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捨てられた元王妃は国を逃れて、隣国王子に溺愛されながら、幸せ薬師ライフを送ります!  作者: たかたちひろ@『巻き込まれ転生幼女』2/28 発売!
三章

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第37話 隣町でランチタイムをとっていると?



旅程は予定通りに進み、翌日の昼前。

私は目的地としていた、フラーレンの街に入っていた。


といっても、目が覚めたら目的地にいたから、途中の過程は全く知らない。


王妃だった頃は、ベッドがなければ眠れない人間で、こうした移動中は眠れないことがほとんどだったのだが……


数多の野宿経験を経て、どこでも寝られるようになっていた。

おかげで体調は万全だ。私は魔法で作り出した水を口に含んで喉の渇きを潤してから、街の中を歩き出す。


まず『カーター商会』の場所を確認してから向かったのは、メインの通りだ。


その目的は、会長とのアイスブレイクに使う話題づくりのため――だけではない。

単純に、初めて訪れる街だから、その町並みは気になるところだったのだ。


ミュラ王国の東方地域において、もっとも農産物の生産がさかんな場所であることは、情報として仕入れていた。


そんななかでひそかに楽しみにしていたのが、その作物を扱う市場だ。


「なかなかの活況ね」


さすがと言える盛況ぶりであった。

時期的に、夏野菜が出始める季節らしく、さまざまな野菜類が市場では売られている。


基本的には、持ち帰って調理することが前提の店が多かった。

だが中には調理済みの料理を売っている店もあり、私はそこでトマトスープを一つ注文して、脇に置いていたベンチで食べさせてもらう。


ほっこりする優しいお味だった。

個人的にはもう少しパンチが欲しくて、私は薬箱の中からハーブの一種、乾燥タイムを取り出す。


これが、トマト料理にはとても合うのだ。

私はそれをスープに加えて、混ぜ合わせたのち、改めて飲む。


かなりスパイシーに変貌したスープに、私が満足していたら、


「なんだ、どけよ!」


いきなりすぐ近くから、怒号が聞こえてきた。


……せっかく、ほっこりしたところだったのに。

そう思いながら、スープから視線を上に向ければ、目の前で揉め事が起きている。


この街は馬車のための道が整備されきっていない。

そのためレタスなど野菜類の入った籠を抱えた老人が、馬車の行く手を阻むという事態が発生してしまっていたようだ。


「こっちは商談で急いでんだよ! 早くどけよ!!」

「すまないねぇ……」

「御託はいいからとっとと渡れよ。この商談に、何枚の金貨がかかってると思ってんだ!? 馬の脚でその背中蹴ってやろうか?」


なかなかに、見ていられない光景だった。

馬車に乗る商人の気持ちがまったく分からないわけではないが、恫喝したってどうにもならないのに。


私は一つため息をつくと、トマトスープを横手に置くと、席を立ち上がり、その老人のもとへと向かう。


「少しお預かりしますね」


そして、その背中から籠を取り上げ抱えると、老人の手を引いて、道路の端まで導いてやる。


「ふんっ、最初から助け求めておけよ。まぁ俺たちは絶対助けてやらないけどな! まったく邪魔だったぜ」


すると、商人らはこんな暴言を残しながら、馬車を発進させていった。

とんだ輩である。やはりどこの国、街に行っても、あぁいう人間はいるらしい。


「すいませんのう、最近は腰が痛くて、めっきり足が進まなくなってなぁ。大変助かりました」


馬車が去ったあと、その老人ははきはきとこう言って、私に深々と頭を下げる。

その様子を見て、私は少しだけ違和感を覚えた。たしかに腰は曲がっていて、動きは緩慢だったのだが、痛みがあるようには見えない。


それで少しばかり老人を見つめてしまって少し、私は籠を彼へと返す。


「よかったら運びましょうか? そう遠くない距離でしたら構いませんよ」


同時にこう言うのだけれど、


「若者に、そこまでのご苦労はかけられませんよ。あなたのような方がいてくれてよかった。では、これで」


老人は籠を前に抱えて、またゆっくりゆっくりと歩き出すので、私はその後ろ姿を見送る。

相変わらずゆったりとした足取りではあったが、やっぱり腰が痛そうには見えなかった。


私は老人の背中が遠ざかるまで見てしまってから、はっとトマトスープのことを思い出して、私は再び席についた。


少し冷めてしまっていたが、それでも十分に美味しい。

私はしっかり飲み切ってから席を立つ。


それから、事前に把握していたカーター商会の建物へと向かった。



最近急速に勢力を伸ばしている商会だけのことはある。

その建物は立派なもので、広い敷地に大きな庭まで備えられていた。


もしかすると、下級貴族の邸宅より、よっぽど立派かもしれない。


そんなふうに外から改めて見ていたら正面玄関の扉が悲しげな音を立てながら開いて、中からは気落ちした様子の男たちが出てくる。


「くそ、なんだってんだよ……」


その顔には、見覚えがあった。

なにせさっき老人に対して暴言を吐いていた商人たちだったからだ。


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