第69話 『ご愁傷様』
が、両親以外の反応は、変わらず薄い。
いくら不完全な毒薬とはいえ、このまま放置していたら、間違いなく死ぬ。それを全員が分かっているのに、彼らの意見はまとまらない。
私はそれにため息をつく。
同時、こんなものだ、とも思う。
みんな結局は自分が可愛いのだ。いつもは仲良さそうに見せていても、本当に忠誠心を持つものなど、そうはいない。
結論の出ない、焦ったい時間が続く。
このままでは二人が死んでもなにらおかしくない。
私がそう思い始めた時だ。
「お、俺が……、俺がハンナに薬を盛った」
まさかの告白が、毒を守られた本人たるローレンの口から飛び出てきた。
これには、会場全体が騒然とする。
そりゃあそうだ。誰が犯人なのかと腹の探り合いをしていたら、倒れていた人間が突然に白状を始めたのだから。
だが、言われてみれば、まったくありえない話でもない。
ローレンはハンナがいることによって、思うように遊ぶことができないなど、不満がたまっていたのだろう。
そう思っていたら、
「……あ、あたしも。あたしが、ローレンに薬を盛ったの」
今度はハンナがこう白状する。
「ローレンが、浮気ばかりするから……痛い目を見せようと……」
「ハンナが他の妻を持つことを許さないから……」
そのうえで出てくるのは、言い訳未満の自己弁護だ。
王と王妃が毒を盛られた。
そんな一大事件の真相は、互いを憎むがゆえに起きた、殺し合いだったらしい。
なんとも呆れた話だった。
これには、今の今まで「早く薬を」と騒ぎ立てていた私の両親も、さすがに言葉を失くしていた。
それを横目に、私はルベルトへと目をやる。
するとひとつ頷かれたので、私はローレンとハンナのそばに屈み、座り込んでいた医師に言って、水を用意してもらう。
本当は、裏に真犯人がいる可能性も十分に考えられた。
むしろ、二人それぞれが同じ日に毒殺を考えて、今日を迎える可能性は低い。
誰かが裏で彼らをそそのかし、それをルベルトの犯行に見せかけるため、お披露目会を催させたと考えるのが普通だろう。
あくまでも今の私にとっては、他国の話だ。
王家周りのごたごたなど、どうでもいい。とりあえず、ルベルトの犯行でないことが確実になったのだから、それで十分だ。
私は用意された水を手に、彼らに薬を含ませようとする。
そこで、頭の中に浮かび上がってきた言葉は、自分でも驚くものだった。
口にするには、リスクがありすぎる言葉だった。
だが、それはどうしても口にせずにはいられないような、そういう引力がある。
どうやら彼らに対して、心の内側に溜まりに溜まった不満や苛立ちがそうさせているらしい。
私はため息をついてから、小さな声で言う。
「ご愁傷様です」
いつか、妹・ハンナに言われたセリフをそっくりそのまま。
言葉に思い当たるところがあったのだろう、ハンナが大きく目を見開く。
が、幸いなことになにも言わないまま、意識をなくしたようで目を閉じた。
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