第71話 思い描いていた幸せ(ここで一区切りです)
そうしてまずは二人して、土を掘り起こすところから始めた。
王城でハーブを育てていたときと比べれば、小さな範囲とはいえ、結構な重労働だった。
だが、ルベルトが手伝ってくれたおかげで、思ったより早く、土ができあがる。
苗や種は、すでに用意していた。
私はそれを、ルベルトとともに一つずつ間隔を開けながら、植えていく。
「……これでいいのか?」
「はい。苗は、土はついたままで構いません。少し余裕を持って掘り返したところに植えて、あとは周りを固めれば、それで大丈夫ですよ」
私はルベルトに説明をしながら、実践して見せる。
それを食い入るように見てから、ルベルトは見よう見まねで、なにやら呟きつつ作業をする。
その袖は、土埃で汚れてしまっていた。
そうした姿だけを見ていたら、とても王子には見えない。
まぁ、なにをしていようが、その美貌自体が崩れることはないわけだが。
こんな庶民的な仕草一つさえ絵にしてしまう圧倒的な強さがある。
そんな姿に視線を奪われる格好で、ついまじまじと見ていたら、
「これは、なんの植物だ?」
ルベルトがこう尋ねる。
「ギーナという薬草です。この間、オルセン王国の庭に植わっていたものを拝借してきました」
「……そんなことまでしていたのか」
「この薬草は珍しいですからね。気候面なども、この街なら一応適している範囲内のはずですし」
それに、思い入れもある。
この薬草は、エーギル先生に最後に教えてもらったものでもあるし、ジールとの思い出も残るあの王城の庭から採取してきたものでもある。
彼女の遺志を繋ぐ意味でも、これは私がここで責任をもって、命を繋いでいくつもりでいた。
私はペンダントにそっと触れる。
それから、一つ息をついた。
「たくましいものだな」
「お褒めいただき光栄です」
あえて杓子定規に礼を言ったのを、ルベルトはふっと鼻で笑う。
それから再び、二人して作業へと戻る。
そしてついに、小さな薬草園は一旦の完成を見ていた。
水をほどよく含んだ濃い茶色の土と、が薬草の若い薄緑色の葉のコントラストが美しい。
ルベルトの表情からも、充実した様子がうかがえる。
「たまに様子を見に来ても構わないか。俺も様子が気になる」
「もちろん、構いませんよ」
すっかり愛着も湧いたようだ。
まぁ、まだやっと植え終えた段階であって、ここが薬草園になるのは、これからなのだが。
でも、それでもまずはここまでこぎつけることができた。
この場所が気に入って、この街に留まることを選んだ私には、それがとても大きなことのように思えた。
幸せだな、とふと思う。
いつか思い描いていたような幸せ。
それが今は、手元に落ちてきているような気がする。
なんて思っていたら、
「平和だな。こんな時間がずっと続けばいいが」
私の心を読んだかのごとく、ルベルトが言う。
このあたりの感覚を共有できていることは嬉しいことだった。
だから微笑みながら、「ですね」と返したところで……
「アスタ様。すいません、どうしても足りない薬がありまして……!!」
いきなりの事件発生らしかった。
私はルベルトと目を合わせ、二人で苦笑いを共有する。
「薬師というのは忙しいものだな」
「王族ほどじゃありませんよ」
こんな会話を交わしてから、玄関口へと向かった。
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