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第70話 俺が王族をやめてもいいかもしれないな




その後、パーティーはうやむやのうちに散会となった。


当たり前だ。

パーティーの主役であるはずの二人が倒れたのである。

続けることはできないし、祝われるような人はどこにもいなかったのだから、続ける意味もない。


本来ならば、宴会の翌日以降も親睦会などの予定があった。


が、国を揺るがすような事件だ。

参加国の意向などもあり、それらはすべて中止となり、私たちミュラ王国の面々も、帰路につくこととなった。


――そうして、帰国してから約二週間。


「一応、身体は回復をしたそうだ」


こうルベルトから報告があったのは、帰国から一か月ほど経った日の事だ。

私の家を訪れたルベルトと食事をとっている際、いきなりに言われて、私は一瞬、なんの話だったかと戸惑う。


だが、少し遅れてどうにか思い出して、「そうですか」との返事をする。


「薬がきちんと効いたのならなによりです」

「あぁ、そこは間違いない。ただ王も王妃も精神をひどく病んだ状態になっているらしい。とくに、王妃のほうは『姉の亡霊が出た』とかなんとか。精神的ショックで幻覚を見ている可能性があるらしい」


もしかすると、最後のあの一言が効いたのかもしれない。


ただ、亡霊と思われているあたり、毒で朦朧としながらに見た悪夢とでも思ったのだろう。


それは、私にとっては好都合だ。


「王と王妃は、交代する方向で動くようだな。ローレン王には弟が数名いるから、その中から候補が選ばれるそうだ」


そう言われれば、何人かいたような……。

一応、かつての義弟にあたる方々なのだが、ほとんど記憶にはないが。


同じ血を引いている点に不安こそ残るが、こんな事件に発展した以上、ローレンほど自由にはさせてもらえまい。


というか、だ。


「そんな話を、ただの薬師の私にしてもいいのですか?」

「お前がうまく立ち回ってくれなければ、ミュラ王国に罪がなすりつけられていた可能性もある。これくらいはかまわないだろう。それに、信頼をしている。でなければ、ここにも来ない」

「……それは、どうも」


この人は、不意にまっすぐすぎる言葉を繰り出してくるのだから困る。

照れがこみあげてきた私は、それしか答えられずに、彼から目を逸らした。


「それに、賠償の件もあるからな」

「……国賓に罪をなすりつけようとしたわけですものね」

「そうだ。慰謝料を貰うか、土地などの割譲を要求するかはまだ決まっていないがな」


国家間の賠償だ。きっと莫大な額になるのだろう。

オルセン王国は決して裕福なわけではないから、国力の低下にも繋がる。


加えて、国際的な信用の墜落もある。

オルセン王家の権力は弱って、クーデターなどが起きる可能性もあろう。


そのあたりは、もうミュラの人間になった私にはどうすることもできない話だから、これ以上は考えないこととする。


「決まった際には、アスタにはミュラ王国から報奨金が出る方向になるだろうな」

「いりませんよ」

「はは、アスタらしいな。ただ、王都からのお招きもあるかもしれない。いや、間違いなく、なにかしらの呼び出しがあるだろうな」

「……大変ですね、王族関係は」

「嫌気がさしたか?」


私は忖度などなしに、素直に首を縦に振る。

なにせ、王妃をしていた頃からその面倒くささには辟易としているのだ。


「ならば、俺が王族をやめてもいいかもしれないな」

「……えっと?」


話の流れからは外れた一言だった。

なぜ私が王族関係のごたごたに嫌気がさしたら、ルベルトが王族をやめる話になるのだろう。


私が理解しきれずにいるうち、


「……今のは忘れてくれ。こちらの話だ」


ルベルトは前髪を軽く指で引っ張って、目元を隠す。


「そろそろ、庭作業をやろうか。少し手を洗ってくる」


そのうえで、逃げるように席を立ってしまった。


が、そもそも今日ここへと来てもらった理由は、彼の言う通り、庭作業のためだ。


あの薬草採取の際に、死に瀕しながらに交わした約束をやっと果たす日が来たのである。


だから私は私で庭作業の準備を進めて、彼が戻ってくるのを待つことにした。



次で一区切りとなります。

よろしくお願い申し上げます。

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