第60話 元王妃、妹と遭遇する
彼の頑張りの分も、まずはしっかり目的を果たさなくてはなるまい。
場所は当然覚えている。そして、どこが人の通らない道かも私は抑えていた。
だから、誰にも遭遇することなく、私は屋敷内を通り抜けて、その裏手にあるはずの小さな庭へと向かう。
心臓がどくどくと跳ね始めていた。
あの頃の私にとって、王城内では唯一、癒しを得られたあの場所は、はたして、まだ残っているのだろうか。
期待と不安に揺れながらも私が裏庭への戸を開ければ、驚くべき光景がそこには待っていた。
「……これは、なかなかひどいわね」
一応、薬草園は残っていた。
が、誰も世話をしている人間はいないようで、薬草たちは生え放題になっている。
とくに繁殖力の強いハーブ類は、かなりの茂りようだ。
もはやどこを踏んでも、ハーブだらけである。
ただ、なくなってはいなかった。
たぶん存在を忘れられているだろうに、こうして、たくましく生き続けてくれている。
やむを得ず世話ができなくなった身としては、それがまずは嬉しかった。
私は少しほっとしてから、ハーブたちを踏み分けて、ギーナを植えていた場所の付近にしゃがむ。
ギーナの薬草は、比較的背が低いことが多い。
上から見るだけでは見えにくかったが、この中に紛れてしまっている可能性は十分にある。
私はハーブたちをかき分けて、その特徴的な細長い葉を探す。
すると、どうだ。
それは案外簡単に出てきた。というか、むしろ生えすぎている。
「……もしかして、環境があってた?」
私は疑問に思いながらも、とりあえず採取を始める。
昔のように、まったりしていたら、誰か人が来る可能性もある。
いくら人気の少ない場所とはいえ、すぐ裏には執務室もあるのだ。
私は、ギーナをはさみで落とすのを繰り返す。
と、その最中だ。
まったく思いがけず、いきなりに裏庭の扉が開けられた。
「誰かいるの?」
その、耳に残る甲高い声には覚えがある。
というか、忘れるわけもない。
なにせ私と彼女は、血が繋がっている。
ハンナ・カポリス、いや、今やハンナ・オルセンとなった、王妃様だ。
「……誰。こんなところでなにをしているの」
化粧はしっかりとしている。
だが、これまで顔をのぞき込まれた誰とも違い、姉妹だ。
もしかすると、気づかれてしまうかもしれない。
ばれたら、一巻の終わりだ。
解毒薬どころか、私の人生さえ終わってしまうかもしれない。
「なにか言いなさいよ。使用人風情が、あたしの言葉無視してどうなるか分かる? 今、ただでさえ苛々してるの、こっちは」
怒るハンナのほうを見ないよう、私は顔を俯けつつ、唾を一つ飲む。
そこで唯一降ってわいてきたアイデアは、あまりにも突飛だし、ただの思い付きレベルでしかない。
ただやるしかなさそうだった。