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捨てられた元王妃は国を逃れて、隣国王子に溺愛されながら、幸せ薬師ライフを送ります!  作者: たかたちひろ@『巻き込まれ転生幼女』2/28 発売!
三章

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第53話 呼びかけてくれる声は。


視界全部を覆うオレンジの炎、それから灰色の煙。

私は思わず跳ね起きて、あたりを確認する。


そこにあったのは、なんのことはない。窓の外から漏れてくる月明りにだけ照らされた、薄暗い部屋の景色だ。


だが、それを見ても身体の震えは止められなくて、私は自分の両肩を抱くようにしてベッドの上に座る。机の上に置いていたジールのペンダントを手にして、握りこむ。

そのうえで、精神を安定させる作用のある乾燥ハーブをそのまま口にするが、すぐに効果が出るものでもない。


呼吸の苦しさは変わらなかった。

いくら深呼吸してみても、胸の鼓動は異常な早鐘を打つ。


火が目の前に迫り、屋根が落ちてきて、煙が充満して、そしてジールが――


そんな光景が、脳裏から離れてくれない。



もちろん逃避生活をしている途中は、何度もこんなことがあった。だが、最近では克服したと思っていたのに、これである。


原因はなんとなく分かっていた。


要するに、あの夜と同じような状況だからだ。

あの日も私はお酒を飲み、遅くに自室に帰って、そして大切な人を失った。


こうしてオルセン王国に再び帰ってきて、元屋敷のすぐそばにいることできっと、今の状況とそれを重ね合わせてしまったのだ。


ただそれだけで、実際にはなにも起きていない。


ただ、それが分かっているからって、制御できるものではないらしかった。


どうにもこうにも落ち着いていられなくなり、私はとにかくと部屋を出る。

目指す場所があるわけでもない。ただ、頭の中で燃え盛る炎と、繰り返される絶望からどうにかして逃げたかったのだ。


いつまでも追いかけてくる絶望から、できるだけ遠くに行きたかった。


私は廊下を早歩きで一直線に歩き、バルコニーへと出る。

そのままフェンスにもたれかかるように手をついて、自分の頭を抑える。


ただ、それでも絶望はついてくる。


やがて、とんと音がした。

なにかと目を開けば、手すりの上には、小さな水の玉ができている。


どうやら、泣いてしまっていたらしい。


「……どうすれば消えてくれるの」


打つ手がなくて、私は歯を噛みながら一人呟く。

悲しみ、憎しみやら怒りやらが、ごちゃ混ぜになって、延々と込み上げてきていた。


そしてそれは、まったく終わりが見えない。

暗く、まったく先の見えない穴の底に、私はどんどんと落ちていく。


と、そんな時だ。


「アスタ」


後ろから、こう呼び掛ける声があった。


それも、ほんのすぐ近くから。





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