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第40話 元王妃、新たな得意先ができる


「あっはは、早まりすぎでございますよ。さすがに冗談でございます。そうだなぁ……では、こういうのはいかがでしょう。ギルド認可前の薬を、私に流してはもらえませんか」

「……なぜ、そのようなことを?」

「それは秘密ですよ。ただ、確実にそうした薬が売れる筋なら知っています。そこでは、認可前の薬は、通常の十倍以上の値で取引ができる。半分、いや三割、我々にくだされば十分です。これならいかがでしょう」


ミヒャエルは私を見定めるように、少し机から身を乗り出すと、抑揚をつけた声で、こう持ち掛けてくる。


それに対して、私は目を瞑り、一つ息を吐いた。

得られる利益を考えれば、かなりのものになる話だ。


公に売るのはダメだが、個別の製薬と販売自体は禁止されていない。

私としてはミヒャエルだけに売ったという体をとれば、合法性は保たれる。


そして、この口ぶりなら、実際にそういうふうに薬を流している薬師もいるのだろう。

場合によっては、薬一つを作っただけで、豪邸が建つ可能性さえあるのだから不思議なことじゃないし、理由も分かる。


だが、それでも。


「そうした黒い取引をするつもりは毛頭ありません」


私はきっぱりと断りを入れる。


そうした危ない轍を踏むつもりは全くない。薬が人を殺すことも十分にあるのだ。そういう世界に足を突っ込むつもりはない。


そもそも金額面だって魅力を一つも感じなかった。

私はたくさん稼ぎたいわけでも、富裕層貴族のように、毎日を遊び惚けて暮らしたいわけでもない。


狭くても、薬の研究ができる場所があれば、それでいい。


「こちらから申し出た話ですが、この話はなかったことにさせてください」


私はきっぱりとこう言い残して、席を立つ。

そのまま部屋を出ようとしたところで、ぱちぱちと。聞こえてきたのは、まならな拍手だ。


私はなにをされたのかそこで理解をして、取引相手の前だというのに、ついついため息を一つ。うしろを振り向く。


「なんのつもりですか」

「分かっていたのではないですか」

「……少しだけは」


もしかすると試されているかもしれない。

その可能性は、頭の片隅では考えていた。


ただなにが嘘で、なにが真意か。彼の場合は、なにもかもそのたびに警戒しなくてはならない。


本当に言っている可能性もある。

そんなふうにも思っていたが、今回は違ったらしい。


「よく私はうさんくさいと言われるんですがねぇ。むしろ、商売は公正にやるべきだと思っている人間だ。世間にいい顔をして、裏で大金をせしめている連中よりはよほどね。あなたのその姿勢、実に素晴らしい。うん。ブラウエルモント魔石については、差し上げましょう」

「……差し上げる? 高いのではないのですか」

「そうですよ。一つで二十枚ほど金貨がいる、高級なものです。ですが、あなたにならば、それくらい渡してもいい。そう思えたのです」


彼は実に満足そうに、ふふふ、と一人で笑う。


「では、対価として、あくまでも他の業者とフェアな条件で、あなたの薬の仕入れをさせていただくのは構いませんか?」


たぶん、これは本音だ。特別な利益を得られずとも、私と取引をしてもいい。そんなふうに思ってくれたのだろう


そういうことなら、と私は一つ頷く。


「えぇ、もちろん。逆に、こちらからも原料などの仕入れをさせていただきたいのですが、構いませんか? プレミアムはなしで」


そしてこう切り返せば、大笑いしたあとに、


「プレミアムなしは無理難題、商売あがったりですが、まぁ割引くらいはしてもいいでしょう」


一応は首を縦に振ってくれた。


それから、私はブラウエルモント魔石を彼から受け取る。


同時に、毒の原因となったデアローテモントを扱っていたという別の商会の話についても、教えてくれた。

そこ以外はほとんど取り扱っていないそうだから、もしかしたら犯人の特定にもつなげられるかもしれない。


味方にすれば、これほど心強いことはないのが、ミヒャエルであり、カーター商会のようだ。


ただしその旗に掲げる猫同様に、気まぐれがすぎるのだが。



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