールに束ね、刺すような眼光を向ける女。かつてゴールドランクとして名を馳せた戦士、フレイヤ。


その隣には、白銀の髪を揺らし、無言で長杖を構えるエルフの魔法使い――アリシア。


さらに、その傍らには、美しい縦ロングのツインテールを揺らす冷たい瞳の女、ミレイユ。氷のような気配を纏いながら、油断なく立ち位置を確保している。


3人――全員が、かつて名を馳せたゴールドランクの冒険者たちだった。


「(……罠だったか…!)」


ライエルの心臓が跳ねる。

状況は最悪だ。背後は閉ざされ、前方には歴戦の強者たち。包囲網のど真ん中に、たった一人で放り込まれた自分を痛感する。


その手が、外套の内側に隠した短剣にかかる。筋肉が収縮し、跳躍の準備を――


「おや……牙を抜く前に、少し話を聞いてはいただけませんか…?」


セラフィスの声が、滑らかに流れ込んだ。


その声音には、挑発もなければ怒りもない。見下しも、敵意も感じられない。ただ、静かで深い――まるで、すべてを受け入れる水面のような慈しみに満ちていた。


緊張の糸が、逆に不気味に緩む。逃げ場のない空間の中で、セラフィスの言葉は恐ろしいほどに、穏やかだった。


「あなたがここへ来たのは、任務のためでしょう。でも――それだけではないはずです。あなたの中には、疑問がある。」


深い声が、まるで水面を滑るように空間へと沁み込んだ。


セラフィスの言葉に、ライエルの指が短剣の柄を静かに離れる。武器から手を離すという行為は、命の綱を手放すことに等しい――それでも、彼はそうせざるを得なかった。


「疑問……?」


口に出したその言葉に、自分自身が戸惑った。


これまで、彼は神に仕え、晴天騎士団の一員として生きてきた。


迷いなど、抱く隙間すらなかったはずだ。だが、セラフィスの言葉が針のように、心の奥に沈んでいた何かを穿つ。


彼の足が、わずかに止まる。


「邪神様ではない、神に仕えていれば、必ず目にする矛盾。信じた正義が踏みにじる何か。あなたはその目を、まだ閉じていない。それだけで、私は嬉しいのです。」


淡く微笑むセラフィスは、ゆっくりと片手を差し出した。その掌には力も命令もなかった。ただ、選択だけがあった。


「私たちの邪神教会は、あなたを縛るつもりはありません。選ばせてください。このまま何も得ずに帰るのか、それとも、もう一歩だけ足を踏み入れて、世界の裏側を見てみるかを…」


静寂が、重く張り詰める。フレイヤもアリシアも、剣も杖も構えようとはしない。ただ、ライエルの決断を、無言のまま見守っていた。


そのとき、ミレイユが、言葉もなく懐から一冊の薄い冊子を取り出した。中綴じのそれを、無造作にライエルの胸へと投げる。


「…これは、何だ…」


ライエルは手に取って開いた。


そこには、晴天の騎士団が行った非常な行為の数々だった。

中でも、とある村の焼き討ち。表向きには「異端者の根絶」とされていたが、その裏では無関係な住民の犠牲が多数出しており、ライエルの心が痛む。


「(こ、こんな記録が…騎士団がそんなことをするわけが…それより、なぜ教会に?)」


思考が追いつかない。頭の中が混線し、ページをめくる手が震える。これまで絶対と信じてきた正義が、今まさに崩れ去ろうとしていた。


捏造かと思いきや、騎士団の団長の名前や、副団長の名前など詳細に書かれており、嘘とは言い切れない。


「私たちは、神の名のもとに誰かを裁いたりはしません。ですが、その傷跡に寄り添うことならできる。あなたがもし、正義の在り方に迷うなら――どうか、それを無かったことにはしないでほしい。」


その声は、どこまでも穏やかだった。責めも、強制もない。ただ、静かに、苦しむ魂を包み込むように。


ライエルは気づけば、短剣から完全に手を離していた。


そして、俯いた目元に、深い影が落ちる。


俯いたまま、ライエルの指先がわずかに震えた。


記録の中には、かつて焼き払われた村の名。そして、そこで暮らしていた無辜の民たちの声が綴られていた。炎に包まれた木造の家々。走ることすらできなかった子どもと、それを抱えて逃げ惑った母親。血と煙に染まるその光景は、誰かが描いた空想の地獄ではない――晴天の騎士団が正義の名のもとに振り下ろした剣が生んだ、現実の惨劇だった。


ライエルは知らなかった。だが、それは本当に知らなかったのか?

いや、知ろうとしなかっただけではなかったか。


静かな鼓動の奥、ふとした芽のようにひとつの声が顔を出す。


「(……僕は、本当に正しい側にいたのか?)」


その声に、答える言葉が見つからないまま、ライエルは顔を上げた。視線の先――セラフィスは、相変わらず穏やかな微笑を浮かべて、ただそこに立っていた。


「……なぜ、あなたたちは……こんなものを持っている?どうして、教会が……」


怒りか、動揺か。あるいは困惑か。感情の底が定まらないその問いの中には、かすかに誰かに答えてほしいという願いが混ざっていた。


セラフィスは、そのかすかな色を見逃さなかった。


「この記録は、晴天の騎士団の被害者の方が記した物です。私たちの元にいるのですよ。神を捨て、邪神様に救いを求めた方々が。」


静かに歩み寄るセラフィス。その口調は、優しさと諦念が溶け合ったようなものだった。


「私たちも、正義を語るつもりはありません。ただ、真実を語りたいのです。神の名を盾にした暴力ではなく、誰かの痛みに手を差し伸べられる世界を。」


「……そんな理想論で、世界が救えるとでも?」


吐き捨てるような言葉の裏に、自らの動揺を隠そうとする苦さがあった。だがセラフィスは、それすらも責めることなく、静かに首を横に振った。


「救えないかもしれません。でも、私たちは裁かない。それが、我らが邪神――クトゥル様の教えです。人を罰する神ではなく、理解する神。力で縛るのではなく、慈悲で包む神。」


彼の言葉は、魔法でも呪詛でもない。それでも確かに、心の深層に波紋を投げかけていた。


セラフィスは一歩踏み出す。揺らがぬ足取りで、ライエルとの距離を静かに詰める。その琥珀の瞳が、まっすぐに彼の目を捉えた。


「ライエル。あなたは、まだ信じているのですか?選ばれし神に仕えれば、全てが正義になると?」


その言葉が、杭のように心臓へと打ち込まれる。


「……っ」


ライエルの呼吸が浅くなる。肺の奥に冷たい空気が絡みつき、吐き出せない。


正義とは、何か。

神とは、誰か。

それらはかつて、自明の理だったはずだった。しかし今や、それは砂上の楼閣のように揺れている。足元から音もなく崩れていく信仰の土台。そこに、静かに染み込むように邪神教会の言葉が入り込んでいた。


「私たちは、あなたを否定しません。ここまで来た勇気を、誠実を、私は讃えたい。」


セラフィスの腕が、そっと伸ばされた。


その手は、脅しではなく誘いでもなかった。あたかもすでに選ばれた者へと向けられた、静かな迎え入れの手だった。


ライエルの視線が、差し出された手のひらへと落ちる。

短剣を握ることも、拒絶の言葉を返すこともできないまま、彼の手は――


迷いの残るまま、静かにその手を、取った。



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