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第38話 さきほどお会いしませんでしたか?

もしかしたら因縁をつけられるかもしれない。そう私は警戒するが、私のことなど視界に入っていないらしい。


「せっかく足を運んでやったのに門前払いかよ」

「ちょっと大きくなったからっていい気になりやがって」


ぶつくさと文句を垂れ流している。

その対象はたぶん、カーター商会だろう。


反応から察するに、どうやら取引を断られたらしい。


老人に対する酷い態度を見ていたから、私はそれを横目にして、少し胸がすく感覚になる。


「自業自得ね」


と、思わず呟いてしまった。


が、会長がこだわりの強い人だというなら、私も同じように追い返される可能性がある。

私は気持ちを入れ替えて、扉を開けた。


すぐのところにあった受付にて、事情を伝えて、欲しい魔石までを伝える。


「すいません。会長の許可がないと、販売等はいたしかねるのです。今日は一日予定が詰まっておりますが、いかがしますか」

「では、明日や明後日はいかがでしょうか」


忙しい人だろうから、今日会えない可能性は考慮に入れていた。

私はすぐにこう切り返す。


「最短でも来週以降になってしまいますね……」


それに対する返事は、色よいものではなかった。


そういう可能性もあるとは思っていたが、それはさすがに時間がかかりすぎだ。


現在進行形で、腕から背中へと広がりを見せているこの毒のことを考えれば、一週間後はどうなっているか分からない。

そして、私よりもフィーネのほうが症状の進行は早い。あれ以上は、彼女がより一層苦しむことにもなりかねない。


出発前は、ルベルトに頼るのはよくないと判断して、彼の協力を断っていたが、少し無謀だっただろうか。


私がそう思っていたら、


「その方をぜひ中へ通してくれ。奥の執務室で構わないよ」


透き通った声が、横手から聞こえてきた。


私はなんとなく聞き覚えがあるような声に、そちらを振り返る。

すると、その人はちょうどらせん階段を降りてきているところだった。


一歩一歩、規則正しい音が鳴る。

そのあまりの正確さは、場を静寂へと導いており、足音の間には、受付嬢さんがごくりと唾を飲む音が聞こえてくる。


綺麗なジャケット、それからスラックスに身を通した人だった。

灰色の髪をしており、後ろ髪は小さくくくる程度には長くて、前髪は綺麗な真ん中分けにしている。


明らかに、ただものじゃない。たぶん、彼がこの商会の会長だろう、と。私が勝手に確信をしていると、彼は階段を降りてすぐのところにある廊下の奥へと進んでいく。


私がその背中を見ていたら、


「どうぞ、こちらへ」


受付嬢さんがカウンターの奥から出てきた。

彼女について、私は廊下をしばらく歩く。扉ははじめから開けられていたので、心構えをする時間もなく、私は部屋の中へと入った。


「こんにちは」


そこでいきなり、デスクの奥からこう挨拶が投げかけられる。


大きな建物の中だというのに、やけに狭い部屋だった。

そのため、後ろで扉が締まると、やたらと距離が近いように感じられる。


そんななか、この独特の雰囲気を持つ人と正面から向き合うのは、それなりに精神力を求められることだった。


「はじめまして。私は、このカーター商会の会長を務めている、ミヒャエル・エアネスト。年齢は二十八で、ただの猫好き商人です。以後、お見知りおきを」


透明感のある声が室内に響く。

それを聞いて、私の中で浮かんできていた疑問符が、ほぼ確信に変わった。


「……さきほどお会いしませんでしたか?」


それは、普通ならありえないと断じるべき、突飛な結び付けだった。

だが、この男の声は、さきほどたくさんの野菜を抱えて困っていた老人のそれと実によく似ている。そんな気がしていた。


「いえ、もしかしたらご家族かもしれませんが」


と、私は後から付け加える。


それを聞くや、彼は最初にふっと噴き出すように笑ったあと、大きく高笑いする。



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