9話 ギルドで薬師登録にいくと?
私は、ギルド館の中に入る。
一階が冒険者ギルドで、二階が商業ギルドと階が別れていたから、私は二階へと向かう。
そのうえで、商業ギルドの中にあるだろう薬師ギルドを探すのだけれど、どうも見当たらない。
それであたりを歩き回っていたら、ギルドの女性職員から声をかけられた
「なにかお探しですか」
「薬師ギルドはどちらにありますか。登録をお願いしたいのですが」
「薬師志望ですか。大変申し訳ありませんが、この街には薬師が少なく、ギルドはないのです。こちらの総合受付へどうぞ」
なるほど、そういう場合もあるのか。
私は少し納得して、その職員の後ろをついていく。
そしてカウンターにつくと、一枚の書類を渡された。
「まず、こちらの記入をお願いします。終わったら、薬師の方にはテストを受けてもらっておりますので」
まぁそれくらいは、あるだろうと思っていた。
私は一つ頷き、羽ペンを手に取る。
はじめにあった氏名の欄に書いたのは、『アスタ・アポテーケ』。
あだ名と、この国で薬師の家柄に使われやすい苗字とを組み合わせた新しい氏名だ。
それくらいは隣国の王妃として把握していた。
苗字が出自の証になるのが一般的だから、疑われる可能性を大きく減らせる。
それからも、とんとんと書き進め、すべての項目を埋め終わる。
が、最後にあった項目を見て、目が点になった。
そこには「推薦状が必要」と小さく書いてあったのだ。
どうやら、この街のギルドは、それなりに厳格らしい。国境にある街だからか、管理は厳しいようだ。
「あら、推薦状はお持ちじゃないですか?」
「え、えぇ。昨日方、ここへ来たばかりですから」
「そうですか。では、別の街でのギルド証、それもないようなら通行証や宿の宿泊証などでも承れますよ」
親切に案内してくれるのはありがたいのだけれど、私はばりばりの不正入国だし、当然それも持っていない。
とりあえず「あれ」と言いながら、カバンを探るふりをして時間を稼ぐ。
こうなったら一度、退散するしかないかも?
私がそんなふうに考えを巡らせていたら、
「あれって……」
「あぁ、たしかに今朝の朝礼で聞いたような」
どういうわけか、カウンターの奥で職員が騒がしくなる。
もしかしたら、不正に街へ入ったことが感づかれたかと私は内心焦って、変な汗が身体の奥から湧き出てくる感覚になるのだけれど、それは杞憂だったらしい。
「あの、申し訳ありません! やっぱり推薦状は不要です!」
「……え」
「大変申し訳ありませんが、試験だけは決まりになっておりますので、ご受験いただけますと幸いです。あ、と言っても、そんなに難しくはありませんから!!」
一転して、まさかの免除が告げられる。
同時、ギルド職員の対応が丁寧を通り越して、過剰なほど、へりくだったものになっていた。声の高さがさっきまでと一段違う。
しかも、その後ろには、ぞろぞろと職員が集まってきていた。
昔、ギルドへ視察に行った際、同じような対応を受けたことがあるが、今の私は妃ではないのだから、謎だった。
ただまぁ免除になるというのなら、変に疑問を投げかける必要もない。
「そうですか。えっと、では、お願いします」
「はい、すぐにご案内いたしますね!」
職員数名がわざわざカウンターから出てきて、私を先導してくれる。
それで私は、試験会場へと向かった。
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